243、ケイの秘策
みなさんこんばんは。
いつもご高覧くださりありがとうございます。
さて今回は、ロザリンドに激おこのゴルゴーンにケイがとある提案をします。
若い飼育員からの報告により激怒のゴルゴーンに拳骨を落とされたロザリンドは、あまりの激痛にその場に蹲った。
正直彼女の自業自得なのだが、ここまで話が通らない相手を前に魔人族の将来を心配したケイ達だったが、ゴルゴーンに同行している兵に拘束をされたロザリンドを横目にゴルゴーンとアントワールから謝罪を受ける。
「話は飼育員から聞いた。ケイ達も娘に言われたのだろう?」
「あぁ。ここはダンジョンだか、お前は私に勝てないとかボロカス言われたぜ。しかも話を聞かないって、あんたの娘はどうなってるんだ?」
「儂も散々娘に言い聞かせていたのだが結果はあの通りだ。言われたことを聞いていないのか忘れているのか・・・」
「頭を悩ませてるってわけか」
信念を曲げないところは評価できるが、それにしても度が過ぎている。
ほどなくして従魔専属の医師が他の兵と共に到着すると、てきぱきと診察や手当てを開始する。
彼女に叩き伏されたミノタウロスたちは、ケイの鑑定した通り【脳しんとう】を起こしていただけで、それ以上の怪我は見当たらなかった。
ミノタウロスの体質上、よほど性能のいい武器ではないと傷がつけられずそれだけが幸いだという。しかしいずれにせよ、毎度毎度こんなことが繰り広げられているなら人と共存している魔物であっても休むに休めないだろう。
「やはり私の話したことを、まだ鵜呑みにしているようね」
アンドワールが私兵に連行されるロザリンドの姿を前に盛大にため息をつく。
「話したことって?」
「ふふっ。私が若い頃、夫と付き合う前の話よ」
話はゴルゴーンがまだ族長になる前のこと。
当時アンドワールも未婚のうら若き乙女だったのだが、とあるパーティで二人が出会ったのが始まりだった。
当時からゴルゴーンは跡継ぎの話で頭を悩ませていたようで、毎週末になると両親がセッティングしたパーティと称したお見合いに連れ回されていた。
しかし途中で飽きてきたのか、両親が目を離した隙にひっそりと人混みに紛れるのがお約束。
一方アンドワールは、友人の誘いでゴルゴーンが主催するパーティに参加したのだが、途中で友人が気の合う男性と何処かへ行ってしまったため、手持ち無沙汰になっていた。
そこで彼女は、不意に自分の隣に一人の男性が立っていることに気づく。
アンドワールが彼と目が合うと、その男性に見覚えがあり思わず声を上げそうになったところ、彼は自分の口の前に人差し指を立て、シーっと静かにと合図をする。
その人物こそ、後に自身の夫になるゴルゴーンである。
その後二人は共通の趣味があったようで、友人として交流することになる。
しかしアンドワールの方はゴルゴーンの人柄をいたく気に入ったのか、ある時彼にどんな人が好みなのかと尋ねたことがある。
「強い人が好きだ」
その言葉をストレートに受け取ったアンドワールは彼より強くなろうと、当時まだダンジョンとして機能していたタウルスの力比べへと何度も足を運んでいた。
そしてその後、豪魔種のなごりだった異性との決闘で見事に彼を射止めた。
後日、再度“強い人が好き”という言葉の意味を尋ねたところ、芯が強いという意味だったことが判明し、親戚などの集まりでは必ずこの思い出話が語り継がれる程の笑い話となったわけである。
「・・・ということは、ロザリンドの考え方の根本はあんたの話だったのか」
呆れたと言わんばかりにケイが困惑した表情を浮かべた。
アンドワールもロザリンドが幼い頃にこの話を聞かせたところ、例の出来事も相まって今に至っているという。
彼女も、まさか自分の娘がその話を真に受けていたなどとその時は思わなかったのだが、日が経つにつれてストレートに言葉の意味を受け取っている事から、当時の自分を重ね困惑している風にも見てとれる。
「言い聞かせても怒っても駄目なら、お手上げじゃない!?」
「でもミノタウロスたちの事を考えると、興味の対象を他の何かにそらせることが出来れば・・・」
「それだ!」
やれやれとお手上げのポーズのシンシアにレイブンが興味深い一言を口にすると、ケイは何かに気づいた様子で、隣に居たゴルゴーンとアンドワールの耳元でなにかを伝えていた。
「・・・本当に大丈夫なのか?」
「でも、彼の提案は面白そうね~」
耳打ちしたケイの話に不安を拭えないゴルゴーンと、妖しげな笑みのアンドワールが別々の表情を浮かべている。
できるか?とケイがゴルゴーンに尋ねると、候補はいくつかあるのでこちらで選んでおこうと述べる。また端からその光景を見ていたアダム達は、ケイが一体何をしようとしているのか全くわからず、ただ首を傾げるだけだった。
翌日、ケイ達はポネアと共に街の中心から西にある屋敷へと足を運んでいた。
ここは中心から少し離れた閑静な住宅街で、元はとある貴族が住んでいたが、高齢のため屋敷を維持することに負担がかかりやむなく手放した経緯がある。
「ここがゴルゴーンが言ってた場所か?」
「はい。ゴルゴーン様によると、ケイさんの条件に合う建物はこちらの方がいいとおっしゃっていましたが・・・」
「悪くはないな」
屋敷は鉄柵に囲まれ、中範囲ほどの庭がある。
たまに建物を清掃管理する機関がここを訪れているそうで、建物は数年経ってもすぐに使える状態で庭には最近雑草を刈った跡がある。
「ところでケイさん、ここで何をするのですか?」
「互いがwin and winになれるようにする場所だ」
ケイ達を案内したポネアも詳細まではゴルゴーンから聞いておらず、何をするのかと疑問を抱き聞いてみたものの、説明をされても言葉の意味がわからないのか困惑の表情を浮かべる。
「じゃあ、試しにこれをしてみるか!」
ケイは建物の前に手をかざし、創造魔法を駆使してとあるモノを再現して見せた。
七色の光が建物と庭を包み込むと、あっという間に様変わり・・・とはならなかったが、ケイは満面の笑みで一仕事を終えたという表情をしている。
今までの経験上、使用されていない屋敷に何かを施したことは間違いないのだが、それが何かは分からずポネアを含めた一同が疑問を浮かべる。
「ケイ、なにをしたんだ?」
「何って“ダンジョン”を創った」
「ダンジョン?・・・は、はぁ!?」
ケイと比較的付き合いの長いアダムでさえも思わず声を上げ二度見し、こいつ何言ってるんだ?と困惑しているのはいつも通りだろう。
実は、ケイはゴルゴーンに余っている土地もしくは使用されていない建物を提供してくれと話していた。もちろんダンジョン創造のためである。
その際にゴルゴーンとアンドワールには、イノシシ女・・・もといロザリンドに新たな場所を提供すればここの問題は解決すると豪語している。
そんな簡単に解決するのかという懐疑的な部分もあるが、相手はケイだ。
今までに無茶苦茶な事をしてきたが、ここに至るまで大きな出来事は起こっていないつもりである。
「ポネアさ~~~ん!!」
ここで屋敷の使用人とおぼしき、不死種の青年がこちらに向かって来た。
こちらにやって来た青年は、急いで来たのか息を整えてからポネアに二言三言伝えると、なぜかポネアはそんなことを!?と驚愕している。
「なぁ、もしかしてゴルゴーンに頼んだアレは終わったのか?」
「えっ?あ、はい!先ほどゴルゴーン様の言いつけ通りに、ミスト=ランブル様に輸血の交換をいたしました」
使用人の青年は、ポネアとケイ達に一礼をすると踵を返して屋敷へと戻って行く。
困惑したポネアを余所に、ケイはレイブンとタレナにとある願いをした。
「レイブンとタレナに頼みたいことがあったんだ」
「頼みたいこと?」
「これからミスト=ランブルのところに行って、これを渡してきてくれないか?」
レイブンの手に5×5センチ程の木製の箱が手渡されると、とある伝言を託す。
「それを伝えれば良いのか?」
「あぁ。箱の中身は、まぁ見れば分かるさ」
「何のことかわからないけど、とりあえずミストさんに伝えてくるよ」
ここでレイブンとタレナはケイ達から離脱し、ミスト=ランブルの屋敷へと向かったのである。
「ミスト様、レイブン様とタレナ様がお見えになっています」
「・・・お通しして」
私室で休養しているミスト=ランブルは、先ほどゴルゴーンから提供された交換された血液を口にしていた。
ゴルゴーンの使用人から話を聞いた彼は、空になったグラスを片手にため息をつくと側に仕えていた使用人に手渡した。
正直あそこまで頭の中身が残念だったとは彼自身も想定していなかったようで、レイブンとタレナが帰った後に冷静に考え直そうと思った矢先の事だった。
もちろん、ロザリンドが異性に対して敵対する根本的な話をゴルゴーンから聞いており、彼なりに理解はしているつもりだった。
ほどなくしてレイブンとタレナが部屋に案内をされると、思いの外顔色が良くなった彼を見て二人は安堵した表情を浮かべる。
使用人が用意した脇椅子に二人は腰をかけ、調子のほどを尋ねる。
「ミストさん、調子はいかがですか?」
「私は大丈夫よ。あなた達がゴルゴーンさんに伝えてくれたおかげよ」
「顔色が良くなったみたいで安心しました」
「ふふっ。あなたみたいなイイ男に言われちゃったら、早く元気にならなきゃね」
ウインクをしたミスト=ランブルに苦笑いを浮かべたレイブンは、彼が元気になって本当に良かったと言葉を濁す。
「そういえばレイブンさん。ケイさんから頼まれたものありましたよね?」
タレナから指摘されたレイブンは、そうだと手を打ち、自身の鞄から預かった小さな木箱を取り出した。
「ミストさん、実はあなたにお願いがあって来たんです」
「私に?」
はい。と頷くレイブンから小さな木箱を受け取ったミスト=ランブルは、一体どういうことなのか分からずに困惑する。
レイブンからケイから預かっていた小さな木箱を開けるように言うと、ミスト=ランブルが箱を開き、目に飛び込んだそれが何かと理解し、あっと声を上げる。
「あなた達、これ希少な魔道具じゃない!?」
ミスト=ランブルが目にしたものは、エメラルドがはめ込まれている銀細工が施された指輪だった。
「あなたなら“これ”がなにかご存じですよね?もしご存じなら『俺達の計画に加わって欲しい』それが僕たちの仲間からの伝言です」
「ということは、あなた達の仲間であるその人物は“吸血種の体質”を熟知しているということね」
「僕たちもあなたが開けた時に箱の中身を知りましたので、恐らくケイは初めから分かっていたかと」
レイブンとタレナは、箱の中身をここで初めて知ると同時にそれが何を意味しているのかを理解した。
「わかったわ。今は調子がいいし、すぐに準備をするわね」
出所がどうであれ、ミスト=ランブルはその人物はただ者ではないなと関心半分呆れ半分といった様子で息をつくと、使用人に外出の準備をするようにと指示を出した。
ケイはゴルゴーンに使用されていない屋敷を提供して貰い、新たなダンジョンを創造しました。
果たしてどうなることやら・・・
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