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異世界満喫冒険譚  作者: GDKK
新大陸編
227/359

221、アナベルと精霊と船員と

皆さんこんばんは。

いつもご高覧くださりありがとうございます。

さて今回は、アナベルの謎とダットに泣きつくとある船員の話です。

アナベルと最初に儀式を交わした精霊は一体何処のだれか?


実はそれ以前にも問題がひとつある。

そもそも精霊達には名前という概念がなく、大体あいつとかこいつ呼びでことが足りるようで、どの精霊かと言われても精霊達自身もよく分からないと来た。


ただ、一部の精霊からアナベルと契約をしたのは、風の精霊ではないかという証言を得る。


その精霊は、アナベルと契約の儀を交わした瞬間に姿を消したことから精霊達の間では色々と言われているようだが、実際のところはアナベルが恐いからじゃないかと話をしていたようだ。


だが、それなら何故他の精霊もアナベルと距離を置きたがるのか、という疑問が出てくる。


仮に契約が成立した精霊がおり、それ故に失敗が続いているだけならいくら自由人だとしても、誰かがリュエラに教えるはずである。が、その真実がありながらも誰一人リュエラに伝えていない。ケイとしてはその部分が妙に引っかかり、ダメ元で集まっている精霊達にアナベルの印象をそれとなく聞いてみると、小さな少年の姿をした精霊がアナベルに関してとんでもない発言をする。


『アナベルは、リュエラ様に隠れて酷いことをするんだ!』


その発言を皮切りに他の精霊から尋常じゃないアナベルへの不満が綴られる。


発言をまとめると、彼女は幼少の頃から精霊達に嫌がらせをしている様子があり、精霊達は彼女の行動に不満を抱いていたそうだ。


何せ精霊の足を掴んで羽根をもぎ取ろうとしたり、精霊の手を掴んでは無理に引っ張ったりとイタズラや嫌がらせを通り越してもはやいじめのような手段を取っていることを知る。


「・・・というか、本当に嫌がらせ以上の事をしていたってわけね」

「冗談かと思ったけど、かなり深刻な状況だね」


さすがのシンシアと温厚なレイブンでさえも顔を引きつらせ、精霊達がリュエラに言わなかった理由は、彼女をアナベルのことで悲しませたくなかったという思いもあったようだ。


「でも、精霊達に想像以上の嫌がらせをするってなんでなのかしら?」

「おそらく出生時に精霊達から言われたことじゃねぇ?」

「言われたことって、彼女が世界大戦前に生まれたってことが?」


首を傾げるアレグロに、先ほど色々と答えてくれたおじいちゃん精霊がそれ以外にも理由はあるような事を口にする。


『アナベルは、一部の精霊から心ない言葉を言われていたようじゃ』

「なんて?」

『“先代が死んだのはアナベル様が生まれたからだ”と。もちろん、わしはそんなことを思っていないが、それを気にする精霊は少なからずおる』

「世界大戦前に生まれて、尚且つ先代が死んだのはアナベルのせいだってことが?そりゃ、いくらなんでも無茶苦茶な理由じゃねぇの?」


話を聞くと、世界大戦始まった年に先代の長をしていたリュエラの夫、つまりアナベルの父が島を守るために奮闘し精霊達と共に命を落とした。その同時期にアナベルが生まれたのだが、彼女が生まれた喜びよりも先代が亡くなったことの悲しさが勝ったことが原因のようだった。


いずれにせよ、アナベルが不吉の子などという根も葉もない話が精霊達の間で飛び交っているのはここから来ているようだが、それがアナベルの精神にも少なからず影響が出たのか精霊達に嫌がらせ以上のことをしていることから、互いに行動を改めないどころか歩み寄りもしないまま手が付けづらい状況となったのは容易に想像できた。


自由人な精霊たちもリュエラに心配をかけないようにする一方で、アナベルの機嫌を損ねないように今まで騙しだまし嘘の契約ごっこを続けてきたというボタンの掛け違いを続けてよくここまでやってきたなと別な意味で感心はするものの、ここからどうするべきかと考えると、やはり最初に契約していた風の精霊を探すほかないだろう。



「ところで話は少し変わるんだが、なんでこの島の精霊達はダットにあんなに群がるんだ?」


ここでケイはダットに関しての疑問を精霊達に投げかけた。


ケイ達が話をしている間にもダットの周りには精霊達で埋め尽くされ、いってはなんだが光るみのむしにしか見えない。


そんな光るみのむしと思われているダットはその場に胡座を掻き、群がる精霊達にいいようにされている。悟りを開いた仙人のような態度には、足元に猫や犬の姿をした精霊たちと頭の上には天使の様なほんわりとした精霊が何体か交代で乗っている。


おじいちゃん精霊いわく、ダットは精霊をしっかりと導ける珍しい人材らしい。


精霊といってもダットに群がっているのは幼い精霊ばかりのようで、人間の子供と大差ない。リュエラとは別に、しっかりと善悪などの物事を教え導ける力を持っているからこそ、幼い精霊達にとって師であり父である位置づけで認識されているそうで、特に海と風の精霊達はダットを中心に魔道船の船員達に好意的な様子があると語られる。


精霊同士でも、人と同じように雰囲気などで察することが出来るようだ。

なんとも興味深い。



「ダットさ~~~ん!!!」



そんなケイ達の耳に誰かがダットを呼ぶ声が聞こえた。


入り江から船員の一人とおぼしき少年がこちらに駆け込んでくるのが見える。

クリクリの天然パーマにそばかす顔のまだあどけない表情をした少年は、慌てた様子で胡座を掻いているダットの姿を見かけると、彼に群がっている精霊の姿に一瞬ひぃっ!と小さく声を上げる。


「レマルク~どうした?何かあったか?」


呑気な顔をしながらダットが少年に尋ねると、ハッと気づき何とかしてくれとなんとも情けない表情で助けを乞う声が返ってくる。


「ダットさ~ん、マカドさんから食事の下準備の手伝いを頼まれたんですけど、精霊達が兄ちゃんから離れないんです。なんとかなりませんか~」


またか~といった表情でダットがため息をつく。


レマルクと呼ばれた少年は、他の船員達にも助けを求めたそうだが、面白半分にこちらを見るだけでだれも手助けかしてくれなかったからと、まるで捨てられた子犬のように目線を送り、ダットは大人になったんだから自分で何とかしろと口では言いながらも、仕方がないと自身にしがみついている精霊ごと重い腰を上げる。


「ケイ、悪いが俺は一旦船に戻るぜ」

「俺達もまだリュエラも戻って来ないみてぇだから一緒に戻るわ」


ケイ達は、近くに居た精霊達にリュエラ達が戻ったら入り江の方にいると伝えてから船の方に戻ることにした。



「「「ダットさん!お帰りなさい!」」」


入り江に戻ると、船員達がダットの帰宅に気づき声を上げる。


ちょうど船員達が何かを取り囲んでいるところで、中央を覗くと精霊達に群がられている一人の青年の姿があった。


「あ、ダットさん。お帰り早かったですね~」


レマルクが兄ちゃんと呼んだ青年は、彼の三つ上の兄・イベールである。

イベールは日に焼けた肌と切りそろえられた赤毛の短髪で、一見ガタイがいいことからハキハキとした印象を持つが、実は船内一,二を誇るのんびり屋でもある。


彼はダットの姿を見るや「用事は済んだんですか?」と尋ね、レマルクがお前関連で泣きついてきたから戻って来たと半ばあきれ顔で返すと、悪びれているのかいないのかわからない表情で、弟がごめんなさいと返される。


イベールに群がっている精霊達は姿は様々だが、ケイの鑑定では風の精霊が多いことがわかった。また、気が動転して気づいていないのか、弟のレマルクの近くにも風の精霊が心配そうな様子でふわふわと浮いている。


ダットは、またおやつのクッキーをあげたんだろう?と分かっている口ぶりで尋ねると、物欲しそうな顔をしていたのでつい・・・とイベールが困り顔をみせる。


「こいつら(精霊たち)は子供と同じだと言っただろ?褒める時は褒める!叱る時は叱る!メリハリつけねぇと駄目だって」


ダットはイベールに群がる精霊達を両手で鷲づかみすると、ひょいっと持ち上げてからぽいっ!と脇によけた。


群がる精霊達は、ダットのおかげであれよあれよという間にイベールから取り除かれる。もちろん精霊達は不満な顔をしていたが、やるべきことがあるからそんな顔をしても駄目だと一喝すると、物わかりがいいのか皆、しょんぼりとした反省の様子を見せる。


「さすがダットさんだ。船長やってるだけはあるな」

「なぁに、褒めても何も出やしねぇ~よ」


アダムの称賛に口ではなんてことないとしながらも、恥ずかしかったのか耳の先が少し赤くなっていることから照れ隠しだなと全員が暖かい目で見守る。


「もぉ~兄ちゃん!マカドさんから手伝いを頼まれてるんだからしっかりしてよ!・・・あ、シャツのボタンがひとつかかってないよ?・・・よし!これで大丈夫!」

「レマルクごめんよぉ。いま向かうから・・・あ、手伝いを頼まれているからまた後で遊んであげるからね」


精霊達の群から助け出されたイベールは、怒られてしょげている精霊達にフォローをしながらも、今度はレマルクからシャツのボタンやら服装がだらしないと世話をされている。


兄弟でもここまで性格が真反対なのはめずらしい。


ダット曰く、レマルクは普段はしっかり者だが、今年成人したばかりにも関わらず野菜が苦手とかこわい話が駄目とか、犬に噛まれたことがあり苦手とか船員なのに泳げないとか、とにかく苦手な物が多い。

対して兄のレマルクは、普段は天然なのかぼぉーっとしていることがよくあるが、その反面手際が良く何でも器用にこなせるようで、船員達の間でも一目置かれている存在なのだという。


ケイ達も航海中に二人と何度か話をしたことがあるが、礼儀正しく兄弟でいる時は非常に仲のよい印象がある。


しかしそんな二人も船員になるまでにはいろいろと苦労をしていたようで、事情を知っているダットでさえも、当初は働き口を探していた二人が自分に頭を下げたところをみてどうするべきかと悩んだことがあったそうだ。

その結果、船員として引き入れられたが、後にダットが「あの時悩んだことが良い方向に向かっていると今は思う」とケイに語ったことがある。


いずれにせよ、人も精霊も根本は同じようなもので、人生いろいろなんだなとケイが兄弟と精霊を見ながらそんなことを思っていた。



「・・・・・・な、んで?・・・なんで私には誰も来ないのよ!!!!」



ケイ達が和んでいる最中、後方から突如声が上がる。


振り返ると恨めしく憎らしいといった表情のアナベルが、こちらを見ながら叫んでいる姿があった。

風の精霊に気に入られているイベールとレマルク兄弟に、憎悪の表情で見つめるアナベルが姿を現す。

まさかこの後にとんでもないことが起こるとは、この時ケイ達は思いもよらなかったのでした。

次回の更新は9月11日(金)夜です。


閲覧&ブックマーク&感想などありがとうございます。

細々とマイペースに活動していますので、また来てくださいね。

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