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異世界満喫冒険譚  作者: GDKK
大陸編
20/359

18、遠吠えの謎

令和もよろしくお願いします。

今回は、遠吠えの謎です。

ケイは鍛冶ギルドを飛び出し、街中を走る。

高低差のある街のため、階段を使わず超人的な跳躍で街の入り口まで飛び上がり走り抜ける。街中の人がそれを目撃していたが、ケイ自身それに気づくことはない。

街を出て、来た道とは逆の山道を駆け上がる。

途中の分かれ道の看板に『左:第三採掘場 右:フリージア』とあり、それに従い第三採掘場へ。

眼下に麓の村と森が見える。かなりの高さのようだ。


サラマンダー

レベル25

性別 オス

状態 激昂 混乱

HP 130/250 MP 120/120

力  256

防御 153

速さ 160

魔力 100

器用 90

運  10

スキル 火炎ブレス(Lv4) 突進(Lv3) なぎ倒し(Lv4) 

体長 3m

ドラゴン系の魔物。

炎属性の魔物で、対象物をなぎ倒し捕食する。

火炎ブレスは高温で、討伐時は正面に立ってはいけない。

※魔石や素材自体売れるが数が多いため値段は安め。魔道具等で重宝されている。


第三採掘場に到着すると、作業のための広場が広がり、サラマンダー襲撃の影響で、採掘道具や工具がそこかしこに落ちている。

ケイが奥を見やると、三体の魔物が採掘場入り口に突進している。

ぶち破ろうとする音とそれに耐えようとする鉄の門の音が響くが、鉄の門のへこみがひどく予断を許さない状況だった。


「『エリアルブレイド』!」


真ん中のサラマンダーめがけて風の刃が飛ぶ。

鉄の門を溶かすためにサラマンダー自身が強行手段でブレスを吐こうとした。その直後に風の刃が首を刈り取る。

威力と風圧で首が空に舞い地面に落ちると、頭を失った身体が地面に崩れ落ちる。

両側にいたサラマンダーがこちらを振り返り、威嚇と同時にケイに飛びかかる。


『創造魔法:氷の鎖』


鎖を持った身体を回し、鎖を投げ右のサラマンダーを絡め取る。

その反動で左のサラマンダーにぶつかると、二体は互いにもつれ合うように地面に転がる。

鎖は二体のサラマンダーをきつく締め上げ、身動きが取れず水属性の影響で動きが鈍くなり次第に動かなくなった。

「水属性の魔法で吹っ飛ばせばよかった・・・」

とっさに創造魔法の鎖で縛ってしまったが、水属性の魔法を使えることをスッカリ忘れていたケイがそう呟く。


「おーい!生きてるかー!!」


サラマンダーを排除し、鉄の門に向かって声を掛ける。

「そこに誰か居るのかい!?」

門の反対側から女性の声が聞こえる。かすかだが数人の声もする。

「俺は冒険者のケイ!クルースに頼まれてきた!」

「クルースが!?」

「姉さんを助けてほしいって!あんたがアマンダか!?」

「あぁそうだよ。悪いが門を開けてくれないか?内側からじゃ開かなくてね!」

本来、ケイ側から引くタイプの二枚扉になっているが、へこみの影響でアマンダ側から押すことが出来なくなっていた。

「ちょっと待ってろ!」

ケイが扉を手に掛け、思いっきり引いた。

ひしゃげた扉から金属音のこすれる音が響く。こじ開けるように動かすと左側の扉は力の余りに金具が外れてしまった。

「あ・・・まいっか!」

「あ、ありがとう。あんた見かけによらず力があるんだね・・・」

近づいてきたアマンダは、浅黒い肌に均等に筋肉がつけられている体型で、ドワーフというよりアマゾネスに近い雰囲気だった。

身長はケイ以上で、そして赤茶の髪に角が生えている。


「ケイって言ったっけ?こっちは一応無事さ」

「一応?」

「何人か怪我をしてね・・・」

彼女の目線の先には、作業員とおぼしき男性達が蹲っていた。ある者は足をある者は腕をやられているようだ。

「中にいる連中はあんたらで全員か?」

「あぁ。8人にいて無傷はあたしともう一人だけ。後の連中はサラマンダー吹っ飛ばされて怪我をしてるんだ。悪いが手伝ってくれないかい?」

「それならまかせろ。【エクスヒール】!」

怪我をしていた6人に魔法をかけると、淡い光と共に傷が完治する。全員何が起こったのかわからず一瞬戸惑ったが、ケイが回復させたと察するとそれぞれお礼をし始めた。

「驚いたね!魔法が使えるのかい!?」

「冒険者だからある程度は使えるよ」

「だとしてもそれは回復魔法だろう?人は見かけによらないね~」

感心したように言うアマンダにそうなのか?と尋ねると、光属性持ちはあまり見かけず、一般的に司祭や教会関係者が多いと聞く。

属性持ちでも能力が低く、伸ばすための手段があまり存在しないのが現状だという。


「アマンダ!無事か!!!」


遠くから男性の声と数人の足音が聞こえてきた。

「ディナト!」

銀の鎧に身を包んだ男性と衛兵らしき団体が姿が近づいてくる。

「よかった。無事だったんだ!」

「あぁ。ケイが助けてくれたからね」

「ケイ?」

ディナトと呼ばれた男がケイの方を向く。

整った顔立ちに銀の鎧に包まれた体格はだいぶ鍛えられているようで、戦士の風格が漂ってくる。しかも身長もケイより頭二つ分高い。

この世界のドワーフは、他の種族より筋力が発達し、身長も二メートルと大柄で女性でも170cmを超えるという。


「冒険者のケイだ。クルースに頼まれてきた」

「彼女たちが世話になった。俺はディナト・ロルドス、エストアの王をしている」

その言葉にケイが目を丸くした。

王自ら先陣を切っている状態に、なにをしてるんだ?という表情を隠しきれない。危うく「いや、部下に任せろよ!」と出そうになるツッコミを飲み込む。

「ディナトは幼なじみなんだ」

見かねたアマンダが説明をする。


ケイの倒したサラマンダーを衛兵達がその場で解体を始めた。

「ここで解体するのか?」

「サラマンダーは体格が大きく、足場の悪い山道では不利のため、なるべくその場で解体するようにしてるんだ」

現場の指揮をしているディナトが答える。作業を指示通り各々が速やかに行動を始める。

残っている衛兵は、ケイが治療した作業員達を対応している。血を失ったことで貧血状態のため担架で運ばれていく。

「しかし1人でサラマンダー三体とはなかなかの腕だな」

「魔法専門職だからね」

「ぜひうちにほしい」

「誘いはうれしいけど、冒険者の方がいいからパス」

ディナトの目は多少本気を含んでいるが、利害一致をしていないためその提案を断るとディナトもだろうなという表情を見せる。初めから結べるとは思っていないようだ。


サラマンダーの解体と怪我人の救助が一段落付き、ケイはアマンダとディナトと共に街に戻ることにした。



「ケイ、お前は何をしてるんだ!?」

ケイ達が町まで戻ると、入り口でようやくアダム達が合流してきた。

見知らぬ人達と行動していたため、アダムが何事かと問うとケイは簡潔に話をまとめアダムがため息をついた。

「あんたね!人が一生懸命登ってきたのに、よく次から次と首をつっこむわね!!」

「なにそんなに怒ってんの?」

「怒るわよ!少しはこっちの身にもなりなさいよ!」

シンシアが疲労の表情で怒鳴る。それもそのはず、三人ともケイに追いつこうと山道を駆け上がって来たのだ。しかしワイヤーフックを使用したケイに追いつくはずもなく、途中休憩をはさみながらやっとのことで登ってきたのだ。

「彼らはケイの仲間か?」

「そう!俺だけ先に来たからな」

その様子をディナトが尋ねる。

てっきり一人だと思ったため、仲間が居るとは思わなかったようだ。

「それなら彼らも城に招待をしよう!」

突然の誘いに四人は「はぁ?」と声を返した。



街の高台にある城に案内された四人は、途中クルースと合流する。

クルースは、相当心配していたのか、アマンダの姿を見ると無事を確かめるために手を握る。

「ははっ。あたしは大丈夫!ケイのおかげだね!」

「姉さん笑い事じゃないよ。姉さんに何かあったらと思うと気が気じゃなかったよ!」

身内に何かあればという心労は計り知れない。今回はなんとかなったが次はどうなるかとクルースは思った。

そもそもサラマンダーの目撃情報の時点で作業を中断するはずだったが、若い衆の育成に集中していたため、その部分がすっぽりと忘れられていた。

聞けばディナトにも以前から同じことを言われていたようで、王自らの注意にアマンダが反省の色を示した。


食事が出来るまで談話室に通されるとディナトが礼をする。


「アマンダ達を助けてくれてありがとう。重ねて礼を言う」

ディナトが頭を下げる。アマンダとクルースは、王専属の採掘師と鍛冶師も兼任しているため、二人に何かあれば国としても成り立たなくなるところだったと答えた。

「気にすんなって!」

「というより俺たちも一緒でいいのか・・・?」

ケイが言葉を返す隣で、アダム達が居心地の悪そうなそぶりをみせる。

正直エストアに到着直後に城に案内されたのだから、知らない間に物事が進んでいる現状に萎縮している状態だ。


「ケイの仲間なら問題ないさ!ところでケイ達はなぜこの国に?」

「ガレット村からの依頼でこの国に来たんだ」

そう言って鞄の中のジュエルハニービーをディナト達に見せる。

「ジュエルハニービーか!?」

三人が驚きの表情をしたので、モスクの森に蹲っている所を保護され、この国まで連れてきたと説明をした。


「しかしジュエルハニービーが生息地を離れるとは思わなかったな」

「密猟してるやつがいるとか?」

「いやそれはない。そもそもジュエルハニービーがいる生息地はサラマンダーがいる。彼らは共存している状態だからな」

「へぇ~。生息地ってどこになるんだ?」

「第三採掘場から上に登ったところにある。しかしここ最近サラマンダーが下りてくるため、我々も注意はしていたんだ」

意外な話である。ジュエルハニービーとサラマンダーが共存しているとは知らなかった。

ジュエルハニービーが生息地を離れ、サラマンダーが人里に下りてくる。その生息地で何かがあったと考えざるおえない。

「とにかく明日にでも生息地の方に行ってみるか!」

「ちょっと大丈夫なの?サラマンダーだらけなら対応できないわ!?」

「それなら俺も行こう!」

「え?ディナトも行くのか?」

「こう見えても、サラマンダーと何度も交えてるから問題はない」

ケイ達が明日にでも様子を見に行くと告げると、ディナトが同行を申し出た。王自ら赴く姿勢に不安の目でアマンダに訴えるが、いつものことだ問題ないと諭された。

ドワーフは戦闘民族というのも一部頷ける。


その後食事を頂き、ディナトの好意で城に泊まることになった。

客室のベッドに横になると、遠くで遠吠えを聞いたがケイは満腹感と眠気に襲われ意識を手放した。



その日の深夜、ケイはふと目が覚めた。

普段は朝まで熟睡型なのだが、なぜか妙な時間に目が覚める。

もう一度寝直す前に何気なく窓を見ると、ジュエルハニービーがいる。

眠い目を擦りながらベッドから起き上がり、どうしたのかと窓の外を見てみるが、月明かりに照らされたエストアの風景しか見えなかった。

ジュエルハニービーが窓をコンコンとくちばしで叩き、ケイはなんの迷いもなく窓を開ける。

そして飛び出すと近くにある木に止まり、こちらを伺う。

「なんだ?ついて来いってか?」

ケイはそれに従うように窓から外に飛び出した。

夜の街中を通り抜け、街の入り口から第三採掘場の方に走り出す。

その間ジュエルハニービーが案内するかのように羽ばたく。一瞬、遠吠えの主でも会えるのかと思った。

第三採掘場を通り、上り坂を駆け上がる。

途中闇の中からサラマンダーの群れが現れるが、ケイに注目せずそのまま通り抜ける。まるで何かから逃げる様に。



坂道を上がった先には生息地とおぼしき敷地が見える。


闇の中に大きな黒い獣。

黒い獣は威嚇するわけでもなくこちらを見つめていた。


『やっときたか・・・』


低いうなり声と重なって、人の声が頭の中に響いている感じがした。

ジュエルハニービーが黒い獣の周りをクルクルと回っている。

どうやらこの黒い獣に導かれたようだ。

「やっときたって・・・遠吠えの正体はあんたか?」

『我のことを認識してくれる者を探していた。しかし思ったより骨が折れるな、おかげでここのモノ達にも迷惑をかけた』

くくっと黒い獣が笑った気がした。苦労が報われたかのような口ぶりだ。

「喋れるのか?」

『念話というものだ。声を発せずとも意思疎通が出来る』

待ちくたびれた様子の黒い獣は、やれやれと立ち上がった。

全長は約3~4mほどであろうその身体は、月明かりに照らされた毛が神秘的な雰囲気を醸し出している。


「あんた何者だ?」

『【黒狼】と呼ばれている。まぁほとんど知られていないがな』

「そんなに図体でかいのに、知らないってどういうこと?」

『我には実体がない』

「幽霊ってこと?」

『実体のない召喚獣だ。そう言った意味ではそうなるだろう』

幽霊というにはほど遠い存在感にケイは疑問を感じる。

「なんでそんなことになってるんだ?」

『要は尻ぬぐいだ』

「はぁ?」

黒狼の発言に耳を疑う。

身体の大きい獣が尻ぬぐいという言葉を使うとは思ってもみなかったのだ。こういう時は○○の守護者とか○○の悪役的な発言をするものだ。

そんなケイを見て、黒狼は驚きの発言をした。


『お前は異界の住人だな』


その言葉に身構える。

「何で知ってる・・・?」

『まーそう身構えるな。メルディーナは知ってるか?』

「あぁ俺を殺したアホ女だろう?」

『やはりな・・・お前からメルディーナの力を感じる』

懐かしい様な慈しむような表情で語りかける。

アレサの力で、メルティーナの全能力をケイに流したことで、彼女の気も一部感じ取れるのだろう。

『我は彼女の命令で、この世界に使わされた』

「どういうこと?もうちょい分かりやすくならない?」

黒狼は口を噤み言うべきか言わないべきか思案した後、こう切り出した。

『・・・メルティーナは、この世界に【穴】を開けたのだ』

「穴?」

『歴史の穴ってやつだ』

メルディーナは、ケイが来る前にもう一つ、大きな過ちを犯していたことが黒狼の口から明らかにされた。

彼女は世界が発展する前に、より良くしようと手を加えたそうだ。それが何かは黒狼も知らないらしい。

その結果ダジュール全体が不安定になり、その補強のため黒狼が使わされたということだった。


「あいつ何やってんだよ~」

さすがのケイも言葉が見つからなかった。

仮にも世界の管理者である。危うく世界までも無くしかけた事実に、なぜそんな人物が管理者をしていられるのか疑問でしかなかった。


『我の願いを聞いてくれないか?』

突然かしこまった様子で話しかける黒狼に、何かのフラグ的なモノが立った予感がした。

「話は聞く。出来るか出来ないかは別だが」


『何年かかってもいい・・・世界を導いてくれないか?』


「世界を導く?」

『この世界はメルディーナの影響で不安定が続いている。今は我がいるが千年以上この状態だからな・・・正直休みたい』

黒狼は、不安定な世界を守り支える役割だと述べる。千年以上前からその状態は想像を絶する。


「具体的には何をするんだ?」

『世界を一つにしてほしい』

「世界を・・・一つに?」

疑問の表情で首を傾げる。どうもいまひとつ要領得ない。

そんなケイに、黒狼はペンダントを渡す。金細工の縁にはめ込まれた青い石は拳一つ分ぐらいの大きさになる。


蒼いペンダント ???を開ける

発動条件:五つの女神の涙を集める。


「これなんだ?」

『世界をまとめる鍵のようなものだ』

「鑑定したけど、女神の涙って何だ?」

『世界各地にある女神像のことだ』

「像が泣くのか?」

『泣くわけではない。女神の祈りが結晶化されたものだ』

ダジュールには、アレサを模した女神像が五ヶ所存在しているといわれる。そこにペンダントを掲げ『女神の結晶』を手に入れるというものだ。

ケイはダジュールの管理者で検索をしてみたが、その項目が出てこなかった。それを黒狼に告げると、辻褄を合わせるためにわざとその部分だけを除いたのではないかと推測した。

やることなすことが陰湿である。


「まぁ、とりあえずやってはみるよ」

『そう言ってくれると助かる』

黒狼の身体が青白い光に包み込まれる。どうやらここまでのようで、世界を守るためまた眠りにつくそうだ。

『お前にはすまないと思っている・・・どうかよろしく頼む・・・』

黒狼の声と共にその場から姿を消す。


夜風と共に新たな道が開かれようとしている気がした。



まさかの展開!メルディーナの尻ぬぐいが始まります。

次回は5月4日(土)に投稿です。



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