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異世界満喫冒険譚  作者: GDKK
新大陸編
236/359

230、飛べないラオ

皆さんこんばんは。

いつもご高覧くださりありがとうございます。

さて今回は、ラオの羽根とブルノワが飛ぶことを教えられます。

『パパ~お兄ちゃん、とべないの?』


ブルノワの言葉と肩にかけていた鞄に向かってショーンが『ワウ!』と吠えたことに何かを思い出したのか、ケイはあっと声を上げる。


「ブルノワ、このお兄ちゃんは怪我をして飛べなくなってるんだ」

『じゃあ、ルトお兄ちゃんのつくったおくすりあげるの?』

「やってみる価値はある」


そう言ってケイは肩にかけている鞄からある物を取り出した。


試験管のような細長いガラス製の入れ物に透明を帯びた青い液体が入っている。

以前、庭師兼錬金術師のルトから長期の旅に出る際に受け取った道具袋の中の一つである。その際に彼から色々と教えてはもらったのだが、錬金術になるとどうも研究者的立場から専門的な用語を並べ立てられている気になる。

そもそもケイは錬金術に関してはさっぱりなため、その時は「そうか~」と苦笑いを浮かべることに精一杯だったことを付け加えておく。


そんな経緯のある薬品用の入れ物を手に、ケイはこれを古傷に塗ってみようとラオとバルトルに説明をした。


「ケイさん、それはなんですか?」

「これはウチの屋敷にいる錬金術師が作った薬品だ。なんでも、物同士がくっついたり古傷で癒着した組織を剥がすものらしい」


本当は錬金素材に始まりその効力などを羅列されたが、これまたさっぱりなため、そんなようなことを言っていたことを思い出す。


ルト曰く、住宅地区に住んでいるとある主婦層の方々から、子供がイタズラで鍋同士をくっつけてしまい取れなくなったと話を聞き、実際に試し成功させた事例が何度かある。また人の肌にも使えるように調整をしているそうで、傷跡の不要な癒着物を取り除くことにも適していると医師からのお墨付きも貰っている。


この薬品は、現在アルバラントの一部の医療機関に試験的に用いられているそうだが、改良に改良を重ね、将来的には一般向けに販売を検討しているらしく商人ギルドのハワードと話し合いが続いていると言っていた。


そんなルトの薬品を片手に、ケイは羽根を正常にさせるためには回りの組織を綺麗にする必要があると述べる。


不安そうな様子のラオに実際に自分たちの大陸で用いられているから大丈夫だと諭すが、見ず知らずの赤の他人から薬品を提供されるのは、例えそれが自分たちに取って必要なものでも誰だって警戒はするだろう。

ましてやラオは成人前の少年だ、両親の変わりに族長のバルトルが面倒をみているので、勝手にするのはまずいと判断し、保護者の役割を担っている彼に了承を得ようと伝える。


「まずラオの羽根を正常に戻すためには、怪我で古傷と羽根が癒着しているところを取り除く必要がある。この様子だと、それをしないまま治癒したから怪我の様子からケロイド状になっている部分が神経を圧迫しているみたいだから、その部分を綺麗にするのが先だ」

「じゃあ、その薬品でラオの怪我は治るのか?」

「この薬品だけじゃ無理だ。これはあくまでも余分な組織を除去するだけの効果しかない。それにラオの怪我の後には、羽根が抜け落ちた部分が数ヶ所ある」

「バルトルさん、横からすまない。自分もラオの怪我をした部分の羽根を見せて貰いましたが、長い間手入れをしていなかったせいか、羽根が生えそろっていない状況のようなんです」


補足するようにレイブンが間に入り、ラオが飛べるためには羽根を整えなければならないと伝える。


そもそも羽翼族の羽根はどうやって手入れをしているのか。

本来の正常な羽根を持っている場合、古い羽根は抜け落ち、新しい羽根が生えてくるが、ラオの場合は羽根自体が損傷をしているためその過程が阻害されているが故に十分に出来ていない。


ケイはラオとバルトルに了承を得て、早速癒着した部分の除去を行うことにした。


アダムがラオの左の羽根を持ち、本人に痛みがない程度に広げる。

羽根を持って広げるという事をしたことがないので、終始痛がっていなかと気遣っている。まるで初めて赤子を抱く人と同じ状況である。


「古傷の黒い部分って怪我以外にもやけどの跡があるんだな。ケロイド状ってことは普通の鳥とは構造が違うって事か?」

「僕も見てみたんだけど、羽翼族の羽根は鳥とは違って独自に形成された羽根を持っているようなんだ」


羽翼族の羽根というのは、鳥の羽根と構造が異なり綿羽が正羽に成長をする。


そもそも羽根には、正羽(せいう)綿羽(めんう)の二種類ある。

鳥の場合、正羽と暑さや寒さを管理する綿羽という独立した羽根があるのだが、羽翼族の場合、綿羽が成長すると正羽へと変わり、月に一度のペースで順番に新しい羽根が生えそろうという仕組みになっている。


ケイがラオの羽根の傷跡に液体をかけてやると、ジュッとした音と煙が上がる。


見た目が完全に塩酸・硫酸のように見えるが、それが収まると、傷の回りについていた余分な付着物が流れ落ちる。最初に見た黒い部分は、付着した古い羽根が汚れていたためそのように見えたようだ。その際に古い羽根もいくつか地面に落ち、よく見ると手入れをしていないが、小さな羽根が生えてきているのが見える。


「なんだ、羽根が生えてきてるんじゃん」

「手入れをすれば、新しく生えてきた羽根も成長するだろうね。だけど生えそろうのにどれだけかかるんだろう?」

「それなら、我々羽翼族は羽根が生えそろっていなくても飛行か可能です」


ケイ達は羽根が生えそろっていない=飛べないという認識だったが、バルトルから例え生え揃っていなくても回りの羽根がそれを補い、飛ぶことができるのという。

そう考えると、近内に飛べる可能性が出てくる。


『お兄ちゃん、とべるの?』


不安そうな表情でケイの顔を見上げるブルノワにすぐに良くなると声をかけると、パァッと華が咲いたような表情を浮かべ、ラオにこんなお願いをする。


『わたしもとびたい!お兄ちゃん、げんきになったらおしえて!』

「えっ!?」


それにラオがギョッとし、隣に居たバルトルがブルノワに疑問を抱く。


「そういえば、この子は?」

「こいつは俺の従魔でシリューナという魔物だ。だが見ての通り、まだ生後一年も経っていない。俺は一般常識なんかは教えられるが、羽根を使って空を飛ぶということを教えることはちょっと難しい。でだ、もしラオが良けりゃブルノワに飛ぶことを教えてくれねぇか?」

「えぇぇっ!?」


突然の願いにラオは困惑をした。

まさか、自分が助けてくれた恩人の従魔に飛ぶことを教えるとは、思っていなかったのだろう。

もし、ケイ達に羽根が生えていれば教えることが出来たかもしれないが、仮に飛び方を知っていても理論でしか教えることが出来ない。それを聞いたバルトルも「ふむぅ~」と考え込み、自分も補助という立場でブルノワに教えることは出来ると肯定的な返事を貰える。


「ラオ、せっかくなんだ。この子の飛び方を教えてみたらどうか?」

「えっ・・・あ、はい。僕で良ければ」


少しうかない顔で二つ返事をしたラオは、ブルノワに飛び方を教えるため、一行を屋敷の敷地内にある広場へと移動した。



「羽根は動かせるみたいだな」

「はい。二年も動かしていないので少し時間はかかりますが」


バルトルの屋敷の裏手に植林場に囲まれた小さな広場がある。

そこは普段、バルトルを始め屋敷の使用人達が出入りしていることから身内だけしか使っていないそうで、小さいながらもそこそこ広い敷地に庶民のケイはもったいなさを感じる。


まずラオはバルトルの指導の下、羽根を動かす準備運動を行っていた。


なにせ二年もまともに動かしていないため、正常に動くことを確認しつつ、羽根の状態も見なければならない。

バルトルからは、ラオの羽根に傷跡が残っているが、薬品のおかげで余分な部分がそぎ落とされたことにより、元との傷はそんなに酷くはないように見えるそうで、長年動かしていないためか、若干痛いと行っているがそれも馴れてくるだろうとラオを見て何度目かの安堵をする。


「空を飛ぶって難しいのか?」

「コツを掴むまでは少し練習がいるが、大体ひと月からふた月ぐらいで飛べるようになるはずだ。ただ、この(ブルノワ)の場合は生まれてから一年も経っていないといっていたから、羽根の骨格が成長しきっていない可能性はあるだろう」

「早くに飛ぶ練習をすると羽根が痛むとか曲がるからってことか?」

「それはないが、体力的なものを考えるとあまり無理をさせないことがいいかもしれない」


準備運動を終えたラオにまず羽根に意識を集中してみてと声をかけられたブルノワは、眉間にしわを寄せてん~~~と唸る。

集中というよりは、術者が念を込めている仕草にしか見えず、ケイ達にはわからないことなのだが、要は肩甲骨と背骨の間にある筋肉を動かすような感じだという。それを聞いて難易度が高いなという印象だったが、人間でいう耳を動かすとか鼻の周りの筋肉を動かすぐらいのものだろう。


ラオはというと、先ほどの準備運動が効いたのか徐々に羽根に力が入るようになってきたようで、ゆっくりだがバサバサと羽根が動き始める。

まだ飛ぶまではいかないが、羽根の動かし方を思い出したのか、徐々に力強く大きく羽ばたくとしばらくしてその羽ばたきを止めた。

どうやら二年のブランクが大きかったのか、体力も落ちたせいで息切れを起こしている。まぁ、後遺症がさっきまであったので無理はないだろう。


そんなことを思っていると、バルトルが驚きの声を上げた。


「驚いたな!?もう飛べるようになったのか!??」


唖然とする一同を尻目に、ブルノワは地面から二十センチほど浮き上がり、その小さな羽根をパタパタと動かし飛んでいる。

魔物の特性によるものか、数秒でわずかだが飛ぶことが出来ている。こちらはまだ幼い体格のせいか、疲れたと飛ぶのを止めてケイに出来たよとニコニコと笑いかける。


『パパ~!パパ~!みてた~!?』

「あぁ。上手に飛べたな!」『バウ!』『ワウ!』『ガウ!』

『うん!もっとれんしゅうして、パパのやくにたちたいの!』


ケイが頭をなで回し、少佐は嬉しそうにその周りをクルクルと回っている。


羽翼族でもブルノワぐらいに早く飛べるようになる人はいないようで、ラオが少し教えて飛べるのだから、これからも続けばもっと遠く高く飛べるようになるというと『かんばる!』とブルノワがエイエイオーと拳を突き上げた。



気がつくと、長く広場に居たのか太陽が西に傾いているのが見えた。


ブルノワは嬉しさのあまり飛ぶ練習を繰り返していたが、とうとう芝生の上に寝転んだまま疲れて眠ってしまった。

バルトルはせっかく来たのだから、しばらく屋敷に泊まっていったらどうかと言われ、じゃあお言葉に甘えてと宿泊先まで提供してもらうことができた。

バルトルにミゼリとユアンのことを聞くと、二人は敷地内にある別の屋敷に住居を構えているそうで、しばらくは顔を合わせることはないと気を使われた感がある。


「ラオ!そろそろ屋敷に戻るぞ!」

「え?あ、はい!」


バルトルに声をかけられたラオは、この時には車いすを必要とせず自力で歩くことが出来たので、こちらへと歩み寄る。


ケイはこの時、何故かラオの顔が浮かないことになんとなく気づいていた。

こちらを向く彼の顔は、夕日に照らされているにもかかわらず、少し青く見えたことになんとなくだが違和感を感じていた。

夕方まで満喫したブルノワとは対照的になぜか顔色が優れないラオ。

ケイはその表情に何かを感じたのですが、それがまさかそんなことになるとはこの時だれも気がつきませんでした。

次回の更新は10月2日(金)夜です。

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