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異世界満喫冒険譚  作者: GDKK
新大陸編
238/359

232、助言という名の特訓?

みなさんこんばんは。

いつもご高覧くださりありがとうございます。

さて今回は、ラオと一緒に魔道船へ戻り助言(?)を貰う回です。

レイブンとタレナがバルトルを呼び、事情を理解した彼によりラオは屋敷の自室に運ばれた。


屋敷にやって来た町の医師からは、身体に病気による変調がないことから、もしかしたら精神的なところから来ているのではと指摘する。

現にラオはバルトルが来るまで錯乱し、階段から落ちた時に支えたシルトでさえも敵と認識しているのか暴れている様子があった。そのため、今は医師による精神安定剤の薬を処方し、ベッドで眠っている。


「迷惑をかけたようだね。申し訳ない」


医師が帰宅したあと、バルトルは応接室で待機していたケイ達に謝罪した。


自分も今までラオの変調に気づかなかったことを悔やみ、何故相談してくれなかったのかと悩んでいる様子が見られる。


「ケイ、ところでさっき言った“トラウマ”って何なの?」

「トラウマっていうのは、俺の国ではPTSD、心的外傷後ストレス障害って言われてる精神的な症状のひとつで、外因的な原因によって精神的にショックを受けたことによって長い間そのことについてとらわれてしまう状態のことをいうんだ」

「さっきケイが言ってた、高所恐怖症もその症状なの?」

「それは全員に当てはまると言うわけじゃなくて、ラオの場合、大華炎の練習中に怪我をして落ちたことによって高所に対して異常なまでに恐怖感を増しているから恐らくトラウマに近い症状じゃないかと思ってる。さっき言った高所恐怖症と言う言葉自体、単に高いところが苦手という奴に対して使うこともあるから、ケースバイケースってことになるな」


疑問を抱くシンシアに、精神科医ではないがそんな話を聞いたことがあるケイが答える。


ダジュールにはトラウマという表現方法がなく、特定の出来事に対して異常なまでに恐怖や回避行動を起こすことを示していると伝えるとそんなことがあるのかと、一同が関心する。


「でもラオさんがガラーに住んでいる以上、高所に対しての恐怖心を抱いたまま生活するのは辛いことではないのでしょうか?」

「ケイ様、なにかそれを和らげる方法はないの?」

「えっと~たしか“暴露療法”という方法があるって聞いたが、あの怯え方を見るとそれがラオに合うかはわからねぇな」

「暴露療法って?」

「要は、とりあえずやれ!っていう方法のことだ」


暴露療法は簡単に説明すると、特定の恐怖症に対して段階的に苦痛を克服させる方法の一つである。


不安症状が発生した時にその出来事に目を背けず頭の中での忘却・回避を許さず、慣れるまで永遠とその出来事に対して、一心不乱に苦痛や不安を受け続けて慣れさせるという苦行にも思える方法なのだが、それが続くとある一定の時から恐怖や苦痛に慣れて軽減される現象が起こるそうだ。

ただその療法は個人によって当てはまるはまらないなどがあり、実践している精神医療機関は少ないと聞く。場合によっては暴露療法を行ったことにより恐怖感が増大する人もいるそうで、慎重な対応を必要とするといわれている。


先ほどのラオの様子から見るに階段の側面ぎりぎりに立つことが出来たことから、もしかしたら克服したいのかもしれないとケイは考える。しかし素人である自分たちがそれにどう手を貸したらいいのかと悩む。

特に今年はラオの姉であるミゼリとユアンの結婚式も兼ねているため、先日の指導員の男性も周りに居た少年少女達も気遣っている姿があったため、もしラオ自身が改善したいとなれば考えるべきだろう。


「そういや、ラオの姉ちゃんには話はしたのか?」

「ミゼリとユアンには話をしている。だが、今行けばラオが混乱すると思ってしばらくはそっとして置いた方が良いだろうとあの日以来顔を合わせてはいない」


結婚式の準備に追われているミゼリとユアンには話をしているのだが、喧嘩をした後なのかミゼリは弟のラオに気遣いながらも顔を合わせることが難しい。

バルトルからは姉弟の仲は悪くないが、ミゼリもラオも色々とあるから気が立っているのだろうと言い、ミゼリとユアンには自分から報告している旨が伝えられる。


いずれにしろ、ラオが気づいた時に話をしてみようとケイは思い至ったのだった。



翌日、ケイ達はラオを連れて魔道船がある泉までやって来た。


屋敷から出る際にラオには内緒でバルトルに説明をしている。

それを聞いたバルトルは、当初大丈夫かと不安な表情を見せていたが、やらないよりはやった方がいいというケイの言葉に何かを感じたようで、ケイによろしく頼むと頭を下げる。


一方そんな会話をしているとは知らないラオは、魔道船に来るや何をするのかとケイに尋ねた。


「ラオ、お前のその症状は高所恐怖症が伴ったトラウマの可能性がある。ガラーは高低差があるし、屋敷に引きこもってもいられないだろう?だから少しでも改善させようと考えているんだが、お前自身はどう思ってるんだ?」

「ぼ、僕は・・・」


責めている言い方に聞こえるかもしれないが、今のラオには高低差のあるガラーの町が恐怖の場所にしか見えていないだろう。それを少しでも軽減させることができれば、ある程度過ごしやすくはなる。だが、先も述べたように無理をして症状を悪化させる可能性もあるため、本来なら専門家が必須である。



「もう一度だけ“大華炎”に挑戦してみたい!!」



ラオの目の中に恐怖と不安が浮かんでいたが、その表情から決意のようなものが窺える。羽根の状態は一見怪我があったようには見えず、左側の内側の羽根は薄らと怪我の跡があるだけで、本人のやる気次第では以前の様に飛べるのではないかと確信する。


「・・・で、ラオのトラウマを何とかする具体的な方法ってあるの?」

「いや、それはこれか・・・いてっ!」


シンシアに尋ねられそう返したケイが彼女から蹴りを入れられる。


てっきり、具体案があるかと思いきや勢いで何とかすると言ってしまったが故に、実は何も考えていないのが現状である。だがトラウマのあるラオの意思もあり、六日後までに大華炎の本番に望ませる必要がある。


実はラオ本人は知らなかったのだが、先日話をした指導員の男性から彼がいつ戻って来ても言いように、毎年準備をしていたと聞いたのだ。ただ、ラオがプレッシャーに感じてしまうことから今まで伏せていたようで、その辺はケイにも口止めをして頂きたいと言われる。


ともあれ、まずはどの程度の高さなら大丈夫なのか試してみることにする。



「なんだ?ケイ達戻って来たのか?・・・って何やってるんだ?」



その時、甲板からこちらを覗き込むダットの姿があった。

泉の近くで、ケイ達がラオを囲み唸っている場面を目にした彼に、昨日の事を説明してからなんとかならないかと考えていることを述べる。


ラオの場合、高所恐怖症に伴うトラウマを発症していると考え、ケイが事前にスマホで調べた情報によると、【高い場所に対する考え方】と【高いところに慣れる】という二つの治療法が必要と記されている。

やはり暴露療法の考え方による軽減が早いようで、慣れ以前に高いところに対する考え方を変えていく必要がある。


「それってやっぱり精神的なものによるものなのか?」

「やっぱりって?」

「あ、いや。野郎共の中に同じような症状をしてた奴がいたんだが、いつの間にかそんなことを言わなくなっちまってよぉ~ あ!お~い!ちょっと来い!」


丁度、甲板で作業をしていた赤いバンダナの船員がダットに呼ばれた。


どうやら彼が以前高所恐怖症に似た症状を発症していたようで、船に来た当初は檣楼に上れなかったという。しかしいつの間にかそんなことを言わなくなったことから、ダットも不思議に感じていた様子だった。


「ダットさん、何かご用ですか?」

「いや、実はな・・・」


ダットがその船員に事情を説明すると、そんなこともありましたねとカラカラと笑った。船員は、確かに船に来る前は高いところが苦手過ぎて吐き気を催す程だったと語ったが、今では以前ほどではなくなったと述べる。


「あの~、どうしたら高いところが苦手でなくなるんですか?」

「どうしたらって、僕は前の仕事がなくなって生活できなくなったところをダットさんに助けて貰ったんだ。船員の仕事は見張りも行うから、よく檣楼に上ることもあるし、生きていかなきゃと思うと自然と恐い気持ちがなくなったんだ」


その船員は以前大工をしていたそうだが、建設中に高いところから落ちて怪我をして以来上れなくなったという。仕事が出来なくなったことでクビにされ、どうしようと落ち込んでいたところをダットに拾って貰った経緯がある。


彼が言うに、最初の頃は見張りのために檣楼に上ったはいいが下を見ると地面が回って見え、頭痛と吐き気を催すことが毎日のようにあったのだという。

その度に他の船員に連れられ甲板まで下りることを繰り返したのだが、一月ほど経った辺りから景色を見る余裕が持てるようになり、て半年ほど経った今では時折恐いなと思う程度になったのだという。


「その話からすると、あと六日でどうにかなるようなものでもないということか」

「あるいは何かきっかけがあれば軽減を促進することもできるかもしれないけど、こればかりは僕たちからはなんとも言えないね」


船員の話を聞き、アダムとレイブンがう~んと唸りどうすればと腕を組み考える。


ラオのことで事情を聞いた先ほどの船員が、任せてください!とケイ達とダットに意気揚々と答える。

ケイがダットの方を向くと、言ったら聞かな奴だからこの際任せてみたらどうだ?という表情で返される。経験のないケイ達より、高所恐怖症だった人間の手を借りるのも一つの手だと考え、不安はあるが思い切って船員にお願いをする。



「ひ、ひぃぃぃ!!!!」

「あはは!!坊主!腰が引けてるぞ?」



案の定その船員に連れられたラオは、その足で半ば強引に檣楼に上らされた。


他の見張りの船員から腰が引けてると笑い声が上から聞こえ、本当にラオの引きつった声も同時に聞こえてくる。


「ダット、あれは大丈夫なのか?」

「ん~~~あいつはここに来た当初は気にしぃだった気がしたが、あんな奴だったかなぁ~?」


その光景を下から見上げたケイが思わずダットに声をかけると、並んで見上げるダットもあんな奴だったかと首を傾げている。

さすがのダットも環境が変われば人も変わるのでは、と返すことしかできないようで一緒に上がったラオは声からしてあまりの高さに腰が引けている様子が聞き取れる。


実は魔道船の檣楼までの高さは30mと結構高い。


船によってその高さは異なるが、知識を知らないケイ達から見れば相当高く、別に苦手という訳ではないものの実際に上った際に若干腰が引けたのは正しい反応だろう。

そういえば最初に船において欲しいとラオが言っていたが、船員の話では見張りも行うため、どちらにしろ高い場所との縁は続くのだろうと檣楼で船員達にからかわれているラオの声が辺りに響き渡っていた。

魔道船の船員達により檣楼に上らされたラオは、存分に恐怖を味わいました。

しかしラオとミゼリの仲はギスギスしたまま。

果たして姉弟仲良くすることはできるのでしょうか?

次回の更新は10月7日(水)夜です。


閲覧&ブックマーク&感想などありがとうございます。

細々とマイペースに活動していますので、また来てくださいね。

※誤字脱字の報告、または表現の提供をありがとうございます。

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