237、強さを求める少女
皆さんこんばんは。
いつもご高覧くださりありがとうございます。
さて今回は、黒い闘牛からの予想外の展開がケイ達を待ち受けてます。
「うげっ!?今度はなんだ!?」
大衆を追うように、一頭の黒い闘牛がもう突進でこちらに向かってくる。
人々はケイ達を避けながら人波をかき分けるように逃げ惑い、停めている船からダットと船員たちが逃げろとケイ達に大声を上げる。
「はぁ~面倒くさ!」
ため息をつき、抱きかかえているブルノワをアダムに託すと、駆け抜けていく人々の群が途切れたと同時に前方10mの地点に【ブロークンセキュリティ】を設置するが、周囲に建っている住宅の建物の上から様子を伺っていた人々がケイ達に突進してくる黒い闘牛に悲鳴を上げる。
そして仕掛けた場所に黒い闘牛が通過しかけた時、魔方陣の仕掛けが作動し、太いツタが黒い闘牛を絡め取るように頭上に持ち上がる。もちろん黒い闘牛も一瞬動揺の仕草をしたが、それにあらがうように暴れ始めなんとか脱出しようと藻掻いている様子が見られる。
「この島物騒過ぎるな~」
「これどうするのよ?」
「知るかよ。責任者はいねぇのか?」
【ブロークンセキュリティ】に抵抗をする黒い闘牛を前にどうしたものかと悩んでいると、あとから別の闘牛に乗った一人の少女が姿を現す。
「ズモーを止めたのは貴様らか!」
金髪のポニーテールに赤い瞳をした銀の鎧を身に纏った少女は、幼さと少し大人びた造形をしながらも何かに対して怒っているのか、目をつり上がらせながら大股でケイ達の下まで歩み寄ってくる。
「なんだよ急に。あんたこそ人通りのある場所に牛なんか放して何してんだよ?」
「“男共を調教”しているだけだ!貴様らに止められる筋合いはない!」
「何言ってんだ?女子供もいるのにそんな気性の荒い牛を街中に放すなよ!怪我だけじゃすまねぇだろ!?」
少女はケイの話が通じていないのか「そんなことは関係ない。それで怪我をする方が悪いのだ!」と一蹴し、腰に差している鞘から剣を引き抜くと、その剣先をケイに差し向ける。周りが固唾を呑んで見守っていると、ケイはあんたは馬鹿なのかと投げ返すと少女は憤慨し、今にも斬りかかってきそうな気配を漂わせている。
「お前がどこのだれかは知らねぇが、やるなら余所でやれよ!」
「男の貴様に言われる筋合いはない!どうせ貴様も口だけなのだろう?余計なことはするな!」
かなり攻撃的な物言いの少女は、剣先をケイに向けたまま間合いを詰めようとしている。
格好からして騎士か傭兵のように見えるが、それを差し引いても気性が荒いどころか考え方が完全にぶっ飛んでいる。野次馬の中には母親の背に隠れて怯えている子や状況から発せられる音に驚き、泣き声を上げる赤ん坊の姿もある。
行く先々で様々なイベントに巻き込まれているケイ達も、さすがにこれはと顔を引きつらせるしかない。
「ロザリンド、なにをしているのですか?」
凜とした女性の声が少女の後方から聞こえた。
見ると、銀色の鎧に身を包んだ二人の衛兵と紫の肌をした侍女らしき人物を連れた女性が立っている。少女と同じ金色の長い髪に赤い瞳をし、仕立てのよい紫のドレスを身に纏った女性が少女の行いを咎めるような物言いをする。
「ポネアから話は聞いています。婚約者の話を破棄しようとした挙げ句に新たに選出するような考えに至っていると、一体何を考えているのです?」
「はい。はっきり申しますが、ミスト=ランブルは軟弱者です!あのような者が私をましてや国を支えられるとお思いですか?」
「ロ、ロザリンド様!?」
女性に付き添っていた紫色の肌と黄色の瞳をした侍女が止めようと二人の間を割って入ろうとするが、女性はそれを制止させ言葉を続ける。
「あなたのその行いが、影響や恐怖を与えているとは思わないのですか?」
「恐怖?お母様は何を言っているのですか?女性が男に付き従える時代は終わりました。今の時代、女性は強さを持って対等いやそれ以上に活動することが当たり前です!」
「言い分はわかりました。ですが、他者を傷つけていいわけではありません」
「元より私は今までの経験を得てそのような考えに至りました。いくらお母様であろうと、私の考えを愚弄することは許しません!」
そう言うと少女は、剣先をケイからその女性に突きつけた。
後ろで控えている侍女や衛兵が慌てて女性の前に立とうとするが、それよりも早くしびれを切らしたケイが剣を女性に向けている少女に【バインド】をかけて拘束をする。
「き、貴様!何をする!」
「何って、お前の言ってることやってることが無茶苦茶なんだよ!それに他の奴らの迷惑だっつてんだろ?耳付いてんのか?」
拘束された反動で尻もちを着いた少女にケイは聞いているのかと言わんばかりの表情で覗き見ると、女性達の方はその様子に唖然としたが、ハッと我に返ると間に割って入り謝罪の礼をする。
「皆さま、大変ご迷惑をおかけしました。ところでお見受けしたところ、貴方様は魔術師様でしょうか?」
「えっ?あ~俺は一応、魔法専門職で冒険者をしているケイだ。後ろに居るのは俺の仲間で、ゴルゴーンという人に会いにやってきたんだ」
ケイが事の経緯を説明すると、女性はそれは遥々とようこそと恭しく礼をしこんな状況ですがと自分たちのことを紹介し始める。
「私はアンドワール。魔人族の長であるゴルゴーンの妻でございます。それとここにいるのが娘のロザリンド、隣は娘の侍女のポネアになります」
「ポネアと申します。以後お見知りおきを」
偶然なことにその女性は魔人族の長であるゴルゴーンの妻だという。
後ろに控えている衛兵はアントワールの私兵で、ポネアと共に娘のロザリンドを捕まえに街中を探し回っていたという。
しかし長の娘であるロザリンドは、なぜ兵士のような鎧を着ているのか?
その本人は拘束をされても口が止まらないようで、ケイに向かって早く解けだの許さないだと喚いている。
「冷静な話ができないようね・・・あなた達、ロザリンドを連行しなさい」
「「はっ!!」」
アンドワールの命で衛兵はロザリンドの両脇を抱えると、拘束されたままの彼女を引きずってその場をあとにする。
去り際に「覚えていろ!」と、まるで積年の恨みのような物言いで引きずられていく彼女の姿に、何をどうしたらそうなるんだとケイ達もましてや周りの野次馬達もあきれ顔で見送る。
「というかあんたの娘、かなり暴力的なんだが大丈夫か?」
「大変申し訳ありません。我々としてはいつものことですが、まさか他国から来た者たちまでご面倒をおかけするとは・・・」
「想定していなかった、と?」
「お恥ずかしい限りですが」
アンドワールは重ねて謝罪をすると、以前からロザリンドの振る舞いに困っていた様子を見せる。一方、街の人々はロザリンドが連れて行かれたと同時に日常へと戻っていったのか、いつの間にか人垣がなくなっていた。
そして先ほどからブロークンセキュリティを発動させ、太いツタで黒い闘牛のような生き物を絡め取っていたが、後に飼い主とおぼしき男性がやって来ると同時にケイが術を解除する。
ちなみに先ほどから話題に上がっている黒い闘牛は、ズモーと呼ばれるジャヴォールでは一般的な牛のことを示している。
ケイ達の認識している牛と少し異なった容姿をしており、身体は全体的に黒く、頭には存在感のある黒巻き角が生えている。そして極めつけが足が六本と、生物としての構造にかなりの違いがある。
ズモーは牧牛兼闘牛兼食用と役割が広く特に決まっているわけではなく、今回はたまたま牧場で放牛をされていたところ、ロザリンドが見つけ人々(特に男性)にけしかけたようだ。
ケイ達はアンドワールの案内で、屋敷にいるゴルゴーンの元へ赴くことになった。
彼女に魔道船のことを伝えると、そのまま停泊で構わないと返され、この場はダット達に任せることにした。
「でも、なんであんたのところの娘はあんなに気性が荒いんだ?」
「ロザリンドは、幼少の頃にズモーに襲われ怪我を負いました。以来、その場にいながらも誰も助けてくれなかったことに恨みを思っているようで、特に異性に対して当たりがきついところが我々の悩みでした」
アンドワールの話によると、幼少の頃ロザリンドが街でズモーの暴走に遭遇し、逃げ遅れたことで怪我を負ってしまったことが発端になった。
その時周りには何人もの大人の男性が居たのだが、彼女を助けるどころか全員が一目散に逃げてしまったため、彼女の右腕には大きな傷跡が残り、以来異性を軟弱者と認識しているのだそうだ。
確かに、あのズモーの暴走っぷりをみれば誰だって逃げるだろうと思ったが、大人数がいようと幼い少女を置いて逃げるとなると、気が動転していたこともあったのだろうなと考える。
もちろん、周りが守ってくれないのなら自分が強くなるしかないという考えに行き着いたロザリンドの気持ちもわからなくもないが、だからといって一般人にまで危害が及ぶというのはいささかどうだろうと疑問が浮かぶ。
そのことがあり、現在のロザリンドは鍛錬に鍛練を重ね、ズモーを素手で殴り飛ばすほどの実力を持ち、屈強の衛兵でも彼女の相手になるのがやっと。
一部では、性格になんがあれどジャヴォール一の実力者だから魔人族は安泰だと言われているが、どうもケイ達からすれば嫌みに聞こえるのは気のせいだろうか。
「そういえば、先ほど婚約者がどうのという話をしていたみたいですが?」
「あ、そのことですか・・・確かにロザリンドには婚約者がいます。ですが、いろいろ事情がありまして、夫が頭を下げてやっと二つ返事を貰えた段階なのです」
なんの気なしにアダムが尋ねると、アンドワールは恥ずかしそうに言いにくい様子素振りをみせたことから地雷だったかと冷や汗を掻く。
そんなアダムにアンドワールは気にしないと首を振り、ロザリンドの所行のツケが来ているだけだと説明する。
ロザリンドは一人っ子で、時期魔人族の長という立場がついて回る。
しかしあの様子では、支持どころか今後の立場も危ういと長のゴルゴーンを含め、側近たちは日々頭を悩ませているのが現状のようだった。
魔人族の長の娘・ロザリンドに絡まれたケイ達は、ロザリンドの母・アンドワールと侍女のポネアと出会います。
事情を聞いたケイ達は、大変だなと二人に同情の目を向けました。
次回の更新は10月19日(月)夜です。
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