23、港町ヴィリロス
今回は西大陸南側の港町ヴィリロスのお話。
アルバラントからアーベンに戻った四人は、ギルドでレイブンの指名依頼を受ける意を伝えた。
『護衛依頼・目的地 砂漠の都市マライダ
礼服を宮殿まで届けるための護衛をお願いします。
依頼主:商業都市ダナン 被服職人リック 報酬 30.000ダリ
食事と宿泊はこちらで持ちます』
レイブンの指名依頼の内容である。
「砂漠の都市マライダってどこにあるんだ?」
「西大陸南側にある砂漠の国だ。ここからだと、船で二日ほどの港町ヴィリロスに向かい、そこから北上した砂漠の真ん中にある」
砂漠の都市マライダは、大陸一の暑さを誇っている。
北から東にかけて広大な山々が連なり、西側から南にかけて海が存在する。山からの風が熱気を運び、日の光が砂に反射し暑さをさらに高まらせる。
一年を通して雨はほぼ降らず、中央のマライダは水を生成する魔道具だよりになる。
「ミーア、指名依頼の受理を頼む」
「はい。エクラの皆様なら問題はないと思いますので、少しお待ちください」
依頼書をミーアに渡すと手続きを始める。
「砂漠の都市ねぇ。私も行ったことないし、この先のことを考えると護衛の依頼を受けて正解ね」
シンシアにとっても初の西大陸である。
「レイブンさん、受けて頂きありがとうございます」
ギルドの応接室に通された四人は、栗色の髪の青年と対面することになった。
「そういえば他の皆様は初めましてですよね?僕は商業都市ダナンで被服職人をしていますリックといいます」
「リック、久しぶりね」
「シンシアも一緒だったんだ!?」
驚いた表情のリックに横からケイが口をはさむ。
「知り合いか?」
「ひいきにしている服屋の息子よ。でもなんでリックが?」
「本来は父さんが行く予定だったんだけど、他の仕事が片付かなくて。僕が代理で届けることになったんだ」
リックの父はダナンでも有名な被服職人で、どんな生地でもなめらかに、肌触り良くその人に合った服を作成することから世界中から注文が届く日々を送っている。
今回はマライダの王、マーダ・ヴェーラの王就任十周年を記念しての式典が行われ、そのための礼服を届けることになったそうだ。
「式典の関係でなるべく早く出発したいのですが、出発は明日でも大丈夫ですか?」
「俺たちも、そろそろ他の場所に行ってみるかと思っていたところだったから、リックに任せる」
ちょうど港町ヴィリロス行きの船が明日到着するため、それにあわせて出発することにした。
翌日、一同は港町ヴィリロス行きの船に乗った。
「そういやレイブンって貴族とか嫌いなのか?」
甲板の上で、一人海を眺めていたレイブンに声を掛けた。
「いきなりなんだい?」
「昨日の会話で、貴族って言葉出したら一瞬嫌な顔をしたからさ」
一瞬驚いた顔を見せると、言い出しにくそうな表情に変わる。
「昔、貴族の護衛をしていた時にそこの令嬢に気に入られてね。結構押しの強い子で、彼女の両親も「ぜひうちの娘と」なんて言われて、断るのに苦労したから」
悲壮感漂うレイブンにそっかと言葉をかけるしかなかった。
確かにレイブンは背も高く、健康的な肌色に端正な顔立ちをしている。
黒い髪は、冒険者らしからぬ手入れの行き届いた質感に、空の青を思わせるような瞳をしている。
普段から最低限見た目を整えていることがわかる。何事もずぼらなケイとは正反対だ。
「それに、俺にも待っている人がいるからな。置いていけるわけがない」
「それって家族?」
「まぁそんな感じかな」
家族のことを思っているのだろ表情で、レイブンは海の方を見た。
なんとなく彼の一面をみた気がした。
二日後、彼らを乗せた船は、南大陸の港町ヴィリロスに到着した。
港に降り立つと、北からの砂漠の熱気と南からの海の風が混ざり合い、体感的に暑さを感じる。
日本の暑さとは違い、湿度がない暑さの分不快感は数段マシである。
「今日はここで一泊しましょう・・・シンシアのために」
リックの横で、青い顔をしたシンシアが蹲っている。船旅が続いたため、船酔いをしたのである。
一日目は余裕の表情だったが、二日目から顔色が悪くなり出し今に至る。
「シンシア、大丈夫か?」
「大丈夫に見えるのかしら・・・?」
ケイが声を掛けるが、表情が死にかけており、とても大丈夫に見えない。
レイブンがシンシアを支えるように横に立つ。
「先に宿を取ろう」
「それでしたら中央に宿屋がありますので、早く行きましょう」
町を観光する前にシンシアをどうにかしようと、一同は宿屋を目指した。
石で舗装された道を進み、中央に宿屋の看板が見える。
白い石で建てられた二階建ての建物が宿屋になる。
「一泊でお願いします」
「五人だね。二階奥の六人部屋を使ってくれ」
鍵を受け取り、入り口横の階段を上がる。二階奥の部屋に入ると、両端に三つずつベッドが配置され、右側の奥にシンシアを横にさせた。
窓を開けると、多少熱気を含んだ風が入る。
「シンシア、水いるか?」
レイブンの問いに頷いただけのシンシア。船酔いが相当堪えているようだ。
「やることなさそうだから町を見てくる!」
シンシアの面倒はレイブンがしているため他にやることがなく、ケイは町に繰り出すことにした。
その際、心配性のアダムと西大陸が初めてのリックも一緒についていくことになった。
「そういや、マライダまでどのぐらいかかるんだ?」
「マライダ行きのプリ・マで、半日ぐらいと聞いてます」
「プリ・マってなに?」
聞き慣れない言葉が出てきたので聞き返した。
「プリ・マは砂漠を走る鳥馬のことだ」
「鳥馬?」
「あれだよ」
アダムの指さした先に、馬車を引いたダチョウの様な生き物が通る。
「はぁ!?」
ケイは目を疑った。
上半身は鳥のようで、下半身が馬のような四足歩行をしている。全長は1.8mほどある。
休憩のため停車している別の馬車を見ると、同じような生き物が引いているのが見える。
プリ・マはマライダに生息している馬である。
一説には、元々は空を飛ぶ生き物が砂漠に適応するため、退化や進化を繰り返したのではないかと言われている。
現に翼があるが、体温調節するためのもので飛ぶ能力は退化している。
「すっげぇ~」
ケイがよく見ようと止まっている馬車のプリ・マに近づくと、それに気づきプリ・マが不思議そうにこちらをみつめる。
ゆっくり手を下から差し出すと、プリ・マは臭いを嗅ぎ、くちばしで突いた後長い舌で舐めた。
もう片方の手で顔の側面を優しく撫でると、フワッとした毛並みを感じた。
暑い気候では、顔以外の体毛は体感を調節しやすくするために、外は堅く中は柔らかいと言われている。
「こいつ結構大人しいんだな」
犬をわしゃわしゃするように撫でると、「もっと撫でろ」と頭を突き出す。
「お客さんかい?」
この馬車の行者を努めている、中年の男性が声を掛けてきた。
「この馬車はマライダ行きか?」
「あぁ。だが今日は日も暮れてきているから、出発は明日になる」
「明日マライダに行きたいんだが、五人って乗れるか?」
「大丈夫だ。この馬車は八人乗りだからね」
御者の男はプリ・マの頭を撫でながら答えた。
ケイ達は男に、明日乗る約束を取り付けると、その場を後にした。
「ヴィリロスって名物ってあるのか?」
「それならサンドフィッシュやサンドペルポがおいしいって聞いたことがある」
「サンド・・・砂?それ食えるのか?」
「砂場に生息する魚とペルポは、こっちで言う『タコ』のことだ」
マライダには砂を泳ぐ魚やタコなどがいる。主に、マライダ北東に生息しているそうだ。
「あと『砂マグロ』という魚もいるらしいんだが、俺はまだ見たことがない」
「砂マグロか~じゃりじゃりしそうだな」
基本好き嫌いがないケイでも、さすがに砂つきは手をつけづらい。
通りの一画に屋台が見える。
サンドフィッシュを扱っている屋台は、表面の砂を洗い、塩水で砂抜きをした後捌いて串焼きにしている。
リックが食べたそうな顔をしたため、ケイが三本購入しそれぞれ与える。
「ケイさん、ありがとうございます。本来は僕が支払うべきでしたのに」
「気にすんな。あ、ウマっ!」
サンドフィッシュという名前だけで躊躇してしまいそうだったが、味はタレのついていないウナギの蒲焼きみたいだった。
肉厚で、濃厚な魚本来の味がする。
サンドフィッシュを食べたいがために、他国からわざわざ来る客もいると屋台の亭主が教えてくれた。
この味なら気持ちはわかると、ケイは一人納得した。
「だいぶ日が暮れたな」
「少し肌寒くなりましたね」
屋台や店を巡っていたら、いつの間にか日が傾いていることに気づく。
空を見ると、夕焼けと夜空が混じった色が見えた。
砂漠の夜は、日中の気温から10~20℃近く下がると言われている。
「だいぶ堪能したし、宿屋に戻ろう」
アダムの声にケイ達は宿屋へ戻ることにした。
船に乗った経験が軍艦島の漁船ぐらいしかないから、船酔いがよくわからないけど大変なんだね。
次回は5月17日(金)投稿になります。




