表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界満喫冒険譚  作者: GDKK
大陸編
187/359

182、得意不得意

皆さんこんばんは。

いつもご高覧くださり、ありがとうございます。

今回は、鍛冶ギルドがジャックを引き止めようと村に来る回です。

「お取り込みのところすまない」


ケイ達が話し込んでいると、不意に後方から男性の声が聞こえた。


振り返ると長身の二人組の男性が立っている。

一人は見覚えのある薄茶色の髪をオールバックにさせ、もう一人は隣の男より幾分背の高い銀髪の男だった。


左の男がこちらを見るなり声を上げ、当然ケイ達もその男に見覚えがあった。


たしか大バザーでナイフを購入した男性で、商業ギルドのハワードから彼が鍛冶ギルドのギルドマスターだということを聞いていた。

おかしいことに、ギルドマスターである男性も隣に立っている男性もなぜか共に顔に痣を作っている。取っ組み合いの喧嘩でもしたのだろうか。

二人の男の顔を見たダンとミモザも、さすがに眉をひそめ「大丈夫か?」と声をかける。男たちはこれは気にしないでくれと言うが、さすがにそのままにしてはなんだとミモザが水で塗らしたタオルを二人に手渡し、表ではなんだとケイ達込みで家に招き入れた。



「そういえば君達とは一回会ったことがあるね。私はアルバラントの鍛冶ギルドのギルドマスターでジーノだ。で、隣はガラフ。ウチの職人だ」


前回会った時より幾分丁寧な物言いをしているが、恐らくジャック関連で謝罪に赴いたのだろう。隣の男も威圧感はあるにしろケイ達に一礼をする。

ダンの家の居間に通されたのだが、人数の関係でファミリー向けの四人がけのテーブルとイスにダンとミモザ、その向かいにはジーノとガラフがそれぞれ座る。

ダンはケヴィンに部屋にいるジャックにギルドのお偉いさんが来たので呼んできてくれといい、ケヴィンが退出したタイミングでダンが向かいに座っている二人に話しを切り出した。


「ジーノさん、ウチの息子と何があったんだ?あいつ、急に返ってきたかと思うとギルドを辞めるって言い出しちまって、事情を聞く前に部屋に閉じこもっちまったんだ」

「ダンさん、今回の一件はウチのギルドの過失です。大変申し訳ございません」

「謝罪はいい。説明をしてくれねぇか?」


ジーノから、ジャックは師匠であるガラフの指導の件で言い合いになり、以前からガラフに対して不満が溜まっていたことからギルドに脱退届を提出したのちに村に戻ったとガラフや職員から話を聞いたと説明をした。

同行したガラフからは、ジャックの腕は認めてはいるものの鍛冶の基礎となる武器の量産に問題があるらしく、何度注意しても改善しない箇所があったため、次第に声や態度に出てしまったが故に「やる気がないなら辞めてしまえ!」と言い放ってしまったそうだ。


結果、ジャックは脱退届を提出し帰郷することになる。


しかし話はここで終わらなかった。

実は武器や防具の修理などは、全体の二割から多い時期では三割程度ジャックが依頼を受けて作業をしているそうで、特にこの時期は特定の魔物の繁殖を抑えるため冒険者ギルドでは討伐の依頼がひっきりなしに出ている状態である。

当然、鍛冶ギルドも修理の依頼が続々とやってくるなか、ジャックの腕は一年目で顧客が出来るほどの実力があり、ジーノもガラフもそういった面で主力として頼りにしていた。もちろん修理専門の職人は在籍しているのだが、出来映えの違いの差が出ているそうだ。


(なぁ、アダム。武器の量産って職人の基礎なのか?)

(詳しいことは俺も知らないが、武器は大抵基本形式を元にその人物にあった状態や形式に改良していくのが一般的と言われている。もちろん始めからその人物に合うように造っている職人もいるけど、数は少ないと聞いたことがある)

(一般様式から改良式のパターンか。まぁ、ありといえばありなのかな?)


後ろでその様子を見つめていたケイ達が、小声で会話をする。


どうやらダジュールの鍛冶師は決まった形に武器や防具を作製し、その人物に合わせて徐々に改良をしていくスタイルが一般的なようだ。もちろんオーダーメイドを専門としている鍛冶師はいるらしいが数は少なく、アルバラントのギルドでも数名しか在籍していないそうだ。そんな彼らも人気が高く、ランクの高い冒険者でもなかなか会えないようで、予約は早くて半年先などザラらしい。


「あんたらの言い分はわかった。だが、帰ってきた息子が青い顔をしてやつれているところを見ると、親としてはこのままギルドに置いておくことはできねぇな」

「その言い分は重々承知しています。今回の件はこちらの責にあります。ですが、もう一度だけジャック君と話をさせてください。彼を必要としている者たちがいるんです!」


腕を組んで二人を睨むように見つめるダンに、頭を垂れるジーノとガラフ。


親としては、息子の身を案じてギルドに置いておくべきなのかと考える。

もちろんギルドからはその部分をカバーし、改善できることは改善をするのでジャックに戻って来てほしいと説明をする。正直な話、ジャックに抜けられると彼以上に修理を完璧に速くできる人間が居ないため、作業が滞ってしまうどころか彼を頼ってくれる冒険者達に顔向けができない。


「ガラフさん、さっきからあんた黙っているけどどうなんだ?」

「ジャックは武器防具の作製で苦手な部分はある。しかし、飲み込みは早い方だからその部分もじきに解消できるだろう。俺としてはあいつに戻って来てほしいし、できることなら俺の後継者にと考えている」


ガラフは思っていることを口に出すのが苦手なようで、ばつの悪そうな表情でダンに語る。彼は根っからの職人気質なのか、指導している中で熱が入りあのような言葉を吐いたことに深く反省している様子だった。


「はぁ・・・親としちゃ、スカウトされた成人前の息子を一人で王都に行かせる気持ちをあんたらは知ってるか?あいつは俺と違って昔っから手先が器用で気も利くし、嫌なことも平気でやってくれるくれる。親としちゃ甘えちまった部分もあるだろうけど、こんなに良くできた息子を誇っている。が、そんな息子が憤慨して戻ってくるなんてよっぽどのことだ。たとえあいつが戻ろうと考えていても、俺はそれを止める権利がある。それに息子を大事に預かると言ってこのザマはなんだ?あの時の約束は嘘だったってことか!?」


熱が入ったのかダンがテーブルを叩き、置いてあるコップからお茶が零れるがそれを気にせず向かいに座っている二人の人物に問う。


成人前の息子の才能を認められ、一人で見知らぬ土地に送り出す気持ちを考えると複雑だろうなと察する。この話は地球でもよくことがあり、その辺はどの世界でも一緒なんだなと思う。



「・・・あれ?ケイは?」


ここで振り向いたシンシアがケイが居ないことに気づいた。

少し前までアダムの隣に居たはずなのだが、ブルノワと少佐もいないことからどこかに出て行った事を理解する。横にいたアダムもあれ?という表情で辺りを見回すがケイ達の姿がない。


話し合いをしていたダン達もアダム達の様子に気づいたのか、ケイがいないと伝えられるとなぜ!?という表情をした。



一方のケイは、ブルノワと少佐を連れてダンの家を出ると、建物の裏手に回りジャックの部屋のあたりとおぼしき窓から覗き込むように中を覗いた。傍から見ると完全に不審者なのだが、ダンの家は村の東の端にあるため、他の建物からこの位置が見えない。


覗いた部屋の中はカーテンがなく、薄暗いながらもベッドに横になり毛布を頭から被っている物体らしきものが見えた。


「ジャックく~ん、あ・そ・ぼ!」


窓をノックし中にいる人物を呼んでみるとベッドにある毛布の山が揺れ、それが上体を起こした衝撃で毛布が落ちる。青年はケイの声に気づいたのか、窓の方を見ると疑問符を浮かべるように小首を傾げこちらに歩み寄り窓を開けた。


「あの~どちら様ですか?」

「あんたがジャックか?実はあんたの話を聞いてやって来たんだ」


ケイは元々別の用事で村にやって来たが、アダム達からギルドの話を聞き、様子を見に来たと述べるとここではなんだからと窓から部屋に入らせてもらった。


ジャックという人物は、十八才のごく一般の青年である。


ケイより少し背が高く激務のためか髪はボサボサで、それに加えて不自然に痩せて不健康そうな印象を持つ。ジャックはそのままベッドに座り、頭を垂れてギルドに戻るべきかと悩んでいる様子だった。


「さっき弟からギルドマスターとガラフさんが来たって聞きました。ガラフさんもちょっと口調は強いけど、本心であんなことを言ったのではないと理解はしています。けれど気持ちの整理ができていなくて・・・」


実はジーノとガラフが家にやって来た時、密かに居間の様子を見に来たと語る。

二人の頭を下げてダンに謝罪と話を聞いてほしいと言っている姿を見て、自分も反省する部分はあると後悔している様子を見せる。


「でもガラフに嫌気がさしてキレたんだろう?」

「あ、いえ。自分がガラフさんのようにうまく出来ないので、半分は八つ当たりみたいなものです・・・でも、本心かもしれないしそうじゃないかもしれない。今となってはよくわからないんです」


ジャックはガラフに教えられた通りに鍛冶に取り組んでいたが、出来映えに差が出るどころか昨日より今日の方がヘタになっている事もあるらしく、いくら作業をしても完成の差を埋めることが出来ずに本当に参っているような表情を見せた。

確かにケイから見ても、ジャックはスランプに陥っている。

ブルノワと少佐が不安そうにケイとジャックを交互に見つめ、ケイは彼らの頭を撫でた後、密かにジャックのことを鑑定してみることにした。



ジャック 18才 

職業:鍛冶整備士

スキル:鍛冶Lv3 整備Lv7 洞察Lv7


鍛冶整備士とは、武器防具をはじめとする全ての道具を整備する職業。

鍛冶スキルはあるが整備を中心とする職業のため、実際には個人に合わせた物を作製・整備を得意とする。



あぁ、そういうことかとケイが納得をする。


鍛冶のスキルがあったからスカウトをしたとジーノが言っていたが、実際には整備のスキルが異常に高い。それに加えて洞察のスキルも同じぐらい高く、このスキルは相手の特製や身体的な特徴・クセなどを把握することが出来るという鑑定の下位スキルのようなものである。もちろん鍛冶スキルも所持しているが、前の二つを比べるといまひとつ低く感じてしまう。

以上のことから職人になるための最低ラインは分からないが、製作をするより整備を専門とした職業の方が適任だとケイは把握する。


「ひとつ聞きたいんだが、お前本当は作製より整備の方が得意なんだろう?」

「えっ?えぇ。もともと父が農具を使い古してしまうために、少しでも長く丈夫な物を使ってほしいと思い自分で勉強をしたのがきっかけなんです」


どうやらダンとケヴィンは家族の中でも力が強く、特にダンは父親、ジャックとケヴィンの祖父から生前よく注意されているところを見かけたことがあるという。

ケヴィンの方は近年力の加減を理解するようになってきたが、父親のダンは相変わらず手にした農具や道具を使い古してしまうところは変わらないらしい。


家に戻って来た時、つい無意識にダンの手にしている農具の状態を確認してしまったという。完全に職業病である。


ケイはジャックに鍛冶スキルはあるが、どちらかというと整備の方に向いていることを伝える。鍛冶スキルはあるが整備スキルありきで構成されているため、同じ物を作り続けるということから考えると本来は不向きなのだろう。

冒険者で例えるなら、攻撃役・盾役・回復役・遠距離攻撃役と役割が分かれているように、鍛冶関係もいくつかの分野にわかれるべきなのではと考える。


ジャックは鍛冶ギルドでやって来たことが無意味だったのかと聞いてきたため、今の役割に合ってないだけで、すこし変えてもらえばよくなるのではと返す。その点でいえば要相談ということになる。


しかし、そうなると別の問題も出てくる。

ガラフの後継者の件である。彼は後継者として過去に何人も弟子を入れたが続かずみんな関係を解消してしまったことが続いている。現にジャックも同じ括りだが、得意分野が違うことが分かった以上、彼を後継者にするという方向性とは大きく異なる。


その点を踏まえて、もう一度ジーノに相談するべきなのではと思い始めた。

鑑定を見たケイは、ジャックとガラフは元々得意分野が異なっていたことによりうまく回っていたのではと考える。しかしその結果、ガラフの後継者問題が浮上することになる。

果たしてその部分はどうなるのでしょうか?

次回の更新は6月10日(水)夜です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ