244、新ダンジョン・パニックハウス(1)
皆さんこんばんは。
いつもご高覧くださりありがとうございます。
さて今回は、ケイが創造した新ダンジョンのお話です。
レイブンとタレナが、ミスト=ランブルに会うために別行動を取った後のこと。
新ダンジョンを創造した屋敷の前で、ケイは最終調整となにやら鑑定が表示されている画面を覗き見る行動をしている。
「ねぇ、本当に大丈夫なの!?」
「大丈夫だって!今回は俺の自信作だし、簡単に突破されないようにしてるつもりだ。しかも難易度はモリモリ鬼畜仕様だからな!」
鑑定画面とにらめっこをしてるであろうケイは、あーでもないこーでもないと独り言を呟いている。
表示された鑑定画面はケイしか見えないため、端から見れば一人で宙を見つめて何をしているんだろうと不審がられるのだが、今この庭にいるのはブルノワと少佐を抱きかかえているアダムとシンシア、それとポネアだけである。
シンシアはダンジョンを創造したというケイの発言に不安を感じたが、屋敷の外観は変更前と変わらず、何処が変化をしたのかと目を凝らすが全く検討がつかない。アダムはケイのぶっ飛んだ思考を理解するのは無駄だと早々に諦め、いつものことだと芝生の上でお腹を見せて触れとジェスチャーを送る少佐の腹をブルノワと共に撫で回す。
「あ、あの・・・アダムさん、ケイさんはダンジョンを造ると言ってましたが?」
「あ~。あいつの突拍子もない思いつきは今に始まったことじゃないから、ほっといたら説明してくるよ」
ポネアはケイの行動にイマイチ理解できず、困惑の表情でアダムに尋ねた。
付き合いの長いアダム達はケイの行動に慣れているが、ゴルゴーンといいアンドワールといい、恐らくロザリンドがらみであることは間違いないのだが、彼女の中でイコールとはならないようだ。
「そういや、ポネア!ロザリンドがこの辺りに来ることってあるのか?」
「えっ?あ、はい。この辺りはロザリンド様のランニングの場になってますので、毎朝もしくは毎夕にこの近辺を通過するかと思います」
どうやら毎日朝か夕方のどちらかにジョギングをするべく通ることがあるらしい。
しかし今は先日の件でゴルゴーンが激怒したため、ロザリンドは外出禁止という名の軟禁生活を送っている。
アンドワールからあの調子ではいつもの如く、長くは続かないと話していたことから、しばらくすれば自分からこの場所にやって来るだろうと、ケイはそんなことを考えていた。
「よし!アダム!シンシア!そろそろやって来ると思うから隠れようぜ!」
「やって来るって誰が来るんだ?」
「そんなのロザリンドに決まってるだろ?」
「どういうことなの?」
「予めゴルゴーンとアンドワールに話してあるんだよ!」
ケイはロザリンドがここに来ることを知っている口ぶりをしたが、ゴルゴーンとアンドワールに話をしているという点にアダムとシンシアが首を傾げる。
とりあえず四人は、ケイの言う通りに建物の角に隠れてロザリンドが来るのを待つことにした。
「お父様もお母様も何も分かってない!」
屋敷を出たロザリンドは、気晴らしに市街地を西に向かって走り出した。
両親に怒られては部屋での謹慎を言い渡されたが、ロザリンドには足かせにもならない罰だった。いつものように部屋の外には厳重に兵が数人立っているのは知っているので、窓から脱出しようとベランダから下を覗き見ると、逃げ出さないように巡回兵の姿が見える。
もちろんこれもいつものことなので、ベランダの手すりから屋根へと登り、隣接する木に飛び乗り、巡回兵のいない場所を見つけ降りるというのがロザリンドの逃走経路である。
市街地を西へ向かって走りだすロザリンドは、そのまま日課のジョギングへと移行する。何か気に入らないことや暇が出来た時には、ジョギングで発散させる。
体力がつくし悩みも吹き飛ぶ、一石二鳥である。
しばらく走ると、門のところに木の看板が立てられている屋敷の前に差し掛かる。
ロザリンドは一度通り過ぎたのだが、看板の文字が気になりUターンをしてその看板の前にで立ち止まる。
『新ダンジョン パニックハウス』
ダンジョン?と思わず首を傾げる。
もちろん門扉から見える建物は、一般的な二階建ての古びた屋敷。
たしか、年配の男性が屋敷を維持できずに手放したという話を聞いたことがある。
それに二週間に一度ほど建物を管理している団体によって清掃や草刈りをしているとも聞いているので、てっきり新しく人が入るのかと思いきや謎の新ダンジョンが誕生している。
当然行き交う人々もその看板に目を向けているが、その前に立つロザリンドの姿を見るや、全員が目線をそらし足早に通り過ぎていく。
「自分を試す新たな場か・・・とにかく行ってみよう!」
ロザリンドはそう決意すると、門扉から見える屋敷に足を踏み入れたのだった。
「ねぇ。彼女かなり怒ってない?」
ロザリンドがこの屋敷に入っていくところを見届け、なぜかまた転移で外に退場させられている姿を何度か見たシンシアが顔を引きつらせ、屋敷の入り口で地下駄を踏む彼女の姿に思わず同情の声を上げた。
「問題ねぇよ。むしろ11回目でキレるって、相当自分に自信を持っているってことだな。まぁ、俺としてはそれをへし折って木っ端微塵にするぐらいが丁度いいけどな」
「というか、何故彼女は外へと転移されたんだ?」
「ダンジョンの最初から躓いているってことだよ」
ロザリンドの態度を見るに、ケイの思惑通りといったところだろう。
ケイの表情は、人様に見せることが出来ないほど邪悪な笑みを浮かべている。
それを目の当たりにした三人は、とてもじゃないが表情がヤバいという共通の感想を思い浮かべたが口にすることはなかった。
「最初から躓くってどういうことなの?」
「俺の創ったダンジョンは他のダンジョンと大きく違うんだ。魔物だけじゃなく、謎解きもアスレチックもある最難関のテーマパークみたいなもんだ!」
拳を握り力説していたが、三人にはその意味がよくわからず曖昧な返事をすることしか出来なかった。
「みんな!待ったかい?」
「レイブン!タレナ!こっちは少し前に始まったぜ!」
ロザリンドに分からないようにレイブンとタレナが合流した。
レイブンからケイの指示通りにミスト=ランブルには所定の位置で待機して貰っていると述べると、機嫌を良くしたケイは早速始めようと行動を開始すると同時にレイブンは当初の段取り通りに、離れた場所にいるミスト=ランブルに合図を送る。
「ところで、私達はどうすればいいの?」
「せっかくだからダンジョンの中でも入ってみるか?」
シンシアの問いに間髪入れずにケイが答えると、一瞬全員の動きが止まる。
ケイの創ったダンジョンがまともであるはずがない。
それがアダム達の見解だった。
しかしケイも無計画に言ったわけではない。
その証拠にロザリンドが挑もうと入っていく入り口とは違う場所から入ると伝えると、建物の右側に向かって歩くと使用人が出入りするような入り口が見えた。
「表の入り口は挑戦者ようだ。で、こっちが見学用の入り口。まぁ、今のところは俺達しか使わねぇけどな」
ケイはポケットから銀色の鍵を取り出すと、扉の鍵穴に指して回した。
建物の内部に立ち入ると、人を完治したのか壁掛けたいまつが独りでに灯り、赤いカーペットが奥へと誘うかのように続いている。
通路は人が二人並んで歩く程の広さしかなく、左側に目を向けると全面に何処までも続く大型のガラス窓かはめ込まれ、その向こうには、ダンジョンの一部とおぼしき、赤や緑に塗られたカラフルな円柱が高低差をつけながら左から右へと徐々に高くなっている。
「俺の創ったダンジョン・パニックハウスは、全5階層ある。今居るところは第一層の準備運動をするための場になってる」
「円柱の下が暗闇なんだけど、落ちるとどうなるの?」
「強制的に屋敷の外に退場されるだけだ。二階層に続く階段はあの上にある」
第一階層は、ケイが先ほど口にしていたアスレチック。
足場になる円柱に飛び乗りながら上へと上がっていくという単純なものだが、落ちれば問答無用で退場させられるという、そこそこ難易度のある階層になっている。
この発想の原点は、年末に家族と見たとあるテレビ番組から得ている。
いくつかのステージを己の力だけで突破していくという番組なのだが、円柱の足場やターザンの様にロープにしがみつき移動するギミック、力を利用した巨大な壁が立ちふさがるなど、その全てを制覇すると莫大な金額を手にすることができるというもので、毎年たくさんの人々が挑戦していたことを思い出し、ケイなりにアレンジが加われている。というのも、円柱の足場が一定時間上下左右に動く箇所がいくつかある。俗に言う“初見殺し”といわれるのだが、ロザリンドのプライドを挫くにはそのぐらいしてもいいだろう。
ケイ達がいる見学者通路は、円柱の高低差に比例して緩やかに上り坂になっていくが、見学者に負担がかからないように上り坂寸前になると自動的に歩行者用の自動スロープへ移行する。
もちろんそんなことを知らないアダム達は、途中から通路が自動で動いていることに驚きを隠せないでいた。
「ケイ、床が動いてるんだが?」
「あぁ。ダンジョンの構造上、ここから上り坂になるから自動的に上まで上れるようにしておいたんだ」
やっぱり規格外ねとシンシアが呆れ、ポネアは見たこともない技術に終始唖然とした表情を浮かべている。
「第一階層はあの上まで続く円柱しかないのか?」
「本当はもう少し凝ったものにしたかったんだが、あまり難しすぎても飽きられたら終わりだろ?そこは俺なりに考慮したつもりだ」
本当は、跳ねる床や左右に飛び交う鉄球を避けながら平均台ほどの細い通路を渡り歩くギミックなどを追加したかったが、いかんせん相手はロザリンドだ。
脳筋に挫折されては困ると大分易しめに創ったというが、アダムとシンシアは懐疑的な目で見つめ、レイブンとタレナは困った笑みを浮かべたままケイの話に耳を傾けている。ポネアに至っては、アンドワール様よりお厳しいと変な眼差しで見つめている。
自動スロープも先が見えたようで、緩やかに上昇を続けるとある一定の場所でゆっくりと止まる。
「ここからが第二階層だ。もっと面白いものが見られるぞ!」
ケイが第二階層に続く木製扉に手を掛けると、意気揚々と次なる場所へと力強く押し開けた。
新ダンジョン・パニックハウスは、愉快で鬼畜で歯ごたえのある内容てんこ盛り!
ケイはこれでも易しくしたというが、初っ端からきつそうだ!?
果たしてロザリンドのプライドを木っ端みじんにできるか!?
次回の更新は11月9日(月)です。
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