20、幻のダンジョン(中)
現在、幻のダンジョン攻略中。
さぁ何が出るかな?
ダンジョン二日目。
四人は朝食をとった後、セーフティゾーンを後にし階段を下りた。
「次は密林か」
ケイ達が辺りを見回すと木々が生い茂っている。
熱気と湿気を感じ、遠くで鳥の鳴き声が聴こえてくる。
ケイが邪魔な草木を火属性魔法で燃やし飛ばそうとしたので、それを止め、アダムとレイブンが剣で切り分けて進む。
草木をかき分けた先は崖だった。
眼下に広大な密林地帯が広がり、まるでアマゾンのようである。
「あんたらもダンジョン攻略か?」
後ろから別のパーティとおぼしき五人組がやってくる。
前衛の剣士が二人、斥候一人、回復役と魔法使いが一人ずつの構成でバランスがいい。
「あぁ。ダンジョンってすごいよな~」
ケイが広大な景色に目を向け、五人組も唖然とした表情をする。
「ロベル!どこから捜索するんだ?」
「こりゃあ・・想定外だな」
斥候の青年がリーダー格の男に声を掛ける。ロベルと呼ばれた男が無精髭の顎を撫でながら考える。
そん会話を余所に、ケイは【サーチ】を使い何か反応がないかと探った。その際広大な土地でも迷わないように創造魔法で【マップ】を創造した。
ケイ達が居る場所はマップから推測するに南東の崖に位置している。
そこから北西に2キロ進んだところに赤い大きな魔物の反応と、緑の人の反応。
そのうちの二名は怪我をしているのか反応が弱い。
「アダム!北西1.5キロ先に交戦の反応がある!やばい状態だから俺が先に行く!!」
「おい!ケイ!!」
ケイは制止も聞かず崖から飛び降り、着地と同時にその方向に走り抜ける。
途中の草木を風属性魔法で切り開きながら進んだ先には大きな魔物の姿があった。
ピンクの花をつけた全長5メートルほどの魔物で、その下からとげがついたツタが生えている。
その側で兵士の集団が応戦している。
「うわぁぁぁ!」
「助けてくれ!!」
そのうちの二名がツタに足を取られ、宙に浮かぶ。必死に逃げようともがくが、ツタはビクともしない。
「【エリアルブレイド】!」
ケイの魔法がツタを切り裂く。
その反動で地面に叩きつけられた兵士が、他の兵士の手を借りて後ろに下がる。
「大丈夫か!?」
「すまない助かった!怪我をした者をつれて下がれ!撤退しろ!」
集団を指揮している槍を持った青年が叫ぶ。
魔法で斬られたツタは、切断部分から再生をはじめる。
プランテラ
レベル36
性別 ー
状態 怒り
HP 297/350 MP 125/125
力 250
防御 300
速さ 125
魔力 130
器用 127
運 10
スキル 締めつけ(Lv3) 眠りの鱗粉(Lv3) 雄叫び(Lv4) 再生(Lv4)
体長 5m
ダンジョンガーディアン。
侵入者を排除する習性があり、ツタは再生をする。弱点は火属性魔法。
「さっきからこの状態が続いているんだ」
「火属性魔法じゃないと効かねえぞ。魔法が使えるやつはいるか?」
「いや、われわれは魔法を得意とする部隊ではないから」
「じゃあ俺がやる!あんたらは下がってろ!」
ケイがプランテラの前に立ち、火属性魔法を打ち込む。
「威力ましましだぜ!【バーンフレイム】!!!!」
赤い魔法陣が展開され、そこから隕石が降り注ぐ。
プランテラに直撃し、爆音と熱風が辺りをかき乱す。焼き切る臭いと煙、炎の勢いに兵士達が戸惑う。
「ケイ!!こっちだ!!!!」
後方からアダムの声がする。
ようやく追いついてきた三人は、先ほどのパーティと共に怪我人を背負ったり誘導に回る。
「火の手が回る前にこっちに走れ!!!」
「動ける者は怪我人を背負って走れ!!!」
アダムの大声に、兵を率いている青年が指揮をとる。
ケイ達は火の手から逃れるように、崖の方に走っていった。
1.5キロの道を逆走するように走ると、崖下まで戻ってきた。振り返ると、空に炎と煙が舞うのが見える。
「すまない、助かった」
指揮している青年が頭を下げた。武器と装備からして、国の兵というのがわかる。
「私はランスロット・ヘンディール。アルバラントの捜索部隊を指揮している」
ランスロットと名乗った青年は、アルバラント城の王国騎士団・第一部隊に所属している副官だった。
今回、城の地下に幻のダンジョンが出来たことに伴い捜索部隊としてやってきたのだという。
ケイ達も自己紹介をすると「もしかしてクラーケンを討伐したパーティか!?」と聞き返された。以前オークション出展の際、クラーケンの魔石などの警備をしていたと話した。
「まさかクラーケンを討伐したパーティだったとはな。納得だ」
兵救出の際に一緒に居たパーティも驚いた表情をした。
「そういや自己紹介がまだだったな。俺はロベル、パーティ『エレフセリア』のリーダーで剣士だ」
「同じく剣士のサイオン」
サイオンは、無口な雰囲気だが不快な印象はない。
「斥候をしているノイシュだ。よろしくな!」
ノイシュは、軽快な口調で紹介する。パーティの潤滑役といったところだろう。
「魔法専門のマリアンナよ。よろしくね」
妖艶な赤い髪に、ローブを着ても体格が主張されているマリアンナ。
「僧侶見習いのルナといいます」
白いローブにおとなしめの印象のルナ。彼女はパーティ唯一の回復要員だという。
それぞれ紹介を終え、今後のことについて聞いてみた。
「兵も疲弊しているようなので、我々は城に一旦帰還することにするよ」
怪我をして動けなくなった者にルナが回復魔法を唱え、なんとか体勢が整う。
「大丈夫か?」
「ダンジョン捜索の際は、帰還石を携帯しているので問題はない」
帰還石はダンジョン攻略必須のアイテムである。
通常ダンジョンは、10階ごとにいるボスを倒した後にセーフティゾーンと共に地上へのゲートが出現する。
しかし不測の事態が起こった時などは、帰還石を使用すると地上に転移してくれる消費アイテムである。
「どちらにしろこのままでは捜索もままならないからな。それでは我々はこれで失礼する」
ランスロッド達が一礼をし、帰還石で帰って行った。
「ロベル達はどうするんだ?」
「俺は捜索を続けたいとは思うが・・・」
ロベルが仲間達の方を見ると、全員が複雑な表情をしていた。
「ロベル、本気で捜索続けるなんて言わねぇよな?」
「・・・俺は反対だ」
「二人の言うとおり、今回は様子を見てすぐ戻ると行ったわよね?」
「私も探索を続けることはおすすめしかねます」
四人は首を横に振った。それは見事なまでに。
もともと様子見のために10階までと決めていたのである。
この後戻る予定だったが、ケイ達が先に進んだところを見かけたため、少し覗いて帰る予定に変更になった。
「なんか悪いことしたな」
「気にしなくていいわ。ロベルは昔から直前で予定の変更をしちゃう人だから」
アダムがすまなそうに言うと、マリアンナが気にしないでと返した。
マリアンナ曰く、ロベルは昔から予定を立てるのが下手だという。それでよくリーダーをしているなと思う。
ロベル達が地上に戻るというので、彼らとはここで別れた。
「そういや、火属性魔法を使った後って燃えてなかったっけ?」
ケイが思い出したように言い、そちらの方に顔を向けた。
しかし火はいつの間にか消えていた。密林の中で火属性魔法を打ったら燃え広がるはずだが、すでにその影もない。
科学の火と魔法の火は違うのだろうか?
ケイ達はその後が気になったため、一度プランテラが居た場所まで戻ることにした。
「見事に焼け切ったなぁ」
プランテラが居たであろう地点から、20メートルの範囲で円形状に焼けた残っていた。
ダンジョンガーディアンの素材がなくなったのは惜しいが、あの場合は仕方ないと諦める。
「あれってダンジョンガーディアンだったけど、下に続く階段ってどこ?」
「ガーディアンは一体だけじゃないとかかしら?」
辺りを見回しても階段が見当たらない。
ケイが【サーチ】を使ったが10キロ先を見ても反応がなかった。
「反応がないぞ?どういうことだ?」
首を傾げ、焼けた跡を調べてもこれといって変化はない。
何か他に仕掛けがあるのかと思いその場から離れようとした時、急に身体の浮遊を感じた。
「へぇ?」
間抜けな声を出したケイが下を見ると、焼けた跡が大きな穴に変わっていたのだ。
「え!?ちょっと嘘でしょぉぉぉ!!」
「なっ!」
「しまった!」
三人も驚きを隠せず、四人はそのまま落下してしまった。
しばらく続く落下の次に、水に飛び込む感覚が来る。全身が水につかる感覚に慌てて顔を出す。
「ぷふぁあ!」
水面から顔を出すと、目の前には大きな鍾乳洞が見えた。青く輝き秘境の地を思い起こさせる。
三人も水面から顔を出す。
動揺を隠せない一同は、とりあえず陸に上がろうと泳いだ。
「ひでぇ目にあったぜ!」
「もぉ最悪!」
水もしたたるとはこのことだが、服を絞ると大量の水が滴り落ちる。
「まさかこんな展開がくるとはな」
髪をかき上げアダムも困惑した。
ずぶ濡れになった四人は、とりあえずケイの魔法で乾かすことにした。こういう時の魔法は便利である。
「しかしここは一体?」
レイブンの声に辺りを見回す。
青い鍾乳洞に青い湖。
そこを見上げると、湖の上に大穴が開いている。ここから落ちてきたようだ。
神秘的な景色に心を奪われかけるが、ここはダンジョン。一同が気を引き締め奥を見やる。
銀色に縁取りされた青い扉。
近づくと二枚扉は大きく、大体2.5メートルほどある。
「特に仕掛けはないな」
「ケイ、あまり触るな!何から起こってからじゃ遅いぞ!」
そんなアダムの忠告もむなしく、青い扉は両方音を立てて開いた。
中を覗くと、神殿を思わせるような基調とした雰囲気と、高い天井の左右に四本の大きな柱が並んでいる。
全体的に古く相当の年月を印象をづける。
「ん?なんだあれ?」
部屋の中央に石像の様なものがみえる。
全長3メートルほどの大きな石像は、黒い鎧で騎士を思わせるものだった。
地面には剣を象ったものが刺さっており、その前で祈りを捧げているかのようなポーズをとっている。
「これって宗教的なやつか?」
ケイが石像に手を触れると、ザラザラした石の質感だった。ダンジョン内になんで石像があるのだろう。
試しに鑑定をしてみると【アスルの騎士の像】とあった。
「アスルの騎士の像か・・・確か女神アレサの守護者として語り継がれていると聞いたことがある」
「アレサの守護者?」
レイブンの言葉に、ケイはダジュールの管理者で検索をかけたが、その項目が出てこなかった。
おそらくメルディーナが細工または消去しているのかもしれない。今回のことも黒狼が言っていた不安定になった原因のことも、メルディーナに聞いておきたい衝動にかられる。
「ここで行き止まり?」
「こういうのは隠し扉があったりするんだよ」
「そうだな、念のため部屋を捜索しよう」
部屋を捜索しようとした時、レイブンが制止をかけた。
「レイブンどうかしたか?」
「何か聞こえないか?」
何かを引きずる音と、何者かの気配に一斉に振り返る。
そこには、先ほどまで動かなかった石像が、剣を片手に立ち上がったのである。
いきなり動いたら怖いよね。
次回は5月9日(木)更新です。