213、海底神殿
皆さんこんばんは。
遅くなって申し訳ありません。
いつもご高覧くださり、ありがとうございます。
さて今回は、海底神殿に足を踏み入れたケイ達の話です。
隠し通路を抜け、海底神殿の敷地に足を踏み入れたケイ達の前に不思議な光景が広がっていた。
眼前には海外の美術館を思わせる、ネオ・ルネッサンス様式のような白い建物がそびえ立ち、水中にあるにも関わらずその白が綺麗に映えている。
建物自体は地下にあるせいか下から上に続く崖のようなものが建物を囲むように存在しているが、驚く事に何故かその建物の周辺だけ地上と同じように空気が存在しており、それを取り囲むように水が遥か上部に浮かんでいるという謎の逆現象が起きている。
一瞬魔素の影響かと不思議に思っていると、バメットから希に海中に存在している魔素が変化するそうで、それが空気として形成され、水と油のような分離現象が起こるのだという。
建物の近くまで足を運ぶと、目視で大体3m程の重厚な二枚扉が見えた。
よく見ると扉には飾りが施されており、それぞれに向かい合うように二人の女性の姿が描かれている。それは、どことなくアレグロとタレナに似ている気がする。
「バメット、ここからどこに行けばいいんだ?」
『この建物の裏側に宮殿の裏手に続く道があります。ですが、表からは海流の関係で向かうことが出来ません」
どうやら建物の上には海流が存在し、流れの関係で押し戻され外からは行けないようになっている。バメットは建物の中を突っ切って向かった方が安全だと説明したが、以前彼が確認した際には扉など存在しなかったのにと不思議な表情を浮かべている。単に水圧の関係で閉まったのか、彼の見間違いかはわからない。
だがグドラ達がここに来ないとも限らないため、ケイ達は意を決して建物に入るように扉を動かそうとした。
「えっ?ち、ちょっと!?」
ケイが扉を開けようと手を触れた瞬間、腕にしていた腕輪が光り、連動するように扉が光り出した。驚きの声を上げたケイとは裏腹に、先ほどまであった女性の姿をあしらった扉が目の前から消える。
『この奥を捜索しろ!!』
はっ?と唖然とするケイ達の耳に、兵に指揮を送るグドラの声が聞こえる。
隠し通路の存在を見つけたのか、展開されたマップにはこちらに向かう赤い印が無数に表示されている。もちろん見つかれば面倒だと先ほどの驚きを一旦脇に置き、ケイ達はとりあえず中へと進んでいくことにした。
「そういえばマードゥックに一つ聞きたいんだが、さっきグドラが行っていた獣族が裏切ったという言葉はどいうことなんだ?」
その道中で、ケイはマードゥックに先ほどグドラが言っていた言葉を尋ねた。
彼いわく自分が生まれる前の事なので詳しくは分からないが、獣族がアフトクラトリア人と共謀して裏切ったという話は聞いたことがないのだという。
しかしグドラは獣族が我々を裏切ったと豪語していることから、ケイはそこに何らかの相違があったに違いないと考える。
「ケイ、そういえばルフ島に保管されていた文献に獣族とドワーフ族が関連していた記述があったことを思い出したんだけど、それと何か関係はないかい?」
「えっ?・・・あ、そっか!ペカド・トレの建設に関する文献か!」
レイブンから、以前ルフ島で目を通した文献の事を伝えられて思い出す。
それには『塔の作製・建設を担ったドワーフ族および獣族の絶対的な保護』の記述が確かにあった。
獣族は過去に塔建設のために大陸に渡ったことにより、友好関係を築いた人魚族がそれを裏切り行為だと勘違いをしたとなると可能性としてはなくはない。
現に獣人族の祖先が獣族という証言を得ていたケイ達は、本来の別の場所から来た獣族達を言い方は悪いが隠蔽したのではと推測した。
その結果、獣族はケイ達の言う獣人族と進化(?)したわけである。
それともう一つ。
ドワーフ族も外見の違いはあれど、以前訪れたダインのホビット族とどことなく似ているところがあることを思い出す。ドワーフもホビットも手先は器用で、どちらかと言えば職人のような印象があることから、彼らもまた同じような理由で獣族とやってきたのではないかと考える。
これは、あくまでも状況的推測というだけで証拠はない。
「それにしても、この建物って天井高いわね~」
「シンシア、上を向いていると転けるぞ?」
シンシアが上を見上げて感心した物言いをすると、アダムが転けるからと諭す。
確かに水中の地下にあるにも関わらず建物自体が大きく天井が高い。
どんな用途で建築したのかは不明だが、海外にある美術館を彷彿とさせた造りであり、今のダジュールから考えると相当技術が高いことが分かる。
それよりもケイが着目したのは、この建物全て大理石の様な材質で造られたことである。
一般的に知られている大理石は白大理石が有名で、起源としては古く、主にヨーロッパが盛んだと言われている。
もちろん現代の地球でも白大理石は非常に人気で、インドのタージ・マハールやシェイク・ザイード・グランド・モスクなどが有名だろう。
補足をすると白大理石にもいくつか種類があり、大理石を専門として扱う店もいくつか存在する。
ちなみにダジュールでも大理石は存在しており、高価で希少価値が高いのか建物の一部に使用されているところもある。主にアルバラントやダナン領主の屋敷に使われている。
「建築様式はヨーロッパに近いな。なんかまるで地球にあるような内装だな」
ケイが独りごちると、隣にいたシルトとバメット,マードゥックが疑問の表情を向けた。ケイの素性を知っている他のメンバーがハッと表情を変えると、アダムが三人の意識をこちらに向けさせるために声をかける。
「バメットさん、裏手に続く道はこっちでいいんですか?」
『え、えぇ。私も内部に入るのは初めてですが、以前建物の外から見た際に建物の反対側にも扉があったので覚えています」
アダムが建物の上部は海流があるので行けないのでは?と指摘すると、以前散策した際に宮殿の後ろにある高い崖の隙間に通じていることを知り、そちらにも散策をしたところ先ほどと同じ扉が見えたが入れなかったそうだ。
先ほどあった表の二枚扉は、ケイの所持している腕輪と連動していることから、この建物自体はアグナダム帝国が建設し、もっと言えばアスル・カディーム人が監修をしていたのではと考える。
しかも建築様式が地球と似ているとなると、そこで女神見習いのメルティーナのことを思い出す。
黒狼が【歴史に穴をあけた】と証言したことから、もしかしたらメルディーナは地球の技術や文化をダジュールに応用し伝えていたのではと考える。
以前訪れた、マデーラの洞窟で見つかったアイソレーション・タンクに似た棺に用途不明の基盤、そして何らかの方法でメルディーナが伝えたことはアグナダム帝国が積極的に取り入れた結果、歴史や世界の混乱を招いた。そして尻ぬぐいに黒狼を投入し、自身も予言者・アニドレムとして隠蔽工作を行い続けた。
人の記憶は時間が経てば忘れ去られるが、その弊害がアレグロとタレナを中心とした生き残りであるアスル・カディーム人たちとバナハに残った試練の塔といろんなところから出てきている。正直、ここまで隠蔽作業を行ったことに一種の関心を抱くが、やっていることがゲスなのは言うまでもない。
『ワウ!』
ケイ達が建物の反対側にある扉に向かおうとしたところ、ショーンが鳴き声を上げた。どうしたのかとそちらを見ると、少佐が向いている方向の先に下に続く階段が見える。
ケイは今はそんなことをしている場合じゃないと抱き上げようとすると、その腕の間をスルっとすり抜けた少佐は興味が尽きないのか、そのまま階段に一直線に向かい、あっという間に姿が見えなくなった。
「お、おい!?ケイ!待てって!!?」
ケイは慌てて少佐がブルノワを抱えると猛ダッシュで階段の方に走って向かい、一瞬の事だったのかアダム達も慌ててその後を追った。
「少佐~~捕まえ…たっと!」
階段を下りたケイは、少佐が近くに止まっていたことをチャンスだと思い、ブルノワを抱えている腕とは逆の方で少佐を捕まえた。
少佐は捕まっちゃった~と三頭共してやったりの表情を浮かべ、ケイはこんなところで遊んでいる場合じゃないと叱る。
ほどなくして後からやってきたアダム達とも合流し元の道を引き返そうとすると、シンシアからこんな言葉が上がった。
「ねぇ、ここって見覚えない?」
辺りを見回すと、湖の見える大きな鍾乳洞が目に入る。
そういえば、とケイが考え、アダムとレイブンと同時にハッと表情を変えた。
「ここって、俺たちが行った“幻のダンジョン”に似てないか?」
「似ているというより、反対側に青い扉が見えるぞ!?」
アダムの言葉と湖の反対側に銀色に縁取りをされた青い二枚扉が見える。
水の青さと相まって鍾乳洞全体が青く輝き、目線の先にある扉が異様な雰囲気を醸し出している。
事情を知らないアレグロとタレナには、以前幻のダンジョンに入った際に同じような光景を目にしたことがあると伝える。
幻のダンジョンは大陸に存在している女神像が引き起こした現象ということから、一種の転移で訪れた場所はここであるとみられる。
そうなると、以前ポポが言っていた鎧の人々も同じ現象で一時的に大陸外に足を踏み入れた結果ということになる。
湖を迂回するようにそちらに足を向けると、やはり四人が行った幻のダンジョンの場所と一致していることを思い出す。
ブルノワと少佐を下ろし二枚扉の片方を押し開け、中の様子を窺うとケイ達が目撃した動く石像が瓦礫に埋まったままの状態になっている。さすがに中に入るのはトラップ系が作用する可能性があるのでしないが、四人が体験したことは、自分たちの知らないところですでに別の大陸に足を踏み入れていたということになる。
『見つけたぞ!マードゥック!!』
ケイ達が来た道を戻ろうとした時、兵を引き連れたグドラの姿があった。
彼のやったと言わんばかりの表情と命令を出された兵たちがケイ達を取り囲み、一斉に矛先をこちらに向けたのだった。
幻のダンジョンで体験した場所は海底神殿の地下と同じだったことが分かったケイ達は、戻り道で追ってきたグドラ達と鉢合わせをします。
果たしてどうなってしまうのでしょう?
次回の更新は8月24日(月)です。
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