201、小人と巨人
皆さんこんばんは。
いつもご高覧くださりありがとうございます。
さて今回は、草むらから出てきた謎の生命体に驚いたケイ達と新たな出会いの回です。
草むらから現れたゴーレムもどき(?)は、特に敵意を向ける事なくそのままの状態でこちらを伺っているような様子を見せる。
さきほど遠巻きに見ていた別のゴーレムもどきと容姿は同じらしく、全体的に岩のような質感に黒い双眼がこちらを見据えている。なによりも背丈が2m以上あるシルトよりかなり大きいことがわかる。おおよそ全長が3~4mといったところだろう。万が一接近戦になれば、アダムとレイブンでも難しい。
「メトバ、どうしたの?」
戦闘になるか否かをケイ達が気を張り巡らしているところに、少し高い少年のような声が聞こえた。
上を見上げると、ゴーレムもどきの頭部からひょこっと少年の顔が飛び出す。
少年の方も、まさか人が居るとは思わなかったのか、えっ?と目を丸くして驚く様子を見せる。
「坊主、これを操ってんのおまえか?」
「操ってるんじゃないよ。それにおいらは坊主じゃないやい!」
少年はゴーレムもどきの身体に乗っていたようで、巨大な身体を足場にヒョイッと地面に降りるとケイ達は少年が意外に小さいことに驚いた。
少年は、小麦色の肌と黄緑色のモンゴル族の民族衣装であるデールのようなの装いにエメラルドのような透き通った瞳でこちらを見つめている。
驚くことに、背丈がブルノワより少し大きいが目視で100cmもないことだ。
「おいらはポポ。で、こっちがメトバだよ」
「俺はケイ。ここにいる仲間達と各地を巡っている冒険者だ。それよりもお前らはこの島の住人か?」
「うん、そうだよ。おいら達はあの山の上にある集落に住んでいるんだ」
互いに簡単な自己紹介を済ませ、ポポが自分たちの集落を示した先には、遠くからでも見えていたそびえ立つ崖の様な山がある。先ほど海上で島の全体を眺めていた時には分からなかったが、こちらの山もかなりの高さなのだろう。
ポポとメトバは、この島には自分たちの種族しかいないことを話した。
聞けば、ポポはホビット族でメトバは巨人族なのだという。
ホビット族は、その名の通り小柄な種族で大人になっても100cmしかならず、その分平均でも1500才の長命であり、小柄ながらも農業を中心とした生活をしている種族である。
一方の巨人族は、全長が小さくとも3m、大きいものだと10mをゆうに超える。
鉱石のような肌質の体格に、顔という部位の境界線は曖昧だが目らしき双眼が存在する。口というものが存在せず話すことは出来ないが、ポポの言っていることはわかるようだ。また、ポポとメトバは大の親友らしい。
種族が異なっても互いに協力しているところが見てとれる。
「実は俺達、ダジュールの歴史について調査してるんだ。この島に誰か歴史に知っているやつはいるか?」
「それなら、じっちゃんが知ってると思うよ!」
ポポは祖父なら何か知っているのではと答える。
ポポの祖父は世界大戦後すぐに生まれた人物で、いくつかの文献を所持しており、以前ポポ自身も見せて貰ったことがあるのだが、全く読めなかったそうだ。
ケイはその祖父から話を聞くことは出来るかと問うと、たぶん大丈夫だと思うとポポが返事をする。
集落に向かう道中でメトバの肩に乗ったポポが、ケイ達が人族と言うことに多少興奮している素振りを見せた。
ポポは以前、島の中に自分たちとは姿の異なる種族を森の中で見かけたことがあると話した。それはケイ達と似たような容姿で、鎧を身に纏った男たちが森の中を進んでいるところをメトバと一緒に見ていたのだが、祖父おろか集落の人達から夢でも見たのではと相手にされなかったようだ。
ポポが「絶対に見た!」という主張にその後そいつらを見たのかとケイが聞くと、その一度しか見ていないが絶対に見たと断言できると拳を作って力説する。
「でもこの島にはホビット族と巨人族しか居ないんだろう?」
「うん、そうさ!でもおいら達は絶対に見たんだ!」
ポポの確固たる眼差しにケイはどういうことなのかと首を傾げる。
ただポポは、祖父から1500年前の世界大戦で人族が滅んだと聞いていた。
しかし目の前にケイ達が居ることから、もしかしたらあの女神像の結界のせいで実際には人族が生存しているのに、鬼人族をはじめとする他種族は人族が滅亡したと解釈したのではと考える。
ポポはさらにケイに住んでいる大陸はどんなところで、どんな人達が住んでいるのかといろいろと尋ねてきた。ケイはいろいろと説明をしてやると、人族しかいないものだとばかり思っていたとポポが返す。どうやらケイ達の認識しているエルフ族や魔族、ドワーフ族に獣人族の存在をポポは知らなかったようだ。
まぁ1500年も経てば知る人は居ないといったことなのだろう。
「この上に集落があるんだ!」
集落に向かっている道中、森を抜けた先に断崖絶壁の崖が姿を現した。
見たところ上るような場所はなく、どうやって上がるのかと尋ねると、いつもはメトバに登ってもらうんだとさも当たり前のように返される。
しかしいくらメトバとはいえ、大人数を彼一人で運ぶことはさすがに無理なのではと返すと、大丈夫!とポポは胸を叩き、ピィーと指笛を吹いた。
ケイ達が何事かと様子を見てみると、先ほど通ってきた森から地鳴りのような音が聞こえこちらに近づいてくる。見るとメトバと同じような風貌の巨人族が数体が姿を現した。
巨人族は体格も大きく力が強い。故にホビット族では難しい力作業を分担して行うことが暗黙の了解のなっている。
ポポは巨人族にケイ達を上まで運んで欲しいと伝えた。
巨人族に話すという行為は出来ないがそれを察したのか、一斉に頭を振る。
「け、結構高いのね・・・」
「まさか集落に行く手段が、巨人族の肩に乗るとは夢にも思わなかったぜ」
各々巨人族の肩に乗せてもらうが、まさか移動手段が巨人族だったとは思わなかった。シンシアは顔を引きつらせ、ケイも映画やテレビで見るような展開に驚きしか出ない。
ケイ達を乗せたメトバと他の巨人族たちは、目の前の崖をロッククライミングさながらにその巨大な手足を使ってよじ登る。正確には猿のように岩から岩に飛び移るように上を目指しているのだが、日本にある有名なジェットコースターとは比べものにならないほど、凄まじい勢いで崖を登っている。
しかし面白いことに体幹がしっかりしているのか、上半身に乗っているケイ達には振動が伝わってこず、あっという間に先ほどまでいた地点が遥か遠くのように見える。
ポポに聞くといつもこのような移動手段を取っているのだという。
集落には作物などの食べ物はあるが、肉や魚などは実際に集落を出て狩りや釣りをしなければ手に入らず、巨人族がそれに変わって手に入れてくるのだという。
ちなみに、ポポのように巨人族に乗って一緒に行動するということは、集落の中でも彼ぐらいしかいない。
「こ、怖かった~」
集落の近くにある崖の上まで辿り着くと、巨人族から下りたシンシアが顔を青ざめさせ、今にも腰を抜かさんばかりに感想を述べる。
ケイも普通のロッククライミングの感じかと思ったのだが、まさかの展開にブルノワと少佐を抱えて乗っていたことに自分を褒めたい気持ちにかられる。
乗せてくれた巨人族に礼をすると、メトバ以外の巨人族とはここで別れる。
彼らは本来の役割があるようで、夜には集落に戻ってくるのだが、日中は食料の確保から島の巡回などをおこなっているそうだ。
「集落はこの先すぐだよ!」
ポポの言葉に、ケイ達は集落に続く道を彼の後に続いて向かったのだった。
「ここがおいら達の集落だよ!」
小さな森を抜けた先に、いくつかの建物が連なる集落が見えた。
ここがホビット族が暮らす集落で、建物はファンタジー小説に出てくるような緑の屋根を基調とした梁のしっかりしている白い壁の建物で、植物などを使って装飾がされている。他にも二階建ての建物などが存在するのだが、その種族のせいか集落全体が小さい印象を持つ。
ケイは一瞬、子供が喜ぶダンボールハウスを想像したが、それと似たような印象を持つ。
なにせホビット族は大人でもあまり大きくないことから、家もケイ達が入るには少々無理がある大きさである。正直、家の高さがシルトの背丈と変わらず、扉や窓は人であるケイ達にはちょっと小さいことから、是非家の中になんて言われた日には丁重にお断りしたい。
「この奥にあるのがおいらの家さ!」
メトバから降りたポポは、ここでメトバとは別れ、ケイ達を家に案内する。
その道すがら、集落にいる他のホビットからケイ達は奇異な目で見られていた。
なにせホビット族と巨人族しかいないこの島に人間であるケイ達がいるのだから無理もない。ある者は興味を抱き、ある者は恐怖を抱く。様々な反応があるが、ケイ達から見ればこちらの方が不思議でならない。
ポポの家は、集落の奥にある二階建ての建物だった。
ケイ達では家の大きさのせいで中に入ることが出来ず、ポポにその祖父を呼んできて貰うことにした。
ほどなくしてポポは年配の男性とおぼしきホビットと一緒に家から出てきた。
天然パーマのような剛毛な茶髪に、ポポと同じエメラルドグリーンの瞳は更に深い色合いを見せている。
その人物はケイ達を見るや、どういうことなのか頭の整理が追いついていないような困惑の表情が窺える。まるで人を幽霊に見えているような、そんな表情だ。
「あんたがポポのじいさんか?」
「え、えぇ。私はジュマと申します。あなた方は・・・」
「俺達はあんた達が言うところの人族だ。歴史の真実を知るために他の大陸からやって来たんだ」
ジュマはお辞儀をしケイ達を出迎えたかと思うと、事情を聞いた途端に驚愕の表情を隠せない様子でアワアワとこちらを見つめていた。
ポポが「じっちゃんしっかりして!」と渇を入れると、ハッとした表情に変わり、大変失礼したと礼をする。
ケイがポポからあんたなら歴史のことについて、文献や何か知っているのではと聞いてやって来たと再度詳細を説明すると、あまり多くはありませんがと謙遜した態度を示す。
ただ彼自身、文献や伝承で人族が滅亡したという話を聞いたことがあると述べたため、未だにケイ達がここに存在することに驚きを隠せないでいる様子だった。
「ゆっくりと話を聞きたいのでしょうし、ここは腰を据えて事情を伺いましょう。ポポ、ワシらは裏庭に行っているので、客人にお茶を用意しなさい」
「うん!わかったよ、じっちゃん!」
ジュマもケイ達の体格を見て家に入るわけには行かないと悟ったようで、家の裏側に全員が座れる庭があると伝え、ポポにお茶を頼むと、彼の後に続くようにケイ達は家の裏側へと案内をされた。
ホビット族ポポと巨人族のメトバの案内で、山の上にあるホビット族の集落に辿り着いたケイ達は、ポポの祖父であるジュマが歴史の事を知っているのではと知り、彼と会うことになります。
果たして彼から何が告げられるのでしょうか?
次回の更新は7月27日(月)夜です。




