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異世界満喫冒険譚  作者: GDKK
新大陸編
198/359

192、鬼人族とお家騒動

皆さんこんばんは。

いつもご高覧くださりありがとうございます。

さて今回のお話は、新たな出会いととある問題についての回です。

「なんか、人ん家の敷地に入ったみたいだな」

「ねぇ、大丈夫なの?怒られるわよ?」


レイブンが見つけた坂道を下ると、いつの間にかとある屋敷の裏手に出た。


ケイ達が辿り着いた屋敷は、昔の日本に取り入れられていた書院造りと呼ばれる建築様式に非常によく似ていた。その屋敷を囲むように竹の柵が連なり、建物の正面には日本庭園を模したような庭が広がっている。竹で出来たししおとしがある池もあり、まるで日本にいるような錯覚を起こす。


ここに来るまでに四方八方桜ばかりで目を奪われたせいもあったが、本当に不思議としか光景に一同は終始目を白黒とさせる。


屋敷の中には人の気配はないようで、風通しをしているためなのかいくつかの襖が開かれている。開かれている襖から中を覗くと畳が連なる部屋が見え、誰かをもてなす用の座敷ということが想像出来る。


そうなるとこの屋敷は島の要人の拠点ではないかと推察する。


『パパ~、サクラ~!』


知らなかったとはいえ勝手に他人の敷地内に入るとなるとまずいと思ったが、ブルノワが敷地内にある大木の桜を指さした。

そこには樹齢何千年ぐらいの太い幹と時折地面から突出している木の根に、枝に目を向けると満開の桜が咲き乱れていた。


日本でもなかなかお目にかかれない圧巻な桜の大木にケイ達が見上げていると、後方から誰かの声がした。



「どちら様ですか?」



ケイ達の後ろに、十代ぐらいの一人の少女が立っていた。


赤い着物に腰まで垂れた黒い髪、顔立ちは整っているが真珠のように白い肌と口についた紅が相まって想定している年齢より幼く感じる少女は、見知らぬ人が敷地内にいることに驚きの表情をした。しかし彼女は驚いてはいたものの動揺する素振りはなく、むしろ物珍しそうにこちらを見ている。


その反対にケイ達はその少女の頭には二つの角らしきものが生えていることに驚いた。周りには彼女以外の人はおらず、どうやら先ほどの声はこの少女のものであることがわかり、それと同時にここで初めてこの島の言葉が理解できることを知る。


ケイ達は、自分たちはこの島の遥か北から来た冒険者だと名乗り自己紹介をした。

少女はこれはこれは遥々ようこそと礼をし、名乗りを上げる。


「皆様、遠くからよくお越しくださいました。私は鬼人族の長の娘、ユイナと申します」


ユイナという少女は再度頭を下げ、島の外からやって来たケイ達を歓迎していた。


「ユイナ、この島はなんていう島なんだ?」

「ここは鬼人族が住まう島・桜紅蘭(おうぐらん)と言います」

「じゃあ、島に咲いているのは桜か?」

「はい。【ホムラザクラ】と言いまして、日中は大気中にある魔素を取り入れ、夜間はその魔素を放出する際に光ることからホムラザクラと呼ばれています。またこのホムラザクラは、鬼人族の象徴とも言われています」


鬼人族が住まうこの桜紅蘭という島は、人口一万人ほどの小さな島で、長い間他国との交流はあまりなかったのだという。


彼女の話では鬼人族という種族は人が突然変異した姿で、独自の進化と文明を築いてきたと言われている。外見は人と同じだが、黒髪に赤い目をしており、頭には鬼人の象徴である二つの角が生えている。また、彼らは魔法を使えない代わりに身体能力が他の種族より高く、刀という独自の武器を扱うとのこと。


ダジュール版の武士といったところだろう。


ケイはユイナにダジュールの歴史について調べるため、他の島を目指していたと説明すると、自分はよく知らないが、もしかしたら兄達なら何か知っているのかもと口にする。


「その“兄さん達”ってどこにいるんだ?」

「そ、それが・・・」


言い淀むユイナにどうしたのかと尋ねると、どうやら跡継ぎのことで兄弟間で揉めているのだという。


なんでもユイナの両親は鬼人族をまとめる長をしていたが、二月ほど前に不慮の事故で亡くなったのだという。彼女には、長兄・アサイ、次兄・キキョウ、そして三兄・ミナモの三人の兄がいる。


しかし両親が亡くなって以降、特にアサイとキキョウがその座を巡り対立。

島の東側をアサイが、西側をキキョウがそれぞれ集落を独自に形成しており、そして三兄のミナモは、兄達の様子に心を痛めていたユイナに代わり二人を説得している最中とのこと。


「ですが、ミナモ兄様は投獄されてしまいまして・・・」

「投獄?」

「なんでもアサイ兄様とキキョウ兄様の集落に何度も赴いたことで、それぞれの密偵をしているのではと疑惑が上がったため拘束され牢屋に・・・」


なんとも妙な話である。


そもそも跡継ぎというものは年功序列で考えると長兄がなるはずなのだが、その辺をユイナに聞くと複雑な事情があるようでこんなことを教えてくれた。


「鬼人族には、古くから【鬼人の証】というものがあります。その証を所有した物が長になれるという倣わしがあります」

「じゃあ、それを巡って二人は争っていると?」

「はい。兄様達は集落のみんなからそれぞれ慕われているようでしたから、新たに集落を作り、そこで慕ってくれる仲間達と暮らしているそうです」


悲しそうに俯くユイナに、歴史を調べる前にまずはこっちをどうにかするしかないと話しが進まないとケイは考える。



「ねぇ・・・これ、大丈夫なの?」


怪訝な表情でシンシアが呟いた。


ケイは「郷に入れば郷に従え」と言い、ケイのお得意の創造魔法で六人とブルノワの外見を鬼人族と同じように赤い目に黒い髪と姿を変えたのだった。


さすがに頭の角を生やすことができなかったので、パーティーグッズで見かける鬼の角が付いたカチューシャを人数分創造し、それぞれの頭に装着をした。

正直、多少のチープ感が否めないが、島国というものはよそ者を区別する傾向があるため致し方ないだろう。


「これ、少佐もやる意味あるの?」


シンシアがこれでいいのと言う視線の先には、変装をしている姿を見て少佐もやってみたいのかそれぞれ主張をしていた。


仲間はずれは可哀想なので、犬用の鬼の角付きカチューシャを創って頭に付けてやる。生き物というものはそういった類いを嫌う傾向があるが、少佐は嬉しかったのかそれぞれ舌を出して喜びの意思表示をしている。

本人が喜んでるなら良いとしよう。


「それでどうするんだ?」

「まずは、情報収集だな。本当ならミナモの救出が先だが、先にアサイとキキョウがいる集落の情報収集をしたい」


アダムは妥当だなと返し、ユイナに投獄されたんだミナモについて聞いてみる。


現在ミナモは島の中央にある監視塔に投獄されており、そこには監視塔の警備をしている鬼人が配置されているのだという。単に救出だけなら力でごり押しをすることも可能だが、見ての通りケイ達は他の大陸から来た人間で、鬼人族からしたら見知らぬ人種で最悪侵略者などと疑われかねない。ここはあえて変装をして様子を見ることにした。


「それとここからは三手に分かれよう」

「えっ?分かれるの?」

「あぁ。効率を考えると分かれた方が早いだろう?」


予想外のケイの提案にシンシアが驚き、各々手分けして桜紅蘭の現状を調べようと考える。


「まずは俺とレイブンがキキョウがいる西側の集落、アダムとシンシアがアサイがいる東の集落、アレグロとタレナはユイナの護衛を頼む」

「護衛?いるの?」


アレグロとタレナが首を傾げこちらを見やると、念のためだと口にする。

しかし本音を言えば、テレビや本などの知識からお家騒動には必ず裏があるという持論がある。心配して問題なければそれでいいが、もしかしたらこの先、ユイナにも何かが起こる可能性もなくはない。それを仲間達に伝えると、以前遭遇したダナンの件を思い出したのか納得してくれた。


「それとユイナ、もう一つ聞いていいか?」

「は、はい。なんでしょう?」

「ミナモが投獄された話は誰から聞いたんだ?」

「屋敷の者から二日ほど前に・・・」


誰に拘束されたのかと尋ねると、なんとアサイの近衛だという。

既に集落全体にその話が知れ渡っている状態で、ある者は悲しみあるものは怒りに震えているという。

実はユイナがその話を知ったのはつい先ほどのことで、彼女からは動揺と悲しみが入り交じった表情が窺える。


そうなると、兄弟間でスパイみたいなことをしたから投獄されたということなのだろうか?だとするとユイナの話と矛盾するのだが、やはりこの話には裏があると考えるべきだろうと考える。


「でもよく考えてみると、兄弟の仲を取り持とうとして拘束されるのって変じゃないか?」

「どちらかが裏切っているって事?」

「かもしれないし、実はミナモっていう人が二人の仲を細工している可能性も捨てきれない」

「それはありません!アサイ兄様も、キキョウ兄様も、ミナモ兄様も・・・本当は優しくて仲がいいと私は思っています!」


やはりアダムもその辺が気になったようで、兄弟間の仲違いの話しはごまんとあるが、同じ島にいて仲違いをするとなるとやはり鬼人の証が関係していると考えていい。しかしアダムとシンシアの会話にユイナが否定的な言葉を口にする。

兄弟に限ってそんなことはと言い、その言葉の節々には信じたくないという拒絶の思いも感じられる。


「もし兄様達にお会いになるのでしたら、こちらをお持ちください」


ユイナから受け取った物は、紐に付けられた青い勾玉のような石だった。

これは代々受け継がれてきた大切なお守りだという。そんなものを初めて会った赤の他人に預けていいものなのだろうかと疑問を持ったが、これは集落を行き来するために必要な証とのこと。交通手形のようなものだろう。


「とにかくそれぞれの集落に行って、様子を見てこようぜ。アレグロとタレナは悪いがユイナの護衛としてなんとか演じててくれ」

「わかったわ。やってみる!」

「はい。皆さんもお気をつけて」


偶然にも今居る屋敷はユイナとミナモが住居としている屋敷で、ユイナから新しく来た護衛ということにしますと協力を口にする。その代わりとしてミナモと、証を巡って争っているアサイとキキョウの仲を取り持ってほしいと懇願した。

彼女からすれば藁にもすがる思いなのだろう。

本来、赤の他人が兄弟間のもめ事に割って入ることなどないのだが、ダジュールの歴史を調べるためにはなんとしてもその問題を解決しなければならない。


こうしてアレグロとタレナを残した四人は、二手に分かれてそれぞれの集落の様子と情報収集を兼ねて向かったのであった。


鬼人族のユイナから話を聞いたケイ達は、それぞれ西の集落と東の集落に分かれて情報収集に乗り出します。果たして兄弟間のもめ事を解決することができるのでしょうか?

次回の更新は7月6日(月)夜です。


いつも閲覧&ブックマーク・コメントをありがとうございます。

これを励みに細々とマイペースに活動していきますので、よろしくお願いします。

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