21、幻のダンジョン(後)
ダンジョン攻略(後編)です。
さて何があるかな?
「いやいや!嘘だろう!?」
ケイが、先ほどまで動かなかった石像が立ち上がる姿に思わずつっこみをいれる。
ダンジョン定番のトラップと言ったところだろう。
しかしおかしなことに、鑑定をした結果【アスルの亡霊】となり、能力値が表示されないという事態が起こった。
石像は、ゆっくり振り上げるとケイ達の頭上から勢いよく剣を振り落とした。
それを間一髪で避けると、その地面ががえぐられた状態になる。生身で受けた場合は即死の可能性を示している。
「これ受けたら即死だな」
「そんな悠長に言っている場合か!?」
走って柱の陰に隠れた四人は、この後の対策を練ることにした。
「ケイ、何とかしなさいよ!」
「人任せかよ!」
「あんたなら出来るでしょう!?」
シンシアがケイの胸ぐらを掴み揺さぶり、それをレイブンが宥める。
「しかしまいったな・・・」
柱の陰から様子を伺うと、石像はケイ達の姿を探すそぶりをしていた。
入り口とは反対側の柱に隠れたため、走り抜けることができない。
「イチかバチかやってみるか」
ケイがそう呟くと、天井を支えている大きな四つの柱に注目した。
まず、創造でワイヤーを作成。風属性魔法でワイヤーを飛ばし、柱を巻き込みながら円上に囲む。
「よし!これでオッケー」
「ケイ、何をするんだ?」
「まぁ見てろって!」
ケイがワイヤーに魔力を込めると、淡く紫色に変化する。それを確かめた後にワイヤーを持つ手に力を込めてそれを思いっきり引いた。
ワイヤーに巻き付いた柱に亀裂が走ると、音を立てて中心に向かって倒れ始める。
異変に気づいた石像は、慌てて身を翻すが時すでに遅し。
四本の柱が石像を囲むように倒れると、天井部分から瓦礫が降ってくる。
瓦礫は石像を下敷きにするように押しつぶした。
幸い、四人は端に避難をしたため瓦礫のホコリをかぶる程度だった。
「良く思いついたわね~」
「昔読んだ本にこんなことが載ってた」
「どんな本よ~」
シンシアは、ケイが読んでいる本が物騒すぎることに若干引いていた。
黒い騎士を模した石像を倒した四人は、ようやく安堵した。
「下につながる階段が見当たらないから、もしかしたら何か仕掛けがあるのかもしれない」
「なら予定通り、この部屋を調べてみましょう!」
アダムの提案に、各々部屋の中を調べることにした。先ほどのように隠し通路が存在するかもしれないからだ。
「皆!こっちだ!」
何かを見つけたレイブンの声に、三人が奥に向かう。
ツタに紛れるように幾何学模様の青い扉がみえる。アダムとレイブンが剣でツタを切ると二枚扉になっており、ドアノブや鍵穴が見当たらない。
「この扉、どうやって開けるのかしら?」
「仕掛けを作動するモノも見当たらないようだ」
レイブンの言った通り、確かにそれらしきものが見当たらない。
「これは、もしかして・・・」
ケイが扉の中心にあるくぼみを見つける。鞄から蒼いペンダントを取り出すと、くぼみにそれをはめた。
幾何学模様の青い扉が蒼いペンダントに反応し、中心から光が扉全体に広がる。
扉は震動しながら左右に開いた。
「ひ、開いた・・・の?」
「この下にもまだあるってことだな」
ケイが覗くと、青い光に包まれた下に続く階段が見える。
ペンダントを回収し、四人は下へと下りていった。
「なんじゃこりゃーーーー!!!!」
四人が下りた先には大きな穴が広がっていた。
全ての壁が青く光、上や下はどこまでも続いていて先が見えない。まるでSF映画のワンシーンのような空間だった。
「夢を見てるわけじゃないよな」
「なんだか変な気分だわ」
「目が少し痛い」
三人は見慣れない風景に戸惑っていた。
よく見ると渓谷の反対側には、先ほどと同じような扉が見える。
反対側とは距離が離れすぎているため、ジャンプで飛び越えるのは無理そうだ。
「あそこはどうやって行くの?」
「もしかしたら仕掛けがあるのかもしれない」
辺りを見回してもそれらしいものが見つからない。しかしここを超えなければ奥には行けない。
前のワープゲートに戻るにも、隠し通路から途中で落ちてしまったため距離がわからない。となれば必然的に進むしかなくなる。
「これはなんだ?」
アダムが階段横に奇妙なものを見つけた。
「なんの文字かしら?」
「もしかしてここを渡るためのヒントか?」
壁には何かの言葉で文字が書かれている。しかし古代語のようなもので、内容までは読み取れない。
ケイがタジュールの管理者で検索をかけてみると『アスル語』という項目がかかる。
千年以上前に存在しており、これを元にダジュール共通語が創られたという。
【アスル語を習得しました】
脳内で検索項目とは別枠で表示される。
(取得?読めると言うことか?)
ケイは疑問に思いながらも壁の方に注目する。
「『床はないようである』」
ケイがその言葉を読むと、三人がこちらを向く。
「ケイ、読めるのか?」
「なんとかな。これはアスル語という言語らしい」
「アスル語といえば、共通語の元になった言語だな」
レイブンはその言語を知っていたようで、アスル語の研究をしてる学者も存在していると言った。
アスル語は古くからある言語で、歴史を紐解く一つの要素にもなっている。
「床はないようである?床があるというのかしら?」
シンシアが覗き込むと、どこまでも続く穴にしか見えない。
「・・・って!ここを通るの!?」
「戻るにも途中で落ちたからな。どちらにしろ進むしかない」
シンシアがばバッとこちらを振り返り引きつった表情で言うと、アダムが宥めるように説得する。
ケイも壁の文字をそのまま鵜呑みにするほど馬鹿ではない。
念には念をと、創造魔法で砂を作成し、それを穴に向けて投げた。
「やっぱりな」
大穴に投げた砂が宙に浮かんでいる。
「砂が浮かんでいるわ!」
「浮かんでいるんじゃなくて、床に落ちているだけ」
「床?」
「これは見えない床だ」
現に砂はいつまでも留まる続けるようにみえる。
「え!?ちょっとケイ!」
ケイが反対側に向かって歩き出す。
アダム達には宙に浮かんでいるように見えるが、床が透明なだけである。
すたすたと一人歩いて行くケイに、アダム達が躊躇する。
「うぅ~本当にいくの?」
「どう見ても宙に浮いているように見えるんだが?」
「でも床は存在しているようだ」
アダムが手を伸ばすと、ひんやりとした感触が伝わり、足を踏み出すと床の感触が確かめられた。
「不思議なものだな」
アダムが数歩歩き下を見る。やはり大穴に浮かんでいるようにしか見えないからだ。
「これはこのダンジョン特有か?」
「さぁな?」
後から来たレイブンが声を掛けるが、今までこんなダンジョンを見たことがないため肩をすくめるしかなかった。
怖がっていたわりには適応が早い。
「シンシア大丈夫か!?」
レイブンが未だに躊躇しているシンシアを心配する。
恐怖と緊張でで足がすくむ。しかし仲間が先に行っているのを黙っているわけにも行かず、意を決して足を踏み出す。
「・・・あれ?なんか変な感じね。緊張していたのが馬鹿みたい」
初めての感触に戸惑うシンシア。ただの取り越し苦労である。
不思議な感覚を経験した四人が反対側までやってくる。
この扉も同じように中心にへこみがあり、先ほどと同じようにペンダントをはめ込む。
同じように光、左右に扉が開くとまたしても下へ続く階段が存在する。
一同がまだ続くのかとげんなりしていたが、愚痴を言っても仕方ないので素直に下りた。
階段を下りた先は女神像が置いてある部屋だった。
「女神像か?」
ケイが近くに寄ると、一瞬先ほどの石像と同様に動くんじゃないかと身構えた。
しかしそんなこともなく、女神像はそこに佇んでいるだけだった。
「まさかダンジョン内に女神像があるなんてな」
「じゃあ、これか五体の女神像のうちの一体なの?」
「さぁな、やってみればわかる」
ケイが蒼いペンダントをかざすと、共鳴するように女神像が淡く光り出した。
淡い光が雫型に形成されると、ペンダントの中に吸い込まれるように消えていった。
鑑定をすると、女神の雫(1/5)という表示がでる。
「ケイ、さっきのはなんだ?」
「あれが『女神の雫』らしい。鑑定したらしっかり出た」
「意外とあっさりしてるのね」
女神の雫が何を意味をしているのかは現段階では不明だった。
しかしダンジョンやペンダントを見ると、明らかにこの世界にそぐわない感じは否めない。
だとすると、メルディーナが関係していることは、今までの出来事をふまえると可能性が濃厚になる。
女神像の後方にワープゲートが出現する。
「あれは?」
「ダンジョンの脱出ゲートだ」
ケイが指さした先を見て、アダム達が一息ついた。ようやくダンジョンも終わりというわけである。
数日であったが、課題や謎が多く残ったダンジョン攻略だった。
ワープゲート光に包まれた後、四人は地上のダンジョンの入り口に立っていた。
「あんたらも強制排除されたのか?」
近くに居た他の冒険者から声を掛けられる。
なぜかと尋ねると、ダンジョン攻略の途中で強制転移が行われ、ダンジョンにいた冒険者が全員外に出されたという。
その冒険者が他の冒険者のところに行った後、自分たちが攻略をしたためダンジョン消失が消失したことを確信した。
公にできない事情が出来た四人は、疲労のため、とりあえず今日はアルバラントの宿屋に一泊することにした。
女神像一体発見!受難はこれから!?
次回は5月11日(土)の夜に更新します。




