257、研究施設
皆さんこんばんは。
延び延びで申し訳ありません。
今回は、地下神殿内にある研究施設のお話です。
ギエルが来た道を戻る姿を見届けたケイ達は、さっそくアルバに研究施設の場所について尋ねてみることにした。
「アルバ!研究施設へ行くにはどうしたらいいんだ?」
【まずこの場所に女神像があるかと思います】
「あぁ。目の前にある像だよな?」
【はい。その下に石板をはめる部分がありますので、その像を奥の方にスライドさせてください】
目の前にある女神像に仕掛けが隠されているようで、床を見るとわずかばかり硬い何かで擦った跡が残っている。おそらく像を動かした事によるキズだろう。
アルバは石板を使った仕掛けがこの下にあることを示し、ケイに動かすようにと指示を出す。
とりあえず言われたとおりにこちらに正面を向いている女神像の台座に手を置き、思い切って奥へと押してみる。
「ケイ、大丈夫か?」
「悪いが誰か手伝ってくれ!なんか台座が重いのか錆びてんのか動きが鈍いんだ」
「レイブン!シルト!手伝ってくれ」
「あぁ!」
『わかった』
正直ケイ一人でも台座を動かすことができたが、力加減を間違えると木っ端微塵に女神像が潰れてしまうのではと思い、他の男性陣を呼ぶ。
アダム達三人は、ケイと同じように台座に手を着いてから奥に動かすように押し続けると、長年使用されていなかったせいか、さび付いた部分を無理に動かすような鈍い感覚と音が辺りに響き渡る。
不快な音に気持ちを削がれながらも男性四人で女神像を奥へと押し続けると、ある一定の位置で動かなくなってしまった。
「ケイ!下を見て!」
シンシアがケイの足元を指さし目線を下げてみると、四角形の枠の中に円形状のはめこむ穴が存在している。どうやらケイ達が所持をしている四つの石板が形状的によく似ているようで、五つの円形状の穴の中央のひとつは既にはめられていた。
【シエロの石板】と鑑定で表示され、ここで初めて“海底神殿にある研究施設に続く道の開閉“装置に使用される。と隠された部分の表示がなされる。
どいういう原理かはわからないが、そういう仕様ということで考えよう。
石板は魔人族の長・ゴルゴーンから預かった三つと桜紅蘭で発見された石板が一つあり、これが研究施設に向かう時に使われるのかと納得する。
【ワタシがそれぞれの石板の位置を指示いたしますので、残りの四つを装置にはめてください】
アルバの指示で四つの石板をはめ込む。
穴の中央には既にシエロの石板がはめ込まれ、左右に上下二つずつ石板をはめ込む箇所があり、右の上下にはアステリとフェガリの石板、左の上下にはシェメラとテレノの石板をはめ込む。
すると、奥の壁から地響きするような鈍い音と振動が響き渡った。
音のする方に目を向けると、奥にある壁の一部が上部へとせり上がっていく。
どこからか歯車のようなカラカラと音が鳴り、まるでからくり屋敷を彷彿とさせている。
「また、地下なの?」
「厳重に厳重を重ねた様な感じがするね」
「よっぽど人様には見せたくなかったって事かもしれねぇな」
さらに地下へと続く階段にうんざりした様子のシンシアと、ここまで厳重だとは想定していなかったレイブンが奥を覗き見る。
「だが、どうして石板は魔人族の元にあったんだ?」
「おそらく、元々はそれぞれ別の場所に保管されていたが何かしらの理由で魔人族もしくはジャヴォールに運び込まれた可能性はあるな」
「アフトクラトリア人が関係していると?」
「そいつらに研究施設の場所を悟られたり知られたくないから、こんな辺鄙な場所に建てたんだろう。もっともアフトクラトリア人は、シャーハーンの魔力で生かされているのならその元を切ればいいのにな~」
たしかにアルバの話では、アフトクラトリア人の供給源はシャーハーン王の魔力により個を維持しているというならば、魔力の供給を止めればいい話である。
【その問いに関しましては、エリスロ歴の中期から後期に掛けて、魔力の供給を改良し独立した生活を送れるように改善が施されました】
「アフトクラトリア人はどうやってシャーハーン王の魔力を供給してきたんだ?」
【製造当初から前期にかけての個体は、シャーハーン王の魔力を振動という形で提供しておりました。しかしそれにより一部の行動を制限されていた模様です】
「えっと、それって魔力を電波のように飛ばしていたことか?】
【概ね、正解です】
作製されたアフトクラトリア人の個体は、当初大陸中に魔力を送るための電波塔のようなものが建てられていたようで、そこから一日数回にわけて大陸中に魔力が行き渡るように発信していた。
製造当初電波として転換した魔力は、海や地下などに届くことが出来ず、活動していたアフトクラトリア人が停止や故障を繰り返していたが、それも徐々に改善か施され、エリスロ歴の中期から後期にかけて体内の一部を改良し、魔石を改良した魔道具を埋め込むことにより、大気中からも魔素を取り入れ、エネルギーとして転換することが出来るようになったという。
なんとなく仕組みは理解できたケイだが、話が難しかったのか電波やそれに伴う転換などの専門的なワードにアダム達はついて行けずに首を捻るばかりだった。
「完全に置いて行かれているけど、そのテンパから自ら取り入れることで燃料として変えることができたから人と同じ生活ができるようになった、ってことね?」
【はい。ですが、シャーハーン王はアフトクラトリア人を家族や友の様に接していたのですが・・・】
「結果的にあんなことが起こったって事か」
アフトクラトリア人を自分たちの家族や友の様に接していたシャーハーン王を含めたアスル・カディーム人は、結果的に裏切られて人種として滅んだ。
だとしても、大国と言われているアグナダム帝国が海に沈む理由としては、イマイチ根拠が弱い気がする。第一、大陸の大きさから考えるに相当数の人口が入るはずだが、まるで一切の痕跡を見せることなく海に沈んだことになる。
「ちなみにアグナダム帝国の当時の人口はどのくらいなんだ?」
【人口でしょうか?・・・それでしたら当時の総人口は約154,322,162人です】
「その内、アスル・カディーム人とアフトクラトリア人の人口は?」
【アスル・カディーム人は132,462,434人、アフトクラトリアは542,364人です。補足として、残りの人口は他諸国から来た移民となります】
アルバの情報は最終更新時のままだったためか、それが本当の人口数なのかは不明らしい。誤差はあれど概ね当時の人口数と仮定すると、一億いるアスル・カディーム人が全滅することに疑問を抱く。
「なぁ~そうなると、一億人以上居るアスル・カディーム人は全員死んだのか?」
ケイの言葉にアダム達はギョッとこちらに目を向ける。
アルバの姿は存在しないが、雰囲気からして返答を渋っているように感じる。
現在存命しているのは、タレナとシルト、そしてベルセのところで世話になっているアレグロとタレナの妹・アルペテリア。もし全員死んだとするのなら、この時点で矛盾している。
となると、ケイは思い切ってアルバに“あること”を尋ねてみることにした。
「質問を変えよう・・・シャーハーン王は国民に“なに”をしたんだ?」
【その質問に関しては、研究施設に赴き、直接ご自身の目で確かめて頂けるとわかるかと・・・】
AIにしては短時間の間に人間味が増しているようで、言い淀んだ回答を受ける。
よほど言いたくないのか、はたまたプログラムとして規制されているのかはわからないが、アルバの言うように直接自分たちの目で確かめてみた方が早いだろう。
ケイ達はアルバの言葉に従うように、地下に続く階段を下りて行った。
「ここが研究施設か?」
【正確には“医療・研究施設地区”になります】
階段を下ると、少し広い場所へと辿り着く。
手持ちのたいまつでも明かりが届かず、数メートル先を照らし出した先は闇だけ。
そもそも1500年以上経っている施設に足を踏み入れるのは、ケイ達ぐらいしかおらず、明かりに反射した壁や柱の状態から相当な年数を肌で感じる。
「ここに明かりはないのか?」
【現在各地域とのライフラインが途絶えているため、全ての機能が停止状態となっています。そのため施設の点灯等の復旧に時間がかかると予想されます。ですが、サブシステムから現在地である医療・研究施設地区に送ることは可能です】
「サブシステムが動いているってことか?そういや、アグナダム帝国は燃料や動力はどうなってるんだ?」
【“王の魔力”を使用しています。尚、施設の点灯をされるということであれば既にケイ様の腕輪を媒体として魔力を施設に送り、照明を灯す準備は整ってます】
そこでケイがはたと気づき、ちょっと待てとアルバを止める。
腕輪を媒体として魔力で点灯?
いつの間にかアルバの方で手配が行われていたようで、さすがに焦りを感じ説明を求める。
「いやいやいや!何勝手にやってんだよ!?」
【サブシステムは王の魔力使用しての運用になります。故に腕輪から魔力を感知しワタシのシステムから送り出す形となります】
「それって、ケイの身体に影響するとかないよな?」
【そもそもケイ様の魔力は常人の数百倍以上の量を保持しておりますし、サブシステム運用には、保持している魔力量の10%を必要としています】
「10%って魔法専門職でも場合によっては厳しいんじゃないのかしら?」
アダムとシンシアが大丈夫なのかとケイの方を見やり、すでにシステムに組み込まれているとなると、しょうがないと頭を掻き、アルバの提案を承諾した。
【それではこれより、サブシステムの運用を開始。医療・研究施設地区の起動を行います】
アルバのアナウンスと同時に今居る場所に機械音が響き渡った。
「大丈夫なのか!?」とアダムは不安そうな表情でケイを見やり、ブルノワと少佐は未知なる恐怖からかケイの足にしがみついている。
部屋全体に機械特有の振動が伝わり、ガダンガタンと大きな音が響き渡るとブーンと何処かの部分が始動したようで、ゆっくりと天井に設置されている照明が明るく灯り始める。
「これは一体・・・」
「見たこともない場所ね・・・」
「まさしく何かを行っていたって感じはするよ」
唖然としている仲間達を余所に、ケイは研究施設全体を眺めていた。
よくテレビや映画で登場するような研究施設と朽ちた雰囲気が相まって、異様さを感じる。全体的に朽ちてはいるが、所々に何かが起こり破壊された跡や研究などで使われていた道具が散乱したまま残っている。
医療・研究施設と聞いたものの、明らかに異質な様子にケイも顔を顰めるしかなかった。
アグナダム帝国の医療・研究施設地区にやって来たケイ達は、異様な雰囲気のまま残っている場所を目の前に唖然とします。
一体何があったのでしょう?
次回の更新ですが、時間が定まりませんが12月14日(月)を予定しています。
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