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異世界満喫冒険譚  作者: GDKK
新大陸編
199/359

193、二つの集落と違和感

皆さんこんばんは。

いつもご高覧くださりありがとうございます。

今回はユイナの話を聞き、ケイとレイブンは西の集落へ、アダムとシンシアは東の集落へ赴き様子を見てみることになります。

「島国なのに人の往来が激しいわね」


ケイ達と分かれたアダムとシンシアは、アサイがいる東の集落に赴いていた。


江戸の町並みを反映した集落は、二人が今までに目にしたこともないようなものばかりで、終始物珍しそうにあちこちと見て回る。


その中でも特に驚いたのが、二人の男が前後に竹で編んだ乗り台を畳表状を覆った一つの駕籠を持ち平行して走っている姿である。

あれは辻駕籠といって、人を乗せて運ぶ移動手段として知られている。

ちなみに江戸時代では庶民にとって贅沢とされていたそうで、一時期駕籠の制限もあったほど各町に駕籠屋があったのだそうだ。


ケイがその場にいたら江戸時代に存在していた駕籠屋に感動し自分も乗ってみたいと言い出しそうだが、残念ながらアダムとシンシアにはその感動が伝わることはないだろう。



「ちょっとそこの兄ちゃん!姉ちゃん!団子でもどうだい?」


アダムとシンシアが一件の店先にいた男性から声をかけられた。


店先には長椅子が二つほど置かれており、一つの長椅子には団子を頬張っている女性たちの姿があった。

どうやらここは団子屋のようで二人はお金を持っていないと首を振ったが、俺が奢るから食べていけと半ば強引に空いている長椅子に座らされた。


「あんたらこの辺じゃ見かけないけど、どこのモンだ?」

「俺たちユイナさんに世話になっている者です」

「あぁ~ ユイナちゃん元気か?長が急に亡くなったから心配してたんだよ~」


団子屋の男性は、ユイナは時折この店に来ては兄弟達と団子を楽しんでいたと口にする。しかし両親が亡くなってからは、めっきり顔を出さなくなったようで心配していたと言う。


「しかも次の長にアサイ様とキキョウ様が争っているなんて、あれだけ仲がよかったのになんでかねぇ~」

「前は来ていたんですよね?」

「そうさ。アサイ様は品行方正みたいな方でキキョウ様は豪快な方ですが、性格は違えどそれはそれで仲がよく見えていたんですけどね~」


そう言って、団子屋の亭主は二人に三色団子とお茶を手渡した。


三色団子という初めての食べ物に串焼きの要領で食べれば良いのだろうかと考え、二人が恐る恐る口にする。


「これ美味しいわね!初めて食べたわ!」

「この中に入っている具はなんていうんだ?」

「中はこしあんだよ。というか、あんたら団子も食ったことないのか?」

「えっ!? あ~~機会がなかったんだよ」

「えぇ!そうそう!」


亭主はこの島の奴なら、ウチの店の団子は一度は口にしたことがあるはずなんだけどと疑問を浮かべていたが、アダムとシンシアはそもそもこの島に住んでいるわけではないので、内心冷や汗をかきまくっていた。



「やっべーーー!駕籠すげぇな!」


時を同じくして西の集落に赴いていたケイとレイブンは、アダムとシンシアの想定通り駕籠屋に夢中になり、案の上タダで乗って集落内を散策していた。

辻駕籠を運んでいるガタイのいい二人の男性は、感激するケイに気をよくしたのか集落をあちこちと案内してくれた。


「いや~!兄ちゃん元気だな!たかが駕籠だぞ?」

「駕籠は初めて乗ったんだよ!」

「まぁ~俺らは普段、身体の弱い奴を医者まで運んだり荷物を運搬したりしているけどよぉ、そこまで感動すんのはあんただけだよ!」

「俺も良い経験ができだぜ!」

「なぁに!それならいつでも言ってくれれば乗せてやるって!」


二人の男とケイは互いにがははと大口を開けて笑い、巻き込まれる形で駕籠に乗ったレイブンはなんとも言えない表情でその様子を見ていた。


「ところでさ~ユイナからアサイとキキョウが長で争ってるって聞いたんだけど、何か知ってるか?」

「みんな知ってるよ!実は俺らも気になってよぉ、キキョウの兄貴がいきなり長になる!って言ってたから、みんなして悪いモンでも食っちまったのか!?って驚いてたんだ」


自分たちはユイナの世話になっていると話し、駕籠に乗りながら二人の男に尋ねるとこんな話を聞かせてくれた。

キキョウは西の集落では兄貴と呼ばれているようで、だいぶ慕われていることがわかった。彼らの話ではどうやら長だった両親が亡くなって以降、ある日突然そう宣言したのだそうだ。


「しかしおかしいよな~?キキョウの兄貴の両親は、里でも一、二を争うほど狩りが上手かったのに事故に遭って亡くなったって」

「そういや、ユイナ達の両親は事故で亡くなったんだっけ?」


四兄妹の両親は、二ヶ月前に島の北東にある岬に生息している鳥を捕まえようとして二人共落ちて亡くなったのだという。そこは狩り場としても知られているが、島民でも危険な場所とあり行く人はあまり行かないのだそうだ。

もちろん長もその事は知っているだろう。


「その亡くなったユイナ達の両親は、よくそこに行くことがあるのか?」

「月に数回行くことはあったみてぇだぞ?あそこはムガモっている野生の鳥の生息地だからな。ウチの島でも食用や卵のために飼っている奴がいっけど、野生に比べたら卵の質が落ちるがな」


ムガモは桜紅蘭に生息している一般的な鳥で、主に北東の岬に生息している。


日本でいうところの鴨に近い鳥で、一回の産卵に二~三個しか生まないが、その卵の味は絶品だという。料理店などではよく提供されているようで、ムガモを飼育し卵を専門に扱う店もいくつかあるのだそうだ。しかし実際に食べているものが違うのか、野生のムガモの方が卵の味は濃厚らしい。


卵かけご飯で食べてみたい気もしたが、ユイナ達の両親はムガモの卵を月に数回取りに行っているのなら岬の危険性を理解していたのだろう。しかし、なにかの拍子で落ちたとなるとただの事故なのだろうかと考える。



駕籠の男たちと分かれたケイとレイブンは、一度人気のない場所に移り、スマホでアダム達の様子を聞いてみることにした。


数コール鳴った後にアダムが出る。


『ケイか?』

「あぁ。そっちはどうだ?」

『こっちは集落の人達からいくつか話を聞いたんだが、両親が亡くなる前までは四兄妹とも仲がよかったそうだ。だけど、両親が亡くなってからアサイとキキョウが長の地位を争っていると集落でも噂になっているらしい』


アダム達も同じような話を聞いたようで、島民も困惑している様子があったと述べる。しかし妙なことに長の証である【鬼人の証】の話をした際、誰一人としてそれを知らなかったのだという。


「どういうことだ?」

『わからない。俺もシンシアも何人かに聞いてみたんだが、そんなものは知らないとみんな首を振っていたよ』

「長になるには条件とか、なにかあるって聞いたか?」

『そういえばユイナの家は、代々長の家系であったと聞いたよ。必然的に長になることが決まっているということになるな』

「・・・となると、この話どうも裏がありそうだな」


ケイの推測が正しければ、兄弟間の長の地位をめぐる話の裏にはどうも第三者の存在がいる気がしてならない。そうなるとユイナの元にアレグロとタレナを残してきたことは正解だったなと考える。マーダ・ヴェーラの護衛の経験がある二人なら、どのように考え動けばいいのかある程度は察する事が出来るだろう。



『とりあえずこれからどうするんだ?』

「俺達は、西の集落をまとめているキキョウに会いに行ってみる」

『大丈夫なのか?』

「ユイナから預かっている物があるから、最悪話ぐらいは聞いてくれるだろう」


アダムから東側のアサイのところにダメ元で行ってみると返ってくる。


それなら一つ聞いてほしいことがあると、とあることを彼に告げた。

さすがにそれを聞いて大丈夫なのか!?という声が返ってきたが、まぁ~頑張ってくれと返すと投げっぱなしかよ!と突っ込まれた。


ちなみにこのことをキキョウにも聞いてみることにしている。

いずれにせよ同じ島にいて長の家系の人間と島民の認識が違っていることに違和感を感じることは間違いないだろう。


アダムの通話を終えたケイは、レイブンと共にキキョウのいる屋敷へと赴くのであった。



「そういえば、この屋敷はユイナしかいないの?」

「今はそれぞれの持ち場がありますので、日中は私しかいません」

「ここまで広いと掃除が大変そうね」

「ふふっ。ここは私たち兄妹が生まれ育った屋敷ですから・・・」


一方ユイナの元に残ったアレグロとタレナは、縁側に腰をかけ、ユイナが入れたお茶を手に庭に咲いている桜の大木を見上げていた。


元々この屋敷は、両親と兄妹が住んでいた屋敷であり生家である。

使用人は夜間なら警備のためにいるそうだが、日中はそれぞれの持ち場や職があるため、本来ならこの屋敷にはユイナ一人しかいない。

桜を見つめるユイナの目に哀愁を感じ、アレグロとタレナはなんと言っていいのかわからずに黙って桜の大木を見上げていた。



「ユイナおねえちゃ~ん!」



どこからか子供の声が聞こえて来た。


見ると正面右手奥の門から、五~六才ぐらいの小さな男の子が走ってユイナのところまで駆けつける。男の子は縁側に座っているユイナの腰に抱きつき、まるで弟のように甘える男の子に「タマエは甘えん坊ね」と優しく髪を撫でる。


「ユイナ、こんにちは」

「サザンカ叔母様!」

「ふふっ。元気そうね」


その後ろから男の子の母親とおぼしき女性がやって来た。

三十代くらいだろうか、淡い青色の着物が白い肌と結い上げた黒髪とマッチしていて落ち着いた雰囲気を感じさせる。


女性は隣に座っているアレグロとタレナに気づき、こちらはと声をかけた。


「こちらはキキョウ兄様の計らいで屋敷に来て頂いた、アレグロとタレナです」


ユイナの咄嗟の嘘に申し訳ないと思いつつ、アレグロとタレナはその話に合わせようと女性に自己紹介をした。


「初めまして、アレグロです」

「タレナと申します」

「まぁ、わざわざご丁寧に。私はユイナの叔母のサザンカと申します。こちらは私の息子でタマエといいます」


母親に紹介された男の子は、見知らぬ二人に驚いたのかサザンカの後ろへと隠れてしまう。年相応の反応に可愛らしく思いながらも、サザンカは心配そうな表情でユイナに語りかける。


「ユイナ、調子はどう?」

「私は大丈夫です。心配をかけて申し訳ありません」

「いいのよ気にしなくて。アサイもキキョウも、本当に一体何を考えているのかしら?」


サザンカは、ユイナの二人の兄に憤慨している様子を見せる。


どうやら事の話は聞いているようで、ミナモのこともアサイに解放するようにと話しているらしいが、首を縦には振ってくれないらしい。


サザンカは四兄妹の叔母で、島では相談役として四兄妹や島民に助言をしているそうで、今回の件もユイナが彼女に相談をしてアサイとキキョウ双方の仲を取り持とうとしている。


「それで、ミナモお兄様は?」

「アサイに掛け合ったけど今回もダメだったわ。全くどうしてこんなことに・・・」


サザンカもため息をつき、足元にいるタマエの頭を軽く撫でる。


ユイナによると、タマエは三人の兄達に可愛がられていたそうで、特にミナモに時折遊んで貰った事から今回の件でだいぶ落ち込んでいるようだと話す。

現にササンカの足にしがみつき、不安そうな目で母親とユイナを見やる。


アレグロとタレナはどうしたらいいものかと互いに顔を見合わせ、困惑した表情を浮かべているだけだった。


ユイナと集落の人達の認識の違いに気づいたケイ達は、それぞれアサイとキキョウに会いにいくことになりました。一体どうしたのでしょう?

次回の更新は7月8日(水)夜です。


いつも閲覧&ブックマーク&感想をありがとうございます。

細々と活動していますので、よかったらまた来てくださいね。

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