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瑞科 圭一が異世界に渡る話。
※11/12 改稿
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「ごめんなさい!」
青年はその状況に困惑していた。
ドレスの様な服装をした青い髪の少女が頭を下げて謝罪している姿を。
瑞科 圭一。
彼は、この春高校を卒業し都内の大学に進学する一般の大学生になるはずだった。
大学の近くにマンションを借り、新生活に必要な家電諸々を揃え、さぁこれからという時に悲劇が彼を襲う。
結論から言うと、車同士の事故に巻き込まれてあっさり亡くなったのだ。
そして、冒頭の状況へと戻る。
現状を理解しようとしたが、白いソファーに腰を掛けている自分とその前で妙な髪色の少女が謝罪していることが、とても滑稽で現実味を感じさせない。
「はぁ?」
「だから謝っているじゃない!」
圭一が怪訝な表情で問い返すと、先ほどまで頭を下げて謝罪をした少女の態度が一変する。
「謝罪する態度じゃねぇな」
「うるさいわね!」
先ほどまでとは打って変わり、開き直った態度で少女が向かいのソファーに腰をかける。そして有無を言わさず状況の説明を行う。
「いい?説明するわよ?」
「拒否権は?」
「ないわ!まず私はメルディーナ。異世界・ダジュールの管理者をしているの」
圭一は、メルディーナと名乗った少女の態度に図々しさを感じながらも、一応は話を聞いてみようと聞く姿勢をみせる。
「で?」
「あんたは死んだの!元の世界には戻せないから、私が管理をしている世界に送ることにするわ」
メルディーナは、自動車同士のもらい事故で圭一が死んだことをさっくりと説明した。しかし圭一には身に覚えもなく、ましてや直前までそんな状況も皆無だったのに何故そんな摩訶不思議なことが起こるのかと疑問に思う。
「自動車同士のもらい事故死って、俺直前までマンションのベランダで洗濯物を干してたぞ?」
新生活の拠点となるはずだったマンションは五階建てで、圭一はその内の三階に住んでいたのだが、車が空を飛んで部屋に突っ込まない限りあり得ない。
圭一の最後の記憶は、ベランダで洗濯物を干し終え部屋に戻る直前までしかなく、それを指摘するとメルディーナが口ごもる。
「そ…し…なの」
「なんて?」
「だから!私が誤ってあんたを殺してしまったの!!!!」
メルディーナの話を簡潔にまとめると、職務の傍ら他の世界を見ることができる鏡を使い、たまたま映っていた車に興味を抱くにつれ、なにかの拍子で運命をねじ曲げてしまったらしく、その車が停車している別の車に衝突し、なぜかその停車している車が空を飛びケイの部屋に突っ込んだそうだ。
全くもってわからない。
不測の事態に圭一は死に魂だけになった状態であるため、元の世界つまり地球に戻すことが出来なくなってしまったとのこと。
そこでメルディーナは、圭一を他の世界に転生させようと提案してきた。
「その他の世界ってどんなところだ?」
「私が管理している異世界ダジュールは剣と魔法の世界よ」
異世界ダジュールは歴史自体あまり長くはなく、誕生して大体1500年ほどしか経っていない。しかも剣と魔法が存在し、当然のように魔物もいるそうだ。
雰囲気的には、中世のヨーロッパといったところだろう。
メルディーナが説明を終えると呪文を唱え、床に青白い魔方陣が浮かびあかった。
「ここから異世界ダジュールに行けるわ」
「はぁ?魔物のいるところだぞ!?」
「あんたなら大丈夫よ」
そう言うとメルティーナは圭一の手をとり、強制的に立たせて魔方陣の方に向かわせようとする。それに危機感を覚えた圭一は、メルディーナの行動を阻止しようと抵抗の態度をしめす。
「ちょっと早く行きなさいよ!せっかくの提案を無駄にする気!?」
「馬鹿言え!なんの準備もしてないのに無茶にもほどがあるぞ!!」
異世界に転生できても魔物が存在する事実を知った今、圭一の言葉通り何の準備もないまま向こうへ行くにはリスクが大きすぎる。
しかし今のメルディーナにはそこまで気を遣う余裕はなかった。
「私のせいで、あんたがここにいることがあの人にバレたらまずいのよ!!」
圭一と押し問答をしているメルティーナからそんな言葉が飛び出す。
「あの人とは私のことですか?」
二人は突然の第三者の声に驚き、行動を止めそちらを向いた。
「ア、アレサ…様」
目線の先には、金色の長い髪に青い瞳をした女性が立っていた。
メルディーナと同じ白を基調しているが、シルエットが映える服装になっている。
「メルディーナ、何をしているのですか?」
「あ、あの…」
狼狽えるメルディーナを余所に、圭一が今までの経緯を説明した。
それを聞いた女性はメルディーナを一瞥すると、謝罪と自己紹介を交わした。
「今回は誠に申し訳ございませんでした。えっと、あなたは…」
「瑞科 圭一だ」
「私は異世界・ダジュールの創造神アレサと申します」
ソファーに座りなおした圭一は、真向かいに座っているアレサの謝罪を受けとる。
今回の張本人・メルディーナは、アレサの傍らに立つ。
「アレサだっけ?お宅の部下のせいでこうなったんだけどどうすんの?」
「さすがの私も監督不行き届きを痛感しております」
アレサが答えると悲痛な面持ちで目を伏せた。
「第一『あなたは死にました。今から転生させます』って丸腰の人間をほっぽり出すってどういう神経しているんだ?」
「それはあんたが素直に…ひっ!」
圭一とアレサの会話に割り込むようにメルディーナが発言をしたが、アレサの睨みが怖かったのか声を詰まらせる。
「メルディーナ、あなたはあと何回同じことを繰り返すのですか?」
「な、なぜそれを…」
「私が知らないとお思いですか?」
顔をメルディーナに向けて真意を問うアレサ。
「あー、前にも同じことがあったのか?」
「私の知っている限りでは今回で四回目になります」
二人の会話に様子を窺うように圭一が問いかける。
すると以前にも同じようなことがあったようで、アレサの口から詳細が聞けた。
「以前から、メルディーナが管理者以外の行動をしていると報告を受けましたので、密かに監視をしておりました」
それが、今回で明るみに出たというところだろうと圭一が推測をする。
「メルディーナ、あなたには失望しました。本来であればゆくゆくは私の後を継がせるつもりでした」
「アレサ様…」
「このようなことになって残念です」
アレサが右手をメルディーナの方に向けると、メルディーナの身体が淡く光りだした。その光は、メルディーナの身体からアレサの掌の上に吸い寄せられるように集まってくる。
次に集まった光は、一瞬七色に光ったと思うとそのまま圭一の方に向けた。
「えっ?」
「お、おまちください!アレサ様!」
驚きで対応できない圭一と慌てふためくメルディーナ。
その光は圭一の周りに集まり、体内に吸収されるように消えていった。
「メルディーナの全能力を圭一様に移しました。一部ではありますが私の能力もお渡ししております」
「えっ…あ…はぁ~」
圭一は展開についていけずに気の抜けた返事をした。
その後、足を曲げ肩を回し手を開いたり閉じたりと身体に異常がないか確かめた。
「武術や魔術を扱えるようになっています。少なくとも身を守る術は整ったところでしょう」
アレサが圭一の傍まで来ると、両手を包み込むように優しく握った。
普通であれば美しい女性からそのようなことをされたら勘違いしかねないが、圭一は特に気にするそぶりはなかった。
「そろそろお時間が迫っています」
「どういうこと?」
「この場所は神以外にとっては存在が不安定になりますので、長時間いるのはおすすめできかねます」
どうやら今居る場所は、生と死の狭間の世界で魂だけの状態では不安定になるのだそうだ。
「わかった。じゃあいくよ。ここにいても仕方ないし」
「ダジュールに着きましたら能力の確認をしてください。【ステータス】と唱えると確認できます。それとアイテムボックスを用意しました。アイテムをお送りしていますので同様に唱えていただければ使用できます」
「なんか世話になったな」
「せめてものお詫びです」
至れり尽くせりの贈り物に圭一が礼を述べると、アレサは名残惜しそうな声で答えた。
「…よし!腹を括って行くしかないか!…じゃあな、アレサ」
「お元気で…圭一様」
圭一が魔方陣に乗ると、淡い光が包み込んだと同時にその姿を消した。
「…さて、メルディーナ」
「ひっ」
圭一を見送ったアレサが振り返った。
その表情には、怒気を含んだ笑みを向けているのだ。
一歩、また一歩と足を進めるアレサにメルディーナが弁解をしようとするが、身体が強張り、歯をガタガタと震わせているためうまく言葉が出てこない。
メルディーナの二歩手前でアレサが立ち止まると、容赦なく彼女への言葉を贈る。
「あなたには罪を背負ってもらいます」
アレサの言葉にようやくメルディーナが自分がいかに愚かだったことを実感した。
メルディーナがやばい。
アレサの「あなたには罪を背負ってもらいます」の意味とは?
現段階では未定です。