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異世界満喫冒険譚  作者: GDKK
新大陸編
237/359

231、トラウマ

皆さんこんばんは。

いつもご高覧くださりありがとうございます。遅くなって申し訳ありません!

今回は、町を散策するケイ達とラオの異変についての回です。

バルトルの屋敷に一泊した翌日、ケイ達はせっかく来たのだからと町に繰り出すことになった。


「ラオ、すまないな」

「ううん。バルトルさんも忙しいから仕方ないよ」


本当ならバルトルも休みを貰っていたのだが、急用な仕事が入ってしまったため、申し訳なさそうに眉を下げる。

ラオはいつも忙しそうに町のことを考えているバルトルの事を知っていたので、仕事を優先してほしいと返すと、少し寂しそうな表情でバルトルがその頭を撫でる。



屋敷の周りを囲んでいる植林場を抜けると、昨日通った坂のある場所から町が一望できた。


大陸の三分の一を占めているこの町は、まるでバカンスの海辺の町の様に白い建物に陽光が降り注ぎ、バルトルの屋敷の方をみると自然遺産のような時代を感じる建造物が建ち並んでいる。

バルトルの話では、この町は北と南で二分されているそうで、北は自然が多く残っている自然地区、南を大半の人々が生活の場として過ごす住宅地区と定めている。


自然を残しつつ共存している部分を見ると、太古の昔からこの大陸は宙に浮かび歴史を生きてきたことを示している。また大陸中に春風のような穏やかな風が頬を撫で、人々が住む白く輝く建は町に更なる活気を与えている様子が窺える。


「白い建物が自然の景観を損ねるかと思ったが、そうでもないんだな」

「建物に使われている材質は、植林場にある木の皮を剥いだものを用いています。それに、剥いだ木の幹は白よりは少し柔らかい白色に見えるんです」


建物に使われている材質は、ブランの木が使われている。


住宅地区に使用されている建物のほとんどがバルトルの屋敷にある植林場の木が用いられる。

しかし見たところ木材の量も相当必要だと思われるが、実際にはこのブランの木という木はタケノコのように繁殖力が強く、多い時では二~三日に十本以上育つと言われている。どういう原理でそうなっているのかは分からないが、植林場に生息している鳥が剪定の役割を果たしているそうで、ほとんど人の手を加えていないというのだから驚きである。


町の中心に向かうには、いくつかの階段と坂を経由する必要がある。


舗装されたレンガのような材質が使われ、イタリアのレンガ道を思わせる道や階段が顕著に見られる。

実際に行ったことがないのだが、地球の外国を思わせるその風景が日常の中の非日常のような感覚を覚え、懐かしさと目新しい好奇心のような感覚をケイは感じていた。


「そういや、身体と羽根は大丈夫か?」

「えっ?あ、はい。まだ羽根の部分が突っ張っている感覚がありますが、動かせないほどではないので大丈夫です」


ケイはラオの体調を尋ねた。


昨日の今日ということもあり万全というわけではないそうだが、日常に支障はないとのこと。また念のために鑑定を行ったところ、なぜか状態の項目に『恐怖(小)』という表示が出ていたことに気がつく。

バルトルの代わりにラオが町を案内してくれるということで、水を差したくないためにケイは黙っていたが、昨日の夕方に見たラオの表情を思い出すと注意するべきかと考える。


「結構、階段や坂が続くのね」

「というよりも、本当に羽翼族の人達はよく飛ぶわね」


中心地に向かう道中で、シンシアとアレグロが飛び交う羽翼族の人々を前に呆気にとられている。

なにせ行き交うではなく飛び交うという鳥類しかお目にかかれない現象のため、一瞬自分たちがおかしいのかと錯覚をするほどである。大人も子供も人が道を歩くように空を飛ぶ、種族が変われば生活形式も異なるということを肌で感じられることができる。


また、ケイ達が通る坂や階段は急な傾斜があるにもかかわらず手すりがない。


今下りている階段は一応は舗装されてはいるが、右手には民家が広がっているだけで柵などの処置もない事から、空を飛ぶ習慣が常識の羽翼族にはあまり意味をなさないようだ。



階段を下りると緩やかな坂が中心地に向かって続いている。


こちらは坂道にいくつかの店と民家が建ち並び、人々が談笑をしたり子供達が空を飛び回りながら鬼ごっこをしている姿を見かける。

また微笑ましい光景の中に、やはりこちらに注目している他の羽翼族の人々の姿があるが、彼らからすれば、ケイ達は羽根のない見かけたことのない生物という認識なのだろう。特に年配の男女はこちらを怪訝な表情で見つめている。


島国特有の視線にケイは慣れているが、アダムを初めとした他の仲間達はそれに気づかないフリをし、居心地が悪いと思いながら中心地へと向かうと、住宅地の中に突如広々とした広場が広がった。


「ここが町の中心地です」


町の中心地は人々の憩いの場として提供されているそうで、老若男女問わず店を開いたり、談笑をしている姿が見られる。


その一角に少年少女達が木の棒を手に武芸のような事をしている。


指導員とおぼしき男性が少年少女達にあれこれとアドバイスをしており、指導を受けているその内の一人の少年がラオの姿に気づき手を振る。


「ラオ!」


声をかけられたラオは一瞬あっと声を上げると、少年が駆け寄り動けるようになったのかとか怪我は良くなったのかと尋ねる。

ラオは、まぁ~と頼りない返事を返したのだが、他の子供達や指導員の男性もこちらに歩み寄り、一瞬のうちにラオが囲まれてしまう。


「ラオくん、怪我は大丈夫かい?」

「あ、はい。羽根は動かすことができたのですが、まだ飛ぶまでは・・・」

「そうか~ 今年こそ君も出られるかと思って調整をしていたんだけど、難しそうかな?」

「ありがとうございます。期待に添えられなくてごめんなさい・・・」


話の内容から、この少年少女達は大華炎の演目を披露する子供たちのようで、現在練習真っ只中とのこと。

指導員の男性はラオが出られることを考えて毎年調整をしていたようで、今年も出られないと首を振ると残念そうな表情を浮かべる。ラオの表情から申し訳なさと、何故かまだ顔を青ざめさせている様子が見える。



それから練習中の少年少女達と別れた一同は、町の中を一通り見て回った。


町の敷地はアルバラントと同等かそれより少し広く、店も一般的な飲食店や雑貨などがいくつか並んでいる。

ラオの話では、ここ一帯の店を建築するに辺り、魔人族からの資材提供があって成り立っていたという。以前までは魔人族との交流があったようだが、ここ数年ジャヴォールからの定期便が途絶えているのだという。


「ここの定期便は飛行機か何かか?」

「飛行機?もしかして飛空挺のこと?それなら飛空挺乗り場が大陸の北西にあるけど、今は来ることはないから誰も使ってないよ」


元々ガラーは物々交換で成り立っている大陸だったが、アスル・カディーム人を通じてジャヴォールとの交易から始まり交流が始まったと言われている。

その証拠に、貨幣はアグナダム帝国が存在していた時代のものを使用しているそうで、ラオの所持金の一部を見せて貰うと、銀製のコインに凜々しい男性の横顔が刻印されている。貨幣もケイ達が知っている価値観と同じで、大陸の貨幣価値の考え方は、アグナダム帝国から伝わったのではと考えられる。


町を一周し屋敷に戻る道中で来た道の階段まで戻ると、先ほどまでケイに肩車をされていたブルノワが「とぶれんしゅう~」と言ってケイから下りた。

階段は幅が狭いし危ないから駄目だと諭したが、どうしても練習がしたいと言って聞かず、仕方なくケイ達は階段の下からブルノワを見守りながらも付き合うことにした。


「ラオ。そういやさっきの奴ら、かなり心配されていたけどいいのか?」

「え?あ、うん。まだちゃんと動かすことができないし、みんなに迷惑をかけちゃうから・・・」

「羽根を動かして飛ぶのってさ、ブランクがあってもできるんじゃねぇのか?」

「まだ、体力が戻っていないから・・・」


ケイはてっきり、羽翼族が空を飛ぶこと=自転車に乗る人間と同意語だと思っていたのだが、ラオは飛ぼうと思えば飛べるが体力がないので大華炎の踊りを踊りきるまでの体力がないのでみんなに迷惑をかけてしまうと遠慮していた。

たしかに今まであまり動いていないのか、町を一周する頃には息切れをしていた様子がある。


先ほどラオには内緒で指導員の男性に尋ねたのだが、大華炎が行われる祭は六日後に行われるそうで、今年は町にとってもラオにとっても特別な祭になると聞く。

どうやらミゼリとユアンがこの日に結婚式を執り行うそうで、できれば少しでもいいのでラオにも大華炎に参加して欲しい旨をケイに伝えている。


そうこうしている内に十数段上に上がった階段側面の縁からブルノワが下を覗き、えい!と踏み出すと同時に小さな羽根をパタパタと羽ばたかせながらケイの頭上を飛ぶ。


手すりなしの階段の側面から飛び降りるのは、成人である人でも正直恐い。


そういえばケイが幼少期の頃、公園のジャングルジムから飛び降りるという遊びが一時期流行っていたことを思い出す。

あの時は、近所でも有名なかみなり親父と呼ばれている中年男性からかなり怒られた思い出があるが、当時の子供達の間ではリスクはあるが遊びごたえがあった。


しかし今では何人か骨折をしたという話があり、その遊びは禁止になっている。

その時代ならではの遊び方だった、と今ではそう考えている。


「ラオ、飛べる感覚は戻ってきてるのか?」

「うん。少しずつだけど羽根を動かしてちょっとだけ飛べるようにはなりました」

「ならさ、ブルノワに飛んでるところ見せてやってくれねぇか?」


この言葉にラオは一瞬戸惑い、二つ返事で了承すると、ブルノワと同じように十数段上がった地点から手本を見せようと縁に足をかける。


「・・・ん?ラオ?」


縁に足をかけ、後は羽根を羽ばたかせて飛ぼうというところでラオが立ち止まる。


下に居るケイ達からは俯いているラオの表情が見えないが、どことなく身体が震えているように見える。


「ラオ、どうかしたのかしら?」

「久々だから緊張でもしているんじゃないのか?」

「でも、明らかに様子がおかしいわ」


シンシアとアダムがそんな話をした後で、上に居たラオが「恐い!」と頭を抱えながら蹲った。


『まずい!』


ラオが階段上で蹲ったことにより上体が前のめりになると、シルトが落ちると察したのか、落ちる彼の身体を下から受け止めた。


「お、おい!?ラオ!大丈夫か!!?レイブン!バルトルを呼んできてくれ!」

「わ、わかった!」

「レイブンさん、私も行きます!」


シルトに受け止められたラオは、緊張からか震えが酷く顔色が青を通り越して白くなっている。

ラオの異常に気づいたケイは、レイブンにバルトルを呼んできてくれと頼み、レイブンはタレナと一緒に、屋敷にいるバルトルへとこのことを伝えに走る。


「一体、どうなってるのよ!?」

「もしかしたら、高いところが苦手でトラウマになってるんじゃねぇかと思う」

「トラウマ?」

「大華炎の練習中に怪我をしたって言っただろ?昨日もさっきも違和感を感じていたが、怪我によって高いところが苦手になりすぎて、身体に異変が起こってるんだよ」


シンシアはまさかと声を上げたが、ラオにとって二年前の出来事は心に相当ダメージを与えたのではと、シルトに抱き留められたままの彼を見てケイは思った。

ラオの様子から、もしかしたら高いところにトラウマを持っているのではとケイは考える。

実際に顔を白くさせ震えるラオ見て、二年前の出来事の傷の深さを感じた。

一方指導員の男性から、六日後に大華炎が行われるようで、ケイはふとあることを思いつく。

次回の更新は10月5日(月)夜です。


閲覧&ブックマーク&感想などありがとうございます。

細々とマイペースに活動していますので、また来てくださいね。

※誤字脱字の報告、または表現の提供をありがとうございます。

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