247、新ダンジョン・パニックハウス(4)
皆さんこんばんは。
誠に遅くなり、申し訳ございません!
いつもご高覧くださりありがとうございます。
さて今回は、前回の続きからどうぞ。
ロザリンドが第三階層に入った頃、ケイ達は次の見学先である階層へと向かった。
「ここが第四・・・あ、第五階層に来ちまったな」
「えっ?第四階層じゃないの?」
「本当なら、第四階層はミステリーハウスでランダム出現になるはずだったんだ。だけどあたりを引いちまったみたいだな」
「あたり?」
「構成パターンが複数あって、希に四階層をスキップして次の階層に進むことが出来るんだ」
シンシアが質問を投げかけると、ケイから第四階層は何処に何が出るかわからない内部構造になっているという。その種類はおよそ50パターンあり、しかも五十分の一の確率でスキップすることができることから、見学には向かないだろうなと自身ではそう考えていた。
「ちなみに参考までに聞くが、何があるんだ?」
「え~っと、たしか溶岩が流れる川のエリアだったり、一直線の道に当たれば即場外のトラップ満載だったり、闘技場でドラゴン十頭同時討伐の力比べエリアだったりなんか色々と創ったぜ」
色々創ったので何があったのか既に細かく覚えていないと言うケイに、聞いているだけでも入りたくなくなるようなそんな気分にさせられる。
もし自分たちがロザリンドの立場なら、第一階層から心折られているだろう。
仲間の中でダンジョンに潜った経験のあるアダムとレイブンでさえ、ケイの創造したダンジョンには入りたくないという表情が垣間見える。
冷静に考えると、ドラゴン十頭同時討伐になるともはや苦行を通り越して歴戦の猛者でも無理!と白旗上げるほどの鬼畜っぷりに、アダムはわざと組み込んだのかと尋ねると、即死系や無茶振り系は全体の1%しか入っていないと返ってくるが、それが本当かどうかは創った本人であるケイにしかわからない。
「そういえば、今居る第五階層で終わりなのよね?ここには何があるの?」
「それなら目の前に居るだろ?」
ケイが示したガラス窓の反対側には、何処かの神殿を彷彿とさせる場所が見えた。
内部は薄暗く、目を凝らすと大きな何かの影が動いているようで、その存在にケイ以外が緊張感を持ち注意深くそれを見つめる。
第五階層は全体的に他の階層より暗く、人が立ち入るとそれを察知して壁掛けたいまつが灯る仕組みになっている。
シンシアからあれはダンジョンボスなのかと尋ねられ、肯定したケイはそれを倒せばダンジョンはクリアして脱出できるシステムになっていると説明をする。
その辺は一般的な自然生成のダンジョンと大差はないようだ。
ここでケイがその姿を見せようと、ダンジョンの設定でフロア全体に明かりが灯りその全容が明るみに出る。
「え゛っ!?・・・なに、あれ」
「あれがダンジョンボス“キメラ”だ」
自信満々に答えるケイに夢でも見ているのかと呆然とする一同。
それもそのはず、ダンジョンボスは三種類の動物が融合して出来た魔物だった。
姿を現したフロアボスは、ライオン・ヤギ・ヘビの頭を持ち、牛のようなガッシリとした胴体に黒い鷲の羽根が生えている。
尻尾もあるようで、尾てい骨付近からヘビの様な太い尻尾が異質な存在感を際立たせている。文字通り異形と定義してもいいだろう。
「これ・・・倒せると思う?」
「正直あんな気味の悪い魔物は初めて見るよ。倒せるかどうかはなんとも言えないけど、できることならアレと対峙したくはないかな」
ボソッと呟くシンシアにレイブンが自分なら辞退すると困った笑みを浮かべる。
いくら経験のあるレイブンでも、さすがにあれは無理かもしれないと見学だけで良かったと胸をなで下ろす。
その話の中心にいるキメラからはこちらの姿が認識できず、侵入者を待ちながらひとときの休息を行っている。もはや鬼畜を通り越して外道、という一同からのダンジョン認識に、そんな気持ちなど知る由もないケイは満足げに完成されたキメラの様子を見つめていた。
(き、気味が悪いわ・・・)
ケイ達が第五階層のキメラの見学をしていた頃、ロザリンドは一緒に一度あるかないかの訳の分からない状況に危機感を抱いていた。
第四階層である“ドラキュラの集い”にて周辺の様子を伺っていたのだ、フロア内にいたドラキュラに見つかり客人と認識され、あれよあれよという間にダイニングルームの端に空いていた椅子に座らされていた。
彼女の手には赤い液体が注がれたグラスが握られ、匂いを嗅いでみると血液のような血なまぐさい臭いを感じ、思わず顔を顰める。
『それでは乾杯をしよう!』
『『『乾杯!!!』』』
ドラキュラとドラキュリーナ達は、陽気な歌と音楽と共に高らかにグラスを掲げると、互いに笑い合い注がれた赤い液体をぐいっと飲み干す。
そんな様子を傍目にロザリンドは口をつける振りをしてその場の様子を観察する。
と調子のいいようなことを思っては見たものの、ダンジョンの魔物という認識がありながら言い知れぬ恐怖に身体を強張らせている。
(・・・おい、大丈夫か?)
その時、ロザリンドの右腕の袖を誰かが引っ張る感覚を覚えた。
振り返ると、身体をかがめたケイが周囲に気づかれないように小声で彼女に語りかける。
(とりあえずここから出るからついて来い)
その言葉を聞いたロザリンドは、グラスを置き、宴を続けているドラキュラ達に気づかれないよう姿勢をかがめてケイの後を追った。
実はここにいるケイは、ミスト=ランブルがレイブン経由で受け取ったケイの所持品である変化の指輪で変装した姿である。
ケイの考えをレイブンから聞いたミスト=ランブルは、当初信じられないという言葉しか頭に浮かばなかった。まさか新しくダンジョンを造り、そこにロザリンドを誘い込もうとは誰も思うまい。
どういう原理で街中にダンジョンを造ったのかは謎だが、そもそもダンジョン維持には魔素が必要ということは知っていた。しかし、ゴルゴーンの屋敷の地下にあるダンジョンを含め、昔に存在したダンジョンは維持できずに全てが消失してしまったことから、どうしても彼は不思議でならなかった。
しかもケイが創ったダンジョンは、元々一般的に使用された屋敷を姿を変えずに内部だけが異様と化しており、普通なら内部も変われば外観もそれに応じて変化するのだが、ミスト=ランブルが最初にこのダンジョンに訪れた際に一般的な屋敷の姿を保っていることから、もはやこの世界に存在するのか分からない神同等の能力を保持しているのではとさえ考えられる。
ちなみにミスト=ランブルは、吸血種特有の能力で姿を変えることが出来る。
彼の家系はコウモリに変化することができ、何代か前の人物はダンジョンが盛んな時代に生き、斥候を生業としていたことから魔物が多く居る場でも感知されずにダンジョン内を偵察することが出来たと言われている。
そんなミスト=ランブルも幼少の頃はその能力を使ってイタズラをしていたこともあったのだが、今はその機会もなくなったことにより若気の至りで苦い思い出として残っている。まさか大人になってもその機会が出来るとは思わず、今までダンジョンに挑戦するロザリンドの姿を見守っていた。
レイブンから伝えられた内容は、コウモリに変装をしてロザリンドの動向を伺いつつ先回りをしてくれという指示を受けたのだが、元々面倒見がいい性格が重なったせいか何度となく挑戦するロザリンドを気にかけていたのだった。
ちなみにコウモリに変身している間、第一階層で彼はそれとなく彼女に合図を送っていたのだが、ロザリンドの方はダンジョンの攻略でいっぱいいっぱいだったせいか、それに気づく事はなかった。
第二階層も未知なる魔物に追いかけられていたロザリンドのためにランダムに出現する第三階層への扉を必死に探し、あの手この手で彼女に意思表示を送ってなんとかここまで来ている。
今居る第三階層は、予め謎解きのギミックが多い階層だと言うことをレイブンから聞いてはいた。
ギミックを解く方法を教えられたミスト=ランブルは、脱出経路がいくつか存在しているなかで、そのための手順の事を考えると、ロザリンド一人で突破できるかと考えた時に脳筋っ子にはかなり厳しいという結論に至る。
そのためケイに変装していた彼は、一時的に休戦という形でロザリンドと第三階層突破のために手を組むという話に持っていこうと考える。
「ロザリンド、このダンジョンはいくつかのギミックが存在しているようだ」
「ギミック?そんなもの力でなんとか出来るのではないか?」
「してもいいが、ドラキュラとドラキュリーナが襲ってきても助けねぇよ?」
「う゛っ!・・・わ、わかった。ここは一時手を取り突破することに専念しよう」
先ほどの強制参加の食事会を思い出したのか、ロザリンドが顔を青くさせながら大人しく頷く。
(レイブンとタレナの言った通りにその人物を演じているけど、本当に合っているのかしら?)
ミスト=ランブルは、無事にケイになりきれているのか不安でしかなかった。
ケイとは応接室乱入時に姿を見かけただけで接点がなく、人なりの情報が乏しい。
仲間であるレイブンとタレナに尋ねたところ、口は悪いが良い奴だとなぜか保護者のような眼差しで語っていることから、二人よりは年下であることを理解する。
それに加えて破天荒な部分もあると聞いたことから、彼の中でケイの人柄はやんちゃな青年と一旦認識し、そのように振る舞っている。
今のところロザリンドにはバレていないようで、安堵すると共に第三階層のギミックを解いていくことにする。
「・・・で、この階層では何をするのが正解なのだ?」
「ここを一通り回ったところ、第四階層へ続く扉らしきものがいくつか確認できたから、まずは一番近い扉を見てみることにしよう」
二人は一階奥の物置部屋へと足を向ける。
途中で何体かのドラキュラとドラキュリーナとすれ違ったが、みな酒を飲んでいる様子で酔った状態で談笑や笑い声を上げたり二人に目もくれなかった。
そのため、すんなりと目的の物置部屋へと踏み入れる。
「これが第四階層への扉だと思う」
ケイ(ミスト=ランブル)が示した先に、奇妙な模様をした重厚な扉がひとつ。
模様は3×3の正方形のマス目があり、そこに数字を表す文字が刻印されているスライド式のピースが八つはめ込まれている。これが話に聞いた一番簡単な仕掛けのスライド式パズルであることから、第四階層はここの仕掛けを解くことが一番早いと説明される。
「とりあえず俺がこれを解いてみせるから、お前は誰か来ないか見張っててくれ」
「あ、あぁ。わかった」
心なしか顔を青白くさせていたロザリンドだったが、早くここを抜けたいのか余計な事を言わず閉口したままケイ(ミスト=ランブル)の意向に従った。
第三階層でケイに分したミスト=ランブルと同行することになったロザリンド。
ミストは彼女のためにここを抜けようと仕掛けを解くことにします。
果たして無事に第五階層まで行くことができるのか!?
次回の更新は11月16日(月)夜です。
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