215、事実と相違
皆さんこんばんは。
いつもご高覧くださりありがとうございます。
さて今回は、人魚族と獣族、そしてルシドラのことについての回です。
「海底神殿が俺のものになったって言っても、なにに使うんだ?」
女神像の前でケイは先ほどのアナウンスの内容を考える。
そもそも譲渡されても神殿の使い道がさっぱり分からない。
マードゥックに尋ねてもそもそも存在を知らなかったと首を振り、バメットから先ほど聞いた通り、人魚族は国のシンボル・モニュメントの認識だ。
正直、あげると言われても聖職者でもない自分にはあまり嬉しくない。
幻のダンジョンの時はゲートが開き外へと出ることが出来たが、今回は実際に赴いているので情報量が多く困惑する。
各々、女神像のある部屋を回り隠し通路や扉の有無を確認するが、目視では見つけることが出来ず、ケイのサーチとマップを使用してもこれ以上何かが見つかることはなかった。
女神像が対になっていると考えると単に立てられただけではなく、幻のダンジョンのような物を動かすような仕組みがあるのではと考えるがこれ以上は不明だ。
ケイは思わずため息をついてからここで得る情報はなさそうだと判断し、来た道を戻ろうとみんなに伝えた。
「・・・てか、あんたらまだ居たんだ」
階段を上り来た道を戻ると、数人の兵を残したままケイ達を待っているグドラの姿があった。
てっきりバメットとマードゥックを連行するのかと思いきやそんな素振りはなく、先ほどの出来事がきっかけなのか、話が出来るほどの冷静さが見受けられる。
まだ用があるのかとうんざり顔のケイにグドラは、今までの非礼を詫びたいとマードゥックに謝罪の意を見せる。なんか裏があるんじゃとケイが口を挟むと、そういえば言っていなかったとマードゥックがこんなことを口にする。
「そういえば君達には話していなかったが、私の名前は代々継がれることになっているんだ。私の父も祖父も同じ『マードゥック』という名だったから、グドラ殿も混乱していたのだと思う」
詳しく聞いてみると、マードゥックの家系は代々ジュランジをまとめる長の家系であり、長年友好関係(と、獣族は思っていたようだ)だった人魚族が混乱を起こさないように代表者の名前を『マードゥック』と統一していたようだ。
グドラの話と照らし合わせると、人魚族を裏切り・殺害や連れ去りを起こしていたマードゥックは何代も前の人物だったようで、人魚族の積年の恨みと獣族の思いやりが今回の騒動を引き起こしたという結論に至る。
「それとは別に一つ気になることがあるんだが、ルシドラの子供を殺したのはあんたら人魚族か?」
『ルシドラ様の子供?いや、聞いたことがない』
ルシドラから聞いた話をグドラに尋ねると、彼らは何のことだと連れている兵と顔を見合わせて首を傾げる。ケイは、ルバーリアの守り神に子供を宿すことが御法度だとルシドラから聞いたと告げると、グドラはまさかと驚きの表情をした。
「どいうことだ?」
「恐らくだがどっちかが嘘をついているか、またはルシドラの子供を殺したのは人魚族以外の可能性もある」
人魚族にとってルシドラは、神の化身・象徴と伝えられているのは本当のようだ。
しかしルシドラは、自分の子供がルバーリアの宮殿裏の敷地に惨殺された自身の子を見つけ、嘆き悲しみ憤りを覚えていた。一方尋ねられたグドラは、同行している兵達と一緒にそんなことはしていないと首を振る。
ケイが見る限り彼らが嘘を言っている様子や仕草が見られないことから、次にこんなことを聞いてみる。
「人魚族が世界大戦前に交流がある種族は獣族以外にもいたのか?」
『他にはアスル・カディーム人とアフトクラトリア人と交流があったが、大戦後は我々は自分の国を守ることでいっぱいだった。私は自身の子や民を守ることで他に考えることが出来なかった』
「それじゃあ、ヴェルティヴェエラとノヴェルヴェディアが国外追放をされた理由は?」
グドラにひとつ踏み入った事を尋ねた。
彼はケイの傍らにいるヴェルティヴェエラとノヴェルヴェディアの方を向き、なんとも言えない表情をする。まるで傷ついた者の表情にも見えるが、自分が二人を追放したのに何故そんな表情になるのかケイ達にはわからない。
『彼らは確かに私の子だ。だが、言葉を話すことが出来ない。それに兵としての才能も見いだせなかった故に追放をした』
「いや、言葉が話せないからって捨てるっておかしくないか?」
正直、育児放棄と言わざる終えない発言にケイ達は理解が出来ないと首を振った。
グドラの話によると、生まれた時の二人は声を上げるごとに超音波のような音を発し、周りを混乱させていた。
生まれたばかりの赤ん坊だから泣くのは当たり前なのだが、実はそのせいで過去に宮殿を四回も倒壊させていた事実が告げられる。泣かないように細心の注意を払っていたが、日を追うごとに疲弊し、ついには生まれて間もない赤子に近い二人を海へと追いやり国外追放をする形になったということである。
通常人魚族は、生まれて一週間ぐらいで話すことが出来るようになるのだが、二人にはそれが出来ず、変わりに特殊能力の一つなのか超音波のような音を発するようになったらしい。
それを聞いたケイは、二人の声はイルカのような音波に近いものだろうと考える。
そういえば二人が話す時の事を考えると、必ず周りに人がいないケイか言葉の分かるマカドの前だけである。
ダット曰く、一緒になってから二人が言葉を発するとガラスや陶器製の物が木っ端微塵になることが何度もあった。それに何度か他の船員が失神することもあったらしく、それを間近で見たヴェルティヴェエラとノヴェルヴェディアは生活するにつれて自身の特殊な能力を理解し、身振り手振りで伝えるようになったそうだ。
そうなると、初めて二人に会った時にケイに同行したロベルは大丈夫だったのかが疑問だが、あの時はなんともなく会話を聞くことができたことから、水の中では抵抗のおかげでロベルが倒れたりすることがなかったのかもしれない。
『それと、お前がしている腕輪はアスル・カディーム人のものだな?』
「ん?あ、あぁ。これのことを知っているのか?」
『過去にそれをしていた人物に会ったことがある。たしか・・・ナザレという奴だったと記憶している』
「ナザレ?」
『我々の国によく足を運んでくれた人物だ。ちょうど彼らと同じ容姿をしていたので覚えている』
グドラはアレグロとタレナ、シルトの方を指す。
ケイは彼らは生きたアスル・カディーム人だと答えると、バメットとマードゥックを含めて大層驚く。
グドラの口から語られたナザレという人物は、世界大戦前まではよく来ていたようで、弟と妹が四人居ると言っていた。しかし彼は自分は五大御子神の身なので、いずれは役目を果たさなければならないと話していた。
その時グドラはその意味が理解できなかったが、世界大戦後にふと彼の言葉を思い返すと、戦争のために身を捧げたのではと考える。そう考えると、ナザレはアレグロとタレナ・アルペテリアの兄であり、同時に三人も何かの役割を果たしていたのではと考えに行き着く。
「ちなみに、ルバーリアとジュランジに歴史に関する書物という物はあるのか?」
『いや、そもそも我々は本としての記録は残していない。残すのだとしたら石版のみ。いや、もしかしたら、そういった記録を探せばあるのかもしれないが・・・』
グドラの言葉と同じく、マードゥックもジュランジでは紙といったものが存在せずあっても伝承として語り継がれているだけだと答える。ジュランジもルバーリアも目に見える記録が残っていないことから、歴史に関するヒントは望めないだろうとケイ達は考えた。
話が一段落付くと、ケイ達はグドラ達と共に神殿の裏側の扉から宮殿の裏手を目指した。
和解したのかといえば、長い間相違があったせいで今すぐに修復は難しいだろう。ルバーリアもジュランジも共に傷ついたことから、互いに手を取り合う日を目指すことでグドラとマードゥックは話をつける。
ちなみにグドラの方は、ケイが次世代のアグナダム帝国の王だと崇めた。
ルバーリアではアグナダム帝国にいたアスル・カディーム人には多大な恩威があるようで、ケイが俺より年上なんだから冷静に物事を見れるようにした方が良いと助言したことから今回も自分たちを助けてくれたと思っているのか、マードゥックを指さし、『お前ののためではない!ここに居るケイ様のためだ!』と、ツンデレ少女ならぬツンデレ人魚というミスマッチ感が尋常じゃない違和感を覚える。
一方のマードゥックは、「今はそれでもいい」と大の大人がさわやか青年のような台詞を吐き、こちらもなんだかなぁと端から見たケイ達が唸ったのはいうまでもない。
建物の反対側から坂を上って宮殿の裏手に辿り着くと、丁度近くにルシドラが待機している岩場に辿り着く。
驚くルシドラに今までの経緯を説明すると、自身の子供を殺したのは人魚族ではないことにショックを覚える。
グドラは、人魚族はルシドラを崇めているのでその子供が居たとなると丁重に墓を建てるべきだと提案をする。彼女の子供が亡くなったことは大分前のことだが、知らなかったとはいえ、人魚族は然るべき手順で魂を送り出す儀を行うことになり、少しでも気持ちにより添えばとグドラはルシドラにそう語りかけた。
初めの時の暴君とは180度印象が違うが、長年いろんなことが起こりすぎたが故に正常な判断ができなかったと今なら思うだろう。
しかしルシドラから聞いた話では“子供を持つことは御法度”といっていたが、グドラ曰く世界大戦前まで、つまり自分の前の代までの人魚がそんな考えを持っていたことを聞く。
ルシドラも子供の件もあり又聞きした話を鵜呑みにしたのか、グドラは彼女の心に理解しながらも、今の人魚族に守り神を貶める発言は頑固許さない姿勢を取っている。要はルシドラも人魚族も、長い間生きてきたが故に対して思考の変化による相違ということなのだろう。
それでは一体誰がルシドラの子供を殺したのか。
獣人族でも人魚族でもアスル・カディーム人でもなければ、残ったのはアフトクラトリア人かもしれない。ただ、計画無しに殺すことは彼らも考えなかったとなると何らかの用途のために殺した可能性はある。
ケイ達は獣人族と人魚族の抗争をなんとかまとめ、定期的に様子を見に来ると約束し、グドラが言っていたドゥフ・ウミュールシフの島に向かおうと考えたのであった。
獣族と人魚族,ルシドラの考えの相違を唱えたケイは、なんとか場を治めて貰った。
しかしルシドラの子供を殺したのは一体だれなのか?
現状ではそれ以上のことがわからないことから、ケイ達は次なる島であるドゥフ・ウミュールシフに向かおうと考えます。
次は一体何がおこるのでしょうか?
次回の更新は8月28日(金)夜です。
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