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異世界満喫冒険譚  作者: GDKK
新大陸編
234/359

228、羽翼族の国・ガラー

皆さんこんばんは。

いつもご高覧くださりありがとうございます。

さて今回は、羽翼族の少年をガラーに送り届ける回です。

保護をした少年が目を覚ましたのは、翌日の昼を少し回った頃だった。


バギラから連絡を受けたケイ達とダットは船医室に足を運んだところ、羽根がある少年は喉が渇いていたのか船員から水を手渡され飲んでいるところだった。


「坊主、調子はどうだ?」


水を飲み終えたタイミングでダットが声をかけると、一瞬ギョッとした表情を浮かべ、固まった顔で頷く。どうやらどこぞの恐い人だと思われているようで、その様子を見たバギラからこの船の船長だと伝えるとあっ!と気づきお礼と頭を下げた。


「あの・・・先ほどここに居た船員の方から話を聞きました。どなたかは知りませんがありがとうございます」

「俺は魔道船の船長でダットだ。今は冒険者のケイ達とジャヴォールに船で向かってる。で、お前は?」

「僕は、羽翼族のラオといいます」


ラオと名乗った少年は、上空にある羽翼族の国・ガラーに住んでいるといった。


彼は先ほど同席している船員に昨日のことを説明され、ダットが何故落ちてきたと問うと戸惑う様子をみせたのちに言葉を濁して俯く。


「もしかして、なにか言いたくないことでもあるんじゃないか?」

「この調子だとそうみたいだな。で、ケイはどうするんだ?」

「どうするも、こいつをこのままにしておくのはまずいんじゃないかと思ってる」

「それならガラーに送り届けるってことか」


このまま船を進ませれば完全に誘拐と同じ状況である。


さすがにそれはしたくないと思ったケイは、ジャヴォールに向かう前にガラーに行くべきだとダットに意見する。

ダットもケイと同じ意見で目的地を変更すると同席した船員に伝え、船員が承知しましたと言い、目的地の変更を全船員に通達するために退出をする。


「あの・・・僕をこの船においてはくれませんか?」

「坊主、何を言っているんだ?」

「これ以上、姉さんの負担になりたくないんです。僕のせいで姉さんの人生が犠牲になるなんて嫌なんです・・・お願いします!」


その様子を見たシンシアが、隣に居たケイになにか訳がありそうねと耳打ちする。


少年は自分が飛べないせいで姉に迷惑をかけていると言い、ダットは家族が心配するからと断ると、それがショックだったのか頭を垂れた。

どういうことかは分からないが、いずれにせよこの少年と家族間で問題があることは間違いないようで、これにはダットもそれはさすがにと頭を掻いた。



少年を医務室に置いたまま、ケイ達とダットは甲板へと戻った。


既に全船員に通達されたのか、今すぐにでも出発できる準備はできているという。

しかし、どうやって上の大陸まで行くのかとケイが疑問を浮かべると、船員達について来た精霊達が大丈夫!と胸を張って意思表示をしている。


「ダットさん、準備が出来ました!」

「レマルク、どうするかはわかっているのか?」

「もちろんです!」


ね、兄ちゃん?とレマルクが隣にいるイベールに声をかけるとコクリと頷く。


イベールとレマルク兄弟には風の精霊が五体ずつ契約された形になっている。

契約と言っても二人曰く、お菓子をあげたらついて来たそうだ。それを聞いたケイはなんか思っていた契約と違うなと思ってはいたが、そもそも精霊によって方法が違うためそんなものだと納得するしかない。


二人が周辺を飛び回っている精霊達にお願いね!と伝えると、精霊達はわかっているのかクスクスと笑い声を上げ、その場を離れると他の精霊達と合流するように船の周囲を飛び回る。


精霊達が一体また一体と光り出し、船全体が仄かに照らされたと同時に波に変化が起こる。


「ダットさん!舵をお願いします!皆さんは飛ばされないようにしがみつける場所にいてください!!」


レマルクが声を上げると同時に風が吹き始め、変化が起きた波が徐々に大きくうねりを上げる。ケイはブルノワと少佐を抱え、仲間達も衝撃に備えられるように各自で掴める場所に配置につく。


「ケイ!あれを見ろ!!」


アダムの言葉に海の方を向くと、船を囲むように四つの渦潮が発生する。


精霊の力は渦潮を発生させることができるんだなと、他人事のように見ていたケイだが、よく見ると渦潮が船の方に向かってきているのが見える。


「え!?ほ、本当に大丈夫なのよね!?」

「大丈夫です!このまま上に行きますので、しっかり掴まってください!」

「へっ!?きゃっ!!」


顔面蒼白のシンシアにレマルクが大丈夫と告げた瞬間、四つの渦潮は船の下を通り下から突き上げる衝撃が伝わると、船全体が浮遊する感覚がした。


『パパ、あれ~!』

『バウ!』『ワウ!』『ガウ!』


しがみついているブルノワと少佐が、きゃっきゃと喜びの声を上げている。


目の前に浮かぶ島が広がり、魔道船は精霊の力を使い水柱と風の勢いで浮遊すると弧を描くように船は大陸の側面を上がっていく。まるでファンタジー映画のワンシーンの様な展開に、自身が浮かぶ時と違う体感できた。


「これが羽翼族の国・ガラーか~」


浮遊する船の左前方には、遺跡のような都市が見えた。


眼下には風になびく小麦色の草原が広がり、右側に目線を移動させると小さな森に囲まれた泉のような場所が見える。

浮遊する魔道船を何処に下ろせば良いのかとダットが考えると、レマルクとイベールが精霊達が泉の方においでと言っていると伝える。


「本当に泉に下ろして良いんだな?」

「はい。精霊達がすでに話をしているみたいで大丈夫だと」


泉といえば“何かがいる”というお決まりのような感じはするが、確認したダットにレマルクとイベールが大丈夫だと頷く。



「野郎ども!!着陸の準備だ!!!!」

「「「へい!アニキーーー!!!!」」」



ダットの合図で浮遊していた魔道船は、右側にある泉へと着水した。


その衝撃で泉の水が少し溢れたが、そもそも船が置かれることを想定していないため仕方がない。ダットの合図で船員達は各自持ち場につき、着水した船を固定するために碇を下ろす。まぁ、船が着水出来るほどの小さな泉なので何処かに流される心配はないが、乗降の事を考えると万が一ということでいつも通りの流れに移る。


船が泉に着水した頃、ケイ達は医務室に戻りラオの様子を尋ねた。


バギラによれば落下による身体の傷はケイによって完治しているが、彼が特に気になるのは左の翼の古傷だという。


羽根の抜けた一部が古傷と伴って羽根の癒着により黒く見え、手入れをすればその部分は自ずと綺麗になるのだが、バギラが触れた際にラオが極度に痛がっていたので、それが元で身体を上手く動かすことが出来ないでいるようだ。


「でも、そういうのって換羽とかで生え替わるんじゃねぇの?」

「普通ならそうなのかもしれない、実は君達が外している間にラオ君の身体を調べてみたんだ。どうやら古傷が神経を圧迫しているみたいで、それが元で羽根の手入れが出来ていないみたいなんだ」


本来なら古い羽根を自分で抜くか自然に抜くかで新しい羽根が生えるのだが、ラオの場合は古傷の痛みで羽根の手入れが出来ず、古い羽根が残ったことによりそれが更なる痛みを伴っているのだろうと指摘する。

バギラ自身もあくまでも鳥の構造を参考にしたまでなので、実際の羽翼族の羽根の構造とは異なるかもしれないと意見し、できるなら彼以外の羽翼族から話を聞ければ聞いた方が良いと助言した。


「とにかく、俺達はラオを連れてガラーにある町の方に行ってみるさ」

「申し訳ないけど、お願いするよ」


ラオは自分で歩いたり動いたりすることはできるのだが、激しい動きには身体がついていかないようで、ケイは創造魔法で車いすを創造するとそこに彼を座らせた。


今回もアレグロの事を考えてシルトも同行することになったが、なぜか一部の船員達は直立不動だった。さりげなくシルトに聞いてみると、自分が留守の間に宿題を出しておいたと笑みを浮かべたのだが、それは詳しく聞くべきではないと思い、ケイはそっかと返した。


「ケイ!俺達はここで待ってるからよ、何か困ったことがあったら言ってくれ!」

「あぁ。わかった!ラオを家まで送ってくる!」

「すまねぇな!頼んだぜ!!」


船から下りたケイ達はラオを車いすに座らせると、ダット達に見送られながら北に見えた町へと向かうことにした。



「この辺りってホントに草原だけなんだな」


泉のある森を出て、町がある北に向かう道中で変わり映えのしない景色にケイが思わず口をもらした。


左右には先ほど上空から見えた小麦色の草原が広がり、その中央には舗装されていない道が続いている。それはまるで、田舎道のようだとケイが幼少の頃に家族と行った祖父母の家を思い出す。


しばらく道なりに進むと右手に一件の建物が見えた。


ローマ時代に建てられたギリシャ神殿の一つエレクティオン神殿を彷彿とさせ、長い間そこに建っているのか時代の流れを感じる。建物自体も古代ギリシャの技法であるイオニア式に近い技法が使われ、その技術はこの時代から考えると高い方なのだろう。


「ラオ、あれは神殿か?」

「え?あ、あれは一応は神殿になる、のかな?」

「違うのか?」

「前までは神殿として使われていたけど、今は大華炎(だいかえん)の祭の道具なんかを仕舞っているんだ」


大華炎というのはガラーの祭のひとつで、町を挙げて盛り上げ、日没後に火の付いたたいまつを持って空を飛び踊り舞うという催し物のことだという。

空を飛ぶファイアトーチのようなものなのだろう。大分興味深い。


それから道なりに北に進んでいくと、高低差のある町のようなものが見えた。

あそこがラオの暮らす町らしい。


町は古代ギリシャを彷彿とさせる建造物で、奥にはアンコール・ワットの様な建造物が存在感を放っている。それは遠くからでも一目で分かるほどで、あの建物は羽翼族の長が住む建物となっている。


「そういや一日も家に帰らなかったんだ、親御さんは心配してるんだろ?」

「父さんも母さんも居ないし、みんな姉さんのことで頭がいっぱいだから誰も心配なんてしてないよ」


アダムの問いにふて腐れた表情をしたラオ。


彼の家族は六つ上の姉だけで、近々長の息子であるユアンとの結婚が決まっているという。もちろんそれ自体は喜ばしいことだが、ラオの表情を見る限り、子供特有のすねた表情が窺える。肉親の姉を取られることに不満を抱いているような感じもするが、ケイから見たラオは寂しそうな表情の中にどこか別な部分で悔しそうな風にも見てとれる。



「ラオーーーー!!!!」



町の入り口まで数百メートルの位置で、こちらに向かって一人の男性がラオの名前を呼びながら駆けてくる。


ラオは向かってくる人物に驚いたのか、目を丸くして唖然としているだけだった。

羽翼族の少年・ラオは、何故大陸から落ちてきたのか?

バギラの話では、ラオの羽根に古傷があり、それが元で痛みが伴っているのではと指摘する。

ケイ達はラオを町まで送り届けるため、新たな地へと足を踏み入れるのだった。

次回の更新は9月28日(月)夜です。


閲覧&ブックマーク&感想などありがとうございます。

細々とマイペースに活動していますので、また来てくださいね。


※誤字脱字の報告、または表現の提供をありがとうございます。

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