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異世界満喫冒険譚  作者: GDKK
新大陸編
241/359

235、羽翼族の文献

皆さんこんばんは。

いつもご高覧くださりありがとうございます。

さて今回は、羽翼族に伝わる文献の回です。

式と大華炎が終了した数日後、ケイ達はバルトルの屋敷の応接室にいた。

この日は当初の目的通り、羽翼族に伝わる文献を見せて貰うことになっている。


彼らですら読むことが出来ない文献に着手するわけなのだが、一体何が書かれているのかと期待に胸を膨らませている。歴史家がこぞって当時の真実を追い求める気持ちが少し分かったというのはおこがましいかもしれないが、それぐらいケイ達も何があったのかと気になっているところがある。


「これが、先日話した文献だ」


バルトルが木製ローテーブルに三冊の文献を並べて置いた。


三冊の文献は紙を媒体にし、年月を感じさせるように一部が変色をしているが手触りは和紙に近く、中を開くと保存状態が意外と良かったようで当時の書体がきちんと残っている。


一度全ての内容にさっと目に通してから、最初に手に取った文献を再度手に取る。


そこにはアグナダム帝国が建国してから衰退するまでの様子が書かれていた。

本当かどうかはわからないが、当時存命していた羽翼族かはたまたアブヤド語を書けるアスル・カディームまたはその関係者が記したのだろう。


当時アグナダム帝国は様々な大陸の人種と交流があったそうで、その中でも五大御子神が中心となって精力的に関係を構築していた。

五大御子神はアスル・カディームの王の五人の子供達で、ケイ達が想定していた通りにアレグロとタレナをはじめ、アルペテリア・イシュメル・ナザレの名がある。

アスル・カディームの王・シャーハーンは、文字通り“王”を示す名であり、聡明で思慮深い人物だと記されている。


「じゃあ、アレグロとタレナは間違いなく五大御子神ってことなのね?」

「これにはそう書かれている。アスル・カディーム人は、五大御子神を中心に他の大陸と行き来しているとあるから、アレグロとタレナについて知っている奴もいただろうな」


シンシアがアレグロとタレナの方を向くと、困惑した様子で互いに顔を見合わせてているところが見える。


今まで巡ってきた大陸から得た情報を整理すると、真実を知る人種として一番近い魔人族が鍵を握っているのではと、ケイは考えている。

今、手にしている文献にも魔人族との関わり合いが書かれているようで、アスル・カディーム人の知恵や技術を継承しつつ、新たな発展を共に目指していたことが文章で窺える。


二冊目は、ケイ達の大陸にあった試練の(ペカド・トレ)の内容だった。


こちらは概ね想定していた通り、陽花石と月花石を用いて建築されている様子が事細かに綴られている。字体が一冊目とはかなり違うクセのあることから、別の人物が記したことがわかる。


試練の(ペカド・トレ)について【大陸に住んでいる人々には嘘をついた】という記述がある。どうやら試練の(ペカド・トレ)は本来地下遺跡に直結していたようで、アスル・カディーム人が密かに地下に建設を施していた内容があった。

それによると、本来は友好発展のために建設を開始していたのだが、不穏を感じた一部のアスル・カディーム人たちの報告により計画の一部を変更したそうだ。


それが、陽花石と月花石である。


本来は陽花石だけで構築されるはずだったのだが、エルフ族のアンダラの証言通りに“自分は生け贄のために命を捨てなければならない”といった気持ちがあったということは、ダインで遭遇したストーンヘッジが発生することを知っていて“あえて”取り入れたということだろう。


「本来は陽花石だけで構成するはずだった塔や地下遺跡は、大陸に居たシャムルス人やアグダル人・ビェールィ人の行動に不信感を抱いたことから、建設途中で一部の内容を変更した。そしてそれを抑制するために女神像が建てられたんじゃないかと思ってる」

「地下遺跡の謎はわかったけど、女神像というのはどういうことなんだ?」

「女神像の方はちょいちょい言ってたけど、役割は二つある。一つはそれぞれの大陸を繋ぐための一種の『道』みたいなものだ。いわば“ゲート”というもの。もう一つは、地下に集まる魔素を大陸外に排出するための役割だ」


ケイは、大陸の地下に広がる地下遺跡に集まる魔素を大陸外に排出するために女神像がその役割を担っていると考え、不確実ではあるにしろそれと同時にゲートの原動力として地下にある魔素を転換し活用をしていたのではと考える。


現在のダジュールでは魔素を転換し、別のモノに利用するという技術や力がない。


それはアスル・カディーム人が存命だった頃に造られた技術であり、例えるならオーパーツのような代物だろうと推測できるが、世界大戦時に大陸が結界で覆われたことによりゲートとしての機能は完全に消失し、今の今まで大陸に魔素を排出する動きだけが残った。


しかしそれも仕掛けを解除したことにより魔素の排出も行えなくなったため、ケイは地下遺跡にある月花石が変化し、ストーンヘッジが発生するのではと不安視をしていた。故に大陸に渡る前にアルバラントにいるガイナールに、万が一に備えて欲しいとその旨を伝えていた。


実はダインから出航した辺りで元・日本人たちに現状を報告した時、妙な話を聞いたことを思い出す。


どうやらケイ達が大陸に渡った後、ミクロス村とダナンからエルフの森に続く地下遺跡に魔物の鳴き声が聞こえる話が出ていたそうだ。

報告を受けたケイは、もしや月花石が変化したストーンヘッジではないかとガイナールに伝え、一度大陸に戻ろうと考えたのだが、ヴィンチェやベルセ・ナットもいることからこちらは大丈夫だと旅を続けるようにと返される。


(それに強力な協力者がいる)とガイナールは言ってはいたが、本当に大丈夫なのかと心配している事を思い出す。


そして三冊目は、他の二冊とは異なったくすんだワイン色の表紙をした手帳風の文献である。これも異なる筆記で、筆圧が強く少し角張った印象の字体から筆者は別の人物であろう。


中を開き読み進めると、人魂魔石のことが書かれている。


人魂魔石を導入したきっかけは、アスル・カディーム人の身体的影響だった。

彼らは人や他の種族とは違い【死】とう概念が薄く、風邪などの病気や怪我はするが大病や不治の病といった類いがない。しかしそれが風土病という特殊な病に冒された女性が現れたことにより、これまでの医療の常識が覆される事態に発展し、最終的には女性の魂を魔石に一時的に取り入れる人魂魔石という技法が生まれた。


その女性がどうなったのかはここには記されていないが、恐らくインイカースと同じように人魂魔石に人の魂を取り入れ、別の器に移した可能性がある。


やはりこの辺は異世界ならではなのだろう。


地球でもそんな技法は存在しないが、いずれ遠い未来に確立されるかもしれない。

ある意味で時代の最先端だったアグナダム帝国は繁栄と交流を続けた結果、裏切りと戦争によりその歴史を闇に葬られたと色々と考えざる終えない。


「人魂魔石は、アスル・カディーム人独自の文化技法ってことか~」

「死の概念が薄くて軽度の病気はあるけど大病が存在しないって、やっぱりそのメルディーナが関わっているって事なの?」

「この手記と今までの情報から考えると、メルディーナはアスル・カディーム人を完璧な種族として想像した。だが、結果として歴史を大きく変えることになるのはあいつも想像してなかったってわけだ」

「ケイ、ひとつ思ったんだが、その手記に書かれていた女性っていうのはアレグロのこと・・・とかじゃない、よな?」


シンシアがアダムの発言に何を言っているんだという顔をする。


今のアレグロは儀式による浸食が進行しているが、それがこの手記にあった風土病の影響だと考えた時、シルトの発言にもあった『何らかの処置が必要だ』という事を思い起こさせる。また、実は既に彼女に何らかの技法が施されているのでは?と思うと、その場に居た一同が冷や汗を掻き顔を強張らせる。


唯一その場に居たバルトルは、なんのことかは分からないと言った表情で見守っているが、ジョークにしては笑えないアダムの発言に当の本人であるアレグロは、きっと偶然よと口でいいながらも内心は顔色が悪い。さすがのアダムもその空気感に罪悪感を抱き、なんとか取り繕う。


「この話が嘘か本当かはこの際一旦置いておこうぜ。どちらにしろアスル・カディーム人と関係のあった魔人族の元に行ってみるしかないし、ここであーだこーだ言っても仕方ないだろ?」

「でも、アレグロの状態を考えれば可能性があるんでしょ?」

「あくまでも“可能性”でいうなら、な?」


シンシアに待てと右手で制止するアクションを取り、その問題は脇に置いておこうとする。


「もし良ければ、その文献は差し上げよう」

「へっ!?大事なモンじゃねぇのか?」

「どちらにしろ我々には読めないし、君達に持って貰った方が有意義だと思っているんだ」


突然のバルトルの申し出にケイは一瞬躊躇したが、古いアブヤド語が読めない彼らにしてみれば宝の持ち腐れということなのだろう。

バルトルは自分たちより必要なケイ達に託す旨を伝えると、その気持ちを汲み取り一同が礼をした。



翌日、ケイ達は南の泉に停泊している船へと戻って来た。


見送りにはバルトル・ラオ・ユアン・ミゼリの姿があり、ユアンとミゼリは魔道船を見ることが初めてなため目を丸くしている。


「この船はどうやって動いているんですか?」

「普通は航海してるんだけど、ここの船員は全員精霊と契約してるから船を空に飛ばしたりすることができるんだ」


ユアンの疑問にケイが答えると、精霊族と契約を結んでいる船員がほぼ全員という事実にユアン達が唖然とする。そもそも精霊と契約をするという話を聞いたことがないということから、そんなこともあるんだなと関心を向けられている。


「すまないが、君達に一つ頼みがあるんだ」


バルトルが懐から二つの金色の円形状の石版を取り出すと、見覚えのあるそれらに声を上げる。


「これって桜紅蘭でみたシェメラの石版に似てないか?」

「あ、むしろ今持ってる」


アダムの言葉に鞄からシェメラの石版を取り出すと、桜紅蘭の騒動で見つけて以来そのまま持っていたことを思い出す。本当なら返さなければならなかったのだが、ケイ達も鬼人族のアサイ達も忘れていたようなので、次に会った時に返そうと考えいたのだ。


「ジャヴォールに向かうと聞いたので、これを魔人族のゴルゴーン殿に渡してはくれないかい?」

「ゴルゴーンって?」

「魔人族の長で何千年も生きている人物だよ。もしかしたら、君達が探している歴史の真実を知っているかも知れないな」


バルトルの話によると、魔人族のゴルゴーンという人物は1500年前の世界大戦以前に生まれ、まだ存命しているとのこと。バルトルもその人物が来訪した数回しか見たことがないそうだが、威厳のある大柄な男だと記憶している。


実は羽翼族は魔人族とは古くから交流があったのだが、なぜかここ数年ジャヴォールからの定期便である飛行艇が来ないことを不思議に思っていたそうだ。

前回ゴルゴーンがこの島に来た際に、忘れていった二つの石版を託したケイ達に彼の様子を見てきてほしいと頼み、それを了承したケイ達はまた会いに来ると四人に告げた。


「兄ちゃん達!本当にありがとう!!!」

「皆さん、道中お気を付けてくださいね!」

「次に会える日を楽しみにしてます!」


イベールとレマルクの精霊の力で、風と水柱を発生させると船が浮き上がる。


ファンタジー小説の一幕を体験しているケイ達には新鮮さを感じることはないが、目の前で浮かんでいる船に驚きながらもラオとミゼリ、ユアンが手を振る。

バルトルは太陽の光で目を細めながらも、空に浮かぶ魔道船に乗っているケイ達に手を上げる。


こうしてガラーの問題を解決したケイ達は、本来の目的地である魔人族の国・ジャヴォールへと船を進ませたのであった。

羽翼族の文献により、アスル・カディーム人とアグナダム帝国のことが少し見えてきました。

バルトルから魔人族の長あてに託された二つの石版と、ケイが桜紅蘭の時から持参しているシェメラの石版が似ているようで、どうやら関連がある模様。

次週、ジャヴォール編に入ります。


次回の更新は10月14日(水)です。


閲覧&ブックマーク&感想などありがとうございます。

細々とマイペースに活動していますので、また来てくださいね。


※誤字脱字の報告、または表現の提供をありがとうございます。

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