262、生存者の救済
皆さんこんばんは。
先日は申し訳ございませんでした。
さて今回は、アルバから衝撃の事実を告げられ困惑したケイ達の話。
アルバからアグナダム帝国時代の生存者がいることを知ったケイも、さすがにこればかりは突っ込まざるを得なかった。
「いや!もっと早く言えよ!」
【聞かれていませんでしたので】
AIに場の空気を読めとは些か無理な話は気がするが、生存者?居ますが何か?と言われてもこちらも急の対応は難しい。
改めてその棺を見ると、先ほどの緑色の光は側面にある三つ並んでいるランプの右側だけが光っていた。これは正常に作動しているということのようで、大気中または水中に存在する魔素をサブシステムで変換し、装置の維持を続けていることを意味する。
他にも同じ型の棺が回りにあるのだが、残念ながら他のモノは完全に破壊され、割れた窓から中を除くと、中に入っていた形跡はなくものけのからだった。
そう考えると、残っていたこの一つは瓦礫に埋まれど今の今まで正常に作動しているのは奇跡としかいいようがない。
「アルバ、コールドスリープされた人物を起こすことはできるか?」
【出来ないことはありませんが、低温および衰弱している可能性があるため、医療施設への安静を推奨します。なお、この施設の利用はオススメできません】
「要はその人物を安全な場所に移せば良いって事だよな?それなら、俺達がそいつを連れて船に戻ることは出来るか?」
【15分以内に船に戻ることが出来るのでしたら可能です。その際にこのフロアの入って左側に未使用の酸素吸入器が残っています。そちらをご利用ください】
「わかった。じゃあ、ダットとバギラにこのことを伝えてくれ」
【承知しました】
アルバが魔道船に通信を入れている最中、アダムがちょっと待てとケイに待ったを掛る。
「ケイ、本気で言ってるのか?」
「生存している可能性があるのなら、助けても問題ないだろ?それにアグナダム帝国がなぜ海の底に沈んだのか知っているかもしれねぇしな~」
「だとしても、記憶が戻らない可能性もあるだろ?」
「まぁ、アダムの言ってることも間違いじゃない。だけど大陸が浮上した今、俺はアルバの事も含めて何か意味があるんじゃないかと思ってる」
「だが…!」
「もしかしたら、ケイがダジュールに来た時点で“その運命を託されていた”のかもしれないね」
納得いかない様子のアダムに、二人の様子を見ていたレイブンが意見を述べる。
アダムは疑問の表情でレイブンの方を見やり、レイブンは今までに得た情報とケイの境遇を総合的に見た一個人の感想を口にする。
もちろんアダムはまさかと疑いの表情を残していたが、この世界に来る前にアレサがメルディーナの所業について、すでに知っていたのではないかと改めて思い起こす。
創造神であるアレサの代理でダジュールを管理していたメルディーナは、さんざん大陸の生態系を変えまくり、改ざん・隠蔽を行った挙句、間接的ではあるが自身が創造したアスル・カディーム人を亡き者にした。
当然、アレサもあの態度からして何も知らないままというわけではないだろうが、黒狼を投じてまでも表面を取り繕う穴の開いたダジュールに知らん顔をするような人物ではないことは、あの短時間で察してはいた。
しかし、レイブンの言うように世界に直接手を出せない状態であれば、彼女の力の一部をケイが継承しダジュールに送られたとしたらと考えると、癪ではあるが想像できる行動であったと考えられる。
【魔道船にメッセージを送りました】
「あぁ。あと悪いがこの装置の解除を頼む。それと、修復したデータを俺の所持している端末に転送してくれ」
【承知しました。先にコールドスリープの解除を行います】
装置の側面についている緑のランプが点灯し始めた。
近くにはその装置を制御する操作盤とモニターがあり、画面が点灯すると心電図のような波形と、何かの圧力を示すゲージが表示される。
表示は内部の圧力などの部分を示しているものと思われるが、見かたがよくわからないためアルバに一任し、その間ケイ達は酸素吸入器の準備をする。
入口の左側の壁に酸素吸入器が入っている棚を見つけ、つまみの付いた棚扉に手を掛ける。
つまみ部分は丸型の形状で握りにくく、圧力がかかっていたようで力を入れて扉を引くと、空気が流れ込むボンッとした音が響く。
「これ、使えるのか?」
「密閉されていたから、汚れることも破損することもなかったんだろうな。でもこれ、俺が知ってるものよりだいぶ小さいな」
「私たち使い方を知らないわよ?」
「たぶん軽量タイプだから、酸素自体はそんなに入ってないんだろうな」
何千年も時が経った酸素ボンベにアダムが大丈夫なのかと怪訝な表情を浮かべ、シンシアは使い方を知らないけどと心配する。
ケイも病院などに使われる酸素ボンベをイメージしていたが、どちらかというとガスコンロに使われるスプレー缶タイプのようで、缶の先には差込口があり、透明の包装に携帯用のマスクと思われるものが付属されている。
「この缶の先とマスクの管をつなぎ合わせて使用するものみたいだな。この量で考えると、アルバが言うように一つで5分が限界だけど…」
そういいながら目線を棚に向けると、未使用の缶が三~四本転がっている。
ただ棚の中は密閉状態ということを考えると、物理的に缶が変形しダメになるはずなのだが、その辺の事情は地球と異なるのだろうと考え込むと先に進めなくなる気がしたためその行為をやめた。
【コールドスリープ解除まであと二十秒】
アルバのアナウンスでケイ達は元の場所に戻り、装置の解除を待つことにした。
モニターを見やると、表示の一つがカウントダウンされると同時に数値が徐々に下がっていくところが確認できた。
内部の気圧を解除させていると言ったところなのだろう。冷気が棺の隙間から流れ出し、湿気と混ざり合うようにあたりに広がる。
その際、不快感を感じさせるが、仕方ないと諦め棺とモニターを交互に見やる。
【コールドスリープ解除まであと十秒】
機械音と同時に蓋の解除が施され、蓋の隙間から冷気を帯びた煙が流れ出す。
まるで容器の中に入ったドライアイスに水を加えた後のような煙が流れ、アダム達は大丈夫なのかと狼狽えている。その一方でケイに抱えられたブルノワと少佐は、見たこともない現象に喜びのあまりそれを捕らえようと遊んでいる。
【コールドスリープ解除まで、5……4……3……2……1……】
機械音の停止と同時に棺の蓋が上部に開いた。
緩やかに流れた煙が一気に辺りに舞うように立ち込め、冷気が湿気を押し出すように一気にひんやりとした空気へと変わる。
「煙がすごいわね~」
「コールドスリープは人体を低体温状態に保つことで、身体的老化を防ぐ装置なんだ。俺もみたことないけど、この時代から考えると結構技術は高い方だと思うぜ」
煙を手で払いながらシンシアが辺りを見回し、ケイはブルノワと少佐を気遣いながらも棺の方へと歩み寄る。その際に何かが出てくるとも限らないため、アダムとレイブンが先行して中を覗き、念のためタレナとシルトが辺りを警戒する。
煙が引いた棺の中を覗くと、若い男性の姿が眠った状態で存在していた。
霜が付いた色素の抜けたような緑がかった黄色の短髪に、肌は白く、服装は白衣のようなものを着用している。
「こいつ、アスル・カディーム人か?」
その容姿にケイが疑問を持つ。
アスル・カディーム人はタレナやシルトのように浅黒い肌だと思われたが、どう見ても自分たちの認識と異なっている。
そんな疑問はさておき、アルバの指示で手に入れた携帯用の酸素吸入器を眠っている人物に装着させ、管につながっている缶の方をプッシュすると酸素が送られるようなシューという音が聞こえる。
ルシオ 性別:男性 状態:低体温・衰弱・意識不明
※1500年前に存在したアスル・カディーム人とシャムルス人のハーフ。
鑑定の結果を目にしたケイが「んっ?」と眉を顰める。
この人物は服装からして研究者のようだが、ハーフだということが表示される。
アスル・カディーム人とシャムルス人は、過去の情報からするにあまり仲がよろしくないという認識だったのだが、この人物は両方の人種の親から生まれている。
「この方、どこかで……」
「タレナ、知ってるのか?」
「何度か出会った気がします。たしか、ナザレ兄さまの部下の方かと……」
中を覗き込んだタレナが、この人物を知ってるような口ぶりをする。
この人物はアレグロとタレナの兄・ナザレの部下だというのだが、身に着けているものから察するとただの研究者にしか見えない。どうやら部下と言ってもいろんな職種・役割をしているようで、幅広い分野で何人もの部下がいたようだ。
人数も多かったことからタレナもあったことがない人物もいたそうだが、この人物だけは何度か顔を合わせていたようだ。
となると、少なくとも一般の研究者ではなく何らかの職に就き、尚且つシャーハーン王の子供たちであるアレグロとタレナと顔を合わせたことがあることから、割と重要なポジションにいたのではと考える。
「ということは、シルトもこいつを見たことがあるのか~」
ケイはシルトを見やり問いかけると、困惑した様子で『おそらく…』と返す。
彼の方はなぜだか記憶があいまいのようで、記憶の中にある過去に会った人物の顔も霞がかったように不透明とのこと。
思い出すという行為自体は個人差があるため一概には言えないが、彼の場合はタレナの証言から状況が異なり、いくつかの要素が加わったことによって思い出しを阻害されているのかもしれないと感じる。
「ケイ、大丈夫なの?」
シルトに救済した男性を運んでもらい、傍らにはレイブンが酸素吸入器の操作を行い、サポートにタレナが付きそう方法で来た道を戻る道中、シンシアが不安そうな表情でケイに語り掛けた。
「なにがだ?」
「レイブンのいうことを信じるわけじゃないけど、もしメルディーナのしたことをケイに修復させる名目で創造神から能力をもらっていたとしたら、歴史解明の後はどうなるの?」
「どうなるって、別になんもねぇよ~。いつも通り冒険者として過ごすだけだ」
何が心配なんだと尋ねると、何がとは言い切れないけど…と言い淀むシンシアに別にこの世が終わるってわけじゃねぇし気にすんな~と声を掛けたが、彼女にはなぜだか一抹の不安を抱いていた。
コールドスリープを解除し男性を救出したケイ達は、一旦捜索を切り上げ船へと戻ります。
一方シンシアはなぜだか不安を感じている様子を見せています。
次回の更新は、12月28日(月)夜です。
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