234、大華炎
皆さんこんばんは。
遅くなり申し訳ありません。
さて今回は、ユアンとミゼリの結婚式とラオが挑戦する大華炎のお話です。
ミゼリを救出した翌朝のことである。
その日は朝から町が騒がしく早くから人々が動き始めていた。
なにせ結婚式場となる神殿が全焼したため、神殿の後片付けやら町の一角を急遽結婚式場にするために段取りを組んで各々が取り組んでいる。
「ミゼリや他の者に怪我がないだけ、よかったと言うべきか・・・」
バルトルは、跡形もなく崩れ落ちた神殿跡を見つめながら独りごちる。
本当なら大華炎の前に式を執り行う予定であったが、ミゼリとユアンが着用するはずだった婚礼用の衣装や装飾品も全て神殿に置いていたため、それもまとめて消失してしまったのである。
燭台を設置していた二人の若者には、ことが起きてすぐに招集しバルトルから厳重注意をしたが消失した物は戻ってくることはない。
その後バルトルは、その足で婚礼用の衣装や装飾品を提供してくれた知り合いの被服職人の女性達の元に謝罪に回り、式会場の準備をしてくれた人々一人一人に詫びの言葉を口にする。
「あ、父さん!」
「ユアン、ミゼリの容態はどうだ?」
「さっき医師が来て、容態に問題はないと言ってました。ミゼリも自力で起き上がって食事を取っていたので大丈夫かと」
二時間ほどで屋敷に戻ったバルトルは、屋敷の入り口でユアンと出会い、ミゼリの様子を尋ねた。
幸い彼女に怪我や後遺症などはなく、ケイの迅速な救出のおかげだと安堵する一方で、五日後に迫った式と大華炎の行事を中止するべきかと思案する。
正直な話、式は場所を変更し日程の変更をすればまだ行うことが出来るのだが、実は大華炎で使用する道具も普段から神殿の納戸に置いていたため、それも全て火事で焼失してしまった。
大華炎を行う際に、特殊な製法で作られたたいまつが必要になる。
空を舞うために、火を付けても風の抵抗で消えない設計になっているたいまつは、本番では一人一本計三十名分が必要になるのだが、なにぶん特殊な製法のため一本完成させるためには最低でも三日を必要とする代物で、とてもじゃないが間に合わない。
「やはり、式と大華炎は延期するべきか・・・」
「父さん・・・本気で言っているの?」
「だが、あれでは行えまい」
そんな言葉を口にしたバルトルに、ユアンはそれに反対をする。
この日のために町を挙げて準備をし、子供達は大華炎の練習を二ヶ月前から行っていた。それに今年初めて参加をする子もおり、町の人々は楽しみにその練習風景を見守っていたかと思うと、直前で中止にするなどそんな勇気はユアンにはない。
もちろん、バルトルも本音を言えば同じ気持ちだった。
しかしいくら急ピッチで準備を行ったとしても、衣装に必要な素材の調達や作製時期を考慮してもあと五日でどうこう出来る問題ではない。それならば遅れてもいいのでしっかり準備を整えてから行うべきだと、苦渋の決断に迫られている。
「そういえば、ケイ達の姿が見えないが?」
「彼らなら、さっき町に出かけるといって出て行ったよ」
朝からケイ達の姿を見ていないバルトルが首を傾げると、ユアンは少し前に出て行ったと伝える。
せっかくの客人を無下にしている感は否めなかったが、バルトルとしては族を預かる身分も併せ持っているため、どうしても退屈させているのではと少し不安に感じていた。
その頃ケイとシンシアは、町の広場で大華炎の練習をしている子供達と指導者の男性の元を訪れていた。
どうやら神殿に大華炎で使用するはずだった道具が置いてあったようで、それが全て燃えたという事実を人づてに聞き、なんとか力になってやれないかと様子を見にきたのである。
その場所から少し離れたところで、ラオと他の子達が大華炎の踊りの練習をしている。ラオは二年もブランクがあり当時の踊りと少し違っていたようで、最初は少し戸惑っていた部分もあったが、元々飲み込みが早かったのか、新しい振り付けもなんなく覚えることが出来るようになったようだ。
ただ空を飛ぶ時になると足が竦むのか、時々動作が止まることがあるようだが、一緒に大華炎を舞う少年少女達が何度も大丈夫だと優しく語りかける。
そんな子供達を余所に指導員の男性は、とある物を興味深そうに見つめている。
「この“ライトスティック”という物は面白いね~」
彼が手にした物は、コンサートなどでよく見かける光るスティックである。
地球では電池や電気が動力となって光るが、今回はケイが創造したダジュール仕様の物となっている。
原理としては、スイッチの部分を押すと電池の代わりに魔素を吸って光源として転換し、発光させるといった実にシンプルな構造をしている。
男性指導員の話を参考に追加で全7色の色変更が可能など、大華炎で行うには問題はないと思っている。まぁケイとしてはオタ芸が若干入っている気がしなくもないが、黙っていればいい話だろう。
「ケイ様~こっちは終わったわ!」
「ケイ!こっちも話は付けておいたぞ!」
別行動をしていた他の五人がケイとシンシアの元まで戻ってきた。
アレグロとタレナとシルトは、結婚式で着用する花嫁花婿の衣装の素材提供を被服職人の女性達に送った。
これは以前ケイ達が大陸を巡っていた際に狩った魔物や動物たちの毛皮や羽根などを提供をした。特にフリージアに生息しているクーラービリスの毛皮は、白く滑らかなことからドレスの加工に丁度良かったようで、作製した際に使用した型紙があったことから急ピッチで行えば、五日後までには間に合うと豪語しているがどうなることやら。
アダムとレイブンは、広場の一部を式場にするために準備をしている男性達に結婚式会場の装飾品を提供した。
こちらは以前ジュエルハニービーの抜けた羽根やスライムの外殻を提供した。
はじめケイに袋ごと渡されたアダムとレイブンは、サラマンダーの鱗やコカトリスの爪や牙が入っている中身を見て、装飾品提供とは?と顔を引きつらせたのはいうまでもない。しかしダメ元で準備をしている男性達に渡したところ、この大陸では手に入らない代物ばかりだったようで、張り切って準備を再開したところをみるやこれでいいのかと不安に思う。
「わっ!!・・・・・・イテテ~ッ」
ケイ達が練習をしている子供達の方を見ると、羽ばたかせなら低い位置での舞いに四苦八苦しているラオの姿があった。
ラオは飛びながら舞うという動作に羽根がもつれたのか地面に転けたようで、擦り傷や身体が泥だらけになりながらも、一心に振り付けを覚えるために何度も転けては飛び上がることを繰り返している。
「ケイさん、あの方はミゼリさんとユアンさんではないでしょうか?」
タレナが何かに気づいた様で、みんなには内緒でケイの耳元でささやくと彼女が示した先を見やる。
広場の端の木の陰でミゼリと彼女に寄り添うようにユアンの姿を見つける。
ミゼリの様子からは昨日の後遺症は見当たらないようで、ケイの鑑定でも健康上の異常はない様子ではあるが、二人の見つめる先には懸命に仲間達と練習を重ねているラオの姿がある。
よほど心配なのか、途中でラオが転けるとあっ!という表情を浮かべる様は運動会で子を見守る両親の様に見える。
ケイはタレナにそっとして置いてあげようと伝え、彼女も今は声をかけられるのは止めておこうと同意する。
当日、迎えたミゼリとユアンの結婚式と大華炎は町を挙げて盛大に行われた。
町は大人も子供も音楽や歌に合わせて踊り、露店のような店には鶏肉を焼いた串焼きや野菜炒めのような料理がいくつか提供されている。
さすがに魚はなかったが、ケイが(久々に活躍する)マグロの王冠でマグロを何十頭も出し、アダムとレイブンが魚を捌き、アレグロとタレナが刺身や焼きマグロなどを調理し振る舞ったことであっという間に人気になった。
配膳はケイとシンシア,シルトで行ったが当然人手が足りず、町の人達数十人が手伝いに加わり、出店一帯が大宴会になったのは想定外だった。
結婚式会場がある広場に足を運ぶと、町の人々に囲まれながら新たに作製された衣装を身に纏ったミゼリとユアンの姿があった。
バルトルの計らいでケイ達も参列し、二人の門出を祝う。
二人の衣装は、ケイ達が提供した素材がふんだんに使用されている。
特にミゼリのウエディングドレスで、クーラービリスの毛皮に青いビーズや青みがかった白のフリルが違和感なく自然に裁縫されていることに驚く。
たまたま参列した隣の女性が今回衣装を担当した被服職人で、フリルの部分はフリージアのスライムの外殻を独自に加工してから糸に紡ぎ、フリルのように編み上げたという。
青いビーズ部分は、ガラーに生息している白い鳥が希に涙を落とすことがあり、それを装飾品に加工したものだとのこと。
見たこともない素材をそこまで完璧に使いこなすとは、恐るべし被服職人。
日没を迎えた頃、ラオを含めた大華炎の演目を行う子供達が集まり、日が落ちたと同時にライトスティックを手に笛や太鼓に合わせて空を舞い始める。
本来なら特殊な技法で作られたたいまつに火を灯し空にて演舞を行うのだが、今年は赤や黄、青などの様々な色のライトスティックを手に鮮やかに踊り舞う。
その子供達を見た町の人々は歓声を上げ、拍手や指笛で場を盛り上げている。
「皆さん、今日は本当にありがとうございました」
演目を見ていたケイ達に、バルトルと式を終えたユアンとミゼリが姿を見せる。
バルトルは、今年も無事に祭が行なうことが出来たのはケイ達のおかげだと改めて礼を述べる。当初延期をするべきかと悩んでいたところに、町の人達からケイ達の話を聞き続行を決めたそうで、式場や衣装の素材提供までされたことに感銘を受けどう礼をしていいのかと嬉しいような困ったような表情を浮かべる。
「いいや~気にすんなって」
「だが・・・」
「それより、ラオの晴れ舞台を見てやったらどうだ?」
視線を前に向けると、大華炎の演目を行う子供達に混じってラオが空を飛び舞っている姿がある。
その表情はこの日を心待ちにしていた子供達と同じように満面の笑みを浮かべ、たいまつを使わない大華炎は、夜空に浮かぶ大輪の花を咲かせた花火のように例年以上に人々の心を鷲づかみにしていた。
神殿の焼失により一時は開催が危ぶまれたが、ケイ達が色々と手を尽くしたことにより無事に当日を迎えることが出来ました。
次回の更新は10月12日(月)夜です。
閲覧&ブックマーク&感想などありがとうございます。
細々とマイペースに活動していますので、また来てくださいね。
※誤字脱字の報告、または表現の提供をありがとうございます。




