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異世界満喫冒険譚  作者: GDKK
大陸編
192/359

187、猫のベリーちゃん

皆さんこんばんは。

いつもご高覧くださりありがとうございます。

今回は、ユージーンと猫のお話です。

シルトとボガードと別れたユージーンは、そのまま屋敷に戻ると一度ゲストルームに戻りシャワーを浴びた。


二人の訓練を見て、いつも行っている自身のトレーニングや軍隊訓練がいかに生ぬるかったのかと痛感させられた。休暇中にも関わらずシャワーを浴びながら、訓練内容の見直しを思案した。実際はシルトが元々身体能力が高く、ボガードはケイのドーピングによって能力全般が上がっているだけのことなのだが、そんなことを彼は知るよしもない。


そして、これが後のバナハ名物【地獄の軍隊訓練】となるのだが、この時はまだ誰も予想だにしていなかったわけである。



「ユージーンさん、おはようございます!朝食ができました!」


シャワーを浴びた頃には朝の七時を迎え、ノックのされた扉の向こうからパーシアの声で朝食が出来たことを告げられる。


エントランスを下りてきた辺りから食事の匂いのようなものが漂ってきた。

ダイニングルームに入ると、ちょうどタレナとレイブンが席につくところだったので挨拶を交わしてから席に着いた。


「これは、パンか?」


彼の目の前には、白い皿に見たこともない焼かれた四角い食べ物がのっている。

近くにはガラスの器に入ったマーガリンやイチゴなどのジャムが置かれ、匂いの元はこれらということが分かったが、置いてある物から察するにパンの一種だと理解する。しかしユージーンの中では、パンといえば白パンや黒パンなどの少し堅いパンを思い出す。


「今日はパーシアさんが作ってくれた食パンです。マーガリンとイチゴとオレンのジャムがあるそうなので、お好みでつけて食べてくださいね」


向かいに座っているタレナが手を合わせてから食パンという物を手で千切り、イチゴジャムをつけて頬張った。


ユージーンはみんなが揃っていないがと声をかけると、朝はいつもバラバラに食事を取ることが多いのだそうだ。どうやらケイは朝が苦手なようで、大体八時過ぎ遅くとも九時前に起床するらしい。朝が苦手な人間も少なからず知っているため、この辺は普通の人なんだなと妙に納得してしまう。


パーシアが作製した食パンという食べ物は、今までに食べたパンの中で一番美味しかった。むしろ同じパンなのに、芳醇な香りで外はカリッと中はふんわりとしていることから熟練の職人のような完成度を示している。

それを本人に伝えたところ褒められたことに感謝をしつつも、実は時間が経つと中のパンに弾力がなくなってしまうことが課題だという。正直これでも美味しい方なのだが、パーシアは皆が美味しく食べて貰える様に反省をいかして作り続けていくと述べる。ユージーンも料理はあまり得意ではないがパン作製の大変さは聞いているため、また食べてみたいので是非とも頑張ってほしいとエールを送った。



「ローゼン殿、私は少し街を見て回ろうと思うのだが・・・」


朝食後、ユージーンはローゼンにせっかくアルバラントまで来たので街を散策してくると話した。彼から中央広場で毎朝市場や露店を開いているようなので行ってみたらと提案されると、気晴らしにいいのではと思い、散歩ついでに寄ってみようと屋敷を出た。




「散歩に出たのに、なんでそんなことになるんだ?」



呆れた物言いでユージーンを見つめるケイに、眉を下げ困惑しているユージーンの腕には一匹の猫が抱かれている。


全体的に丸いフォルムに淡い紫色の体毛とその手足と尻尾は光るように白く、青くクリッとした瞳としているが、お世辞にも可愛いとは言いづらい表情をしている。

例えるならブサカワという部類に非常に近いが、そのへちゃむくれの顔が妙に愛嬌があるように見える。


「知らない間について来てしまったみたいだ」


猫の表情を覗き見ると、その猫はユージーンの方を向き『ナァ~ン』と甘えた声で鳴く。どうやら中央広場の露店を巡っている間にいつの間にかこの猫がついて来てしまい、いくらダメだといっても延々とユージーンの後を追ってきてしまったとのこと。


「でも、こいつ飼い猫じゃねぇのか?首輪ついてるし~」


ケイが見つめる先には猫の首に赤い首輪が付いている。

全体的に綺麗にされているため野良とは考えづらく、首輪のタグにはこの猫の名前とおぼしき『ベリー』と記されている。


『にゃんにゃん!』と足元でブルノワと少佐が猫に興味を持った様子で見つめ、見つめられたベリーは興味がなさそうにユージーンの腕の中で尻尾をくゆらせる。

しかし何故かユージーンにだけ懐いているようで、ケイが触ろうとすると触るな!と前足でペシッっと叩かれた。


飼い主が探しているかもしれないから、どこかに相談をした方がいいかもしれないとユージーンが話すと、こういうときは大抵冒険者ギルドと相場は決まっているとケイが提案し、ギルドに向かった二人は受付の女性に猫を預かっているので掲示板に出したいと依頼した。その際に特徴と預かっている自分の屋敷の場所を教えたのち、もし飼い主が来たら伝えてほしいと述べる。



そして一時間後に屋敷に戻ってきた時には、ベリーは安心しているのかユージーンに抱えられたまま舌を出して眠っていた。

さすがにダイニングルームや個室に入れるわけにはいかないので、応接室の端に少佐が前に使っていた寝床とトイレを設置して置いた。いつ飼い主が現れるのか分からないため、念のために使わなくなった物を取って置いて正解だった。


「そういや、犬とか猫って人を見て階級を決めるって聞いたことがあるな~」

「階級?」

「要は、こいつは俺より上とか雑魚だから下って見てるらしい」


ユージーンの膝の上でだらしなく仰向けに眠っているベリーを見て、ケイはふとそんな話を思い出す。


中学の時に友人の家に行った際、友人の兄が飼い猫に相手にされないと嘆いていたところを見たことがある。友人によると、絶対のヒエラルキーの頂点は彼の母親であり、友人は階級的に母、姉の次に父と同階級ぐらいで可もなく不可もなく、その次にご飯・おもちゃ・トイレ、兄になっているらしい。

低いにも程があるだろうと思ったが、飼い猫が引き取られた当時にはすでに友人の兄は大学生で家を出ており、顔を合わすことがなかったためとみられる。


その友人はその猫の他にも犬や熱帯魚など飼っていたようで、将来は獣医になると言って獣医学部に進むと聞いたが元気にしているだろうかと思いを馳せる。


「というか、猫の色が紫ってすんげぇ違和感あるんだけど?」

「おそらくこの猫は、シーキャットの突然変異だろうな」

「シーキャット?」

「フリージアの森に生息している魔物の一種で、その魔物が突然変異によって別の系統に進化と変化を繰り返した結果だと言われている」


ユージーンは、ベリーはシーキャットの類いではないかと語った。


シーキャットはフリージアに生息している非戦闘魔物に分類するそうで、戦闘の技術はないがその分捕食者から逃げるための術は群を抜いており、人里には出ない事から滅多に見られない珍しい魔物にあたる。

それにより、二十年前まではシーキャットの毛皮や色鮮やかな目が高値で取引されたそうで、乱獲された結果、現在は保護指定生物に分類されている。

本来のシーキャットは青色をしているが、紫色の体毛を持つベリーはその亜種か変異の可能性があるとユージーンは続けた。


そもそもダジュールのペット事情は実に複雑で、全体の三割が非戦闘魔物の子孫だといわれている。


街中を見てみると、赤色の犬に黄色と青のマーブル柄のは虫類、一メートルほどのピンク色をした犬種のチャウチャウに近い小熊など、これ本当にペット?と疑問を抱くような動物を見かけることがある。

動物を飼うという発想自体は王族や貴族のみならず一般市民にもあるようで、犬や猫などのオーソドックスな物から希少生物のようなものまで幅広くとり預かっている専門店がアルバラントの他にもダナン・マライダと存在する。こちらでいうところのペットショップのような店であるが、獣医などの専門医が常駐しているそうでその辺は地球のペットショップとは異なる。


「実家で飼っていた猫を思い出す」

「猫、飼ってたのか?」

「白猫でブランという名前だった。十二年ほど生きていたが私が軍に入る前に亡くなったよ」


元は捨て猫だったようでユージーンの父が拾い、家で飼い始めたのがきっかけだった。ブランはユージーンによく懐き、拾ってきた父親が嫉妬するほどの仲良しさをアピールし寝食を共にしていたようで、ユージーン曰く、自分は幼い頃から動物には何故か好かれていたそうだ。


そのブランも彼が軍に入る二十歳の時に老衰で天国へと旅立っていき、軍の入隊式直後だったこともあり、ユージーンがブランが死んだことを知ったのはだいぶ後になってからだった。その時は相当落ち込んだようで、彼の母が亡くなったブランの毛の一部を加工してお守りにして渡してくれたそうだ。

ポケットから、金具がついた白い毛が加工されているキーホルダーのような物が取り出される。今は亡き愛猫ブランの毛の一部をお守りにした物である。

ユージーンはこれがあるから今まで辛い訓練にも実践にも耐えてきたと述べる。

彼にとっては、大切な心の拠り所のようなものだろう。


時折ユージーンの膝の上で寝返りを打つベリーと、それを優しく撫でる彼を見たケイはユージーンは堅物で真面目一直線などと言われているが、なんだかんだで普通の人間なのだなと感じた。



「ベリー!心配したのよ!?」


夕方、ギルドの男性職員と一緒に女性が一人屋敷にやって来た。


白い肌に手入れのされている紺色の長い髪の三十代ぐらいの女性は、右目の下に泣きぼくろがある魅力的な容姿をしていた。


彼女はエメルダ。


ベリーの飼い主で昼間に家を掃除していたところ、窓から飛び出して行き、今までずっと探していたのだという。そして近所に住んでいた知り合いから、冒険者ギルドで猫預かりの掲示板を見たと聞き職員とやって来たのだ。


ベリーはエメルダの姿を見るやユージーンの方を向き『ナァ~ン』と鳴いた。

その可愛らしい姿に思わず口元を緩め、飼い主であるエメルダに手渡す。


「ユージーンさん、ケイさん、ありがとうございました」

「気にする必要はない」

「いえ。この子は私と主人の大事な宝物ですから、この子になにかあったらと思うと心配で心配で仕方がなかったのです・・・」


抱きかかえられたベリーに安堵の表情と哀愁を漂わせるようなエメルダ。


エメルダとギルドの職員は再度一礼をしてから屋敷をあとにした。

去り際にベリーが離れたくないと、見えなくなるまでずっと鳴いていたのが印象的だった。

ブサカワのベリーちゃんと強面の軍人・ユージーン。

次回、そんな彼らの交流に変化があります。


次回の更新は6月22日(月)です。

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