246、新ダンジョン・パニックハウス(3)
皆さんこんばんは。
いつもご高覧くださりありがとうございます。
さて今回は、前回の続きで第三階層の見学とロザリンドの受難をお届けします。
「つ・・・疲れた~~~~」
疲労困憊のロザリンドがギミックのある足場を登りきったのは、挑戦してから105回目の事だった。
まさか足場のギミックが毎回違うとは思わず、何度足を滑らせ退場させられたことか・・・。そんなことを思いつつ息を整えた彼女の前には、茶色の一般的な両扉がその姿を見せている。
「そういえば、あいつ(ケイ)の姿がないな」
後ろを振り返り第一階層全体を見渡せる位置に出口があることから、一緒に入ってきたケイの姿を探すが見当たらない。
てっきり自分と同じようにダンジョンの外に強制退場させられたのかと納得をし、次なる階層へと扉を開いた。
「なんだここは・・・」
唖然とするロザリンドの前には鬱蒼と茂る森が広がっていた。
ジャヴォールにはない密林地帯に困惑しながらも、過去に自動生成されたダンジョンにも似たような雰囲気があったと記されていたことから、このダンジョンも同じ系統だろうと気を引き締める。
「しかし、さっきの階層とは大分違うな」
どちらの方向に行けばいいかはわからないが、ロザリンドはとりあえず獣道をひたすら突き進んでいく。
しばらく道なき道を歩き回ると、地面に生物の足跡が残っているのを発見する。
大きさから考えると30cmほどあり、人型の魔物なのか五本指の足形がしっかりと地面に残され、それが徘徊していることを瞬時に把握する。
「二足歩行で徘徊する魔物か・・・?そんなの居ただろうか?」
見たこともない大きさの人の様な大きな足跡に疑問を浮かべつつ、ロザリンドは辺りを見回した。
地面に残っている足跡から、恐らく複数体いるのだろう。
ロザリンドは自身の腰にある剣に手をかけながら、注意深く辺りの様子を伺いつつ耳で周囲の音を聞き分ける。
音を立てずに進行方向に向かってゆっくりと足を進ませると、茂みの向こうから何かの気配を感じた。ロザリンドはいつでも戦闘が出来るように再度引き締めると、茂みの隙間からその奥を覗き見た。
「なっ!?」
その生物の姿を見たロザリンドは、驚きのあまり思わず声を上げそうになりながらも咄嗟に右手で自身の口を塞ぐ。
複数体存在する大柄な魔物は、赤や青などの肌色に頭部に角の様なものが二本。
それぞれの手には突起物がついた武器が握られ、見たこともない容姿に彼女は本能的にまずいと判断し、音を立てずにその場をやり過ごそうとした。
パキッ。
近くにあった小枝を踏んだことにより枝が折れた音が辺りに響く。
先ほどまで徘徊していた未知なる魔物はその音がする方向に一斉に振り向くと、ロザリンドの姿を捕らえたかと思いきや、一斉に彼女に飛びかかろうとした。
『『『ガァァァアアアアアアアア!!!!!』』』
「き、きゃああああぁぁぁぁ!!!!!」
ロザリンドは人型の魔物の形相に驚き、あまりの恐怖からか臨戦態勢どころではないようで、踵を返すと一目散に全力で来た道を逆走した。
無論未知なる生物もとい鬼達は、逃げる彼女を追って巨体にも関わらず全力で敵対と認識したロザリンドの後を追いかけた。
文字通り、ケイが想定した鬼ごっこの始まりである。
「次は第三階層」
ロザリンドが本気の鬼ごっこを体験している頃、第三階層に入ったケイ達は、第一・第二階層とも違った雰囲気のダンジョンをガラス越しに見つめていた。
「随分個性的な雰囲気だが、この階層はなんだ?」
「ここは“ドラキュラの集い”という場所だ。見て分かるとおり、常にパーティーを開いている。主にドラキュラとドラキュリーナを中心に構成している。あと、ゾンビとか異形の魔物とか色々追加してるし、この階層ならではのギミックも入れてみた」
「ドラキュラ?ドラキュリーナ?」
「吸血系の魔物で、ドラキュラは男性型、ドラキュリーナが女性型って意味だ」
アダムが目線をケイからガラスの向こうに移すと、様々な年代の容姿端麗な男性型や、清楚な服装から肌を露出した服装を身に纏っている女性型が椅子に座り談笑しているところが見える。
魔物がパーティー。と通常なら考えられないのだが、ガラス越しにその様子を観察すると、そこには長テーブルと左右二十ずつ並べられている椅子全てに魔物達が座り、食事に手を付けては酒を酌み交わすなど、陽気に歌や楽器を用いて演奏をしている姿もある。
照明は雰囲気を出すためにやや暗いが壁掛けたいまつには青緑色の火が灯り、ダイニングルームとおぼしきその場所には、女性の姿を模した絵画や高価な花瓶に白い薔薇が綺麗に飾られている。
一見貴族のパーティーに見えなくもないが、ここはケイの創造したダンジョン。
吸血系以外にも鳥の頭をした人型の魔物が同じように椅子に座り、皿に盛り付けられた黒くて堅い食べ物のようなモノにナイフを突き刺しフォークで中身をえぐっている姿や、料理を運ぶツギハギだらけの顔面の大柄な男、頭から黒いローブを被った人物の袖から先が骨だったりとまさに異世界ハロウィン状態。
ドラキュラとドラキュリーナたちは、赤い液体が入ったグラスを片手に優雅に談笑や陽気に歌を歌っているが、ケイ曰くあの液体は血(設定と言っているが真相は謎)であることが語られると、シンシアが顔を引きつらせる。
「それはそうと、パーティー会場がダンジョンってことなのか?」
「まぁな。第三階層は謎解きメインで、ここに居る魔物はこちらがアクションを起こさなければ問題ないが、手を出すと一斉に追いかけてくる。第二階層の鬼みたいなモノだけど、ここはギミックを多用してるから誤った判断をすると、どんどん自分の首を絞めていく構成にしてある」
「それは、あまり体験したくはないわね」
ケイの性格から一筋縄ではいかないと思っていたアダムだが、ホラーやアンデット系が苦手なシンシアは怖いのか青ざめた顔をしている。
第三階層は、パーティーが開催されているダイニングルームから始まり、二階構造全十部屋と意外と広く、一階は応接室やゲストルームなどが組み込まれている。
途中、ゲストルーム内にあるシャワー室で、ドラキュリーナがシャワーを浴びている光景に遭遇した際、倫理上の関係からか慌ててケイがブルノワの目を塞ぎ、アダムとシンシアが少佐の目を塞いで足早に通り過ぎた。
さすがに魔物であろうと気まずい光景である。
見学者用の通路は途中階段を挟み二階へ上がると、舘の主とおぼしき壮年のドラキュラが生贄とおぼしき人間の女性の首に牙を突き立て、血を啜っている光景に出くわす。
「えっ!?ちょっと、人が居るわよ!!」
「慌てんなって、あれはギミックの一種だ」
新しく出来たダンジョンに人の姿を見つけたシンシアが慌てた素振りでケイに掴みかかったが、それを一言で返したケイにどういうことだといつもと同じように胸ぐらを掴み前後に揺さぶる。
「あんたは毎回毎回!説明が足りないのよ!一回殴るわよ!!」
「シ、シンシアさん!?少し落ち着いてください!!」
ポネアに羽交い締めにされたシンシアは、ポネア!離しなさいよぉ!と息巻き、アダムからは「説明してくれ・・・」とまたかと言った表情でため息交じりに口にする。
「今、このドラキュラが血を吸っている人間は、ダンジョンの能力で人を形成してるんだ。俺の魔力とジャヴォールに漂っている魔素を合わせて作られたダンジョンだからあの人間は魔力と魔素を併せ持った人間そっくりの幻」
「本当にそっくりだね。あの首筋から流れている血も幻なのかい?」
「あぁ。あれも人間の骨格や構造を情報としてダンジョンに組み込ませている。ちなみにこのダンジョンは、自分の意思でギミックの変更や将来的には自己能力でダンジョンの増減をすることができるようになるんだ」
「えっ?ということは、ケイの情報を元にダンジョン自身が進化を遂げるってことになるってことか」
レイブンは驚いた様子で聞き返すと、ケイの情報を元に成長を遂げるダンジョンということにさらに驚いた。
まさか成長型ダンジョンだとは思わなかったのだが、毎回ギミックが違うとやり応えあるだろう?という問いかけに、その場にいる全員が「それが出来て喜ぶのはケイだけだ!」と思ったとか思わなかったとか。
ちなみにこの階層は、以前友人のオススメで遊んだとあるPCゲームの舞台となった洋館を参考にしている。
海外のゲームだったこともあり英語があまり読めなかったケイだが、実に興味深く自身がもっとも好むホラー要素の演出もあったことから、そのゲームの内容を参考に自分で着色し、創造に変化をもたらした一つの演劇のような自信作となる。
第四階層への通用口が見えてくると、ホラーテイスト全般が苦手なシンシアはレイブンとタレナに手を引かれ、見学用の窓を見ないように進んでいた。
それもそのはず、途中にある部屋には丸テーブルに置かれた宝石を加えた骸骨の頭部がケタケタと顎を鳴らし、首から上がない全身白いマネキンが突如狂ったように踊り出す光景など、近年まれに見るお化け屋敷化となっていたのだ。
そしてシンシアを恐怖に突き落としたのが、反対側からこちらの様子が見えないはずなのに全身ケロイド状の生物が下から現れ、バン!と窓を叩いた。
これにはあまりの怖さに悲鳴を上げたシンシアに、触発されるようにブルノワがパニックを起こし泣きわめく。
「シンシアさん、大丈夫ですか?」
「もう無理もう無理もう無理・・・」
結果、タレナの腕を掴みもう帰りたいとグロッキーになり、ケイに抱っこされたブルノワは、ようやく落ち着いたのだが涙と鼻水まみれと可哀想な表情を浮かべている。
「ケイ、自重しような・・・」
「これは反省する・・・」
疲労困憊のアダムから勘弁してくれと反省を促され、ブルノワからの涙と鼻水の洗礼を受けたケイは、さすがにこればかりは反省をした。
ケイは第四階層への扉を開けると、一行は次の見学階層へと足を進ませた。
『『『ガァアアア!!!』』』
「ひぃぃぃ!!!」
一方鬼ごっこ続行中のロザリンドは、鬼の猛攻をかいくぐりながらなんとか第三階層への扉を見つけ、三体の鬼の攻撃を寸前で躱すと同時に扉の中に入った。
直前で鬼が飛びかかってきたが、上手く避けられて安堵すると同時にここは本当にただのダンジョンなのかと疑いを感じ始める。
毎回変わるギミックの足場に未知の魔物との逃亡劇、第三階層は一体何が来るのかと再度気を引き締めたところ、彼女の耳に陽気な音楽と歌声、笑い声が聞こえた。
声が聞こえた方向に足を向けると、とある部屋の入り口を見つけ、そこから中を覗く。みると、見たこともない妖しげな容姿をした何者かが楽しげに飲み物や食べ物を手につけている。中ではパーティーをしているようで、一瞬ダンジョンなのかと錯覚を起こす。
しかし第二階層の魔物の件もあったことから、ロザリンドは慎重に辺りの様子を伺った。
第三階層“ドラキュラの集い”を見学したケイ達と文字通り鬼ごっこを繰り広げていたロザリンド。
第四、第五階層は一体どんな場所なのでしょう?そしてロザリンドは無事に生きて帰れるか!?
次回の更新は11月13日(金)夜です。
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