211、潜入
皆さんこんばんは。
いつもご高覧くださりありがとうございます。
さて今回のお話は、ルバーリアの宮殿内に潜入したお話です。
「宮殿の中って、結構警備が厳重なんだな」
窓から中を覗くケイが、巡回している人魚族の兵の姿を見つけては頭を隠しを繰り返している。
「やっぱり、お前達の親父さんがいるからか?」
ケイの問いにヴェルティヴェエラとノヴェルヴェディアがたぶんと頷く。
二人の父親と言っても生まれてすぐに王になるための資質厳選がなされるようで、実際には他の種族のように子に愛情を注ぐとか世話をするというようなことはしない。強い者が生き残り弱い者が食われるといったTHE・弱肉強食の世界である。
それ故に二人は、王である実の父親の顔を見たことがない。
父親も何人も子供を作らせては王にふさわしい個体を選別し、日々を過ごしているのだという。残酷なことに、もし自身の子供が女性型であった場合、ケイの想定した通り生みの母と同じ末路を辿ることになる。
これは他の種族にはない、独自の発展と言うことなのだろう。
ケイが再度窓を覗くと巡回の兵が往来しているようで、なかなか窓から入るタイミングが掴めない。
アダムからは他の場所から中に入れないかと提案されたが、ケイのマップとサーチを見る限り、ここが他よりマシという結果が表示される。
人魚族の繁殖力の関係か、サーチが表示する敵対の色が真っ赤なのだ。
「入るタイミングが掴めないなら、これを使ってみるか」
ケイが創造魔法で創造したのは、玩具のミニカーほどの小さな蜘蛛型の模型と操作するリモコンのようなものだった。
「それはなに?」
「蜘蛛型の偵察機だ。さすがにこの人数で入るとバレちまうから、これを使って内部を探索した方がリスクも低くなるだろう」
「でも、どうやって内部を確認するの?」
「この蜘蛛型の模型をリモコンで操るんだ。ここに蜘蛛の目があるだろ?それがカメラになって、俺が持っているタブレットと連動するんだ。簡単に言えば、内部の状況を映像として見ることが出来るってわけだ!」
ケイが鞄からタブレットを取り出すと、画面を開き蜘蛛と映像の共有が出来るかをチェックする。
仕組みは魔道船の監視カメラと同じ要領だが、同行しているシルトとヴェルティヴェエラとノヴェルヴェディアがどういった仕組みなのかと不思議そうに見つめている。
蜘蛛の模型は、タブレットの画面には目の前にある宮殿の壁を映している。
ケイがリモコンで前後左右と動作確認を行うと、少し移動速度は遅いが動かすことは十分に可能だ。それに蜘蛛の性質を受けているのか、壁や柱を伝うことが出来るようで、幼少期の頃にミニ四駆に触れたことのあるケイも動作としては少しクセがあるがなんとかなるだろうと、蜘蛛型の偵察機を内部に送り込んだ。
蜘蛛からの映像は、ケイが窓から送り込んだところから始まる。
マップを展開しながら内部の調査を進めて行くと、途中で巡回の兵と何度もすれ違うが偵察機はかなり小さいことから見つからずに宮殿内の角をいくつか曲がる。
実際に行ったことのない場所のため、マップでは細かな詳細がわからず時折道を間違えるが、いくつか道を通った先に地下に続く階段を発見する。
『・・・で ・・・・・・ よ・・・』
『い・・・・・・ グ・・・』
画面越しにこちらに近づく声が聞こえた。
ケイは偵察機を停止させ、物陰になる場所にそちらに移動させると偵察機のいた地点の角から、巡回兵とおぼしき鎧を着た二体の男性型の人魚がやってくるところがみえる。
彼らは偵察機に気づかないのか、こんなことを語っていた。
『しかし前から思っていたが、本当にグドラ様は大丈夫だろうか?』
『それはどうだろうな。なんて言ったて自身の子を兵として送り、用が済めばあっさり殺す。俺なら戦場で死んだ方がマシだ。それにジュランジの長を捕らえて交渉の材料にするなんて完全に暴虐だよ』
『王族からの兵は、生み育ててそのまま碌に教養もなしで放り出される輩が多くなったからな。今後、この国は一体どうなってしまうのだろうか・・・』
『まぁ、何処で誰が聞いているかも分からないからな。俺達も気をつけよう』
その会話を最後に、彼らは偵察機とすれ違うようにその場を離れる。
その様子を映像で見ていたケイ達は、どういうことなのかと疑問を持つ。
そもそも言葉はヴェルティヴェエラとノヴェルヴェディアのようにカタゴトではなく、普通の会話に聞こえている。
彼らの会話の内容はアダム達も理解していたようで、その部分で二人と先ほどの兵と何故違うのかと考えたが分からず、今は兵達が会話をしていた内容に着目する。
「グドラっていうやつはヴェルティヴェエラとノヴェルヴェディアの親父ってことだろ?自分の子を兵にして使い古しで殺す?しかも他の兵が難色を示すなんてどういうことなんだ?」
「少なくとも、王のやることに疑問を感じていることじゃないのかしら?さっきジュランジの長の話が出ていたから、その事についても疑問に思っている節があったみたいね」
アレグロの言う通り“何処で誰が聞いているかも分からない”という言葉から、疑問を抱いている人物がいるのがわかる。もしかしたらそれを口にすれば処罰が下るのだろうか?
他にもジュランジの長であるマードゥックの話も出たが、それに対してもあまりいい反応がなかった気がする。
ケイが操縦する偵察機は、その後も宮殿内の偵察を続行した。
白色の象牙のような階段がら螺旋状に下に続いている場面が映り、蜘蛛型の偵察機は器用にその足を使い、壁伝いに下りて行く。
画面には、宮殿内の明かりは所々に設置されている光る珊瑚のランタンのみで、地下のせいなのか薄暗く映っているが、最低限の光源は確保されているようで全く見えないというわけではない。
「ケイ、ちょっと止まって」
偵察機が進む途中で、画面を見つめるシンシアが何かを見つけ停止するように声を上げる。
「さっき通り過ぎた左の通路に戻れる?」
「何かあるのか?」
「一瞬だけ左の方から声がしたわ」
シンシアの指摘通りに先ほど通り過ぎた左側の通路まで戻ると、画面には映っていないが誰かの声が聞こえた。
左側の通路に入り、奥へと続くと二体の人魚族の姿があった。
一体は大柄で画面でも分かるぐらい体格が大きい男性型の人魚で、もう一体はそれより二回りほど小柄な印象の男性型の人魚である。
彼らは蜘蛛の存在に気づいていないのか、大柄の方は憤慨しもう一体はそれを宥めるよう様子が窺える。
『なぜジュランジを制圧しない!?』
『グドラ様、いくらなんでもクラーケンを理由に侵略は無理があります!』
『お前も私の言うことが聞けないのか!?』
『そうは申しており・・・ぐわぁ!!』
大柄の人魚が手にした三つ叉の槍でもう一体の体を貫いたと同時に、画面越しで見ていたケイ達もその様子にひぃ!と声が出た。
そして、貫かれた方の人魚は槍を引き抜かれた反動で前のめりに倒れる。
『グ、グドラ・・・様・・・』
『バメット、お前には失望した。貴様は“廃棄”だ』
グドラと言われた大柄の人魚は、倒れたもう一体の人魚にふんっと鼻を鳴らし、用済みだと吐き捨てる。
先ほどの兵士達の会話と今の様子から、グドラという人魚はだいぶ沸点が低いように見える。その証拠に廃棄と言い捨てた人魚に向かって、今度は背中に先ほどの三つ叉の槍を突き刺した。
刺された人魚から苦痛の声が上がり、刺し傷から人魚族特有の青色の血液が水中と交わり煙のように沸き上がる。そして刺した槍を引き抜き、大柄の方は倒れている人魚に背を向けると偵察機とは反対方向に去って行った。
「これ、助けなきゃマズいな」
「えっ!?ちょっと本気なの!?」
ケイはタブレットとリモコンを鞄に仕舞うと、止めに入ったシンシアの声も聞いてないのか、巡回兵のリスクもありながらも窓枠に足をかけ宮殿の中に入り、その後をアダム達が慌てて後に続く。
「・・・てか、さっきまで巡回の兵が居たのに、ここまで誰の姿も見ないなんておかしな話だな?」
「おかしいのは、急に窓から入って行った私達だと思うのだけど?」
地下に続く象牙の階段まで何事もなく辿り着いたケイ達は、呆れた表情のシンシアのツッコミも無視して階段を下り、偵察機が停止している左の通路の分岐までやって来た。
「ケイ様、あそこ!」
偵察機を回収し、アレグロが先ほど画面で見た左の通路の方を指さす。
青い血が煙のように立ち上りながらも、指された人魚は這いつくばるように先ほど去った大柄の人魚の方向に進んで行くところが見える。
指された傷が深かったのか、鑑定で状態を調べると人間でいうところの出血多量の瀕死状態と表示される。正直このまま放置すればこの人魚の生命が危ぶまれる。
ヴェルティヴェエラとノヴェルヴェディアは、一目散にその人魚に泳ぎ寄り大丈夫かと顔を覗かせる。
『お、お前達は・・・どこから来た?』
傷を負った人魚は、苦痛に苛まれながらも助けに入ったヴェルティヴェエラとノヴェルヴェディアの姿に驚いている。二体は顔を合わせなんのことと言わんばかりに小首を傾げる。
その後ろからケイ達が歩み寄り、大丈夫かと声をかけた。
宮殿に見知らぬ侵入者が入ったと声を上げられそうになったため、ケイは慌ててその口を塞ぐ。そして偵察機の事を伏せたままさっきの様子を見ていたと伝え、このままだとあんたが死ぬからと落ち着くようにと説得をする。
もちろん通常であれば不法侵入者がそんなことをいうのは可笑しな話だが、今は一刻の猶予もないため、ケイはその人魚に【エクスヒール】をかけて完治させてから落ち着いて話を聞いて貰うために声をかける。
「あんた、大丈夫か?」
『貴様ら・・・この国の者じゃないな?何者だ?』
ケイは自分たちは余所の大陸からやって来た冒険者で、ジュランジのレックスとギエルからマードゥックの救出を頼まれたと説明をしてからさっきの話を聞く限りでは侵略は国をあげての計画的じゃなさそうだなと質問をする。
『申し遅れました、私はグドラ様の側近でバメットと申します。お恥ずかしい話ですが、最近のグドラ様は厄介者のクラーケンを守り神と祭り上げ、ジュランジに侵略するように自身の兵に命令を下しました。しかもジュランジの長であるマードゥック殿を人質に島を明け渡すようにと宣戦布告をしたようなんです』
バメットと名乗ったその人魚は、先ほど一緒に居たグドラの側近のようで、外見上はヴェルティヴェエラとノヴェルヴェディアより大人びた雰囲気を持っていた。
正直、人魚族の外見はみんな同じなので区別がつきづらいが、若い人魚は全体の色が水色に近く、バメットはその中でも年が上のようで全体的に青みがかっていた。
彼が言うには、ある日を境にグドラが侵略まがいの行動に出始めたようだ。
もちろん何度も話し合いを設けたようだが、結果はこれである。
バメットは出血の影響からかふらつきが見られたため、シルトとレイブンが彼を支える。
『バメットを拘束しろ!』
すると、突然通路の奥の方から数体の人魚の声が聞こえた。
声と様子から察するにこちらに近づいてくるのがわかる。
かなり物騒な発言も聞こえたことから、今から来た道を戻るのは間に合わないと判断し、ケイ達はここで彼らを迎え撃つことにした。
宮殿に侵入したケイ達は、人魚族の長・グドラから用済みだと刺された側近のバメットを助けます。
彼の話からグドラの命でジュランジが侵略されたが、他の人魚の様子を見る限り何かがおかしい様子。一体どういうことなのでしょう?
次回の更新は8月19日(水)夜です。
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