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異世界満喫冒険譚  作者: GDKK
大陸編
26/359

24、砂マグロ

砂マグロの回。

果たして捕まえることはできるのか?

ケイのパワープレイが炸裂?

翌日、ケイ達はマライダに向かおうと、昨日約束を取り付けたプリ・マの御者の元に向かった。


「おっちゃん!」

「おぉ、昨日の兄ちゃん達か」

プリ・マに水をあげていた御者の男が、こちらを向く。

「これからマライダに行きたいんだけどいいか?」

「おう!俺もこいつもいつでも大丈夫だ!」

その隣でプリ・マが「クェ~」と鳴いた。


馬車に乗ると、馬車は北門から出て、舗装されていない砂漠を走り始めた。


御者の男はポリスと名乗った。

この職業を始める前は、各地を放浪する商人をしていたが、三年前にプリ・マに一目惚れをしてしまい定住したのだという。

プリ・マは『ムート』と言い、大人しく人懐っこい性格だと話してくれた。

「プリ・マって結構速いんだな。砂の上だから沈むかと思った」

「正確には飛んでいるんだよ」

「え?飛んでんの!?」

プリ・マの翼は、体温調節をするためだけではなく、砂の上でも走れるように翼を使って浮かせているという。

だが欠点があり、翼を使うために体力を消耗するため、長距離の移動には向かないそうだ。

一度の移動は、中距離までが限界らしい。


ケイ達を乗せた馬車は、マライダに向けて北上を続ける。


「リック、マライダに着いた後ってどうするんだ?」

「宮殿にいる、マーダ様の護衛隊長・ルラキ様にお渡しすれば完了になります」

「本人に渡さなくてもいいのか?」

「式典の関係で会うことが出来ないそうで」

式典前はいろいろと予定が入っているそうで、公務の合間を縫って式典の準備をしていると言っていたそうだ。

「まぁ本人に会えないのは仕方ないんじゃない?」

「確かマーダ・ヴェーラは、若い頃に即位したと聞いたことがある」

「それっていつ?」

「成人してすぐらしい」

レイブンの話だと、マライダの歴代の国王は若くして亡くなっていると言われている。

詳細は不明だが、前国王のマーダ・ヴェーラの父も五十代という若さで亡くなっている。

過労死か持病かはわからないが、国王とは過酷なものたなと、ケイは一人納得した。


「おーい!話の途中で悪いんだけどいいか?」


ポリスが声をかけるとケイが返事をする。

「どうかした?」

「この後砂嵐が来そうなんだ。途中にあるキャラバンに寄りたいがいいか?」

窓の外を見ると天気は快晴である。御者をしているポリスが嘘をついているとは考えづらい。

ケイ達は承諾すると、途中にあるキャラバンに向かうことになった。



キャラバンがあるテントに到着すると、天気がみるみる曇り空に変わった。

「本当に天気が悪くなったわね」

テントの中から外を伺うシンシア。

「ポリス、なんでわかったんだ?」

「風が途中で変わったから、もしやと思ってね」

マライダでは月に数回砂嵐が来ると言われている。砂漠地帯なのでなくはない。


キャラバンは馬車ごと入れる様に、幅広く天井高い造りになっていた。

プリ・マも走ったせいか、用意された水をゴクゴクと飲み出した。

「ポリスさん、お客さんと一緒だったのかい?」

キャラバンの女将らしき女性が奥から出てきた。

「砂嵐が来そうだったんで、一時的に避難させてくれ」

「あたしは構わないよ。そこで立っているのもなんだから中へ入りなさいよ」

馬車置き場の奥は、簡易の宿泊や放浪している商人の商売場としているようだった。

種類は少ないが軽食も出しているとのこと。


「おばちゃーん!なんか飲み物ある?」


テーブル席を見つけると、一目散にケイが座り女将に注文する。

「果汁酒ならあるよ!」

「じゃあそれ頂戴!」

「わかったよ。ちょっと待ってな!」

女将が奥に行くと、アダム達は息をついた。

「ケイはいつも通りだな」

「最近じゃ注意が無駄たと感じるわ」

ケイでも最低限礼儀はあるが、いかんせんこの態度である。


外から風が吹く音が聞こえ、砂嵐が近いことを示している。

時折テントが風に当たる音がする。

「ポリス、砂嵐って結構続くのか?」

「どうだろうね。短かったり、長い時は一晩中の時もあるよ」

過去には砂嵐が二~三日続いた時もあったそうだ。

女将から果汁酒を受け取り、呑みながら砂嵐が通り過ぎるのを待つ。

馬車を運転しているポリスとお酒が飲めないリックは、女将からお茶を出して貰った。

マライダ産のお茶で、彗星を意味する『コメタ』という名前だそうだ。色は青色で、匂いはジャスミンティーに近い。



「・・・てかあいつ何やってんの?」

ケイ達の後ろで、中年の男が準備運動らしきことをしている。

砂嵐が近づいている時に、子供のワクワク感を前面に出した無精髭の中年が、今にも外に飛びださんとしていた。


「あぁ。あの人はデュークだよ」

「女将さんは知ってるの?」

「砂マグロハンターなんて言われているけど、捕っているところは見たことないね」

またかといった表情の女将が、デュークは砂嵐が来ると砂マグロを捕まえに砂嵐に入っていくと教えてくれた。


「それ、自殺行為じゃね?」

ケイの疑問ももっともである。

女将の話だと、一部の砂嵐は、砂に生息している魚の群が定期的に移動するため起こる現象でもあると言った。

「じゃああの人は毎回こんなことを?」

「あぁ、そうだよ」

女将の返答にケイ達は目を丸くした。


「よし!いくぞぉぉぉ!!!」

準備を終えたのか、凄まじい威力で砂嵐が通るなか、デュークという男は意気揚々と飛び込んで行った。


「あれ死ぬぞ?」

「女将さん、あの方は大丈夫なのでしょうか?」

どん引きのケイに、赤の他人を心配するリック。

女将は「砂に埋もれていたら出してやって」と言い、他の接客のためその場を離れた。

毎回のことで慣れているのであろう。



しばらくして砂嵐がやんだようで、風の音は一切しなくなった。

外を覗くと、先ほどまで砂嵐が続いていたとは思えないほどの快晴だった。

「すっかり晴れたな」

「これならマライダに行けそうだ。馬車を出すから待っててくれ」

ポリスが馬車をとりにテントに戻る。

「さっき外に出たおっさんはどうなった?」

「さぁ。もしかしたら、その辺にいるんじゃないか?」

アダムが辺りを見回すと、5m先に何かが刺さっているのが見えた。


「これ死んでの・・・か?」

近づいてみると、人の足らしきものだった。他の部分は砂に埋もれているのだろう。

「レイブン!手を貸せ!」

「わ、わかった!」

アダムが片足を掴むと、レイブンがもう片足を掴んで勢いよく引っ張った。

砂の中から胴体が見え、腕が見え、頭が見えた。

先ほどの男である。


「おい!大丈夫か!」

アダムが揺さぶり声を掛ける。

「アダム、俺に任せろ!・・・【ショック】!」

ケイがアダムを制すと、両手を男の身体に当て電流を流す。


「ぎゃあぁぁぁ!!!!」


辺りに男の悲鳴が木霊した。

意識のない人間に、有無を言わさず電流を流すところはなかなか鬼畜である。


「おっさん大丈夫か?」

指を鳴らして男の目線を引く。

「な、なんだ!?」

「砂に埋もれてたから引き上げた」

「それにしては身体がやけに痺れているんだが?」

「気のせいだろう?」

身体を摩り首を傾げる男に、ケイは自分のしたことを棚に上げることにした。


「あんた何してるんだ?」

「俺は『砂マグロハンター』のデュークだ!砂マグロを追っている!」

「砂マグロ?捕まえたことあるのか?」


「いや、ない!」


デュークが自信満々に答えると、ケイは無言のまま額に拳を叩きつけた。

額を押さえ、蹲り唸っているデューク。

「な・・・何をするんだ・・・」

「い~や、捕まえてもねぇのにハンター名乗るってどういうこと?」

そうは言うが、砂マグロは滅多に人前に出ない魚である。

気配を消し、砂を縦横無尽に泳ぎ回るため、通常では無理がある。

「若人よ!人生には時としてロマンが必要なのだ!」

握り拳をしながら力説するデューク。彼にとって砂マグロは、それほど情熱を傾ける存在なのだ。


「でもどうやって捕まえるの?」

「お嬢さん!よくぞ聞いてくれた!」

シンシアの疑問にデュークが懇切丁寧に説明をした。


要約すると、『当たって砕けろ!』と言うことらしい。


過去にいろいろな作戦を立てたが、ことごとく失敗。

最近では砂嵐の中に入り、自ら探すというハイリスクな作戦に変えたそうだ。


「要は、砂マグロを釣ればいいんだろう?」


ここで、デュークの努力を無にしかねるケイが発言する。

アダムが嫌な予感を浮かべるが、この際だから静観することにした。


まずケイは【サーチ】を使い生命反応を確認する。

今の地点から南西に30mのところにいくつかの反応があった。

肉眼では確認できないため、砂に埋まっているのであろう。

片手を前に出し、一発で釣る方法を実行する。


「【トルネード】!」

【トルネード】風属性魔法。上空や地中の敵を引き下ろしたり引きずり出す魔法。


竜巻の遠心力で砂が舞い上がり、勢いが増したまましばらくとどまる。


「見て!竜巻の中に何かいるわ!」

シンシアの指した先に、砂に紛れて魚たちが舞い上がっている。距離は離れているが、竜巻の遠心力は凄まじい。

竜巻はしばらくして威力が弱まると、徐々にその動きを止めた。


砂の上にぼとぼとと魚が落ちてくるのが見える。

魔法の力で、砂ごと空に舞い上がらせ落とすというシンプルな作戦である。

魚が落ちた後、に大きなモノが落ちる音も聞こえた。


その地点に行ってみると、色とりどりの魚がピチピチと砂の上を跳ねていた。数にして150匹ほどあろう。

その中に一際大きな魚が見える。全長は5~6mほどであろう金色の光沢に、腹にかけてグラデーションがかっている。

しかも頭には王冠。異世界ならではだろうか?


「なんだこれ?」

鑑定してみると、砂マグロと表示されていた。

「うぇ!?これが砂マグロ?」

ケイの声に、全員が驚きの表情で見下ろす。

「・・・は!レイブン!今すぐ食いたいから捌いてくれ!!」

「え?あ、とりあえずやってみよう!」

ケイの無茶振りになんとか答えようと、解体用のナイフではなく、武器の大剣で捌こうと振り上げた。


『これ!やめんかぁぁぁ!』


謎の制止に一同が止まる。

「アダムなんか言ったか?」

「いや俺じゃない」

「わたしでもないわ」

リックやデュークに聞いたが、二人とも横に首を振る。

レイブンが剣を降ろし、目線でケイ達に訴える。


『全く最近の若いもんは困ったモンだわぃ!』

どうやら声の正体は砂マグロだった。

「この魚喋るのか?」

『ワシは砂漠の魚の王!砂マグロじゃ!』

「あ、はい」

どうもいまいち気分がのらない。

人語を話すマグロなど、滅多にお目にかかれないのに、実際に会うと気分が上がらないのはどういうことだろう?


『ワシらを釣ったのはお前か?』

「ま、まぁ?」

正確には魔法で巻き上げたという表現が正解である。

『ワシが捕まったのは、お前が初めてじゃ!』

何が嬉しいのか砂マグロはかかかっと声を立てて笑う。

正直な話、この魚は別の意味で特殊なんじゃないかと思わざるおえない。

『そうじゃ!そんなお前にワシからプレゼントをやろう!ん~~きぇぇぇい!』

砂マグロは身体に力を入れて跳ねると、ケイの前に光を形成しやがて形になった。

「うわっ!王冠?」

ケイの手には、握り拳大の王冠がのっている。


【マグロの王冠】

砂マグロに認められし証。

マグロを一頭召喚できる。食べたり武器にもできる。


『ワシを捕まえた証じゃ!マグロを召喚することができる!大事にするんじゃよ!』

何の脈絡もないまま、砂マグロは魚たちと嵐のように去って行った。

「青年よ!君は私の師匠だ!私も認められるよう精進せねば!!」

デュークを見ると、こちらもこちらでなぜか闘志を燃やされている。なかなか頭の痛い話である。



「ケイ達はどうしたんだ?」

ちょうどタイミング良くポリスが戻ってきた。

本当は少し前に戻ってきたのだが、デュークの雰囲気になかなか入ることが出来なかったようだ。


デュークの熱の入れようにこれ以上付き合いきれない一同は、馬車に乗ってマライダに向かうことにした。

食べられなかったけど、砂マグロは喋ります。

次回の更新は5月20日(月)です。

細々と活動中。


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