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異世界満喫冒険譚  作者: GDKK
大陸編
188/359

183、和解

皆さんこんばんは。

いつもご高覧くださりありがとうございます。

今回はだいぶ遅くなりましたが、前回の続きからになります。

鍛冶ギルドの揉め事解決回です。

「やっぱりここに居たか」


窓の外からこちらを見つめているアダムの姿があった。


ケイがブルノワと少佐を連れて居なくなったことに、まさか窓からジャックの部屋に入っているのではと考えたのだが、それが想定通りだったことに思わず呆れかえる。ケイはよく分かったなとケラケラと笑い、一緒になって一年以上経てばなんとなく行動パターンが読めくるのだという。


「・・・で、何かわかったのか?」

「お前結構ドライだな~。まぁ、いいか。結論から言うと、ジャックは鍛冶師には向いてないん・・・」


そこまでケイが口に出すと、ジャックの部屋の扉が強盗の襲撃さながらに蹴破られた。中にいるケイ達と窓から覗いているアダムがその衝撃に驚きの声を上げると、急にダンがどういうことなのかとケイに詰め寄る。

どうやら蹴破った主はダンのようで、部屋の外からケイの話し声を聞いたのか「ジャックは鍛冶師に向いてない」というワードだけを聞き取り、いてもたってもいられない状態になっている。親としては、自分の息子を侮辱している発言と捉えられても仕方がない。


その騒動を聞きつけたのかレイブンとジーノが止めに入り、とりあえず説明をするので話を聞いてくれとダンを落ち着かせる。


「ダンの沸点が低いところは置いておくとして、結論から言うとジャックは鍛冶整備士という職業になっているんだ」

「鍛冶整備士?」

「鍛冶整備士は、全ての道具を整備する専門の職業らしい」


ジャックは鍛冶師のスキルはあるものの、整備と洞察のスキルレベルが異常に高くその反面鍛冶のスキルがLv3しかない。

疑問を浮かべたジーノが、自分が鑑定した時は鍛冶スキルの方が高かったと説明する。それに関しては、恐らく鍛冶師として依頼などをこなしていくうちに他のスキルの方が高くなったと考え、整備士としての才能を伸ばすことになったのだろう。職業変更は教会などで転職できる方法と、自身の経験によってスキル構成の影響により変化する場合がある。

もっとも屋敷にいるローゼン達は、完全にケイのパワープレイで変化したためイレギュラーである。が、今回に関しては、適切に職業や特徴を考察すればジャックとガラフのもめ事も起こらなかったのかもしれない。


「俺は生産職がどういう仕組みになってるのかは知らないが、定期的に個々の能力なんかは確認しないのか?一度決めたらそれっきりってわけじゃないんだろう?」

「実は鍛冶ギルドは他の生産職系のギルドと違って、半年に一度しか個人の能力を確認する機会を設けていないんだ」


ジーノの答えにケイが目をを丸くして聞き返す。


個人の能力を把握するために半年に一度とはどういうことなのか?と問うと、生産職系の職人は戦闘を中心としている冒険者よりスキルの習熟度が遅く、その中でも鍛冶師という職業はハードなわりにはスキルが上がるのが遅いそうで、ジーノを始め鍛冶ギルドは総合的に判断して半年に一度と規定で定めたそうだ。


「いくらスキルが上がりづらいといっても、半年に一度はねぇだろう?」

「もちろん私自身もそう思っている。実は近年、鍛冶ギルドの会合でその辺の規定を改めようと話し合っているんだ」


ジーノの話によると、鍛冶ギルドは生産と受注のバランスがうまく取れず、職人の疲弊や自身の能力が正確に判断出来ないことが相まって入れ替わりが激しいことが問題として浮き彫りになっている。鍛冶ギルドの連合会では、その問題点を改善しようと日々話し合いが繰り広げられているが、未だに解決策が見つからず模索中とのことだった。


「・・・てかさ~、役割分担決めた方がいいんじゃないのか?」


ケイ自身前々から思っていたのだが、鍛冶師という職業は他の職業より本職に加え

自身でやることが多いと感じる。以前訪れたエストアのクルースも一人で受付や武器防具の製造・修理、金銭の勘定などを行っていたことから、一人の職人にに対する負荷が大きい印象がある。


話を聞いている限り役割分担が曖昧になっているため、ジーノにはまず受付を別に設けるべきだと指摘する。それに対しジーノはそれは~と口を濁す。

彼は受付の対応者を別に設けると咄嗟の質疑に対応出来ず、依頼者の中には気の短い人も少なからず居ることがあるためトラブルになることがあるという。

それなら受付を鍛冶の経験がある引退した人にまかしてみればいいとケイが返し、必要であれば読み書きや計算の仕方を最低限教えればなんとかなるはずであると提案すると、そうかとジーノは手を叩く。更に製造専門と修理専門の職人を分けて対応をすれば、少なからず効率を分散できるのではと提案をしてみる。


よくよく聞いてみると、職人の平均作業時間は十七時間と地球の労働環境より酷いことがわかった。なかには睡眠時間が二時間程度しかない人も居るそうで、それじゃあ身体を壊すわけだとケイ達は納得をする。


ジーノはケイの提案を聞き、まずはそこからやってみることにしようと賛同し、連合会にはそのように提案書を提出してみると語った。



「ジャック君、私たちは君の働きによってたくさんの人が救われているんだ。今すぐじゃなくていいので修理と調整専門の職人として戻って来てほしい」


ベッドに腰をかけているジャックにジーノが声をかける。


目線を合わせるように膝を曲げ、彼の目を見据えて諭すように語りかけると、ジャックは思案するように目線を動かし、傍らに立っているガラフの姿を見上げる。

ガラフは何も言わずにジャックを見下ろしているが、その目には自分の思うようにしてみろという意思表示を感じる。


「僕は修理や調整の専門に移った場合、ガラフさんの跡は誰がするんですか?」


ジャックはガラフの事を思ってこれまで頑張ってきたが、自身の得分野がガラフと異なることから、気持ちと現実が剥離して精神的に追い詰められていたと今では理解する。そんな彼にガラフは「気にするな」と肩に手を置き諭すように伝えた。


「せめて、あいつが戻ってきてくれたら・・・」


戸惑うジャックを前にガラフがぽつりと呟く。


ケイがあいつ?と問い返すと、十年前まで弟子をしていた人物のことを思い出していたと返ってくる。その人物は十五才でガラフに弟子入りをし、十七年間彼と共に鍛冶師をしていたようで、製造を始め修理・調整までこなし、加えてクセのある人向けに個別に制作までこなしていたようで、ガラフも相当助かっていたそうだ。

しかし十年前に鍛冶の段取りで言い争いになり、ジャックと同じような状態でギルドを脱退し街から去って行ったそうだ。


「そいつは今何してるんだ?」

「さぁな~。あいつは俺やギルドのことを考えていたんだが、俺はそんなことを考えてやれずに責めちまったせいでいなくなっちまった。もし会えるなら謝りたいんだが・・・」


ガラフはジャックを見つめながら、自分の元から去って行った人物のことを思い出していたのだろう。


「そいつの名前は?」

「ん?あぁ~そいつは【ゼント】っていうやつだよ。一体今は何処にいるんだか」


ケイはその人物の名前を聞き、一瞬考えた。

アダムの方を向くともしかしてとこちらを見ていたため、ダンに聞いてみようとしたところ、ダンからそいつならうちの村にいるぞ?とガラフに伝えた。


ガレット村の騒動の時に初めて訪れた際、ドランがその鍛冶師に果樹園で使っている枝を切り落とす刃物を週に数回研いで貰っていると聞いたことを思い出す。


ガラフはゼントはどこに住んでいるとダンの両肩に手を置くと、ダンは落ち着けと諭し、村の北側にある煙突のある家だと答える。ちょうど、トムソンとリリィの家の二軒隣にあたる。


「たぶんこの時間なら家に居ると思うから、どうせなら行ってみたらどうか?」


喧嘩別れをした弟子が近くに住んでいることに理解が追いつかないのか、ガラフは躊躇している表情をした。派手に喧嘩をしておいて、今更再会するなんてと思っているのだろう。


「それなら俺達が話をしてこようか?」


ケイがそう提案してみる。


戸惑うガラフにジーノは自分も一緒に行こうと答え、できることなら戻って来てほしいがそれも厳しいとは思っているので、とりあえずは様子を見るという名目で同行をすることになった。



ダンに教えられたゼントの家は、村の北側にある煙突のある木製の住居だった。


家の前には高く積まれた薪があり、その近くには使用しているとおぼしき手入れが行き届いている斧が近くに置いてある。建物自体は小さなコテージ風で、一人暮らしのわりにはカントリーチックな飾り付けがされている。

ダンによると家族などの話はあまり聞かないが、何かの拍子に両親は幼少の時に死別したと聞いた。女性との浮ついた話も聞かないことから人は見かけによらないな~などと言っていた。


「ごめんくださ~い」


ケイがゼントの家である玄関の戸を叩くと、建物の中に人の気配があった。

暫く待っても出てこず、シンシアが出てくれるのかしら?と疑問に思っていたところに扉が開く。


「どちらさま?」


扉を開けた先に一人の男性が立っていた。

この男性は、ケイとほぼ同じぐらいの背丈に少し痛んだ金髪が相まって軟派な印象を抱かせた。あんたがゼントか?とケイが尋ねると、あぁと肯定し隣にいたジーノを見て息を詰まらせる。


「ジーノさん・・・!?」

「ゼント、久しぶりだな」


ジーノが声をかけると話すことはないと辛辣な言葉を投げかけ扉を閉めようとしたため、ジーノが扉の間に足を入れて阻止し話を聞いてほしいと今の状況を伝える。

ゼントは今更辞めた自分になんのようだと言わんばかりの表情を向けたが、ギルドの現状、特にガラフについて困っていることがあると口にする。そのワードにゼントがわずかばかり反応を示し、困ることなんてあるのかと問うとガラフの後継者の育成に難を示しているとジーノが答える。


ケイの想定通り、問題の大元はガラフに関わることだった。


たとえギルドの問題が解消されても、ガラフの弟子の問題までは手が回らないようで、ジーノは彼にギルドに戻って来てほしいと口にする。


「今更俺が戻っても意味があるのか?」

「少なくともガラフは君のことを頼りにしていたはずだ。彼はあの通り不器用な人だからね」

「器用貧乏の俺が適任っていうことか?」


皮肉めいた言葉を口にするゼントにそういうわけじゃ~と狼狽えるジーノ。


師弟関係であったガラフとはよほど大きな喧嘩をしたのか、未だにしこりがあるようで出来れば会いたくないと拒否の姿勢をしている。


「ケイ様、後ろ・・・」


その時アレグロがケイの袖を引っ張り、後ろを見てと手で示した。


振り返るとガラフが立っており、ダンが傍らに立っていたためゼントの家に案内したのだろうと察する。ガラフはゼントの姿を見るなり彼の元まで歩み寄り、驚きで声を失っている彼を前にいきなり地に両膝をつけ頭を下げた。


「ゼント!すまなかった!」


地に頭を着けて謝罪するガラフに突然のことに一瞬反応できなかったのか、すぐさま頭を上げてほしいと答える。


「ガラフさん!なにい・・・」

「俺は今までお前の好意に甘えてばかりいた!お前が愛想を尽かしてギルドを辞めたのは俺の責任だ!頼む!もう一度戻って来てくれないか!?」


傍から見れば喧嘩で激怒の妻を窘める土下座の夫の構成を思い出すのだが、感動の場面を茶化すような想像しか出来ないのはケイの悪い癖である。


「確かにアンタはわがままで頑固だ。あの時俺も意地になって謝りもせずギルドを辞めたのは今でも後悔している。でも行く当てもなく赤の他人である俺を、この村のやつらは迎えてくれた。今では彼らのために自分の能力を使っていくことにしているよ」


だから答えられない・・・というと、ガラフは頭を上げ、そうかと口ずさんだ。


既に自身の世界・生活が確立されており、今更前のようにはいかないことを悟っていたのだろう。さすがに再会してもこの状態ではと考え、ケイが彼らに提案する。


「それなら曜日を決めて手伝えば良いんじゃないか?」


ケイは毎週決まった曜日に顔を出し手伝いをすればいいのではと答えた。


ジーノからは脱退しても戻ってこられる制度があると言ったが、すでにゼントは村の整備も兼ねているためおいそれと戻ってこられる状態ではない。それならば最初は週に一度、決まった曜日に赴きできる依頼をこなすことから始めたらどうかというと、所属していた頃と変わらないと言われたが、ゼントは現代社会で例えるならフリーランスのような立場であることから業務提携なんかはどうかと提案する。

双方で労働に関しての話し合いをした後に契約を交わし、たとえば一年更新の契約時に新たな条件や項目の改善を話し合えばどうだろうかと伝えてみる。


ゼント自体は会社を立ち上げているわけではないが、一度辞めてしまった人も労働環境を見直すことで新たに仕事を得られるという利点もある。

ケイの言葉に、ジーノを始めガラフやゼントまでなるほどと納得の表情を見せた。



後にケイの話を参考にゼントはジーノと鍛冶ギルドとは別に契約を交わし、出来そうな仕事を回しながらガラフのサポートを兼任している。労働環境は所属していた時より楽ではあるが収入面が当時の二倍ほどになったらしい。


ジャックはジーノとガラフの説得によりギルドに戻り、専門の修理や整備要員として働いているようで、週に一~二度村に戻ってゼントのサポートをすることもあるそうだ。ダンとミモザ、ケヴィンからは以前よりジャックが生き生き賭していると話し、彼自身いつかはガラフさんのサポートも出来ればと話す。


そのガラフだが製造専門員としてギルド内に専門部門を設けたことにより、以前より数多くの弟子が入ってきたのだという。今までは一人、二人だったのだが、ギルド内に分野を確立し、情報共有しながらも各自で依頼などに励んでいるそうで余裕の出来たガラフはその合間に跡継ぎの育成に励んでいるそうだ。


ケイの一言でギルドが変わるとは、世の中というものは実に興味深い。

そんなことを思った今回の一件だった。


ゼントは物語当初に名前だけ出ていましたが、気づきました?

後々になって登場するという形を取ってみたのですがどうでしょう?

それよりも異世界の労働環境って特殊ですよね?


次回の更新は6月12日(金)夜です。


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