200、新たな島・ダイン
皆さんこんばんは。
いつもご高覧くださりありがとうございます。
さて今回は、桜紅蘭から東に進んだ新しい大陸ダイン上陸回になります。
「アグナダム帝国か・・・」
桜紅蘭から東に進んでいる魔道船の上で、ケイは物思いにふけっていた。
鬼人族の文献によると、アフトクラトリア人は新たな人種だと記され、アグナダム帝国の存在が明るみに出る。また千五百年前には、アスル・カディーム人とアフトクラトリア人の戦争の記述がされている。
当時の鬼人族はアフトクラトリア人側についていたそうで、その紛争により約五万人の鬼人族が命を落としたのだといわれている。そのためか、その後の交流は一切の記録がなく、彼らは長い間鎖国をしていたと考えられる。
そうなると、アスル・カディーム人と敵対していたのはシャムルス人だけではないということになる。
ケイの考えでは、シャムルス人がアグダル人とビェールィ人に指示を出し、アスル・カディーム人を亡き者にした。しかし歴史からシャムルス人とアフトクラトリア人が消されたことと説明が付かない。もし仮にシャムルス人をそそのかしたのがアフトクラトリア人であるなら可能性はなくはない。
しかし、そのアフトクラトリア人自体の詳細は歴史から外見上の基本的なことの一切を闇に葬った節があり、未だにどの文献にも残っていない。
ケイはそこが気になるのだが、もしかしたらそこに公に出来ない理由があったのではと考える。【アフトクラトリア人は新しい人種である】というワードを考えるとSF映画のような未来人だったりと一瞬考えをよぎるが現実的ではないとそれを隅に追いやる。
「考え事か?」
フルーツジュースを両手にアダムが声をかける。
マカドが作ったフルーツジュースで、オレンとレモンの酸味が効いたフレッシュな香りが鼻腔をくすぐる。アダムはその一つをケイに手渡し、隣に座る。
考え事というか情報整理だと答えると、そういえばとアダムが口を開く。
「そういえばアサイ達の言語って、元はロホ語だろ?」
「あぁ。それが?」
「言葉の分かるケイならまだしも、なんで俺達がわかったのかって考えたんだ」
そういえば桜紅蘭に来た際、ユイナの言葉がアダム達にも理解ができたことを思い出す。
今の鬼人族はロホ語が変化した言語だと考えられるが、ケイはアスル・カディーム人の腕輪の影響で言葉も文字もわかったのだが、アダム達は集落を巡る際に看板に書かれてあった文字は読めなかったが、言葉は理解できたことに不思議に感じていたと答える。
「もしかして腕輪の影響かも知れないな」
「腕輪?」
「これだよ」
ケイの腕にはめられている腕輪を見せると、だとしてもどうやってと考え込む。
言葉を理解する前兆はケイにもわからない。しかし現にアダム達は言葉を理解している。もしかするとこの先の島でも言葉が通じる可能性があるのではと考える。
それは、ケイがしているアスル・カディーム人の王が身につけていた腕輪に何かあるのではと感じた。
「ダットさ~ん!島が見えてきました!!」
桜紅蘭から東に船で二日ほど進み昼近くになった頃、檣楼にいる船員が全員に聞こえるように舵を取っているダットに声をかける。
ダットは手を上げて見張りの船員に答えると、目配せでケイ達に合図を送る。
先頭の甲板から進行方向に海を見ると島らしきものが見える。
島は断崖絶壁で太陽の関係か崖が白く光っているように見え、反射に目を細めサングラスがほしいなと思う。断崖絶壁の上には木々が森のように形成され、その上に幾分小さな崖が同じようにそびえ立ち、森も同じように存在している。
島全体が山みたいな感じに見えるが、見たところ上陸ポイントが見つからない。
檣楼にいた船員が、島の左方向に階段のようなものが見えると報告を受け、ダットは舵を取りそこに上陸を試みる。
「こりゃ、大分古いな」
船が上陸ポイントらしき場所に差し掛かると、崖に沿うように上に木製の階段が設置されている。見たところ大分時が経っているようで、所々に穴が開いていたりと本当に大丈夫なのかと疑わざるを得ない。何とか船を上陸地らしき桟橋に停泊させると、遠くから見た崖は間近でみると相当大きいとわかる。
ケイが船から桟橋に降り立つと、ミシミシと桟橋にあってはならないような音が聞こえる。
どこか腐っているのか折れているのか分からないが、潮風をもろにうけて木製自体の本来の役目を辛うじて果たしているといった感じである。
「ねぇ~ここ大丈夫なの!?」
ケイが桟橋に降り立つと、シンシアが怪訝な表情で桟橋を見ている。
言わんとすることは分からなくもないため、アダムとレイブンを先に下ろすとぎしぎしという音が酷くなった気がする。
「シンシア、大丈夫みたいだ・・・わっ!?」
アダムが足を踏み出そうとした時、タイミングが良いのか悪いのかアダムの左足の部分の板が折れて穴が空き、咄嗟にレイブンが手を掴み落ちそうになったアダムを支える。
「大丈夫か?」
「あぁ、大丈夫だ。助かった」
もちろん気が緩んでいるわけではないのだが、あまりにも手入れも修理もなされていないことから女性陣は引きつった笑みを浮かべている。
さすがに大人数で桟橋に乗ったら折れるのではと思い、ケイ達は今回は三人で向かおうかと考える。シンシアは置いて行くなら行くわよ!と意を決して足を踏み出しタレナもそのあとに続く。
「アレグロ、大丈夫か?」
ケイはアレグロの体調を心配した。
彼女も一緒に来るとは行っていたが、桜紅蘭を出発してから身体の調子が悪いのか横になることがしばしばあった。
さすがに顔色もあまり良くないため今回は留守番にさせようと思ったのだが、本人は寝ていたらよからぬことばかり考えるから動いていた方がマシと答える。
『それなら今回は私も同行させてほしい』
シルトがこう伝える。
桜紅蘭では何か船に何かあるといけないということで留守番をして貰ったが、アレグロの体調を考慮し、彼女のサポートを自分が受け持つと提案をする。
「船なら俺達に任せておけ!」
そんなやりとりを見ていたダットは、シルトも同行させてはどうかと援護する。
幸いにも船には元・冒険者をしていた船員が何人かいるため、彼らを船の警備に組み込んでいると説明をする。
「悪いな。じゃあ、お言葉に甘えてちょっと様子を見てくるぜ」
全員が桟橋に降り立つと、ギシギシと音を立ててはいるが何とか重量内に入っているようで、一行は上に続く木製の階段の上を目指して上り始めた。
崖の上に続く木製のかね折れ階段を上がった先には、木々が生い茂る森が続いていた。
昼間なのに森は薄暗く、木々の間からかすかに日が差し込んではいたが少し不気味な雰囲気を感じる。シンシアはここに入るのと顔を強張らせ、森の奥から動物の鳴き声がいくつか聞こえる。言ってはなんだが、斧を持った殺人鬼が森に入っていくような描写によく似ている。
「とりあえず行けるところまで行こうぜ」
ブルノワを肩車させ、足元には少佐がついて歩く。
ズカズカと森に入っていくケイに、シンシアから恐怖や警戒心はないの!?と小言を言われたが気にしない。
舗装されていない獣道が続く森を一行が進んで行く。
たまにこの島に生息しているような鹿や小動物を見かける。
ルフ島に負けず黄色の兎に全身真っ青のペリカンのような鳥類、それとなぜかたてがみが燃えている馬など、気にはしていたがいちいち鑑定するのも面倒くさいので全てスルーする。ブルノワと少佐は遠巻きながらも気にはなっている様子で、そのうち飼いたいとか欲しいとか言い出したらどうしようかと一瞬頭をよぎる。
森を抜けた先には小さな湖畔が見えた。
この島の動物たちが水飲み場として利用しているようで、その姿もちらほら見られる。遠くには小さな山があり、その上にも森が茂っている様子がある。
湖畔は青空に流れる優雅な白い雲に遠くにある山の雄姿を鏡のように映しだし、まるでアルプスの情景を見ているようなそんな錯覚を覚える。
「わぁ~綺麗~!」
「すごく透明ですね」
「ここは湖畔か~。ちょっと休憩していくか?」
アレグロとタレナがその情景に思わず声を上げる。
水際を覗くと自分たちの顔が反射し、手ですくうと透明度が高いことが窺える。
動物たちが飲めるのだからと飲んでみると、日常で使用する水とは違った滑らかなのどごしが伝わる。
「ところでこれからどうするの?」
「この島に集落か村があればいいんだけどな」
「でも、貰った地図は古い物でしょ?今、この島に誰かが住んでいる可能性なんてあるの?」
「それは探してみないとなんとも言えないな」
シンシアの指摘していることはもっともだが、可能性はなくはない。
このあとはどうするかと考えたところ、アレグロがあっと声を上げ、あれを見て!と湖畔の反対側を示す。
「なんだあれ?ゴーレムか???」
ケイ達がいる地点から湖を挟んだ先に、二足歩行の巨大な岩のようなものが森の奥から現れた。
それはこちらに気づく事なく湖沿いを右から左へと移動しているようで、目視でも大きさが感じられるせいか、距離があるにも関わらず地響きが足の裏から伝わってくる。一同は目を丸くしながらもそれに注視し、また森の中に姿を消した後もなんだったのかと首を傾げる。
「・・・・・・この島、本当に大丈夫かしら?」
引きつった笑みを浮かべるシンシアに、さぁ~とアダムとレイブンが肩を竦める。
ルフ島に近いこの島もまたインパクトが大きいなとケイが他人事のように思い、なんだかんだブルノワと少佐が、キラキラとした子供特有の目で去って行ったゴーレムもどき(仮)を見つめていた。
一応念のために飼えないぞと伝えると、残念そうにガクリと肩を落とした。
湖畔を右に迂回するように反対側まで歩くが、先ほどのような生物(?)が現れることもなく、ただハイキングのような雰囲気にいまいちど気持ちが引き締まらないと感じながらも注意深く進んで行く。
「この島ってルフ島に近いけど特別に暑いということもないし、気候は穏やかなんだな」
ルフ島のように密林地帯だが暑さはそれほどなく、むしろ年中気候の変わらない中央大陸のような不思議な感じがする。
よく見ると亜熱帯地方特有の色彩豊かな植物が分布していることから、この島の気候は奥にある山の影響で暑くもなく寒くもなくといった丁度良い気候なのだろうと考える。
と、ケイ達が通り過ぎた辺りから、ガサガサと草むらの方から何かが動く音が聞こえた。
一同は振り返り音のした方に注意すると、それは奥から草をかき分けながらこちらに向かっている気配を感じる。
アダムとレイブン、シルトは武器に手をかけながら臨戦態勢の構えを取り、タレナは体調の思わしくないアレグロを庇いながら武器を手に取る。
「ちょっと待て・・・・・・うそだろぉ!?」
草むらから出てきたそれにケイは思わず声を上げた。
先ほどのゴーレムもどき(?)の仲間らしき物体が現れたのだ。
間近でみるとその大きさに圧倒されながらも、そのゴーレムもどき(?)はケイ達の姿を捉えると立ち止まり、ゆっくりと小首を傾げるように頭を動かしてこちらを見つめていた。
島を探索すると、ゴーレムもどき(?)と遭遇したケイ達。
果たして今回はどんな展開が待っているのでしょう?
次回の更新は7月24日(金)夜です。
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