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異世界満喫冒険譚  作者: GDKK
大陸編
193/359

188、猫が紡いだ縁

皆さんこんばんは。

いつもご高覧くださりありがとうございます。

さて今回でユージーンとベリーの回は最後になります。


「また、君か・・・」


翌日の早朝。

いつも通りの時間に目を覚ましたユージーンは、日課である準備運動を行うべく屋敷の庭に向かおうとしていた。


玄関を開けてすぐに『ナァ~ン』と鳴き声が聞こえ、下を向くとベリーが行儀よく座っている。ユージーンは仕方がないなと言いながらもしゃがみ込みベリーの頭や背中を撫でてやると、もっともっととお腹を見せるように仰向けになり催促を強請る。


「おや?この子は昨日の・・・?」


ユージーンの後ろからローゼンが顔を出した。


昨日のやりとりを見ていたようで、また来てしまったみたいだと言うと「よほどユージーンさんが気になるみたいですね」と笑みを浮かべる。

エメルダの家に送り届けようと思ったのだが、彼女の家の場所が分からず、朝も早いことから暫く経ってからベリーと一緒に冒険者ギルドに尋ねに行こうと考える。


ぐぅぅぅ~とお腹の虫がベリーの方から聞こえた。


二人は一瞬驚き、そうかそうかとユージーンが身体を撫で、ローゼンがミルクを用意しますと一旦キッチンへ。


数分後、ローゼンはユージーンになで回されているベリーの前に少佐がいつも飲んでいるミルクを拝借し、少し温めたものを差し出した。


ミルクを出されたベリーは器に入っているミルクの匂いを何度も嗅ぎ、飲んでよい物かと考えている様子を見せる。そして、ユージーンの方を見上げ「いいのか?」という表情で鳴いた。それは大丈夫だと背中を撫でてやると、それを察したのかそっか~というような声で再度鳴き、ミルクを舐め始める。



「いい飲みっぷりだったな」

「よほどお腹が空いていたのでしょう」


器のミルクを全て平らげたベリーは、お腹がいっぱいとゲップで意思表示をしてから横になった。それを見たユージーンが背中や腹を撫でるとベリーは「世は満足じゃ、良きに計らえ」というようなドヤ顔を一瞬だけして眠ってしまった。


なんとも自由な猫である。



「本当に申し訳ありませんでした!」


それから、エメルダが屋敷にやって来たのは一時間後の事だった。


ローゼンの計らいで、玄関口で眠ってしまったベリーを応接室に設置している簡要の寝床に寝かせてやり、ベリーを心配しているユージーンのために朝食を別に運び入れ、食べていたところを彼女がやって来たのである。


彼女から朝起きた時、家の何処にもベリーの姿がなく庭を探したが見つからなかったため、もしやと思いこの屋敷に足を運んだそうだ。


「今までにこんなことはなかったのですが・・・」


困惑した様子のエメルダが、ユージーンの隣で眠っているベリーを見てそう話す。

応接室に通された彼女は、向かいに座るユージーンとお茶を出してくれたローゼンに迷惑をかけましたと頭を下げた。


「今までに、とは今回が初めてなのか?」

「はい。私以外の他人、特に男性には警戒している様子でしたが、昨日家に連れて帰った後も出してくれと一晩中玄関で鳴いていましたから・・・」

「旦那さんはなんと?」

「主人は亡くなりました・・・三年前に」


少し寂しそうな笑みを浮かべ彼女が返す。

ローゼンが積もる話もあるだろうと退出をした後、彼女は自身の事をぽつぽつと口にした。


「ベリーは夫が亡くなる前に家に迎え入れた子なんです」


エメルダの夫は三年前の亡くなる直前まで、アルバラントで商品の仕入れなどを行っている仕事をしていた。特にアルバラントになると、日々多方面からの流通が激しく忙しい仕事だったため、日中家で一人になるエメルダを気遣ってベリーを知り合いの調教師から譲って貰ったという経緯がある。


ベリーという名の由来は、果物のベリーのように鮮やかな紫をしていたことから付けられた名前になる。ふてぶてしい顔をすることもあるが、愛嬌があり彼女にとっては心の拠り所にもなっていた。


しかし幸せは長くは続かなかった。

彼女の夫は、過労と病気によりベリーを引き取ってから一月後に亡くなった。

夫婦には一人息子がいたが、既に成人をし遠方に住んでいるためなかなか会うことが出来ず、一人寂しく暮らしていた彼女に寄り添うようにベリーの姿が唯一の救いになる。


「実は夫が亡くなったあとから、よく再婚の話がありまして・・・」


彼女の夫が亡くなって一月経った時から、時折未婚の男性からの求婚話が持ち上がっていたそうだ。傷心に浸っている彼女の心に傷口に塩を塗るぐらいの勢いで話が上がっているそうで、ベリーはそんな彼女を悪(男)から守っているのではないかと彼女の口から語られる。


エメルダは十七歳で結婚をし、亡くなった夫とは二回り近く年が離れていたそうで結婚当初は財産目当てではないかと噂もあったようだが、彼女の夫は普通の一般人で普通の暮らしをしていた。

彼女が生まれ育った町は今でこそ珍しくないのだが、その当時は年の差結婚=金目当てという方程式が立ち、常に物珍しく奇異な目で見られたという。

「人の噂も七十五日」という言葉があるが、小さい町ではそれが払拭できず、息子が産まれたことを機にアルバラントへ越してきたのだそうだ。


「夫の残してくれた息子とベリーのおかげで今までやって来られました。私にとって夫は生涯愛すべき人であり、また尊敬する人でもあります」


そう言って彼女は、満足そうに眠っているベリーを見つめた。



「ユージーンさん、お話を聞いてくれてありがとうございました」

「いや、気にする必要はない。君にもベリーもまた会えて嬉しかったよ」

「私もです・・・それでは、また」

「あぁ。また・・・」


昼寝から起きたベリーをエメルダが抱え上げ、ユージーンと離れたくないベリーが鳴き声を上げる。よほど彼が気になるのかどうなのかは定かではないが、少なくとも昨日のように姿が見えなくなるまで鳴いていたので、ユージーンとしても寂しくなるなという表情で彼らを見送った。



「・・・で、エメルダさんどうだった?」


上から声がして見上げると、二階にある自室のベランダからケイがこちらを見つめる姿を見つける。


「どうとは?」とユージーンが投げかけると、ケイは「独身で若いしベリーも懐いている、俺的にはいい距離感いい雰囲気じゃないか?」と笑みを浮かべていると、何を言っているんだとジト目でユージーンが返す。


「それに私は軍人だ。それらにうつつを抜かしている場合ではない」

「またまたぁ~「恋の始まりはある日突然!」なんてこともあるんだぜ?」

「はぁ~、そういう君はどうなんだ?噂では、ダナンの公爵令嬢と婚約をしていると聞いているが?」

「あ~それね~あいつの親父さんが決めたんだよ、助けてくれた礼にって。まぁ、ぶっちゃけあいつ次第だな」


あいつとはシンシアの事である。


公爵令嬢たるとも、料理の一つや二つできなくてはというダナンの領主・オランドの考えにより、本来であれば成人をした年から料理や炊事洗濯などを経験させようとしたようだったが、シンシアの反抗期によってほぼ行われずに今に至っている。

正直、令嬢だからという理由で何もしないことは本人は考えていないようで、屋敷不在の時はパーシアが行っているが、掃除洗濯などは時間が空いていれば一応はシンシア自身も手伝ってはいる。


しかし料理だけはなぜか駄目なようで、いつも教えているタレナとレイブン曰く、料理分野になると途端にマッドサイエンティストのような完成になるらしい。

以前ケイ達も彼女の料理を食べたことがあるが、言い表しようのない個性的な爆発を見せてくれた。正直、なんでこうなるの?と理解に苦しむような現象も多々。


それを聞いたユージーンは「得意分野は人それぞれだ」と口にし、目線を外した。

哀れ!シンシア!



夕食時になり、ケイはブルノワと少佐を連れてダイニングルームに向かおうとしたところ、エントランスに下りた少佐が扉の方を向いて立ち止まった。


「少佐、どうした?」


ブルノワを抱きかかえケイが振り返ると、サウガが『バウ!』と鳴きこちらを振り返る。サウガは他の二頭より耳が良いため、なにかが屋敷にやって来ているのではと考え、外を見ようとドアノブに手をかけ扉を開けた。


扉を開けた瞬間、黒い何かが屋敷に入り込むところを見た。

突然のことにケイはそれに驚き声を上げると、それはなんなのかと目で対象者を追うと、そこには薄汚れたベリーの姿があった。


「ベリーか!?お、おい!ユージーン来てくれ!!」


ブルノワを下ろしベリーに駆け寄ると、助けてほしいといわんばかりに鳴き声を上げ続ける。よく見ると、ベリーの毛には血痕のようなものが付着している。

どこか怪我をしているのかと鑑定をしたが、単に恐怖と混乱を起こしているだけで目立った外傷はない。


「ケイ、どうした!?」


たまたまダイニングルームにいたユージーンが姿を現すと、ベリーの姿を見るや何かがあったと察したようで、優しく抱き上げ大丈夫だと身体を撫でた。


「血痕がついているが、こいつには怪我がないみたいだ」

「ということは、彼女にないかあったと考えるべきか・・・」


険しい表情でユージーンが考えると、何事かと後ろからローゼンが姿を現した。


するとあやされていたベリーがユージーンの腕から離れ、何かを訴えるように鳴いた。ユージーンはそれが何を示すかを理解したようで、急いでベリーが表に出るとそれに続くように彼もまた外に飛び出していった。


「ローゼン、悪いがブルノワと少佐を頼む!」


彼らの様子を見て、自分も後を追うとローゼンにブルノワと少佐を託した。


恐らく飼い主であるエメルダに何かがあったと考えるべきだろう。

ユージーンの話では、夫が亡くなって以来再婚もせずに一人と一匹で過ごしていたが、ひっきりなしに再婚の話が出ているようで、それに巻き込まれたのではと察したのである。




「いやぁあああ!!誰かぁぁぁ!!!!」


エメルダの家は、貴族の家が連なる一角に存在していた。

屋敷の近くまで来ると女性の悲鳴らしき声が響き、何かが倒れる音やぶつかる音がひっきりなしに響き渡る。


「なにをしている!!」


ベリーの後に付いてケイとユージーンが家の中に入ると、エメルダが見知らぬ男に首を掴まれナイフで刺されそうになっていた瞬間を目撃する。


ユージーンはそれにすぐさま反応をし声を上げたかと思うと、ナイフを持っていた腕を捻り上げ、男を力尽くで床に押さえつけた。

ケイは首を絞められたことにより咳き込んでいるエメルダに駆け寄り、無事なのかと確かめた。彼女は右頬が赤くなり、口からは血を流し腕や足などにも切り傷や打撲の跡があった。


ユージーンに押さえつけられている男は、以前からエメルダに求婚をしていたようで、何度目かに断られたと思った瞬間に彼女に襲いかかったのだそうだ。

しかも恐ろしいことに『彼女が自分のモノにならないなら殺してしまえばいい』と思い、凶行に及んだそうだ。


「ケイ、悪いが縛るモノを持ってきてくれ!」

「その必要はない。【バインド】」


押さえつけられている男に向けて拘束魔法を施すと、今度はエメルダに向けて『君と僕は永遠に一緒だ!』とこれまた恐怖を通り越してサイコパスさが窺える。

仕方がないのでその辺に落ちていた破損した家具の木片を口にくわえさせ、その上から布で口元を縛る。


「ユージーンさん、なんで・・・?」

「ベリーが知らせに来てくれたのだ。君が無事で良かった」

「あ・・・ありがとうございます」


エメルダは安堵をしたのかユージーンに持たれ大粒の涙をこぼし、二人の間にベリーが割り込み、泣いているエメルダを慰めるように顔を舐めていた。



その後エメルダを襲った男は、近隣住人によりアルバラントの兵に拘束された。


ユージーン曰く、殺人未遂および不法侵入・器物破損などいくつかの罪が重なり実刑以上は免れないだろうと語る。


エメルダの怪我はケイの回復魔法により完治したが、心に負った傷はケイの魔法でも癒やせない。彼女の住んでいる屋敷は広いが、もともと裕福ではなく警備を雇うことが難しかったようで使用人も通いで雇っていると知った。

今回の一件で、彼女自身にも大きな局面に立たされているとケイは察していたが、こればかりはプライベートな問題のため、立ち入るべきではないなとその光景を眺めていた。



実はこの話には続きがある。


なんとこの一件がきっかけで、ユージーンとエメルダは夫婦になったのだ。

しかも彼女のお腹にはユージーンの子がいるそうで、軍の中でも独身貴族の象徴として勝手に君臨させられていた彼も、やっと身を固めることになったようだと、後にバナハの騎士団総統であるロアンの手紙で綴られている。


エメルダとベリーは住み慣れた土地をあとにし、ユージーンがいるバナハに移住。

慎ましいけれど毎日楽しく暖かい家庭を築いているようだ。


ロアンの手紙の続きには、ユージーンが休暇中にいろいろと吸収していたようで、戻ってきた時になぜか第一部隊の訓練内容が二倍ぐらいに厳しくなり、隊員から辛すぎると泣き言をよく聞くようになったと悩みの種も綴られる。



一体何があったのかとロアンが不思議がっていたが、ケイもこのことに関しては分からないと答えるしかなかったのであった。

今だから言えますけど、やっとこの話を書けました。

実は、ユージーン登場時にはこの話を書く予定でいましたがなかなか機会がなく。

人の数だけ物語があるというコンセプトで書かせて貰いました。


それと、近々物語は新しい展開を迎える予定になります。

お楽しみに!


次回の更新は6月24日(水)夜です。

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