256、メインシステム・アルバ
皆さんこんばんは。
大変遅くなり申し訳ございません。
さて今回は、謎の声の主との出会いになります。
「おい!誰か居るのか!?」
ケイが姿の見えない人物に向けて声を掛ける。
返事はなかったが、この場に居た全員がその声を聞いていることから聞き違いではない。また先ほどの声の主は女性の様な声だったが、抑揚がなく機械的に発せられた感じがあった。恐らく噂されていた謎の視線はその人物の可能性がある。
「誰か居るなら返事をしろ!」
辺りを見回し再度問いかけるが返事がなく、アダムとレイブンが周囲の様子に気を配りながら各々剣を手にかけ、ブルノワと少佐は恐怖を感じたのかタレナの傍に隠れている。
「さっきの声は?」
「たぶん噂されている“妙な視線”の正体だろう。でも確かに聞いたよな?」
ケイの問いに全員が頷くが、その正体は一向に出てくる気配がない。
【メインシステムの再起動が完了いたしました・・・これより前・管理者から新たな王・人族のケイに一切の権限が移行されます。ご用件をお申し付けください】
しびれを切らしたケイが再度声を掛けようとしたとき、先ほどの機械的な女性の声が辺りに響き渡る。
なぜかこちらの意図しない間に話が勝手に進んでいたようで、ケイはいつの間にか新たな王と認定されている。確かに所持しているヒガンテの腕輪や異なった言語を用いた文献を読み解くことができたためと思うところはいくつかある。
「おまえは何者だ?姿を見せろ!」
【ワタシはアグナダム帝国のメインシステムを構築する“アルバ”です。国の人工知能を担っているため、生物のような姿は存在しません】
「じゃあ、こっちの姿はわかるか?」
【はい。ですが、現在メインシステムは前・管理者により一部を凍結されているため、サブシステムにて運用を継続しています】
どうやらメインシステムに不備があるような物言いをしているが、メインシステムと言っているわりには意外と脆いなと感じる。だがコンピューターのようなものがアグナダム帝国時代に存在していると考えると、妙な感覚を覚える。
「じゃあアルバ、俺の質問に答えてくれ」
【承知しました。なお、管理しているデータの再構築を同時進行で行うため、一部の質問に対しての答を除くことをご了承願います】
「どういうことかわかんねぇけど、まぁいいか・・・じゃあ~まず俺達のいる海底神殿はアグナダム帝国の領地に入るのか?」
【一部はい、と回答いたします。尚、現代の情報を元に再解析を行った結果、現在は人魚族・ルバーリアの領地に存在しています】
メインシステム・アルバは、再起動した際に保持していたデータと現在の情報を取り入れてデータの再構築を行い回答を行っている旨を述べる。
現在の情報をどのようにして取り入れているのかは謎だが、確かに海底神殿はルバーリアの真下に位置している。
「次にアルバは今までどう過ごしてきたんだ?」
【その回答に関しましては、メインシステムを一定の手順により凍結されたため、その間の情報収集は停滞中となります】
「メインシステムのダウンは、シャーハーン王がしたのか?」
【はい。またアグナダム帝国が存在する大陸全てを沈没させたのは、前・管理者のシャーハーン王です】
アルバからアグナダム帝国が海に沈んだのは、アスル・カディーム人の王であるシャーハーン王が行ったことだと述べられた。
実は今までの情報を元に整理していた際、ケイはシャーハーン王が大陸を沈めたのではと考えていた。おそらく他の種族と交流が行われたことにより、ケイ達が住む大陸に渡ったことが原因で今に至ったのだろう。
「なら、大陸を沈めた原因は?」
【アフトクラトリア人の“裏切り”です】
「もしかして、機械人形がAIだからか?」
【・・・・・・はい】
気のせいかもしれないが、抑揚のない声の中に一瞬だけ切なさを感じる。
アルバはその時の事もデータとして保存しているそうで、情報収集を媒体しているのは今ケイが持っているヒガンテの腕輪である。
「ケイ、どいうことなんだ?」
「アグナダム帝国が沈んだのは、アフトクラトリア人が裏切ったからなんだ」
「裏切ったって、彼らは機械人形じゃないのか?それにエーアイ?ってなんなんだ?」
「AIは人工知能の意味で、俺の国では人間しか出来ない高度な知識や作業を判断するコンピュータというものが行うんだ。ここで示すAIは機械人形であるアフトクラトリア人を指している」
「コンピュータっていうのはわからないが、そもそもアフトクラトリア人は機械人形で彼らが裏切ったということなんだよな?でもなぜなんだ?」
「簡単に言えば“知恵”や“知識”を持ったからなんだ」
アダムの頭にはハテナが浮かんでいるが、ケイの想定通りといったところだろう。
そもそも機械人形であるアフトクラトリア人を作り出したのは、アスル・カディーム人である。
彼らは神が自分たちを創り出したことから、生命の誕生を自分たちでも実現できるのではと考えた。試行錯誤の末、誕生したのがアフトクラトリア人である。
彼らはアスル・カディーム人に指示や指南を受け忠実に遂行し、AIの要素を持っているアフトクラトリア人は、その過程で物事に対して学習し着実に力や知恵・知識を身につけていった。
しかし同時に善や悪などの判断のつかないものも存在したであろう。
これはあくまでもケイの予想だが、アスル・カディーム人に同行したアフトクラトリア人は、そこでシャムルス人やビェールィ人、アグダル人という他の大陸の人々と交流していくにつれて、邪な思いを覚えた。
そしてシャムルス人が彼らに更なる知恵を教えた結果、アグナダム帝国が大陸から姿を消す要因になった、ということなのだろう。
その一方でわからないこともある。
アフトクラトリア人が機械人形であるならば、原動力があるはず。
しかしどの文献にもそのことについて触れた部分がなく、太陽光のソーラーでも内蔵しているのか、はたまた光合成のような働きをしているのかなど、かなり幼稚な考えと疑問が浮かぶ。
「アルバ、ちなみにアフトクラトリア人の原動力ってなんだ?」
【彼らは大気中にある魔素とシャーハーン王の魔力で作動していました】
「シャーハーン王の魔力?」
【前・管理者であるシャーハーン王は、生まれつき大量の魔力を持ち体内に生成できる能力を持ち合わせていました。またその能力を使用し、新しく生命を作り出すと共に手を取り合い国を発展させていこうと考えていたようです】
ということは、シャーハーン王は自分の手で作り上げたということになる。
ただ、生命を作り出すというところを考えると末路が大体想像できるのだが、その辺は“神”を尊敬していたというのだろう。
「アルバ、できればこれを答えてほしんだが、アスル・カディーム人を創り出した神は、メルディーナもしくはアニドレムという名前じゃなかったか?」
【はい。確かに”メルディーナ”という神により、アスル・カディーム人は創り出されました】
「ということは、アフトクラトリア人を創るように言われたきっかけは、入れ知恵をしたメルディーナになるということか?」
【入れ知恵という表現が正しいのかはわかりかねますが、たしかに国を豊かにするうえで他者の協力が不可欠であることがお告げを受けていたようです】
「ケイ…!?」と驚きの声を上げたシンシアがケイの方を見つめ、ケイはやっぱりか…と頷く。
黒狼からメルディーナが歴史に穴を開けたという話を聞き、アルバの証言を元に考えるとアスル・カディーム人を創り出し、さらなる繁栄としてAIいわばアフトクラトリア人を創り出せと進言したのは彼女ということになる。
本来なら世界や歴史を捻じ曲げる行為は道徳的にどうかと思うのだが、当時からアレサではなくメルディーナが管理していたということになる。
そしてダジュールの歴史を大きく変えたのは、ケイが居た地球の文化であると断定する。
アルバもアフトクラトリア人も、この世界この時代の人々では到底考え就くことがなかった技術を取り入れ発展させたシャーハーン王は、第三者からみれば被害者であり加害者の一部である。
メルディーナが地球の文化や技術をダジュールに取り入れたとなれば、世界の歴史やあり方が大きく崩れるという事態に発展したことになる。
それを彼女は世界大戦や魔王誕生という歴史的な事態で要所要所に手を加えてアレサにわからないように隠蔽していた可能性を持つ。
そして口にはださなかったが、アレサもそのことを知っていたのではとケイはふと考えた。
自分が生み出した世界が、女神代行のメルディーナによって大きく歴史が変わったことを知らないわけがない。むしろ生み出した世界の現状を知らないというなら女神としてどうかと思うところもあるが、もしかしたらメルディーナの余計な手間や隠蔽を繰り返した結果、修正できない位置にまで進んでしまったと、考える方が自然だろう。
いずれにせよ、創造神であるアレサでも手の施しようがなかったのなると、ケイを含めた元・日本人達は、もしかしたらメルディーナの策略を逆手にとってアレサが全容解明としてこの世界へと誘ったという考えをよぎらせたが、少し変に考えすぎたかなと頭を振る。
「ところで、人魚族から海底神殿はアスル・カディーム人との友好を記念して建てられたと聞いたが、本当のところはどうなんだ?」
【本来でしたら回答を拒否したいのですが、権利が移ったため回答いたしますと、黒腫の対策のためのドール体作成およびアフトクラトリア人に関する研究施設にあたります】
ここで、海底神殿の本来の目的を訪ねると研究施設というワードが出てくる。
黒腫に対抗するためとアフトクラトリア人を創り出す場と言われているが、詳しい話を聞こうとしたところ、アルバから研究施設への案内を提案された。
【もし“石板”を持っていましたらご提示をお願いします】
「石板?これでいいのか?」
鞄から四つの石板を取り出し、とりあえず並べて床に置くと四つしかないがと尋ねたところ研究施設に続く仕掛けの一つにはまっていると答えが返ってくる。
【今から研究施設へと案内することは可能ですが、いかがなさいますか?】
「それなら今から向かってみよう。それとギエル、あんたはどうする?」
「できることなら同行したいのだが、マードゥック様に報告をしなければならないため、私は一旦国に戻ることにするよ」
ギエルは部下にマードゥックの世話や国の事を任せっきりだったため、ジュランジで待っているダット達にこのことを伝えてくれと述べると、それを了承した彼とはここで別れることとなった。
アグナダム帝国時代から存在していたメインシステム・アルバ。
彼女(?)から海底神殿は研究施設だと伝えられたケイ達は、報告のために戻るギエルと別れ、奥へとむかうことになります。
次回の更新は12月11日(金)です。
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