216、謝罪と次なる島へ
皆さんこんにちは。
昨日は大変申し訳ありませんでした。
更新予定だった216話を投降致します。
今回は、和解話と次なる島へむかいます。
ルシドラと合流したケイ達はグドラとバメット達とここで別れ、マードゥックを連れて一度ジュランジへと戻ることにした。
島のことはダット達に任せっきりにしてしまったため、心配をかけた事となんとか場を治めたこと報告するためである。
グドラとバメットは、後日ジュランジに謝罪に赴くとマードゥックに伝えが、長い間勘違いで渦巻いていた私怨はすぐには解消することはできないし、それによりジュランジは多数の怪我人や死者を出してしまった。
結果が結果なだけにぎくしゃくすることは当然なのだが、マードゥックは頭を下げるグドラに黙ったまま力強く頷く。今、声をかけたところで彼らを更に深く傷つけると悟っているのか、黙して語ることはなかった。
「はぁ~やっとジュランジに戻って来たぜ~」
ルシドラに乗りルバーリアを出たケイ達は、そのまま彼女の背に乗りジュランジの港へと戻って来た。
港には船員達が知らせてくれたのだろう、慌てた様子でダット達が迎えにやって来る姿と彼らの他にレックスとギエルの姿もある。
「マードゥック様!よくぞご無事で!」
ケイ達がルシドラの背から下りると、ギエルがマードゥックの元に駆け寄り、怪我はないかと心配そうに状態を探る。マードゥックはそんなギエルに苦笑いを浮かべながらも心配してくれた彼に礼を伝えた。
「・・・で、ルバーリアの方はどうなったんだ?」
「あぁ。こっちもちょっと事情があってな・・・」
ケイは迎えたダットとバギラに事の経緯を説明し、結果として今回の件は世界大戦時に起きた相互の行き違いだと結論づける。
しかし、同時に謎もいくつか残っている。
一つは権利がケイに移った海底神殿。
シエロの像があったことが判明するがアルバラントの像と対になっており、桜紅蘭とルフ島のシェメラの像と同様に何かを意味する物だという事はわかる。
しかしそれがなんなのかは分かっていない。
二つ目は、ルシドラの子供を殺した者が何者なのかということである。
当初ルシドラの証言により人魚族が殺害したと考えたが、初めて聞いたグドラの表情からその線はないと考える。もちろん当時友好関係だった獣族も、そもそも海に滞在するほどの潜水スキルがないとなるとその線も消える。
アスル・カディーム人は、海底神殿を建てたことにより実は人魚族を監視する位置にいたのではと考えるが、それも物証や証拠が弱く状況証拠だけではイコールにはならない。
となると、ダインで無残な姿として発見されたアフトクラトリア人が何か関連しているのではと疑問に思う。
彼らはダインで鉱石を採掘し島の外に運んだりしてはいたが、現実的に他の種族と交流していたという事実は、鬼人族やホビット族・巨人族の証言や文献が今までに見つかっていない。そしてアフトクラトリア人は、後にアスル・カディーム人を裏切ってしまう訳なのだが、やはりそこに至るまでのプロセスがあったと考えるべきだろう。
その真実として機械人形だったことから、彼らの中で共存から自立を通り越した何かがあったのではとケイはそう思ったのだった。
グドラがバメットや数名の兵を連れてジュランジにやって来たのは、それから数日後の昼近くのことだった。
たまたま仲間と一緒に港にいたレックスが海からやって来た人魚族に驚き、慌ててマードゥックを呼びに来たことから彼に続きケイ達も港へと向かうと、そこには異様な光景があった。
「何しに来た!この人殺し!」
「父ちゃんを返せ!」
「おまえ達の顔なんて見たくない!帰れ!!」
マードゥックのあとにケイ達が到着すると、港に入ったグドラ達を取り囲むように獣族の人々が口々に罵声を浴びせていた。バメットや護衛の兵はグドラを守ろうと前に出ようとしたが彼はそれを制止し、民衆の前で頭を下げようとする。
その時グドラの方に石のようなものが飛んできたかと思うと、彼の左側頭部に直撃し、彼の頭から青色の血が流れる。それにも関わらずグドラは民衆に頭を下げ、当たった場所から血が流れ地面へと落ちることも構わず、黙ったままただ頭を下げ続ける。
「みんな!止めるんだ!」
人だかりの間からマードゥックがギエルを連れてグドラの前に現れる。
マードゥックは持参していた白い布を傷を負った部分に当て、頭を上げるようにと諭した。グドラはそれに対して驚きの表情を見せたが、マードゥックは彼に何も言わず、民衆にこう告げる。
「今回の件は私にも責任がある!皆の気持ちや人魚族の事情を考慮しなかったばかりに、双方のために解決策を提示せず、うやむやにしてしまったことに後悔をしている。だとしても、同じようなことをすればまた同じ事が返ってくる。ここでしっかりと話をするべきではないか?」
さすが獣族の長である。
島民達は互いに顔を見合わせ、マードゥックの言葉に戸惑いを浮かべていた。
人数が多ければ少なからず反発する者もいたが、マードゥックの心情なのか、やり返せば終わることがないと知っているようで、これ以上は互いに傷つけるだけだと声を上げる。
『全ては私の責任だ・・・本当にすまない・・・』
そんなグドラはマードゥックの側で両膝をつき、島民達に頭を下げ謝罪の言葉を口にした。獣族の島民達はその行動に戸惑い、なんとも言えない表情をした。
その後グドラ達は、レックスの案内により争いで亡くなった者たちの墓を訪れた。
簡易的だが整備された墓には白い花が手向けられており、マードゥック達が見守るなか、グドラは眼前に並べられた墓に向かってただただ黙って頭を下げた。
「ダット殿、本当に助かった」
「なぁに、困った時はお互い様だ!」
その後獣族の島民達は、納得しているのかいないのかは分からないがそれぞれの持ち場へと解散した。
マードゥックは落ち着いて話しをしようとしたのだが、島は人魚族のせいで建物の完全再建は出来ておらず自身の建物がある中央に案内をしようと考えたが、島民達が警戒をしており歓迎ムードではないことは族長である彼も理解している。
そこで見かねたダットは、それなら自分たちの船が近くに止まっているのでそちらで話し合いをしてはどうかと提案し今にいたる。
会議室に通された一行は獣族と人魚族が互いに向き合うように腰を下ろし、その近くにダットとバギラを含めたケイ達が座る。
『そういえば、ダット殿はいかにしてヴェルティヴェエラとノヴェルヴェディアと会話をしているのか?』
マカドが運んできたお茶をそれぞれに置き、一息入れてからグドラがダットにとある疑問を投げかけた。
それは魔道船に通された時、食料調達のために海に潜っていたマカド達が丁度戻って来た時の事である。
マカド以外の船員達は言葉は理解出来ないはずなのだが、ヴェルティヴェエラとノヴェルヴェディアが身振り手振りで何かを伝えているのを見て、人と会話をしているように話しかけ笑い合っているところを見て不思議に思っていた。
ダットからは「表情を見ればわかるし、あいつらは意外とわかりやすいんだ」と歯を見せて笑っていたが、一緒に航海を共にしているケイ以外のメンバーは、マカドや船員達の通訳無しでは会話が成立しない。
正直、表情を見ても二人の顔は終始真顔に近いため、こちらもなぜわかるのかと疑問に思うこともある。
しかし船員達は、時には褒め時には注意するといった一般家庭であるような行動を種族の枠を超えて二人に教えている。
もちろんヴェルティヴェエラとノヴェルヴェディアは船員達の言葉の意味は完璧にはわからないかもしれないが、普通に身振り手振りで伝えて意思疎通を行う。
日本でいう阿吽の呼吸ということなのだろう。
「ダットさん、二人が客人にクッキーをあげたいと言っているのですが~」
入り口近くに待機していたマカドが、扉の隙間からヴェルティヴェエラとノヴェルヴェディアが何かを手にこちらを覗いている姿を指してそう伝える。
以前客人には“おもてなし”をするものだと、マカドや船員達から聞いたようで、最近ではお菓子作りを始めたそうだ。
ダットは、マードゥックとグドラに了承を得て二人を招き入れると、おずおずと中に入りクッキーが乗った皿をそれぞれの前に置いた。
クッキーはオーソドックスなものだが、初めて作ったらしく形がいびつだったり少し焦げていたりしていた。
普通なら客人に出すものは綺麗なものを渡すのだが、マカドからグドラは二人の父親だと伝えたそうで、自分たちは元気ですという意味あいを込めて作った物を渡したかったのだという。
グドラはマカドからそう聞き、差し出された白い皿にのったクッキーを一つつまみ上げ、口の中に入れる。
初めてにしてはしっかりとクッキーのサクッとした食感に甘みが仄かに広がり、それがマカドが用意した紅茶とよく合っている。見た前とは裏腹によくできていることにグドラは二人を見やり笑みを浮かべた。
「そういえば君達は、他の大陸を回っていると聞いたが?」
「あぁ。今まで桜紅蘭やダインに行ったことがある。過去に起こった出来事を文献として残しているなら、と思ったんだがその分だとなさそうだな」
「すまないね。私の方でも再度探してはみたんだが・・・」
マードゥックは他の大陸を巡っているケイ達の話を聞き、他の大陸と親交があったのかと尋ねたが、世界大戦以降は人魚族の問題があったためほとんどなかったそうだ。文献自体も獣族・人魚族双方に記録にしたためるといったことがないそうで、これといったものが出てこなかった。
そういえば、とケイは他の大陸のことをマードゥック達に尋ねると、以前少しだけ話が出た北にある大陸の話があがる。
「前に聞いた北にある大陸のことだが、何か知っていることはあるか?」
『北といえば、精霊族が住む島のことだな』
「グドラ、あんた知ってたのか?」
『我々とは異なる魔法を扱う種族だと聞いたことがある。しかし、あそこは世界大戦前から他の大陸や種族と交流がない。まぁ、しいて言うならアスル・カディーム人が唯一の交流者ということだけだ』
以前エルフ族のセディルが召還したダビアの様子から、セディル以外のエルフを嫌悪する態度が見受けられた。それに文献では、エルフ族の祖先はアグダル人であることが既に分かっており、乱獲するアグダル人から精霊を守るためにアスル・カディーム人が助けに入ったことがあることから、のちに精霊族は閉鎖的な文化を持っているのではと考える。
『もし、君達が精霊族に会いに行くとなると難しくなるかもしれぬな』
「どういうことだ?」
『精霊が住まう大陸は、普段は我々の目には見えない術を施していると聞いたことがある。彼らは過去の出来事から自分たちを他の種族から守る術を独自に確立しているのではと私は思っている』
グドラから精霊族が住むドゥフ・ウミュールシフは、他の種族には見えない島だと語る。ちなみにどうしたら行けるのかと尋ねると、精霊に気に入られるしかないなと返ってくる。
そもそもダビア以外の精霊はケイも見えないため、創造魔法で精霊を見ることができるかもしれないが、仲間を含めた他の連中が見えないとなると創造の意味があるのかと少し考える。
ダット曰く地図を見る限り距離はここから二日ほど進んだ先だと思われるが、島が見えないとなると、どうするべきかと思い悩む。
しかし実際に行ってみない限りわからないことが多いため、ケイ達はダットと相談したのちに当初の目的であるドゥフ・ウミュールシフに向かうことにした。
グドラからドゥフ・ウミュールシフは精霊の術で島自体が見えないことを聞いたケイ達は、ダットと相談してから結果としてジャヴォールの進行方向上にあるため、向かおうと考えます。
果たして精霊の住まう島は発見することができるのでしょうか?
次回の更新は8月31日(月)夜になります。
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