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異世界満喫冒険譚  作者: GDKK
新大陸編
223/359

217、精霊のイタズラ

皆さんこんばんは。

いつもご高覧くださりありがとうございます。

さて今回のお話は、航海中に起きた奇妙な出来事の回です。

翌日ケイ達は、マードゥック達とグドラ達に見送られながら港から北を目指して出航をした。


グドラの話では、精霊がいるドゥフ・ウミュールシフは精霊に好かれなければその姿を見ることは出来ないという。本来であれば、距離を考えれば二日で到着するのだが、精霊に好かれるという部分に不安がある。


精霊に好かれるということはどういうことなのかと考えるが、そもそもエルフの森にいた精霊達すらケイ達には見えない。さて、どうしたものかと考えあぐねながらケイ達を乗せた魔道船は北へと進んでいくのであった。



「ケイの地図を頼りにすれば、島自体はこの先になると思うんだが・・・」


二日後の昼を迎えた辺りに、舵を取っていたダットが口にした。

船を減速させ、ゆっくりと航海しながら舵を取っているがそれらしきものが見当たらず、檣楼にいる船員に声をかけるがそれらしき島を見ていないと言われる。


「ダット、なにか見えたか?」

「いいや。そもそも精霊に好かれない限り島の姿が見えないと言うことだろ?さすがの俺達もそれをされちまったらどうもできねぇよ」


舵を取りながらケイを見やり、眉を下げたダットが答える。


ケイも時間があれば周囲の様子を見ていたが、それどころかその兆候も見えない。

冷静に考えると、精霊に好かれる以前にどこで接点を見つければいいのかと考えるがケイが思い当たるのは東大陸にあるエルフの森だけ。今から戻って好かれる様にするということは時間的ロストが否めず、もう少し周辺の海域を見てみようとダットと結論に至る。


しかしこの時、ケイ達の知らないところで意外な展開を迎えるとは予想だにしていなかった。



「君達、こんなところで何をしているんだい?」


檣楼で見張りをしていた船員が交代で降りて来たところ、船の後ろにある樽置き場の影で蹲っていたブルノワと少佐の姿を見つけた。


彼はブルノワ達に声をかけると、二体は振り向き、樽の隙間を指さした。


ネズミか何かがいるのかと目を向けるが何もなく、何がいたのかと尋ねるとブルノワから『ピカピカ』とか『フワフワ』とか擬音でそれを伝えられる。


彼は疑問に思いながらも樽が置かれている隙間を通り、指さした場所の後ろや側面を確認したが、ブルノワがいうピカピカやフワフワといった対象物を見つけることが出来なかった。


ほどなくして、遠くから二人を呼ぶケイの声が聞こえた。


船員はブルノワと少佐を連れてケイの元に戻ろうと諭すが、二体はその場所を気にしている様子で、後ろ髪ひかれながらも船員の手に引かれケイの元へと向かった。



「あれ?ここに置いたクッキーがない・・・」


同じ頃、厨房にいたマカドが首を傾げていた。


昼食の後片付けを終えたマカドが休憩に入ろうと紅茶を手にしたのだが、二人用の木製のテーブルに置いてあったはずのクッキーがなくなっていたのだ。

タレナから趣味で作ったものだといくつか貰ったはずなのだが、それが皿に一枚も残っていない。一瞬、無意識に自分が食べてしまったのかと思ったが、そういうときに限って口に食べカスを付けていることがよくあるため、どうも食べた記憶がないと結論づける。


「マカドさん、クッキーはどうでした?」


その時、厨房にタレナの姿があった。

マカドは気まずい思いをしながら、知らない間になくなってしまったようで・・・と困惑した表情でタレナに伝える。


空の皿を手に申し訳ない表情をしたマカドにタレナがまだありますからと、持参していたクッキーを数枚皿に置いた。

マカドはせっかくだからと彼女の分の紅茶も用意し、二人用のテーブルを挟んで座ると、ひとときの紅茶とクッキーを十分に堪能したのであった。



時はその少し後のことである。


下っ端と呼ばれる三人組の船員が船室を清掃していたところ、三人組の内の一人がこんな話を口にした。


「そういや、ここ数日で食べ物や持ち物がなくなることがあるみたいだぞ?」

「なんだよそれ?誰かのイタズラか?」

「あ!それ、俺も聞いた!そういえば、昨日バギラさんが「包帯がない!」って探し回っていたのを見たぞ?あと、他の奴らは靴下の片方がない!とか飲みかけのコップがなくなっている!とか~」


船員達は嘘だろうと口々に言いながら船室の掃除を終えると、各部屋のドア窓を拭くために雑巾と水が入ったバケツを手に通路へと向かい、三人が各々の部屋のドア窓を水を絞った雑巾で作業を開始する。

水が入ったバケツは作業の邪魔にならない通路の端に置き、そこから離れた場所で水拭きと仕上げのから拭きを黙々と行っていたのだが、そんな彼らに悲劇が起こった。



バシャーン!



その時、離れた場所に置いていた水入りバケツがひとりでに倒れた。


三人は一瞬「へぇ!?」という表情をしてから「あーーー!!」と同時に叫び声を上げ、慌てて各々モップを手に余計な仕事を・・・と、誰にとも怒りを向けることが出来ずに、肩を落としながらも後片付けに励んでいたのであった。



夕食の時間が来ると、ケイ達は食堂へと足を運んだ。


船員が今では六十名を超えた大所帯のため、当初リビングダイニングとして創られた場所は、一人ずつ座れる程の広さである食堂へと改装し、ケイ達が向かった頃には休憩を挟んでいるのか二十名ほどの船員達が食事をしていた。


「マカド!今日はなんだ?」

「今日は魚介類のスープと野菜炒めです。あとデザートに以前ケイさんから教えて貰ったオレンを使ったゼリーを作りました」


満面の笑みを浮かべたマカドが、それぞれの前に今晩の食事を提供した。


鼻孔をくすぐる魚介類のスープに食欲をそそられるボリューム満点の野菜炒め。

最近では大陸中にライスが普及し始めたことから、魔道船の乗組員にもライスの提供がなされ、ケイ達が箸でライスを食べているところを一部の船員たちが不思議に見ていたことから、箸で食事をすることが魔道船内で定着しつつある。


「おい!俺の肉食っただろ!?」

「はぁ!?食ってねぇよ!」


ケイ達の席から少し離れたところで、船員達の言い争いが始まった。


どうやら詰め寄った男が別の人物と話している隙を狙って、左隣の男が野菜炒めの肉を食べていたようだ。

しかし詰め寄られた男は知らないと首を振り、ダットに「静かに食え!」と双方の頭に拳骨を落とす。何もしてないと言った男は無実だ!と訴え、なんでそうなるのかと困惑した表情を浮かべる。


「そういえば、ここ数日で食べ物や持ち物が消えることがあったみたいですね」


その様子を見ていたタレナが、昼間にあったマカドのことをケイ達に話した。

誰かのイタズラなのか、レイブンも水びだしになった船室の通路でモップをかけている船員の姿を見たと言い、アレグロは包帯を探すバギラの姿を見たのだという。

通路の水びだしは単に誰かが足をかけたのだろうと思ったが、それよりもジュランジから出てからそういった事案をよく聞く。


「ん?」


ケイが魚介類のスープに入っているエビを食べようと手を出したところ、右から淡い緑の光が目の前を通ろうとしている。

周りは気づいていないのか、明らかに場にそぐわないそれに左で持ったフォークを置き、左に通過しようとしているその光を鷲掴みをして取ってみる。


「げぇ!?取れた!」


まさか捕まえられるとは思っても居なかったケイの目に、鷲掴みをされた淡い緑の光が必死に逃げようと、手の中で藻掻いている姿が見える。

振動する子供の玩具のように上下に震えているそれに、ケイは顔を引きつらせながらどうするべきかと思い悩む。


「ケイ、何してるのよ?」


怪訝な顔で隣にいたシンシアが尋ねる。

ケイはなんか光っているものが取れたと彼女に見せるが、何もないじゃない?とまるでシンシアには見えていないようで疑問を浮かべ首を傾げる。



『は~な~せぇ!』



ボンッ!という音と共に、ケイが捕らえた光から緑の粉のようなものが巻き散る。


その緑の粉はケイ達おろか、その付近に座っていた船員達に降りかかり、数人がその粉を吸ったのか咳き込む姿があった。まるで墨を吐くタコやイカのようなものだなと、他人事の様に掴んだケイは驚いたまま考えた。


『なんで効いてないの!?うわぁぁぁん!もうしないからたべないでぇ!』


緑の粉が収まると、先ほどの緑の光は10cmほどの緑の髪と服を着た小さな少女の姿をした何かへと姿が変わっていた。一種の防衛行動だったのか驚いて手を離すことを望んでいたが、ケイが離さなかったことに恐怖を抱き泣いている。


「何よそれ?」


緑の粉の残留を手で払っていたシンシアが、ケイの手に収まった小さな少女を見やる。ケイは「さぁ~」と首を傾げ、泣いているであろう少女の涙のせいでケイの手は水びだし。

さすがに可哀想だと、テーブルに下ろしてやると今度はごめんなさいとTHE・土下座をしてみせる。なんとも芸達者なやつである。


「お前は誰だ?」

『ぐすっ・・・わたしは緑の精霊。海の精霊から船を見たって聞いたの』


涙目になりながらも緑の精霊と名乗った少女の姿をしたそれは、海で生活している友達の海の精霊から海の上で船が通過していると聞き、やってきたのだという。

しかしその友達と船内ではぐれてしまい、探していたところにケイに捕まってしまったそうだ。


なんだかこちらが申し訳なく思いその友達は同じような姿なのかと尋ねると、小さな少女はうんと頷く。


先ほど緑の粉を吸ってしまった船員達は落ち着きを取り戻したのか、ケイ達の会話の様子に驚きを見せている。少女の話では、先ほどの粉の影響で精霊の姿が見えるようになったのだという。

その証拠に粉を浴びていない船員たちは、何事かと不思議な表情をしている。


「ケイ!どうした!」


こちらの騒動を聞きつけ、ダットとバキラがやって来る。


小さな少女は、もう一度やってみせるとやって来た二人を前に再度緑の粉をまき散らせてみた。二人からは「何!?」と声を上げながら、目の前で緑の粉が吹き舞う状況に手を振って払っている。


「「・・・へぇ?」」

『ほら!見えたでしょ?』


小さな少女はえへん!と胸を張り、状況を飲み込めないダットとバギラが呆けた顔でそれを見つめる。


『パパ~いいもの見つけた!』

『バウ!』『ワウ!』『ガウ!』


ブルノワと少佐が何かを見つけたらしく、ケイの元に走り寄ってくる。


食事中は席を立っちゃダメだと諭したのだが、好奇心が勝ったのかブルノワがこれを見てとヴァールの口元を指さし、ヴァールの口には青い服と髪の毛をした小さな少女の姿がある。

咥える加減をしているのか、歯と歯の間に挟まったそれは「食べないで~!」と泣きべそをかいており、見かねたケイがヴァールに「それは食べ物ではない」と教えると、もの凄い勢いで口からそれが吐き出される。


無論、ヴァールのせいで小さな少女は涎まみれと悲惨な状態。


近くに置いてあるタオルで青い少女を拭いていると、先ほどの緑の精霊が彼女の元まで駆けつけ、無事なことに安堵し抱擁をする。まだ拭いている途中なのだが、よほど恐い思いをしたのか、彼女たちは互いに泣き声を上げると無事を確かめたのだった。

数日前から奇妙な現象が多発していた原因は、小さな精霊でした。

精霊のイタズラが起こした出来事は、この先どんな展開をみせるのでしょう?

次回の更新は9月2日(水)夜です。


閲覧&ブックマーク&感想などありがとうございます。

細々とマイペースに活動していますので、また来てくださいね。



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