245、新ダンジョン・パニックハウス(2)
皆さんこんばんは。
いつもご高覧くださりありがとうございます。
さて今回は前回の続きです。
ケイ達が第二階層の扉に辿り着いた頃、被験者もといロザリンドは、何度目かの強制退場を受けて屋敷の外に放り出されていた。
「くそっ!一体どうなっている!?」
ダンジョンの扉を開くと、色とりどりの円柱が上へと向かって高低差をつけながら奥へと続いている。もちろん彼女は瞬時にそれが上へと続く足場だと理解し、これなら簡単だと足場の円柱に飛び乗った。
しかし物事は上手くいかないようで、途中で足場の円柱が上下左右に動き、バランスを崩し落ちたかと思うといつの間にか屋敷の外に退場させられた。
最初こそ足場が動くことを想定していなかったのか、円柱の足場から足を滑らせ強制退場を受けたが、そこから彼女の適応力は割と早く、中盤まで飛び登りながら進んで行くが、途中から動く円柱と動かない円柱の見極めが難しくなり、結果的に何度も強制的に外へと追いやられる。
地下駄を踏みどういうことなのかと考えてみるものの、意図的にギミックが変更されている。そんな考えが頭をよぎる。
「お前、何やってんだ?」
ロザリンドの後方から聞き覚えのある男の声がし、振り返ると数日前に自分が勝負を仕掛けた相手であるケイの姿があった。
ケイは、一人地下駄を踏むロザリンドを滑稽だと言わんばかりに含み笑いを浮かべている。
何がおかしいと尋ねると、先ほどから一人ダンジョンに挑んで強制退場させられている姿が面白いと、愉快な表情と共に小馬鹿にした口調で返される。
ロザリンドは一瞬ムッとした表情を浮かべたが、先日の勝負は自分が勝ったので負け犬の遠吠え程度だと言い聞かせ表情を戻す。
「ここが新たなダンジョンだとお父様とお母様は認識しているかはわからないが、今日から私の訓練の場になるのだ。貴様は先日の勝負に負けた時点で私に追いつくことができない!どうだ?悔しいだろう?」
「・・・で?」
強者の表情でケイを見下すロザリンドに、興味なさそうな表情でそれで?と返すケイの温度差がかなりある。しかしこの脳筋女はその態度が気に入らないのか、ケイに完膚無きまでに屈服させたい欲に駆られる。
今までの男たちには挑む挑まないを問わず、自分が強いと徹底的に知らしめてきたが、両親の会話を盗み聞きした際に、ケイ達はゴルゴーンの客人と同時に外から来たよそ者であることは理解している。
「まだ分かってないわね?それならこのダンジョンをどちらが早く攻略できるか勝負をしようではないか!」
有無を言わせない態度に、ケイは強制参加という理不尽なやりとりにやれやれと首を振った。
「ところでケイ。ミストさんを連れてきたのはいいが本当に大丈夫なのかい?」
二階層目に入る直前、レイブンは不安げな表情でミスト=ランブルのことについてケイに尋ねた。
ケイは問題ない。むしろボコボコになるのはロザリンドの方だと断定的な物言いをするが、レイブンとタレナに託した用件の詳細を知らないアダム達はどういうことだと説明を求める。
「実は最初の応接室乱入の時にあいつに鑑定をしたんだ。面白いことに吸血種は他の二種のタイプとは異なり『変化』という特殊スキルがあったんだ」
「変化?何に変化するんだ?」
「魔物だよ。正確には魔物に擬態する能力ってことだな。ミスト=ランブルはその能力を保持しているから、もしかしたらワンチャンいけんじゃないかと思ってさ」
アダムとシンシアは吸血種は魔物に擬態する能力があることに驚いたが、ポネアからダンジョンが盛んだった三千年前までは、吸血種は調査隊の斥候として重宝されていた経緯を説明する。
「吸血種は豪魔種と不死種にはない変化があります。対象は個々に異なりますが、ミスト=ランブル様はコウモリに変化をすることが出来るそうです」
「えっ?ということは、どういうことなの?」
「要はミスト=ランブルが俺に化けて、強制的にロザリンドとの勝負をけしかけて貰うってわけ」
「ちょ!?ミスト=ランブルさん死んじゃうでしょ!?何考えてるのよ!!」
慌てたシンシアが一喝するが、ケイは話は最後まで聞けと制すると吸血種の変化スキルについて、少し説明を加えた。
「さっきポネアが言った吸血種が斥候だった時代があったって言ったろ?魔物の姿に擬態しすれば、魔物が居ようが仲間の認識して襲われない。そうだよな?」
ポネアに同意を尋ねると、はい。と返事を返し、今ではその需要がなくなったがなごりとしてそのスキルが受け継がれていることを補足する。
「それじゃ、ケイは初めからダンジョン生成を視野に入れてたってことか?」
「まぁ、そういうことだ。ちなみにレイブンに託した小さな木箱は、俺が持っている『変化の指輪』を渡したんだ」
ケイは、所持していたマジックアイテム・変化の指輪に細工をしたものをレイブンに託した小さな木箱に収めていた。
それはケイの姿に変装できるというもので、この作戦が終わりミスト=ランブルが指輪を外した時に細工した仕掛けが削除される一回こっきりの物である。
変化が出来る対象に人型が含まれていないことを知ったケイは、ミスト=ランブルがケイになりすまして、ロザリンドに近づいて貰い創造したダンジョンに勝負を名目に力を入れてもらおうと考えていた。
そしてケイが想定していた通りにことが運ぶとなると、ダンジョンに入ったミスト=ランブルは、ロザリンドが知らないうちにコウモリへと擬態し先回りをする手順になる。
「話はこれぐらいにして、ダンジョン見学の続きと行こうぜ!」
第二階層の扉がゆっくりと開かれ、その全貌が明らかになった。
「次は第二階層だ」
扉が開かれると同時に、ジャングルのような密林地帯が眼前に広がっている。
ダインの集落から見た森の景色を参考にしたのだが、今居る地点から今度は下に向かって見学用のスロープが続いている。
「完全に外ね」
「ダインに行った時に集落から辺りが一望できたからそれを参考にしたんだ。まぁここから本格的なダンジョンと言ってもいいな」
第一階層とは違い、通路は辺りの景色がまるっと見えるトンネル方式に替わり、ケイによるとマジックミラーのような役割を果たしているので、こちらから向こうの様子は見れど、反対側からは見えないように工夫をしていると述べる。
完全にダンジョンというよりはどこぞの工場見学な感じに見てとれるが、そんなことはケイ以外のメンバーは知る由もない。
「反対側からこちらの様子が見られないということは、魔物かなにかいるの?」
「まぁな。俺が創造したからもしかしたらみんなが見たことがないやつだと思う」
「・・・それって不安しかないけど、大丈夫なの?」
「なるようになるしかねぇんじゃねぇの?」
シンシアから本当に任せて良いのかという視線が送られながらも、一応魔物の調整は行っているが、相手は複数体のミノタウロスを倒してきたロザリンドであるため実力は未知数だ。
「あの、ケイさん。あれは・・・魔物ですか?」
タレナがとある場所を示し、ケイに尋ねる。
2m以上の背丈に肌は全体的に赤く、他にも同じような個体が奥の茂みから現れたところが確認できる。そしてそれらは青や緑のような肌色をしており、それぞれが別の個体だと理解できるが、二足歩行でありながら人にはとても見えない。
そして先ほどの赤い肌の生物が何かの拍子でこちらを振り返ると、ケイ以外がその表情に思わず息を呑んだ。
顔立ちは人に似ているが、瞳の部分は黒い全眼で口からは鋭い牙が二本。
極めつけは頭部に二つの白い角があることで、衣服は纏っていないが黒と黄色縞模様を着用している。日本ではお馴染みの空想上のアレである。
「あれは“鬼”だ。俺の国では民話などに出てくる妖怪という部類になる」
その証拠にどの鬼も鋭い突起物が付いた金棒を手に持ち、この階層を我が物顔で徘徊している。数にしては大体二~三十体いるのだが、初めて見る鬼の姿にアダム達は身震いを起こした。
「ちなみに聞きたいんだが、あれってケイの国にいるのか?」
「いや、古い民話に出てくる空想上の生き物だから本当にいるわけじゃない。鬼の能力なんて分からねぇから、俺なりに考えて構成したつもりだ」
ダンジョンにいる鬼は接近戦を得意としているので、脳筋女相手でも十分にやっていけるだろう。
特徴としては階層に入った対象者を執拗なまで追いかけ回す習性があり、金棒片手に殴り潰す能力が圧倒的に高い。紙装備だとミンチは確定で、むしろロザリンドの為だけに創られたと言っても過言ではない。
シンシアからは本気で彼女を殺さないわよね?と確認されたが、対象者が瀕死になると強制的に退場する処置をとっているから大丈夫だと答える。
冷静に考えると一見易しく見える処置でもまた最初からやり直すことになるので、骨を埋める行為より意外と残酷な方法だということはなんとなく察しがついた。
「そういえば、第三階層に続く扉はどこにあるの?」
「それは第二階層にランダムで出現するんだ。ちなみに俺たちが居る見学者用はこの先を下っていくとある」
「挑戦者用とは違うって事ね」
「見学者用は別だ。それに面倒くさい」
第二階層から第三階層に続く階段は、ダンジョンに入る度に出現場所が変わる。
しかし鬼は対象者を追ってくる仕様になっており、ケイ曰く倒しても無限沸きする仕様になっているというなかなかのハードさ。俗に言う“鬼ごっこ”である。
この第二階層は、鬼の追跡をかいくぐりなんとか第三階層へ向かうというマラソン選手も真っ青なのだが、いかんせん対象となる相手がいない。
もちろん見学者用の通路にいるケイ達は感知されず、ジャングルのような密林地帯を物騒な金棒片手に徘徊する姿は、一般的なダンジョンに生息する魔物と大差はない。
「ここが第三階層に続く扉だ」
密林地帯を迂回するように下りのスロープが続いた先に一枚の扉がある。
第三階層への扉まで辿り着くと、本当なら鬼の追跡能力を見せたかったというケイになんとなく見なくて良かったとアダム達が安堵する。
しかしその後やって来るロザリンドが、その鬼の本領を間近で感じ恐怖することをケイ達は知らない。
ドアノブを回し、次なる階層へ見学を続けるケイ達はそのまま第三階層へと進んで行くことになった。
新ダンジョンに鬼!
まさかの投入について行けないアダム達!
果たしてロザリンドは未知なる鬼ごっこについて行けるのか!?
次回の更新は11月11日(水)夜です。
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