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異世界満喫冒険譚  作者: GDKK
新大陸編
233/359

227、翼の少年

皆さんこんばんは。

いつもご高覧くださりありがとうございます。

さて今回は、ジャヴォールに向かう航海中に起きたとある出来事のお話です。

「あ~~~~~暇っ!」


ドゥフ・ウミュールシフから船で北に三日ほど進んだ地点で、海を見つめながら作業をしていたケイが声を上げた。


この数日は天候にも恵まれ、特別なことはなにもなく穏やかに過ごしている。

海から来る潮風は日本の気候とは少し異なり、熱くもなく寒くもなく季節でいうならば春や秋のような気候に非常に似ている。


大陸に居た時とは気候が違っているのか、最近では少佐の換毛期が始まっている。


ケイは動物用のクシを手に一頭一頭梳かしては間に溜まった毛を手で取り、飛び散らないように抜けた毛を袋に入れる。少佐は元々全体的に黒毛なのだが、換毛期が始まったところで少し銀がかった黒へと変わりかけている。

面白いことに、光の加減で銀の部分がそれぞれ色が異なっているようで、ショーンは赤、サウガは青、ヴァールが黄と光の反射で仄かに見えている。


これはダジュールにいる魔物に限ってそんな色合いになるのかと思ったのだが、ブルノワはシリューナという魔物にも関わらず人型のためか、背中の白い羽根の換羽が起こっていない。

彼女の背中は鳥のような形状をしているため、もしかしたら幼鳥という分類のせいかもしれないが、その辺に関してはダジュールの管理者で調べたところ、個人差が激しい個体のようで一概にはいえないらしい。


お風呂に入れてやると、時折背中がかゆいと言っていたことがあり、鳥の扱いに詳しいレイブンに尋ねたところ、もしかしたら身体が成長するにつれて羽根も大きくなってきているせいもあるかもしれないと答えが返ってくる。


現に最初の頃より少佐もブルノワも二回りほど大きくなってきている気がする。


少佐に至っては三頭分の頭があるために、体感的にはブルノワより重く感じることがある。いずれにせよ順調に育っているということを実感できるようになってきたのは確かだ。


『パパ~』


少佐の手入れが一段落した頃、ブルノワがクッキーがのった皿を手にケイの元にやって来た。後ろからはタレナが付き添い、彼女の話からブルノワがケイと少佐のためにクッキーを焼いたと伝えられる。


クッキーは丸くかたどったクッキーは少しいびつで焦げ目が出来ているが、初めてにしてはよく頑張ったとケイが褒めると、ブルノワが恥ずかしそうにでも嬉しそうな表情を浮かべる。


口に入れると、仄かに甘くしっかりとした感触を感じる。


「これ、美味いな~」

「ブルノワが、一生懸命作ってくれたおかげですよ」

「よくできてるじゃん。シンシアより上手くなれるんじゃねぇの」

「それ、シンシアさんに怒られますよ」


タレナから本人の居ないところでそんなこと言って~という顔をされたが、初めてにしては本当に上出来で、親バカと言われかねないがケイに取っては嬉しいプレゼントだと、皿にがっつく少佐の姿とそれを眺めているブルノワを見て感じる。


「そういや、精霊族の時は悪かったな」

「えっ?何のことでしょう?」

「無神経に推測してアレグロのことで傷ついたんじゃないかと思ってさ」


アダムやシンシアからは、無神経なところもあるから気をつけろと言われたことがあるが、実は両親や兄姉からも言われたことがあるので多少は自覚をしているつもりだ。


タレナはそんなケイを見て笑みを浮かべると、気にしていないと首を振る。


「ケイさんが色々と考えてくださったことで、私達が生きていた時代に一体何があったのか?それ少しでも知れてよかったと思ってます」


普通ならシンシアの様に怒ってもいい場面はいくつかあるが、タレナを始めアレグロとシルトはケイの発言にそうか!と手を打つことがある。

本人達がそう思っているならいいのかな?とケイは内心思っていたが、まぁ怒られたら怒られたで仕方ないと、何故か悟りの境地を開いている僧侶のような表情でタレナを見つめていた。



「ケーーーイ!島が見えたみたいよ!起きて!!」


時刻は夕刻の少し前の事、部屋で昼寝をしていたケイが目を覚ました。


とくにやることがないと、少佐とブルノワと共にベッドでゴロゴロしている内にうたた寝をしてしまったようで、気づいたら窓からみえる空は日が傾き、茜色に染まっている。


表でシンシアが扉を叩き、ケイが起きるところを待っている。


ベッドから起き上がり、一度背伸びをしてからシンシアの声にブルノワと少佐が目を覚まし、半分寝ぼけたままでその場に座っている。

二体を両脇に抱え部屋を出ると、まだ寝てたの?とシンシアのあきれ顔が見えたが寝る子は育つんだと言うと、もう子供じゃないでしょと一刀両断された。


甲板に出ると、進行方向の眼前に空に浮かぶ巨大な大陸が広がった。


ダットを始め、船員達は見たこともない現象に唖然とした表情で大陸を見上げ、ケイ達も同じような感想を浮かべる。


「ケイ、また寝てたのか~?それよりあれを見ろよ!」


半分寝ぼけているケイにダットがまたかと呆れながら指し示すと、一瞬ファンタジー映画のワンシーンのような展開に思わず自身の頬を抓った。だが、痛覚が存在していることから、これはまさに今起きている現実だと理解できる。


まさかこの年になって異世界で中二病のような展開が目の前に起こっているとは、覚悟はしていたが妙な違和感を覚える。


「本当に島が浮かんでいるのね~」

「この地図で言うと、あの島はガラーっている国らしい」

「たしかジャヴォールも空に浮かんでいる島って言ってたわね?陸続きじゃないようだけど?」

「距離的には、この島から遥か北北西にあるようだな」


ケイとシンシアが地図を眺め、現在地を確かめる。


リュエラの話では羽翼族という人種が住んでいると言っていたが、名前から想像するに、羽根の生えた人種ということなのだろう。

時間があれば寄って行きたい気持ちがあるが、アレグロの事を考えると早くジャヴォールに向かおうと、舵を取るダットにより船はその島の遥か下を進んで行く。



「ダ、ダットさん!!!!」



船員の誰かが声を張り上げたと同時に、船に強い衝撃が加わった。


船は頑丈に出来ているが、咄嗟の衝撃に大きく揺れたと同時に水しぶきが上がる。

どうやら衝撃は上から来ていたようで船員と精霊達は大慌てで右往左往し、ダットが一喝すると、慌てた様子から瞬時に対応出来るように体制を整える。


「ダット!何があったんだ!?」

「俺も分からねぇが、檣楼にいる奴らから上空から何かが降ってきたとは聞いている!」


ダットは船を緊急停止させると衝撃がした後方の方へと走って向かい、船員達の人だかりが出来ていたので人垣をかき分けると、船員達が倒れているとおぼしき人物に声をかけている場面に遭遇する。


「おい!何があった!?」

「ダットさん、急にこの子が上から落ちてきたんです」


船員の一人がダットに声をかけ、その直前には檣楼に居た船員が人が落ちてくるところを見たと証言している。


見ると茶色の髪をした十代半ばとおぼしき少年が倒れており、うつぶせに倒れている彼の背中には白い羽根の様なものが生えている。もちろん船員は倒れている少年に声をかけたが返事はなく、別の船員がバギラを呼びに走っている。


「頭を打っている可能性があるから動かさない方がいい」


ケイは声かけをしている船員に伝え、鑑定をかけると落下の衝撃でいくつかの箇所に骨折が見られた。


「バギラは呼んでいるよな?」

「はい!もちろんです!」

「そうか。ケイ、こいつの状態はどうだ?」

「落下の衝撃で意識を失っているみたいだ。たぶんその衝撃で骨折もいくつかしてるようだし、とりあえず処置はしておこう」


ケイが【エクス・ヒール】を施すと、光と同時に少年の骨折の治療が改善する。


ほどなくして船員に連れられてきたバギラがやって来ると、ケイの鑑定と彼の診断によって頭部の損傷はなく、骨折もケイにより完治しているため少年は船員達により船医室へと運び込まれた。



「・・・ということは、あの青年は上の大陸の奴ってことか?」

「あぁ。船員の話によると、そうなるみたいだ」


医務室に運ばれた少年は船員達からの目撃証言によって、羽翼族が住むガラーの国の人物ではないかと考えつく。


その時、魔道船は浮かんでいる島の側面を通り航海していたため、たまたま何かしらのハプニングにより少年が落ちてきたところにこの船の上だったというところだろう。まさか上の大陸から落下してくるとは想定していなかったケイ達は、先ほどの少年を家まで送り届けるしかないかもしれないとダットが思い始める。


「上の大陸ってどう行けばいいのかしら?」

「そういえば、リュエラさんが精霊達の協力があればとか言ってなかったか?」

「あ~そんなこと言ってたな~。でも夜に動くのはまずいんじゃないのか?」


アダムからそんな話を振られたケイは精霊が協力?と疑問を浮かべたのだが、日没を既に過ぎている夜航海は危険があると以前ダットから聞いたことを思い出す。


もちろん、この海にも魔物は生息している。


一番多いのは、夜航海している船に反応して襲いかかってくる魔物が存在である。

ちなみに一般的な船の場合は夜間の移動は原則禁止となっているが、ただこの魔道船は周辺の魔素を吸収して発光し魔除けの効果もある、とんでもない規格外の性能を持っているため該当しない。


それに、この船には現在冒険者をしているケイ達の他にも前歴が冒険者という船員も何人も居る。


シルト曰く、実力はボガードには及ばないがなかなかスジがいいとのこと。

ケイ達は知らなかったが、シルトによる船員達の早朝スパルタ教育が行われているとマカドから聞いた。彼の話では、シルトからケイ達とは別に船員達に専用の食事を用意してほしいと一月前から相談されていたそうで、どこぞのスパルタトレーナーか!?というほどのハードなメニューに、さすがのマカドも苦笑いを浮かべたそうな。


「とりあえず、まずは少年の回復を待ってみるしかないか」

「あれだけ派手に落ちたんだもの、むしろあの高さから落ちてあの程度ですんだことが奇跡じゃない」

「ん?てか、羽根が生えていたから途中で飛べたんじゃないのか?」

「どうも、あの少年はそうじゃないみたいだよ」


ケイ達の会話に船医室から出てきたバギラが会話に入る。


どういうことなのかと聞くと、保護された少年を詳しく診察したところ左側の翼の一部に古傷と一部の羽根が抜け落ちた跡があるそうで、それが飛行に支障をきたしているのではとバギラは考えている。


もう少し分かりやすく言うと、鳥でいう風切り羽根が半分ない状態だどいう。


正直なところ羽翼族の羽根がその構図に該当するかは定かではないが、どちらにしろ本人を放置してジャヴォールに行くことはちょっとなと考える。

何がともあれ、まずは保護をした少年の回復を待つことが先だと考えたケイ達は、一旦ジャヴォール行きを中断することになったのである。

空に浮かぶ大陸から羽根の生えた少年が降ってきた。

まさかの出来事に一同がパニックになるが、話し合いの末にジャヴォールに向かう前に上空に浮かぶ大陸に少年を送り届けようとします。

果たして少年に何が!?

次回の更新は9月25日(金)夜です。


閲覧&ブックマーク&感想などありがとうございます。

細々とマイペースに活動していますので、また来てくださいね。

※誤字脱字の報告、ありがとうございます。

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