219、嫌われアナベル
皆さんこんばんは。
遅くなり申し訳ありません。
さて今回は、精霊族のちょっと困ったことのお話。
リュエラから、エルフ族の祖であるアグダル人から自分たちを匿い、この島に連れて来てくれたのはシルトだと言った。
『私が、精霊族を?』
「はい。その様子では覚えていないようですね・・・」
『すまない。どうやら記憶が欠如しているようなんだ』
シルトはケイ達と出会う前の記憶が一切ないとリュエラに伝え、当時の事を教えて欲しいと彼女に願った。
リュエラの話によると、当時一部のアグダル人が精霊を乱獲することに心を痛め、共存のために止めるようにと掛け合ったが、アグダル人は精霊との共存を拒否し、精霊を使役し続けていた。
そして、その事実を知っていた五大御子神の一人であるナザレと、当時彼の護衛を務めていたシルトによって、この地であるドゥフ・ウミュールシフへと精霊達を移したそうだ。
ナザレという人物は、恐らくアレグロとタレナの兄であろう。
以前、ホビット族のジュマから五大御子神の一人であるイシュメルの話を思い出すと、当時からアスル・カディーム人は他の大陸と交流があったのだろう。
そうなると他の大陸でも同じように交流があったならば、アレグロとタレナの事を知っている種族がいるのかもしれないとケイは考える。
リュエラは、アグダル人から自分たちを離したナザレとシルトは、この島に精霊族を送り届けると二度とその姿を見せることはなく、ほどなくして世界大戦が始まったと語る。
しかし時を経てリュミエ達精霊族は、再びシルトに遇うことが出来たことに驚きと感謝を意をみせる。
「でも、なぜシルトがアルバラントの奴隷商の地下に居たのかが気になるな。幽閉でもされたのか?はたまた何かがシルトの身に起こったとか?」
「そういえば、大剣・インイカースもノートンの店にあったよな?ケイ、やっぱり何か関係があると思うか?」
「どうだろう?話だけを聞けば関係があるかもしれないしないかもしれない。どちらにしろ判断材料が少ない」
アダムの話から大剣・インイカースが見つかった場所とシルトを見つけた場所は、同じアルバラントの敷地内である。
当時アルバラントがあった場所には、一体何があり何が起こっていたのか?
ケイは今更ながら、その辺についてもガイナールに聞けば良かったと少し後悔をした。
「そういえばリュエラ。あんたに一つ聞きたいことがあるんだがいいか?」
「聞きたいこと?何でしょう?」
「実はもう一つ俺達は探していることがあ「お母様ーーー!!」」
ケイがリュエラに問いかけようとした時、ケイの声に被さるように遠くから少女の張り上げた声が聞こえた。
リュエラの後ろから、一人の少女が入り江の方に向かって来ているのが見える。
黄色とピンクがグラデーションに交わった長い髪に、宝石のエメラルドを思わせるような不思議な瞳の色をした少女だった。
身長は150cmもなく大分小柄な印象があるが、やって来た少女はケイ達を一瞥すると、リュエラに憤慨したような言い方で話しかけた。
「お母様!また“失敗”しました!もう次はやりません!」
「アナベル、そんなこと言わないで。精霊たちも仲良くしたいけどうまく伝えられないだけなのよ」
「もうその言葉は結構よ!それに今年だけで何度失敗したと思う!?30回よ!30回!!全員契約の途中でいなくなるのよ!?毎回だけど信じられる!?お母様がいうからこれまで何度もしてきたのに、馬鹿にするのもいい加減にして欲しいわ!」
怒り心頭と言った少女はリュエラにまくし立てるように言葉を続け、お客が来ているからとケイの方を示すと、再度こちらを一瞥し「ふんっ!」といってその場をあとにする。
「なにあれ?感じ悪いわね」
その様子を見ていたシンシアが、去って行く少女の後ろ姿に顔を顰めながら口にすると、リュエラが申し訳なさそうに謝罪をする。
「気分を害されましたら申し訳ありません」
「あいつは?」
「娘のアナベルです。いずれはこの島の長としてまとめてもらおうと思っているのですが、なにぶん精霊たちと心を通わすことができずにあのような態度に・・・」
リュエラの娘・アナベルは、なぜか精霊達と心を通わすことが出来ないでいる。
理由は分からないが、リュエラによると世界大戦前に彼女が生まれたことから一部の精霊達から不吉だと吹聴され、それを真に受けた他の精霊達が彼女から距離を置いた形になったらしい。
「さっきあいつが“失敗”といってたけど、どういう意味だ?」
「私達長の家系は、本来生まれた時から精霊がついているのですがアナベルの場合はついてはいなかったので、一緒にいてくれる精霊を探しては契約の儀を行っていました」
「だけど失敗した、と?」
リュエラがはい。と返し、目線を下げる。
これまでにも相性が合いそうな精霊はいたのだが、儀式の途中でなぜかいなくなることから不成立が続き、最近ではアナベル本人も嫌気がさしている様子だという。
精霊族の決まり事やフィーリング的なことはわからないが、今年だけでも30回は昨今の就職事情のようなシビアさを彷彿とさせる。
そんな会話のなかで、ケイは以前似たような事例を思い出した。
エルフの森に住んでいるセディルである。
彼は生まれつき精霊が見えず、魔法が使えなかったことにより力業を得意とする珍しいエルフであったが、実は上位精霊のみしか対応出来ない体質だったため、一般の精霊では認知できなかったのが原因だ。
しかし今回は、精霊は見えるが相性が悪いというケースである。
これはケイ達でも専門外なので、リュエラは原因だけでもわかればと少し寂しそうな表情をする。
「ちなみに、一番最初に儀式をした時はどうだったんだ?」
「周りの精霊では、同じように突然消えたそうです」
「精霊が突然消えることなんてあるのか?」
「私もその場に居合わせたことがないのでなんとも言えませんが、一度消えた精霊は他の場所で見つかり、そのあとで何故か娘に疑念を抱いている様子で以降は近寄ることもしませんでした」
リュエラは初めこそ精霊の性格上、自由気質でありかつ繊細な部分もあるためそれが原因かと考えたのだが、回を重ねるにつれ娘のアナベルになにか原因があるのではと考えていたのだという。しかし、いざ儀式を行った精霊に尋ねると、長の前では言いづらいのか一様に口を噤んだまま何も聞くことは出来なかったそうだ。
「無理だと承知はしています。どうか娘のために協力をして頂くことはできないでしょうか?」
長である前に一人の母であるリュエラから懇願の言葉が口に出る。
ケイ達は島に滞在する間だけ魔道船を入り江に止めてもいいという条件で、その話を受けた。
「俺がいうのもなんだけど、本当にいいのか?あの魔道船には俺達以外の船員も乗ってるんだけど・・・?」
「はい、風の精霊から話は聞いています。人魚族の方と共に航海をしている、と。そんな皆さんですから精霊達も興味が湧いているのでしょう」
リュエラがそう言って船の方を指さす。
ケイ達が船がある入り江の方を振り向くと、あり得ないほどのおびただしい光が魔道船を囲っているところが見える。
この光も全て島に住む精霊なのだが、魔道船にいるダットを含めた船員達には島にいる精霊族と話をつけるから待っていて欲しいと伝えてはいる。
まさか船が精霊達に囲まれるとはケイ達も思っていなかったのだが、リュエラによると海の精霊達がダットを含めた船員達を気に入っているそうで、仲良くなりたいがために近づいているのだという。
「ダットーーー!大丈夫かーーー!?」
甲板にいるダットの姿が見えたので、ケイが声をかけると大丈夫だとダットは右腕を振って返事を返す。リュエラには彼がこの魔道船の船長だと話し、彼女から了承を得てダットをこちらに呼んだ。
「話はすんだのか?」
「あぁ。ていうか、さっきのらくがきは?」
「さすがに落としたぞ。こいつらには「イタズラしたら責任をもって元に戻せ」といってあるからな」
船から下りてきたダットは先ほどのイタズラまみれの顔ではなく、いつもの海の男を彷彿とさせた姿をしていた。
そんな彼の肩には、海の精霊らしき三体の青い小さな少女たちが座っている。
どうやらいたずらをした精霊達のようで、ケイ達がリュエラと話している間に懇々と精霊たちに自分の行動には責任を持てと説明し続けたようだ。
自由気質である精霊に話なんて伝わるのかとケイが思ったのだが、ダットに教育?されたのか、三体ともダットの方を向いて敬礼をする。
しまいには『『『アニキー!!!』』』と、船員達の口癖を真似するようになったが最後、なぜか気に入られてこんなことになったらしい。
考えてみれば、人魚族のヴェルティヴェエラとノヴェルヴェディアとは言葉は分からないが駄目なことは駄目だと教え、困っている者がいれば積極的に手を貸す。
出会った当初のあの自暴自棄感がまるでないところをみると、人間は意外と適応力が高いのだなと考えさせられる。
「あの!どうかその行動力を見込んで、娘を助けて欲しいんです!」
そんな様子を見ていたリュエラが急にダットの手を取り、話を切り出した。
もちろんダットは先ほどの話を聞いておらず、咄嗟のことに慌てて「俺には女房が・・・」と言いながらたじろいでいる。
ケイに事の経緯を説明されると「そういうことか!」と手を打ち、続けて専門的な悩みなら俺よりケイ達の方が適任じゃないのか?と問い返すと、リュエラから衝撃的な発言がなされる。
「ケイさん、この方は既にこの子達と契約を交わしています」
少し間を置き、全員が「えっ!?」と声を揃えて聞き返す。
ダットの肩にいる海の精霊は、ダットに惹かれたのかすでに契約を交わした後だという。そんなに簡単にできるものなのかと聞くと、個人差によるがすんなりと契約すること自体前例がないそうだ。
しかもリュエラからダットにつきたい精霊達がほかにいるようで、周りを飛んでいる精霊達が必死にアピールをしていると言っていた。
その当人であるダットは唖然としたままその話を聞いていたが、実感がないようで嬉しいような恥ずかしいようなどうしたものかと頭を掻いている。
もちろんその様子を甲板でみていた船員達から「さすがアニキ!」ともてはやされているが、ケイ達はなぜダットが契約をすることができたのかと不思議な顔をしたのだった。
リュエラの娘・アナベルは、精霊と相性が悪いそうでそれが故に悩みを抱えていた。
その一方で、船長のダットには三体の海の精霊がすでについているとリュエラから語られ、一同が困惑する。長である前に一人の母であるリュエラから助けて欲しいと頼まれたケイ達とダットは、果たしてその困り事を解決できるのか?
次回の更新は9月7日(月)夜です。
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