17、ドワーフの国エストア
ドワーフの国エストアへ。
新しい出会いと厄介事!?
楽したいからチートをすることもあります。
翌日の朝、四人はコルト村を出発し、エストアに向けて北上することにした。
「でも魔物の遠吠えなんて大丈夫なの?」
コルト村で聴いた噂に不安を募らせるシンシア。
「サラマンダーが集団で雄叫びを上げることがあるから、もしかしたらその可能性もあると思う」
レイブンが言った通り、サラマンダーは求愛する時に雄叫びを上げることがある。
それは相手を振り向かせる一種の行動になり、魅力的な雌がいれば、誰が一番かを競って雄叫びを上げることもあるらしい。
「繁殖期とか?」
「あいつらはこれといって繁殖期が定まっていないんだ」
「年中ってこと?」
「そういうことだな。一回の繁殖で3~5体ほど産まれるから、魔石の利用に重宝視されているといってもいい」
実は繁殖を押さえるため、定期的にサラマンダーの討伐依頼が出回る。
意外と苦労しているのだ。
「でも、昨日聞いたのは遠吠えに近かったぞ」
「それにこいつが反応したのも気になる」
アダムの言うとおり、どちらかというと獣に近い声だった。
ケイが鞄の中のジュエルハニービーをみると、当の本人はこちらを見やり首を傾げた。
お昼を過ぎた頃に一度休憩を挟む。
視界には遥か遠くにいくつもの山が連なっていた。
「そういえばエストアがある山ってあれ?」
ケイがレイブンに指を指した方を尋ねる。
「そうだ。エストアは山の中に国があるんだ」
「なんでまた高いところに国があるんだ?」
「『山と共存』をしていると聞いたことがある」
「山の神を崇拝しているとか?」
「たぶんそうだろう。山と自然を恵みを大事にしているとも聞いている」
エストアは、初代ドワーフの国王が仲間と共に何十年もかけて建て造り上げた国だ。
もともとは地下に国が存在していたが、地盤の関係で山の上に再度国を建てたと言われている。
今でも地下に国の名残があり、たびたび歴史家などの専門家が訪れることがあるそうだ。
「しかし鉱石を食う姿がシュールなんだけど」
「不思議よね~お腹壊さないのかしら?」
いつもの通りケイが砕き、それをジュエルハニービーが食べる。その様子をシンシアが不思議そうに見ていた。
鉱石を好み、ハチミツが毒となる鳥をみて、ケイはやっぱり異世界なんだなと思った。
食事を終えた一同はエストアに向けて歩き出した。
太陽は西に傾いているのをみて、今日は麓の村までだなとレイブンが言う。
山は見えているが、距離があるとみる。
「そういやシンシアって弓使ってんだな?」
「そうよ。いきなり何なの?」
怪訝な顔でシンシアがケイを見る。
彼女の背中には弓と矢が背負われている。
「護身用に剣とか使うのかと思ってたけど」
「弓の適性がが高いから使っているだけ。それに近距離武器はは必要以上の力がないから私には難しいわ」
ケイの知っている限りでは、弓は全身を使うことが多いため弓を引くための体力や筋力は最低でもつけるものである。
そう考えると全くないとは言い切れない。年齢的にもまだ伸びしろはあるような気がした。
「シンシアの弓の腕は信じていい。もともと狩りをしていたようだから、弓の正確さも申し分ない」
以前レイブンは、領主とシンシアの狩りに同行したことがあり、通常の弓使いは20~30mが限界のようだが彼女はそれを優に超えるという。
動体視力も高いことから身体的な能力はある程度以上のものだと推測した。
「もともとお父様の趣味に付き合っていただけよ」
「領主って狩りをするのか?」
「自分で食べたいものを狩ってきたりしてたから」
「領主って行動派なんだな」
正直意外な事実である。
そんなたわいもない話をしながらエストアの麓の村に到着した一行。
視界に広がる山々の遥か上に城らしきものが見える。
「あの辺りがドワーフの国エストアさ」
レイブンがそう説明した。
まだ日没前だが、日が暮れれば夜道の山道は危険なため今日はこの町に泊まることにした。
村の一角に小さいながらも宿屋があった。
宿屋の女将に四人部屋に案内され、その後夕食だと告げられる。
「はぁ明日は山登りか~」
ベッドで横になるケイにだらしないとシンシアが告げる。
しかしケイにとっては、幼少の頃祖父母の家の裏山で虫取りをして以来になる。
夜になり宿屋で食事を取っていると、またあの遠吠えが聞こえてきた。
「なんだか気味が悪いわ」
食事の手を止めてシンシアが言う。
コルト村では魔物か動物か、もしくはサラマンダーの集団の声だと思っていたが、ここに来て狼のような遠吠えがはっきりと聞こえる。
「狼の集団でも居るのか?」
「野生の動物にしては集団っぽい感じではないな」
ケイの隣でアダムが疑問を唱える。
「やっぱりお客さんもそう思うかい?」
宿屋の女将さんが声を掛けてきた。
「コルト村で三、四日前から聞こえてきたって聞いたぜ」
「あたしも気になってね~。そのせいでエストアで怪我人が出ているって聞いてるよ」
「怪我人?」
エストアでは狼の遠吠えの影響で、サラマンダーが山道に出てくる姿が見られるようになったという。
普段はエストアの高地におり、滅多なことでは人里に下りてこないと言われているが、その影響で怪我人もだいぶ増えたと言っていた。
「アマンダ達は無事なのかね~」
女将が心配そうに呟いた。
「アマンダ?」
「エストアの採掘師さ。鍛冶師クルースと共に有名な姉弟でね、私が使っている道具はその二人が作成したものなんだよ」
エストアには採掘師のアマンダと鍛冶師のクルースという姉弟がおり、エストアや麓の村で使用されている武器や道具の大半が二人が作成されたものだと言った。
「その二人は有名だな。二十代でエストアの王にまで認められているそうだ」
「確かクルースは、去年のエストアの王生誕祭でミスリルの剣を献上したって聞いたことがある」
「姉がミスリルを掘り当て、弟が作成する。俺も頼めないかな?」
アダムとレイブンがそんな会話をしていた。
「もしかしてあんたたち、エストアに行くつもりかい?」
「あぁ。依頼で行かなきゃ行けないからな」
ケイが答えると、女将が少し考えてから店の奥に入り、袋を持って戻ってきた。
「もしできるのなら、これをアマンダ達に渡してくれないかい?」
袋の中を覗くと、薬草や回復薬、包帯などがいくつか入っていた。
「やっぱりサラマンダーの影響なの?」
「そうなんだよ。エストアは物資や商人でしか薬を入手できなくてね~」
エストアの山は全体的に鉱石を多く含んだ山のため、薬草などの物資が手に入りづらくなっている。
「わかった!これを渡せばいいんだな?」
「すまないとは思っているけど、よろしく頼むね」
女将がすまなそうに言った。
翌日四人は、エストアに向かうため村を出て、山道を登ることにした。
ゴツゴツした岩山の影響で足場が幾分悪く、夜のうちに行かずによかったと一同が思った。
「レイブン!他の道ってないのか?」
「この辺りは他と比べたらマシな方だよ。他は険しい崖とかになるからね」
「うへぇ~」
田舎の裏山とは違って足場が悪いため、ケイがどうにかして楽に登れないかと考えていた。
「ケイ、顔に出てるぞ」
「だって登るのが怠い!」
アダムが隣で指摘するとケイが反発をする。
とても成人を超えた男性とは思えない発言である。
「!そうだ!いいこと考えた!!」
突如始まったケイのきまぐれ創造コーナー。
『創造魔法:ワイヤーフック作成』
黒い手袋にワイヤーフックついているものだった。
それを両手にはめ感触を確かめる。
革製で伸縮力があり動きを阻害しない。
ケイはそれを上の道に向けた。
「嫌な予感しかしないんだが・・・」
アダムの横でフックが発射される。
フックは上の崖付近の岩肌に突き刺さる。
ワイヤーを軽く引っ張り、抜けないことを確認してからワイヤーを巻き取る動作をした。
「いやっほぉぉぉ!!!!」
巻き取られるワイヤーと共にケイが空を飛ぶ。
ワイヤーが巻き取られると同時に上の道に到達する。。
「一度やりたかったことベスト3のワイヤーフック!なかなかいいじゃん!」
簡単に上がれることがわかると、同じようにワイヤーフックを使ってエストアまでの道を上がっていく。
「アダム、あれなんなの!?」
「飛行魔法かなにかか?」
シンシアとレイブンが目を丸くした隣で、アダムがため息をついた。
ケイが山の中腹にあるエストアに着いた頃には太陽は真上を向いていた。
一人で登ってきたため、アダム達の姿はない。
門番にギルドカードを見せ門をくぐると、エストアの風景が全面に見えた。
「すっげぇぇぇ!」
山の中腹に造られた国は、前方の高台に城が見え、国の周りを山が囲む。
街は中心部分に向かって段々と掘り下げられており、その周りには店や民家が建ち並ぶ。
中央部分に噴水のある広場が見える。
その間を岩をくりぬいて階段にしている。なかなか個性的である。
「なぁなぁ!アマンダとクルースって人達ってどこに行ったら会えるんだ?」
「わぁ!な、なんだ~それなら鍛冶ギルドに行ってみるといいよ」
ケイが適当に歩いていた人に声を掛け、姉弟の居場所を聞いてみた。
「鍛冶ギルド?」
「噴水の近くに赤煉瓦の建物が見えるだろう?」
男が指を指した先に、赤煉瓦で建てられた二階建ての建物が見える。
「そこに行けば会えるんだな?」
「今の時間ならクルースがいると思うよ」
「アマンダって人は?」
「彼女ならたぶん採掘場じゃないかな」
教えて貰った鍛冶ギルドに足を運ぶと、入り口にハンマー印の看板が掛けられていた。
中に入ると、鍛冶特有の金属音と熱気であふれかえっていた。
「すいませーん!」
受付には誰も居ないようなので声を掛けてみる。
「はぁーい!今行きます!」
奥から現れたのは、二十歳ぐらいの青年だった。
「えっ・・・角?」
「え?あー僕、ドワーフと魔族のハーフなんです」
ケイが、青年の頭から角が出ていることに驚愕すると、青年は気まずそうに答える。
この世界では、種族間の反発等はあまり見られない。
過去には戦争も起こしていたようだが、種族間の交流や平和条約などで昔よりは柔軟になっているほうである。
「俺は冒険者のケイで、アマンダとクルースって人に会いに来たんだけどいる?」
「僕がクルースです」
そう答えた青年をみると、魔族の特徴である角以外は別段見られない。
ドワーフとのハーフと言っていたが、ドワーフの特徴が見受けられず、体格的には人間の成人男性とそれほど変わらない。
「ドワーフらしき要素がないな~」
「よく言われます。僕は母さん似なので・・・。ちなみに姉さんは僕と真逆ですけどね」
そう言われて一瞬だけムキムキの女性を想像し、ちょっと見てみたい気持ちになった。
「麓の村の宿屋の女将から、これを預かったんだけど」
アイテムボックスから預かった袋を取り出す。
「あ、ありがとうございます」
アイテムボックス持ちに驚いた表情をしたが、ケイはそれに気づかない。
「アマンダって人は?」
「姉さんなら採掘場だよ」
「いつもそこに居るのか?」
「うんそうだね。僕としては少し休んでほしい気持ちなんだけど」
クルースの話によると、最近大きな仕事を終えて一息出来る期間が出来たそうだが、今は入ったばかりの若い衆の育成に力を入れていると言う。
「それワーカーホリックじゃん。お前の姉ちゃん大丈夫か?」
「ワーカーホリックっていうのはよくわからないけど、姉さんは働き過ぎなんだ。僕の言っていることわかっているのかな?」
ふてくされた子供の様に呟いた。
「クルース!大変だー!!」
そんな二人の会話に、作業服姿の男が飛び込んでくる。
「どうしたんですか!?」
クルースが男に近づくと、全力で走ってきたのか息も絶え絶えの男が呼吸を整えた後こう言った。
「アマンダさん達がサラマンダーに取り囲まれている!!」
「ね、姉さんが!?」
驚愕の表情でクルースが聞き返す。
「俺は隙を見て逃げ出したが、アマンダさんが怪我人を守るために鉱山の入り口を封鎖して立てこもっているんだ!」
「衛兵に連絡は?」
「一緒に逃げてきた他の奴らが伝えに行っている!」
クルースはその言葉に飛び出そうとした。
「おい!お前が行ってどうするんだ?」
「姉さんを助けないと!」
「丸腰でか?」
「だけど!」
家族が窮地なのを黙っていられない気持ちを諭すようにケイが言う。
「俺が行ってくる!」
「えっ?」
「アマンダ達の場所は!?」
「山道を上がった場所にある第三採掘場です!」
「ケイさん・・・」
「もし俺の仲間が訪ねに来たら、そこにいると伝えろ!いいな?」
ケイはクルースの返事を待たずにアマンダ達の救出に向かうことにした。
次回は5月1日(水)です。
新年号でお会いしましょう!