204、急変したアレグロ
皆さんこんばんは。
いつもご高覧くださりありがとうございます。
さて今回は、アレグロの身に何かがあったようです。
「ケイ!、あれ追ってきてるわよ!?」
シンシアの声と同時にケイの視界に暗闇に蠢くストーンヘッジの姿が見えた。
奇声を上げて壁から現れたかと思うと、這いずるように全身があらわになる。
まるで一昔前の超常現象番組に登場するチュパカブラのイメージ画の様な姿に、さすがのケイも引きつった表情しか出てこない。
奇声を上げたストーンヘッジはケイ達を捕食の対象とみたようで、四足歩行で追ってこようとしているので、ケイはブルノワと少佐を抱え、メトバはポポを抱えて全員が採掘場の入り口まで全力で走って戻ろうとする。
後ろを振り返ることなく疾走する一同の後方から、ストーンヘッジの奇声と走る音が聞こえたが、明らかに複数体居るような音が内部に響き渡る。
ジュマやポポの話では昼間には出てくることはないと行っていたのだが、恐らく採掘場自体が暗く、彼らにとっては住みやすい場所なのだろう。
そうなると、前回遭遇しなかったのは奇跡である。
ケイ達が外に続く階段を上り外に出ると、ストーンヘッジ達は外が明るいせいか採掘場の入り口から外に出ることができないようで、ケイ達を凝視しながらそこに止まっている。
ある程度離れたところからそれらの様子を伺うが、暫くすると採掘場の奥へとすごすごと戻って行った。それを確認したケイ達は、やっとの思いで安堵の表情を浮かべる。
「あれなんなのよ!?」
「鑑定したら【ストーンヘッジ】という魔物らしいな。昨日聞いた奇声と全く同じだったから、恐らくそれが徘徊しているんだろう」
「えっ?じゃあ、あんなのが採掘場をうろうろしているってことなの!?」
「正確には島全体だろうな」
ケイは、あれが昨日ジュマの言った【望まれない者達の恨み】の正体なのだろうと考え、それと同時にストーンヘッジと月花石・陽花石についての関連を推測する。
ストーンヘッジの正体は、月花石ではないかと考える。
どういうことなのかというと、月花石は月の光ありきの鉱石で逆に陽花石は日の光を受けて光る。それは、既にバナハにあった試練の塔で確認している。
それと試練の塔にはヒガンテがいたことから、それもまた、月花石から生まれる魔物に対処するために存在していたのではと考える。このダインにいる巨人族のような役割でもあると考えると、なぜそこまでして塔を偽装していたのかは定かではない。少なくとも塔を建設するにあたって、アスル・カディーム人はその事実を知っていたことになる。
自分ならまっぴらごめんだが、細工をしなければいけないことがなにかあった。
例えばアスル・カディーム人はアフトクラトリア人達が裏切ることを知っていた、とか。ケイの考えすぎかと感じたが、今はそう推測することがしっくりくる。
一方のアフトクラトリア人は、その事実を知らず採掘の最中にあの場で惨殺されたことになるが、機械人形のせいなのか、ルフ島で見た朽ちたシャムルス人ノ人骨のようなことにはなっていない。
そして、それを知った他のアフトクラトリア人を含めた争いとなり、世界戦争へと発展したということだろう。
あくまでも推測しかないが、状況と情報を見る限りそれが一番近い説である。
「島全体にあんなのがうろうろしているの?でも、なんで昼間は出て来ないの?」
「説は二つ。一つは巨人族が奴らの対応をし、もう一つは陽花石だろうな」
ケイが採掘場の外にある壁や岩から突出した白く光る鉱石を示す。
日中は日の光を浴びて光るために、それがいわば魔除けのような効果を生んでいるのだろう。そういえば、バナハにあった試練の塔は外は陽花石、中は月花石で構成されていたが、夜間に何かが出た話を聞いたことがない。
ケイ達が見たヒガンテのおかげでと考えると、見つけた時には既に停止寸前だったことから、実はそこにもう一つ何かあるのだろうと考える。
「ポポ、さっきのあれは毎晩出てきて徘徊しているって言ってたよな?」
「うん。おいらも見るのは初めてだけど・・・」
「逆に夜になっても出てこない可能性もあるか?」
「たぶん。詳しくはわからないけど、じっちゃんがいうにはもしかしたら“魔素”が関係あるんじゃないかって」
月花石から生まれたストーンヘッジは、汚染された月花石となって姿が戻り、それが大気中に漂う魔素と反応を起こし、長い年月をかけて質が変化することもあるのだという。それを聞いたケイは「例えば青銅のような?」と口にすると、そういう形もあるとポポが答えた。
「ケ、ケイ。ちょっと待て!それって・・・?」
「あぁ。大陸にある地下遺跡のことだ」
話しに割り込んだアダムがケイの推測に驚愕の表情を浮かべる。
ケイが大陸を離れる前に懸念していたこととは、大陸中に存在している地下遺跡の事だった。
あの青銅で出来た地下遺跡の正体は汚染された月花石が長い年月をかけて形成した跡であり、女神像の仕掛けを使って幻のダンジョンを再現していた裏には、地下に漂う魔素を排出していたと考えると、その役目がケイ達によって解除されたことによって、突然変異でストーンヘッジが出現する可能性を示している。
ポポが最初に言っていた人の姿を見たという証言は、幻のダンジョンから現れた自分たち人の姿なのだろう。
幻のダンジョンは限定的に現れるということから、大陸から他の大陸に排出する際の一種のトンネルのようなもので、役目が終わると大陸から来た人なんかは異物と判断され、自動的に元の大陸にワープする仕組みだろうと考える。
あくまでも推測の域を出ないが、集落に戻ったらガイナール達に連絡をしてみようとケイが考える。
「おーい!ポポ!!」
ケイ達が一度集落に戻ろうと考えていた時、別の巨人族を連れた集落にいたホビットの青年がやって来た。
どうやらなにか慌てているようで、ケイ達の姿を見るや客人も一緒だったのかと安堵している。ポポがどうかしたのかと尋ねると、客人の連れの容態がおかしいと口にした。
「連れって、アレグロの事か?」
「名前は聞いてないけど、女性の方がいきなり苦しんで藻掻いているみたいなんです。今はジュマさんと付き添いの男性の方が彼女を見ているんですけど・・・」
この島には医者はいないが、ジュマが医学的な知識を少しだけ持ち合わせているそうでその対応をしている。ジュマから事情を聞いた青年は、採掘場へ向かったポポとケイ達を呼び戻しに慌ててやって来たのだという。
ケイ達は青年に礼を言うと、急いで集落へと来た道を戻ることにした。
「アレグロ!大丈夫か!?」
呼びに来た青年と共に集落に戻ってきたケイ達は、その足でポポの家の裏庭に足を運んだ。テントを開けると、ベッドに横になるアレグロと側にはジュマとシルトが座っている。
『戻ったか』
「シルト、アレグロの様子は?」
『さっき落ち着いたようだ』
「何があった?」
『アレグロが急に痛みに悶えていた』
シルトの話では、ケイ達が採掘場に向かってしばらく経った後に急に苦しみ出したという。それと同時に、彼女の体から黒い靄のようなものが立ち上がり始めたらしいが、それはすぐに収まったそうだ。
ケイがアレグロを鑑定すると、儀式による浸食(タァークル率)が上がっていることに気づいた。
「ジュマ、あんた“タァークル率”っていうのを知っているか?」
「もしかして・・・儀式による浸食、ではないかと」
ケイは知っているのかと尋ねると、言い伝えで聞いたことがあるのだという。
残念ながらそれが何を意味しているのかはわからないが、もしかしたら【魔人族】が何かを知っているのではと口にする。
「魔人族?」
「はい。ここから遥か北に存在する島に魔人族という魔法や呪術に詳しい一族が居るという話を聞きましたが、我々は他の島との交流がないので本当かどうかは、分かりかねます・・・」
言葉を濁すジュマに、北に存在している魔人族ならという一縷の望みを感じる。
そういえば、とケイはジュマに先ほど採掘場で見たストーンヘッジについて尋ねると、あれを見たのかと驚きの表情をした。内部に入って調査をしていたところ、突然汚染された月花石から現れたと説明すると、月花石は本来、石から生まれ石に帰る“望まれない者達の恨み”という意味なのだという。
月花石は本来月の光を浴びて白く光るのだが、地中にある月花石は月の光を浴びることなくそれがいつの間にか意思を持っているかのようにストーンヘッジとして形成され、人知れず石に戻り地中へと眠りにつく。
しかし太古の昔に存在していた他の種族達は、それを知らずに島に来ては採掘を繰り返していたことから、いつしかホビット族の間では“望まれない者達の恨み”ということばが生まれたのではと推測する。要は寝た子を起こすなということなのだろう。
眠っているアレグロを見やると、ローブから見える首もとの隙間から黒い何かが見えた。さすがに寝ている彼女を凝視するのはなんだからと、シンシアとタレナにそれを伝え、少し見てほしいと伝える。
二人も心配していたので承知し、男性陣は一旦テントの外に出る。
「ケイ、やっぱりだったわ」
少し経った後にシンシアが出てきた。
ケイが言っていた通り、首筋や肩の方まで背中にあるタトゥーみたいな模様が広がっていたという。タレナは?と聞くと、それを見たことがショックだったようで、放心状態でアレグロの元に残ると言っていた。姉であるアレグロが、日に日に弱っていることに心配の色を隠せない様子だった。
ケイはもう少しこの島の調査を進めたいと思っていたが、アレグロのことを考えると魔人族が居る北に向かうべきかと考える。体のこともあり、彼女だけでも先に船に戻すべきかとアダム達と相談していると、ジュマが船のことを尋ねる。
ケイはこの島の西側にある浅瀬に止めていると話すと、あそこは本来桜紅蘭との往来のために使用されていたそうだが、今では使用する者がおらず、場所が場所だけに危険なところだと言い、それなら比較的安全な北側の浅瀬を使用するのが良いと提案をする。
そこはたまにホビット族や巨人族が釣りをする場所でもあるようで、ケイ達は日が暮れていることもあり、明日にダット達の船と合流をして北側の浅瀬に移動して貰うように頼もうと考えたのであった。
苦しんでいた様子のアレグロは、容態が安定しても儀式による浸食が進行していることにケイ達は焦りを感じていました。今後、彼女は一体どうなるのでしょう?
次回の更新は8月3日(月)です。
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