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異世界満喫冒険譚  作者: GDKK
新大陸編
228/359

222、イベールのために

皆さんこんばんは。

いつもご高覧くださりありがとうございます。

さて今回は、苦手が多い船員のレマルクが頑張ります。

「・・・アナベル?」


驚いたケイ達の後方にアナベルの姿を見つけたが、彼女の目線はイベールとレマルク兄弟に向けられていた。


彼女はよほど恨めしかったのか、見た目の愛らしさとは裏腹に狂気じみた表情が見られ、さすがのケイ達も一瞬声を失う。

自分は精霊から距離を置かれているのに、なぜ船からやって来た見ず知らずの人達には懐くのか。内心では腸が煮えくりかえっているだろう。もし自分がアナベルと同じ立場なら同じように劣等感を抱きながらも恨み節をぶつけるであろう。



「ふざけないで!どいつもこいつも嫌いよぉぉぉ!!!!」



ケイがアナベルを宥めようと声をかけようとした瞬間、空気がバチッと音を立て、辺りに凄まじいまでの強風が吹き荒れた。


強風の影響でとてもじゃないが目を開けていられず、ケイ達は反射的に目を閉じるが、その次の瞬間には先ほどのことが嘘のようにピタリと止み、ケイ達が唖然とすると同時に目を開けると、ダット達のいる方向から酷く慌てたレマルクの声が上がる。



「兄ちゃん!兄ちゃんしっかりしてよ!!」



うつぶせで倒れているイベールに、地に膝を付けてレマルクが肩を揺さぶる。


イベールは意識がないのかレマルクに肩を揺さぶられるも起きる気配もなく、何が起こったのかわからない様子で周りに居た船員達は慌てふためいている。


「おい!だれかバギラを呼べ!早くしろ!!」


ダットもイベールが倒れたことを理解したのか、他の船員たちに船医のバギラを呼べと声を荒げる。


ケイがアナベルの方を見やると、彼女の顔は青ざめ「私は知らない」と首を振って否定を示す。この様子だと、無意識に彼女にある何かが作用してイベールの身に何かを起こしたのだろう。


「どういうことだ!?」

「さっきの影響で、アナベルが何かをやらかしたんだろう」

「魔法かなにかか?」

「俺の鑑定ではイベールが【意識混迷】になっているから、おそらく呪術とまではいかないがそれに近いものだろうな」


状況についていけていないアダムの問いに、意識不明で倒れているイベールの鑑定結果を見て総合的に判断をする。


ケイがアナベルを再度みやると、無意識なのか彼女の手に青白く光る何かが握られている。なんだと目を凝らして見ようとするも、騒ぎを聞きつけたのかリュエラが他の精霊達に連れられながら来る姿があった。


「アナベル・・・?これはどういうことなの?」

「お、お母様・・・わ、私は何も知りません!」

「あ!おい!待てって!」


アナベルはリュエラが来たと同時に自分は知らないとまるで子供の言い訳を繰り返し、精霊達の住み家がある方向へと走り去って行ってしまった。

その様子を見ていたケイは、先ほど彼女が手にしていた球体型の青白い何かが気になったため、アダム達が止める間もなく急いで彼女のあとを追うことにした。



「おい!アナベル!本当に待てって!」

「なによぉ!来ないでって!!」


精霊の住み家を走り抜けるアナベルとそれを追うケイ。


その様子を遠巻きに精霊達が見守り、必死に逃げるアナベルと追いかけるケイの姿は、さながら異世界版鬼ごっこというべきなのだろう。

まさかケイもここに来て、精霊族の長の娘を走って追いかけるとは夢にも思わなかったわけだが、いくら精霊族の少女とはいえ、男のケイが普通に走って追いつけない状況に精霊の力が作用しているのかと冷静に分析をしてみる。


走っている距離は一定の間隔を保っているが、このままでは埒があかないとケイがアナベルの進行方向を回り込むようにして脇道にそれる。

一方それを知らないアナベルは、ケイが途中でいなくなったことで巻いたようだと安堵しながらも、リュエラや他の精霊達から逃れるように島の中央にある湖の方に向かっていった。



島の中央にある湖は、森に囲まれた全体的に小さめなものだった。


緑豊かな小さな湖畔に辿り着いたアナベルは息を切らせて立ち止まると、もう限界だとその場で手を膝につきで息を整える。彼女自身、よもや人に追いかけ回されるとは思わなかっただろう。なかなか普段味わえないスリルが癖になる・・・ということは全くなく、むしろアナベル自身もなぜこうなったのかと必死になりながらも混乱した状態でできる限り考えてはみたが、根本的な原因は思いつかなかった。


「おっしゃ!追いついたぜ!」

「きゃっ!」


アナベルの左後方の茂みからケイが飛び出した。


てっきり巻いたとばかり思っていたアナベルだったが、ケイはマップとサーチを使い彼女の逃走経路を逆算し、追いつくように迂回ルートを辿ったのだが、そんなことは知らないアナベルは驚きを通り越して顔を真っ青にさせる。


「ケーーーイ!!」


ほどなくしてアダム達が二人に追いついた。


ダットとレマルクも一緒のようで、イベールのことを聞くとケイ達と入れ違いにバギラが船員とやってきたので、シルトが状況説明のために残り任せたのだという。


「アナベル、その手に持ってる奴を寄こせ!」

「えっ?」

「気づいていないだろうけど、あんたは既に風の精霊と契約してるんだよ。たぶんあんたが契約した精霊の影響で、無意識にイベールの意識の一部をかすめ取ったんだ。それがアンタが今、手にしているやつだ」


ケイが指摘した左手をアナベル自身が目線を動かし確認をする。


そこには、確かにアナベルの手に収まるほどの青白い球体型の物が握られている。

ケイの鑑定では【イベールの意識の一部】と記され、姿を消しているのか該当する精霊の存在は確認されていないが、たしかにアナベルの意思を組んでイベールから意識の一部を抜き取った形跡がある。


「わ、わたし・・・知らないわ・・・何も知らないの!」


アナベルは無意識に行ったことに受け入れられないと首を振る。


ケイ達がアナベルを追いかけて来たことから自分が責められていると感じたのか、しきりに言葉を紡ごうとしたが、この人数を前にしているせいかかなり混乱した様子が窺える。


「ほ、本当に私は何も知らないの!な、なんで責められなきゃいけないのよぉ!」

「あ!おいっ!バカっ!!」


アナベルは気が動転したのか、手に持っていた具現化されたイベールの意識の一部を事もあろうか湖の方に投げ捨ててしまった。全員が「あっ!!」と声を上げ、ケイが止めようとしたが一歩間に合わず、青白い球体は弧を描くように宙を飛ぶとポチャン!と湖へと消えて行く。


「よせっ!レマルク!!」


ダットの制止する声と同時に、ケイとアナベルの横をレマルクが走り抜け、目線を向けるとレマルクが湖の方に走り抜けそのまま飛び込む瞬間が見えた。

着水する音と水しぶきが湖から上がると、それを追うようにダットがレマルクに続き飛び込んだ。


「ケイ!レマルクって泳げないんじゃ!?」


こちらを向くアダムの声にあっ!とケイが驚くと、肩にかけていた鞄をアダムに投げ渡し、ケイも二人の後を追うように助走をつけて湖に飛び込んだ。



イベールが倒れた時、状況が何も分からなかったレマルクは、ただ倒れているイベールを見ていることしか出来なかった。


船員にバギラを呼ぶように指示を出すダットの声で我に返り、イベールに駆け寄り必死に声かけをした。ほどなくして船員に連れられやって来たバギラが冷静に状況と状態を確認し、気が動転しているレマルクにダットが「大丈夫だ」と声をかけて来たことに不安と安堵と何も出来ない自分が恥ずかしくて悔しかった。

ダットと一緒にケイ達のあとを追い、その道中でダットから何が起こったのかと聞いた時には、話半分で残りは余裕のない自分の経験不足を恨めしく思っていた。


しかし、アナベルがイベールの意識の一部を湖に投げ捨てたと同時にレマルクの身体は自然に湖に向かって走り出し、自分が泳げないことも忘れて飛び込んだ。


湖に飛び込んだレマルクは、水の冷たさを肌で感じながらも飛び込んだことにより魚の群が右往左往しているところを視界では認識していたが、意識は湖の底に沈んでいく青白い球体しか見えていない。


ぎこちなくも懸命に手足を動かし、視界に球体を捕らえたまま潜水状態で必死に手を伸ばす。


球体に指先が触れ、何度か指を掠めながらようやく右手でしっかりと捕まえた時、レマルクがハッと我に返り本当は泳げないことを思い出す。


右手は無意識に兄の意識を手放さないように握りながらも左手と両足を使い懸命に泳ごうとしたが、身体がいうことを利かずにどんどん沈んでいく。

そのうち、肺にためていた空気もなくなりかけ、いよいよ溺れそうだと感じた時に誰かが自分の左腕を掴んだ。


自分を掴んだのはダットだった。


意識を保てる瀬戸際だったレマルクは、ダットの顔を見た時に水中にも関わらずなぜか泣きそうになった。

そんなレマルクの表情をダットは見て察したのか、右腕で彼を抱えると、後からやって来たケイと急いで上がろうと身振り手振りで合図を交わしたあとで急いで戻ることにした。



「「「ぶふぁぁぁぁあああ!!!!」」」



三人が湖から顔を出すと、抱きかかえられたレマルクは肺に新鮮な空気がたくさん入ってくるのを感じた。右手に視線を移すと、必死だったが決して離さなかった青白い球体が握られている。


「この馬鹿!もう少しで死ぬところだったんだぞ!?」


レマルクは水の上でダットに一喝をされたが、彼の目には我が子を心配する父親の様な眉を下げた表情に見える。この時怒られたという気持ちより、本気で心配されているんだと胸の中心にストンとなにかが落ちた感覚を覚える。


「でも、まぁ・・・頑張ったな」


ずぶ濡れだったが、ダットの目にはレマルクが泣きそうな表情をしているところが見え、よく頑張ったなと抱きかかえた方の手で頭を撫でてやった。


ケイは咄嗟に二人の後に続いて湖に飛び込んだが、今回は何もすることなくただ濡れただけかと、レマルクの無事に安堵したと同時に困った笑みで二人を見つめる。

レマルクは泳げないと言っていたものの、土壇場になって勇敢さをみせつけたことに異世界でも『鍛冶場の馬鹿力』ってあるんだなとぼんやりと眺めていた。



「ケイ様ーーーーー!!」

「ケーーーイ!!」


あとは岸に上がるだけと三人が向かっている途中で、アレグロとレイブンがこちらに手を振っている姿が見えた。ケイは、こっちは大丈夫だ!という意味を込めて手を振り返したが二人の表情がなぜか慌てている。


「大変よ!!リュエラさんが!!!!」


続けてシンシアの一言で状況が一変したことを知り、三人は慌てて岸に戻ることにした。

気が動転したアナベルから無事にイベールの意識の一部を取り戻したケイ達は、岸に向かう際にアレグロ達が焦っている様子が見えたことから急いで戻ることに。

どうやらもう一悶着あるようで・・・?

次回の更新は9月14日(月)夜です。


閲覧&ブックマーク&感想などありがとうございます。

細々とマイペースに活動していますので、また来てくださいね。

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