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異世界満喫冒険譚  作者: GDKK
新大陸編
239/359

233、姉の思いと弟の決意

皆さんこんばんは。

いつもご高覧くださりありがとうございます。

さて今回は、ミゼリのラオに対する思いとラオの気持ちの回です。

ケイ達がラオを連れて泉にある魔道船に向かっている頃、ガラーの町では六日後に行われる祭の準備が行われていた。


「ミゼリ、大丈夫かい?」

「え、えぇ。」

「ラオの事は大丈夫だ。確かに僕たちは新しい家庭を築くことになるが、君とラオの姉弟の関係性は変わらないはずだ」

「ユアン・・・」


ラオの姉・ミゼリも結婚式のため衣装や会場の準備に余念がなく、ラオの事が気がかりでありながらも、ユアンと共に挙式の会場である神殿にて赴いている。


そんな彼女を気遣いながら、ユアンは何とかならないかと考えてはいた。


彼は一人っ子でありながらも、幼少の頃からミゼリやラオと仲がよかったことから二人のことをバルトル以上に気にしていた。しかし姉弟間のことになるとユアンでは分からない部分があるため、どこまで踏み込んでいいのかと迷っている。


「ユアン!ちょっと来てくれ!」

「あぁ。すぐ行く!」


そんなことを考えているところに神殿の外からユアンを呼ぶ男性の声があり、ミゼリに少し外してくると伝えてからその場をあとにする。


ミゼリはそんな彼の気遣いを申し訳ないと思いつつも、ラオの事を考えていた。


結婚式の準備もあり、ここ数日はラオと顔すら合わせていない。

以前バルトルに挙式の延期を申し出たことが、まさか聞かれていたと思わなかったのか、あの時は酷く動揺した。ミゼリは前々から自分が結婚をしたら、ラオは一人になってしまうと感じており、自分のせいで挙式が延期になることをよしとしない弟の気持ちもわかってはいる。


今はバルトルとユアンの行為で姉弟共に屋敷に同居という形を取っているが、結婚をすればミゼリはユアンと新しい家庭を気づく事になり、今までの生活とは少し違ってくることも想像はしていた。故に唯一の肉親であるラオが寂しい思いをさせることになるのではと、彼女の中でそんな考えがグルグルと巡っている。


「あら?ミゼリちゃんじゃな~い?」


そんな彼女に知り合いの恰幅のよい女性が声をかけて来た。


女性も結婚式の会場である神殿の飾り付けやら花嫁衣装の手伝いに回っており、一人で思い悩んでいるミゼリの姿を見かけて声をかけたようだ。


「あ、おばさん!」

「花嫁さんが浮かない顔をしてどうしたのかしら?」

「え?あ、いえ~なんでもないんです・・・」

「もしかしてラオ君のこと?」


ギョッとしたミゼリが女性の方を振り返ると、やっぱり~と女性が笑みを浮かべ、「顔に描いてあるわ」と少しおどけた表情でミゼリを見やる。


女性は姉弟が産まれた時からの付き合いで、両親の居ない二人を心配し、時には声をかけることをよく行っていた。また自分の子供も二人と同じぐらいの年の子がいることから、どうしても親目線でミゼリとラオを見ているときもある。


「実は私がラオの事を考えて式を延期しようとしたことを知っていたみたいで、それをどこからか聞いたようで喧嘩になってしまって・・・」

「ラオ君も心配なのよ~」

「心配?」

「そうよ~。だって自分のせいで式が延期することになったなら、誰だって嫌だって思うと思うわ。それにラオ君はそれを望んではいないと思うの。きっとミゼリを心配させないように色々と頑張っていたんじゃないかしら?」


女性の言葉にミゼリはどう答えたらよいかと躊躇していた。


もちろんラオの気持ちも全てではないが理解しているつもりなのだが、やはり姉と弟という立場から、他人以上に心配をしたり迷惑をかけたくないと振る舞っていることもなんとなくだが察している。


「私がいうのもどうかと思うけど、ラオ君のためにもちゃんと式をした方が良いんじゃないかしら?」


女性はそれだけ伝えると、それじゃあ。と声をかけてその場をあとにした。

見送ったミゼリは、帰ってからちゃんとラオと話をしようと考え、式の準備に勤しんだ。



「あら?お疲れさま~」

「「あ!お疲れっす!!」」


先ほどの恰幅のよい女性が神殿の入り口で、燭台を運ぶ二人の若い男性とすれ違った。


二人の若者は、結婚式で飾る150cmほどの金色に装飾をされている燭台を抱えて運んでおり、成人している男性でも両手で抱えなければ持ち上がらないほどの重量がある。入り口で一休みをしている若者の姿に女性は大変ね~と声をかけて通り過ぎる。


「あと、これを置いたら終わりだってさ~」

「重量あるのに一人十本も運ぶって鬼畜過ぎるぜ~」

「そういや、ちゃんと火が付くか確認しろって言ってたよな?」

「他のは予め確認したって言ってたから、この二つを確認したら俺達も戻ろうぜ」


若者達は、入り口に近い通路の左右に二本の燭台をバランス良く配置すると、手にした火付け棒に火を灯し右の燭台に灯す。


「あ、ついたついた!」

「じゃあ、左もつけよう」

「・・・よし、こっちもついたぜ!」

「式の準備はこれだけだよな?はぁ~終わった終わった!}


左も同じように火付け棒から燭台に火を灯し、付いたことを確認してから若者達は左右についていた燭台の火を消した。


準備が終わってほっとしたのか、燭台の重量のせいで二人は首と肩を回しつつ早く戻ろうと踵を返してその場をあとにする。


実はこの時、左の燭台の火が完全に消えていなかったのか、燭台から消えたはずの火がひとつぽっと付いた。入り口に近く扉を開け放していたことから風が建物内に入り込んだせいもあり、小さな火だねは威力を増して燃え上がった。


この時周囲には人がおらず、奥にはミゼリが一人で物思いにふけていたため、このことに気づく者は誰も居なかった。



「うぇぇぇ~~・・・気持ち悪い・・・」


時を同じくして、魔道船の船員達により檣楼に上らされていたラオは、やっとの思いで甲板に足を着くと、その場に蹲り吐きそうだとみぞおちを摩った。

船員達からは、まだまだだが見込みはあるとある意味合格点(?)を貰ったことにより、彼の今日の特訓は終了する。


「ラオ~大丈夫か?」

「だ、大丈夫、です・・・」


船員達には、ラオは高いところが極度に苦手だから無理をさせるなと言ってはいるが、いかんせん全員とまではいかないが思考がダットに似ており、かなりの確率で「当たって砕けろ!」と、スポ根さながらに連れ回していた。

もちろんラオを連れた船員や野次馬のようについて歩く船員達は、甲板に戻って来るやいなや全員ダットから拳骨を落とされされ蹲っている。


それを見たケイ達は、なんだかなぁという気持ちで見つめるしかなかった。


「ところでダットさん。さっき檣楼の上から北東の方角に煙が上がっていたようですけど、野焼きかなにかをやってるんですかね?」


ラオを連れて檣楼に上がった船員がそんなことを尋ねる。


ダットは、泉の周辺は草原だから雑草か何かを燃やしているんじゃないかと口にする。しかしその方角を見ていた少佐が鳴き声を上げ、何かを訴えた。


「えっ?ちょっと、煙が凄いわよ!?」

「あっちは、神殿のある方だ・・・」


アレグロが声を上げると、先ほどまで蹲っていたラオが顔を青ざめさせながらその方角を見つめ呟く。


ラオは何を思ったのか急いで船から下りると、煙が上がっている北東の方向へと向かって走る。ケイ達もただならぬ状況にダットに言ってみると伝えると、急いでその後を追った。



ケイ達が泉から北東にある神殿に着いた頃、建物が激しく燃え煙が立ち上るところが見えた。建物の窓と煙突から火が吹き上がり、時折何かが燃えた衝撃でバックドラフトが発生する。その周りには町の人々が悲鳴を上げ、慌てふためく様子もあるなかでラオが見知った人物を見つけ駆け寄る。


「あ、ラオ!」

「ユアン!何があったの!?」

「どうやら燭台に付いていた火が建物に引火したみたいなんだ」


式の準備中に、会場に設置してあった燭台の火の不始末が原因らしい。


幸い他の人は火が回る前に建物を出たため大事には至らなかったが、先ほどからミゼリの姿が見えないとあちこちと辺りを見回している。


「ユアンじゃないか!?」


辺りを見回している彼の元に、恰幅のよい女性が近づいた。

ミゼリは一緒ではないのかと尋ねられ、少し彼女と別行動をしていたと返すと女性は「もしかして・・・」と顔を青くさせる。


「さっきミゼリちゃんと神殿の中であったんだよぉ。あたしが出た後も式場に居たみたいだから・・・まさか、そんなはずはないわよね?」


不安そうな女性の話にユアンは顔を青白くさせ、すぐさま燃えさかる建物に向かおうとして近くの男性達に制止される。確証はないがもしかしたらという気持ちが先走り、制止している男性達にミゼリが中にいるかもしれないと叫ぶが、ユアンまで巻き込まれると押し問答になる。


「俺が見てくる。アダム、悪いが鞄を持っててくれ。サウガは俺に水をかけろ!」


その様子にケイが見てくるとアダムに鞄を渡し、サウガに自分に水をかけろと命令をする。『バウ!』という鳴き声と同時にサウガが形成した水球が口から吐き出され、洪水さながらの勢いでケイの全身にかかる。

もちろんユアンをはじめとする他の人々は止めに入ろうとしたが、ケイは制止する人の群をかいくぐり、そのままいつ倒壊するかも分からない燃えさかる神殿の中へと突入した。



「ミゼリ!・・・ゲホッ、ちっ!もっと奥か」


燃えさかった神殿内は、熱風と凄まじい煙の影響で数メートル先が見えないほど激しさを増している。

近くには本来は式場に続く通路であろう場所は、辺り一面火の海で燃え包まれた柱とおぼしきものが倒壊している。炎の轟音と焼け付くような熱風がケイの肌を刺激し、本能的にまずいことを示している。


倒壊する柱や天井に注意を向けながらも火の海をかいくぐり、ケイは会場とおぼしき場所に到達する。


「ミゼリ!」


ケイが駆け寄り様子を見ると、弱ってはいるが気を失っているミゼリの姿を見つけ安堵する。しかし同時に火の勢いは彼女がいるところまで迫っていたようで、装飾された花や椅子などは全て焼け落ち、来た道を向くと柱が行く手を阻むように倒壊し始めている。

ここから脱出するためミゼリを背負い、会場の左右の壁にそれぞれ三つの窓があることに気づき、そこから出ようと左側の木枠の窓に手をかけた。



「建物が崩れるぞぉぉぉ!!!!」



火の手が完全に建物中に広がり誰かの大声と火柱が上がったかと思うと、神殿は轟音と煙と共に跡形もなく倒壊した。倒壊した神殿を唖然とした表情で見つめる人々と、最悪の状況を考え絶望感を漂わせているユアンとラオが立ち尽くしている。


「みんな!ケイ様が戻って来たわ!」


建物の側面から人影がこちらに向かってくるところが見え、アレグロはそれがケイの姿だと一目で認識し声を上げる。

駆け寄ったユアンにミゼリは気を失っているだけだとケイが答え、ギャラリーに向かって医師を呼んできてくれと声を上げた。


ラオはそんなケイの行動を信じられないと目を丸くし、ユアンはケイに下ろされたミゼリの手を握り無事で良かったと呟く。


「いや~間一髪だったぜ~」

「もぉ!笑い事じゃないでしょ!?」

「悪ぃ悪ぃ!窓から出たと同時に崩れたから、さすがに肝が冷えたぜ」


ちょっとそこまでと言うような口調で、ケイが心配しながらも憤慨するシンシアを宥めると、ラオが彼の前に立ち、深い一礼をした。


「ケイさん、本当にありがとうございます」


頭を下げたラオにケイは気にするなと少し荒く彼の頭を撫でた。


ラオはケイの勇気ある行動に感謝しながらも、内心自分は何を怖がっていたんだと恥ずかしさと悔しさを感じていた。


高いところが恐い?姉さんは危うく死にかけたんだ!そんな感情が頭を巡り、姉を助けてくれたケイに何かを感じ、ラオは密かにある決意を立てると絶対にやり遂げるという気持ちで自身の拳を強く握りしめた。

式場となる神殿で火事が起き、中にいたミゼリをケイが助けると同時にラオはある決意をしました。

果たして無事に行事が出来るのでしょうか?

次回の更新は10月9日(金)夜です。


閲覧&ブックマーク&感想などありがとうございます。

細々とマイペースに活動していますので、また来てくださいね。

※誤字脱字の報告、または表現の提供をありがとうございます。

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