19、幻のダンジョン(前)
ケイ、初ダンジョンに挑む。(前編)
翌日ケイは、アダム達やディナトに生息地に行く必要はないと告げ、昨日出会った黒狼の話は、彼らの混乱を招きかねないため伏せることにした。
彼らにはサラマンダーの行動は、ジュエルハニービーが居なくなったことによる混乱だと告げる。事実サラマンダーがジュエルハニービーを守護している状態なので、あながち間違いではない。
「だったら、アマンダさん達の救出の際に戻せば良かったじゃない?」とシンシアから突っ込まれたが、「その時はそこまで頭が回らなかった」と言い訳をした。
ディナトの合図で、朝食が運ばれてくる。
「ディナト一つ聞いてもいいか?」
「なんだ?」
パンをちぎって口に入れるディナトにケイが問う。
「この国の歴史を知りたいんだけど、どこに行ったらわかる?」
「歴史かー。それだったら、アルバラントの王立図書館やウェストリアの教立図書館、あとダナンの資料図書館だな・・・なぜ急に?」
「俺はもともと他の国の大陸の人間だから、ここのことはよくわからない。だから手っ取り早く歴史を知ろうかと」
「そうなのか~見た目に寄らず熱心なんだな」
ケイの理由にディナトは納得した表情をした。
この国には、図書館が大きな都市の三ヶ所しか存在しない。
それぞれ特徴があり、アルバラントはダジュール全般の書籍、ウェストリアは宗教全般、ダナンは素材や魔物系の詳細全般を扱っている。
「正直歴史は古いものだと、閲覧が制限されていたりするからなかなか見ることは難しいと思うがな」
そう言ってディナトは、またパンをちぎって口に入れる。
「なんとか見ることは出来ないか?」
「うーん・・・ウェストリアは宗教関連が多く閲覧は一般的に許可されてないから難しいけど、アルバラントの図書館だったら推薦状を書けるけど?」
「図書館に推薦状?」
「閲覧制限のエリアは予め推薦状などで、予約を取らなくてはいけないんだ」
国内の情報や資料も図書館にあり規制をかけている部分もあるため、状況によっては許可が下りないこともある。
「まぁ急いでいるわけじゃないからまかせる!」
「あぁ、わかった。任せてくれ!」
顔立ちがいいと、笑顔で余計にイケメン感が増すディナトが答える。
食事までごちそうになった四人は、何かあれば冒険者ギルドかアーベンにいるから連絡をくれと言って、ディナトと別れた。
エストアでの依頼は完了した形になったため、一同は報告のためガレット村に戻るために下山する。
「・・・で、本当はどうなんだ?」
前を歩くケイにアダムが口を開く。
ディナトへの説明が本当ではないと見破っていたからだ。
「あの場では本当のことを話せなかった・・・とか?」
レイブンも思うところがあるらしく、同じようにケイの嘘を見破っていた。
「え?ちょっとどうゆうこと?」
シンシアだけはその意味がわからず、一人不服な表情をした。
ケイは、黒狼に出会った経緯を三人に話した。黒狼がメルディーナの召喚獣だということは一応伏せて置いた。
もちろん話だけでは信用されると思っていないため、受け取った蒼いペンダントを三人に見せる。
「話は本当・・・ということか」
受け取った蒼いペンダントを確認するアダム。特にこれといって特徴はなく、少し大きい宝石といっても通用する。
「でも女神像なんてあったかしら?」
「残念ながら、俺も聞いたことがないな」
三人は首を傾げる。ダジュール人でも知らない歴史ということだろう。
「しかし厄介だな」
「厄介?」
「女神像の話なら、おそらくウェストリアが関係してくるかもしれない」
「宗教関係だからか?」
「たぶんな」
アダムの話では、ウェストリアの教立図書館は、一般には公開されておらず教会関係者でも上位の人間にしか許可されず厳重に管理されているのだという。
宗教上の解釈や行き違いを防ぐための措置だと言うが、真偽は不明である。
「うーん・・・なんとかならないかな?」
「それなら、マイヤー様に相談してみたらどうかな?」
「・・・それだー!!!」
レイブンの言葉に一歩おき三人が声を上げる。
マイヤー・クレイオルなら領主という立場で、図書館への口利きをしてくれるかもしれない。
一行はダメ元で言ってみる価値はあると判断しのちに相談に行こうと結論づけた。
「本当に助かったよ、ありがとう」
ガレット村のマーサに、無事に送り届けたと報告をすると安堵の表情で四人に返した。
「ケイお兄ちゃん、鳥さんは帰れた?」
「あぁ。ちゃんと送ったぜ」
「やった!ありがとぉ!お礼にイチゴ上げるね、ハイ!」
鳥を元の場所に送り届けたせいか、キャロルからケイの株が上がり今は膝の上に居る。
キャロルからのイチゴあーん攻撃にたじたじしながらも頬張るケイ。それを恨めしそうに見ているエル。兄としては複雑なようだ。
「そういえば今年の幻のダンジョンが現れたって聞いたけど、ケイ達は行かないのかい?」
「幻のダンジョン?」
ダジュールにはいくつものダンジョンが存在しているが、その中の一つ『幻のダンジョン』と呼ばれる場所がある。
毎年この時期になるとどこかに現れ、一定期間後に姿を消すと言われている。
今年は、アルバラント城の地下に出来たそうだ。毎年ランダム性とは面白い催し物である。
「なにそれめっちゃ面白そうじゃん!」
「・・・だろうな」
目を輝かせる子供のようなケイにアダムが落胆する。
「というわけで、今度は幻のダンジョンに行ってみようぜ!」
「え?行くの?」
「善は急げっていうしな!」
もはや行くことが確定した。
指名依頼の報告はどこの冒険者ギルドでも可能なため、ケイ達はアーベンには戻らずアルバラントの幻のダンジョンを目指すことにした。
「はい、指名依頼の報告が受理されました。こちらが報酬となります」
アルバラントの冒険者ギルドで指名依頼の報告を終え、ギルドを後にする。
「さっそく行こう!」と言うケイをアダムとシンシアが阻止。翌日の持ち越しとなった。
この後は、その準備をするために道具屋に寄る。
「お兄さん達も幻のダンジョンへ?」
買い物の精算の際、道具屋の亭主が話しかけてきた。
「あぁ。本当は今からでも行きたいんだけど、こいつらが止めるから・・・」
ケイが後ろをちらっとみると、三人のそれぞれの表情が窺える。
アダムは「当たり前だろ!」という戒めの表情。シンシアは「なにを馬鹿なこと行ってるの」と言う叱責の表情。レイブンは「困ったなぁ」という困惑の表情。
「まぁどっちにしろ、今年も攻略は望めないだろうね」
ケイの返事に道具屋の亭主が難色を示す。
「どういう意味なんだ?」
「毎年ダンジョン内が変わっているみたいだから、なかなか思うように進まないみたいだよ」
内部は毎年ランダム性になっているようだ。攻略させる気がないのかはたまた他の理由があるのか。なににせよ、ケイの想像力を駆り立てるだけである。
「過去には兵を率いた部隊も編成されたけど、結果は散々だったらしいよ。あ、回復薬おまけしておくよ」
亭主が道具を袋に詰めてケイに渡す。
「そうそう!近々国の兵が幻のダンジョンの攻略に乗り出すって噂になってたっけ」
「まー城の地下に出来ればそうなるわな」
ダンジョンの出現や内部の規則性もなく、攻略者もいない。どうやら今では毎年の一大イベントになっているようだ。
翌日、四人は幻のダンジョン攻略のため城の方に歩みを進めていた。
幻のダンジョンの入り口の場所を、すれ違った冒険者のパーティに聞くと城の北側にあるとの話を聞いたのでそちらに向かう。
「すっんげぇ!」
「どこもかしこも人だらけね」
目をきらきらと輝かせるケイに肩をすくめるシンシア。
それもそのはず、入り口には多くの冒険者でいっぱいだった。あまりの人の多さに衛兵が整備をする姿も見られる。
「ダンジョンだというのにこの有様か」
「毎年多くの挑戦者が居るみたいだけど、いまだ攻略者なしって聞くし俺たちだけで大丈夫か?」
十年以上冒険者をしているアダムとレイブンに聞くと、今までのダンジョン攻略では臨時パーティのみため、正式なパーティでのダンジョン攻略は今回が初だという。
ダンジョンに入るにも長蛇の列のため、大人しく並ぶことにする。
しばらく待ち、ようやくケイ達の番になった。
青い入り口から中を覗くと、下に続く階段が見える。
ダンジョンの門番にギルドカードを見せ、中に入ることにした。
ダンジョン内に続く階段を下りていくと段々と暗くなってくる。
「少し暗いから松明をつけるぞ」
アダムが持参した松明に火をつける。
「アダム、ダンジョンってこんな感じか?」
「ダンジョンにもよるが、大体こんな感じだ。もっとひどい所だと入り口から罠があったりするからな」
ダンジョンには、守護をするダンジョンガーディアンやダンジョンの主と言われるコアというものが存在する。
大抵のダンジョンは、全10階から多くて50階。10階事に特性が変わる所もある。
階段を下り終えると、少し広めの広場に出る。
「みんな構えろ・・・来るぞ!」
薄暗い広場に三匹の魔物のうなり声が聞こえた。次の瞬間、獣系の魔物・ウルフが飛びかかってくる。
アダムが左で持った松明を振りけん制をすると、そのうちの一匹がそれを翻しまた飛び込んでくる。
「行くわよ!」
その直前にアダムのその後ろにいたシンシアが、矢を目に向けて放つ。
矢はアダムの横を通り、ウルフの目に突き刺さる。
その反動で転がり回って居るところを、アダムが首をめがけて剣を振り下ろす。
右側から来たウルフをレイブンが両剣でなぎ払う。
その反動で壁に激突すると、すぐさま体勢を立て直し飛びかかってくる。
両剣を片手で扱うレイブンが、ウルフの口めがけて剣を突き刺す。
左から来たウルフはケイめがけて飛びかかり、それを寸前で避けると同時に顔面に拳を叩きつける。
吹き飛んだウルフに追い打ちを掛けるように、頭にかかとを振り落とす。
「魔物の闇討ちか?」
「狩りの本能的なものだろう。基本中の基本だ」
アダムとレイブンが血の付いた剣を振り払い鞘にしまう。
ケイが魔物の死体を収集する。
その後、ウルフやゴブリンやスライムが現れ同じように対処する。
「階段発見!」
ケイ達が下に続く階段を見つけ下りていく。
体感的には十階ほど下りて行ったところにセーフティゾーンを見つける。
「まだ着かないのか?」
代わり映えしない情景に飽き始めるケイ。
最初の七階ぐらいまでは意気揚々としていたが、飽き性の性格のためか、その後は魔物を全て炎系の魔法で吹き飛ばそうとしていたところをアダム達に止められ、不愉快な表情を浮かべた。
「ここはセーフティゾーンみたいだから、今日はここまでにしておこう」
セーフティゾーンは魔物が入らない結界の様な場所で、アダムの声に休憩をすることにした。
すでに辺りには数組のパーティが在留しており、攻略の話し合いをしている姿がみられた。
「途中までは面白かったけど、意外と飽きるなコレ」
持参した食料を口に運ぶ四人。
本日はパンと水のみ。
基本野営やダンジョンでは、匂いで魔物が寄ってくる場合もあり、また他のパーティの妨げにならないように匂いの強い料理は避けることになっている。
「フロアボスも見られないようだから、これからダンジョンらしくなるってことじゃないかな?」
「そんなもんか?」
「今までもそんな感じだったからね」
ケイを諭すレイブンが、コップに水をつぎ三人に手渡す。
「これからどんなものが来るかわからないからな、明日も気を引き締めていこう」
アダムの決意にその日は一日を終えた。
次回の更新は5月6日(月)です。
細々と更新します。




