177、反省会とロジー・コリンズ
皆さんこんばんは。
いつもご高覧くださりありがとうございます。
さて今回は、反省会とロジーの授業参加の回です。
特別講師二日目の朝。
今朝は約束していた時間より早く学園に赴いたケイは、職員の案内で応接室に通されていた。壁掛け時計は十時少し前を指しており、たしか一限から授業があるとマークが言っていたことを思い出す。
ブルノワはケイからお絵かきセットを与えられ、画用紙にクレヨンでケイの顔や花などの絵を描いて過ごしている。少佐はというと、昨日の遊び疲れが残っているのか高級そうな革張りのソファーの上に座り三頭共うつらうつらとしている。
本日の特別授業は三限に行われるそうで、前日の反省点をディスカッションすることに決めている。
これは昨日の授業が終わった後にマークから聞いたのだが、授業で習ったことは完璧にできるが実践での機会があまりなく、応用になるとほとんどの生徒に粗が目立つ部分が散見されているといった。たしかにブルノワと少佐の鬼ごっこも習ったことを駆使して応用することが求められているが、一部を除いては速く捕まえようと躍起にはなっている。そもそもシリューナとサーベラスは表沙汰になっていない種族(種類)である。それ故にまずは様子を探るところから始めるべきだったが、生徒達は合図と共に餌に群がる池の鯉の状態になったことに、ケイは驚いたことを思い出す。
除いた一部の生徒達は、学年でもトップの順位にいるフレデリック・ルイーズ・コニーと数名の男女だけだった。彼らも結果的に捕まえることが出来なかったが、残りのメンバーと共に連携して追い詰めようとはしていたので、そこは評価するべきだろう。以上のことから、クラスの三分の二以上が状況に対して冷静な対応と判断がをできていなかったことに頭を抱えたが、それはケイと彼らの認識の違いなのだろうと思い、授業の段取りを考えていた。
「ケイさん、お待たせしました」
ほどなくしてマークが応接室に入って来る。
他の教員からケイの事を聞いたのか授業を終えたその足でこちらに向かってきたようで、小脇に授業で使用する教材が抱えられている。こちらの速くに着いてしまったので、授業の段取りを考えていたから気にするなと気遣う。
「外部の俺がこんなことをいうのもなんだけど、この学校の授業に実践は設けられていないのか?」
「いえ、一応はダンジョンの低層階のみの実践実習はあります」
さすがに昨日のあれは酷いと伝えると、一応は月に数回課外活動が行われているそうで、ダンジョンを利用して実践実習をしていると述べる。
ちなみにアルバラント周辺には、大小四つのダンジョンが存在している。
学園でよく課外活動の場に利用されるのが、その内の一つでもあり過去にケイ達が行ったことのある『挑戦者の試練』のダンジョンである。
マーク曰く、最近になって冒険者がこぞって行く姿がみられるため実践的な場がなかなか設けられないという。それを聞いて内心ケイはヤバいと思ったが、まさか施したダンジョンがそんなことになっているとは思わず、ましてや言われるまでスッカリ忘れていたなどと言えずに他の場はどうなのかと聞いてみる。
「他のダンジョンですと、モスクの森の奥にあるダンジョンが比較的実践には向いているかと思います。ただ、ボアの生息地が近いのでタイミングが悪いと遭遇してしまう可能性があります」
近郊にあるダンジョンの中で、東にあるモスクの森の方はボアの群が生息する場が近いため、引率の教員に加えて護衛役である冒険者にもお願いをしているのだという。そのためには実習を行う一週間前に冒険者ギルドに依頼を出すことをしなければならないのだという。
過去にも外部講師を招いて課外活動を行ったことがあったが、それも三年ほど前のことで教員たちの間でも、生徒達の行動を見ている限りそれもちょっとと渋っているらしい。もちろん実践でしかわからないこともあるだろうが、昨日の様子を見る限りその言葉も頷ける。
「というか、そもそも実践の経験がないから生徒の冷静さや適応力みたいなのがないんだろう?そうじゃなかったら、街の外にいる魔物を狩って実践を積めばいいんじゃないのか?」
「私もそう思ったのですが、その・・・生徒達の中には魔力による制御が出来ない子もいるみたいで・・・」
どうやら、以前別のクラスが課外活動でモスクの森に入った際に、森を危うく燃やしかけるという事案が発生したらしい。その生徒は成績も学内の実習でも申し分なかったそうなのだが、いつもとは違う環境での従業に気分が興奮して事を起こしかけたようだ。まるで遠足前の子供のようである。
学園に在籍している十代半ばの少年少女は一応成人しているはずなのだが、いかんせん箱入り娘息子状態で環境が変われば気分が高揚するところが精神的に小学生である。
ケイは早い段階で慣れさせるべきだと考え、ため息をついてから三日目の特別授業は二時間コースということだったので、学園長にダンジョン『挑戦者の試練』の課外活動の許可を頼むとマークに伝えた。
そのための護衛は、パーティメンバーの誰かに頼んでみることを話すと、一応は学園長には伝えておきますと受け入れ、そのまま二日目の特別授業のため教室へと向かったのだった。
二日目の特別授業は、校庭から始まった。
前日に明日の授業は校庭で行うため、運動着に着替えて集合するようにと伝えていたため、ケイ達が着いた頃には全員が整列をした状態で待っていた。
「はい、これから二日目の授業を始めたいんだが・・・あ、ロジーもいるな?」
ケイが右側の奥に整列しているロジーの姿を見つけた。
他の生徒はこの時間からロジーがいることに驚いていたようで、先ほどからコソコソと話し合っている。マークが私語の注意をすると、会話が収まるのを待ってからケイが話し出す。
「今日は前回の続きからだ。昨日はたしか、ブルノワと少佐の鬼ごっこに揃いも揃ってボロ負けしたんだっけ?」
その言葉に生徒達は様々な反応を示した。
ぐうの音も出ないような表情やそれでなにが分かるんだといった思春期特有の表情など種族や性格にもよるが表情が豊かなことがわかる。その様子に、唯一昨日の授業に参加していなかったロジーが鬼ごっこ?と首を傾げている。
まず彼らに、なぜ昨日の結果がこうなったのか考えさせることにした。
しかし聞いてみると、地球の学校のようにディスカッションのような機会が設けられていないどころか学校ではやっていないと言われ、「そこからか~」と思いつつ五人一組でグループを作り、良い点悪い点などを話し合うようにと伝える。
制限時間を十分ほど設け、スマホのアラームをセットしながら芝生の上に座って討論しているグループの様子を観察した。
ケイは、まさかクラス内でこう言った話し合いを設けていないことに驚いていた。
耳打ちでマークから学校では実習でしか連携の手順を説明しないようで、この学年は入学以来、実践実習を行っていないのだという。
「ケイ先生」
手を挙げてケイを呼んだのは、フレデリックがいるグループだった。
彼のグループには、ルイーズとコニーそれとエルフと人間の女子生徒が二人入っている。フレデリックはいくつか質問があると言って、ケイに昨日の鬼ごっこの事について尋ねてきた。
「昨日の授業ですが、あの授業は冷静さと柔軟さを見るための授業という認識でいいのでしょうか?」
「あぁ。魔法専門職はパーティの後衛に当たるから、前衛より前に出る機会はほとんどない。従って冷静に物事を見極めつつ柔軟な対応と能力を見たかったんだが、まさかあれほど酷いとは思わなかった」
「そうですか。言い訳になるかも知れませんが、他の生徒達が混乱状態で彼らを追いかけているところを考えると、正直あの状態では連携は難しいと思います。それこそ戦争を前提に訓練をするなら別ですが・・・」
フレデリックの指摘はもっともである。
三十人鬼ごっこで実力を測ろうとしたが、周りが見えていない生徒が多くいた。
後で冷静に考えると連携する上で、魔法を無駄撃ちしているなかで冷静な判断ができるかと言えば、経験のない生徒達には少し難しいだろう。それこそ、フレデリックが言ったように戦争を意識した軍隊式の演習に近いと思い直す。
その辺の配慮がなかったことには、一応は反省しているつもりである。
ただ、フレデリック達はその中でも得るものがあったと結構前向きな反応を示している。それについては授業で習わなかったため、これから習うとなれば苦労するがその辺はやってみるしかないと意気込んでいる。
十分間のアラームが鳴ったあと、ケイはそれぞれの意見を聞いて回った。
成人直後の生徒達は、面白いぐらい様々な意見があった。
とくに人以外の種族の子達は、冷静な判断が出来ていなかったことと乱戦を想定した実力テストという解釈をしている子もおり、そのなかでも集中力と状況把握が不足していた意見が一番多かった。
人に限らず、興奮状態になると周りが見えなくなってしまうのは、他の種族でも同じということなのだろう。
ケイから見ても、魔法の能力自体は個人差はあれど全員が良い線をしていると感じる。特にドワーフの男子学生は種族の関係上、他の生徒より魔力量は劣るがその分体力と見極めを駆使していたことが印象的だった。ケイの中で血気盛んなイメージだったため、もし魔法を極めれば前後衛両方の特製をフルに使った人材になるかもしれないとちょっと期待はしている。
「じゃあ、反省会はここまで。俺が言いたいのは常に冷静さと周りの状況を確認すること!魔法というのは威力が高く物によっては範囲も様々だから戦闘になった際に状況を見極めて魔法の発動を行うこと!じゃなきゃ仲間も一緒にやられちまうぞ?その辺をしっかりと頭に入れること!いいな?・・・あと、ロジー!ちょっと来てくれ!」
返事を返した生徒達のあとに続いて、ケイがロジー・コリンズを呼ぶ。全員が彼の方を向き、本人は突然呼ばれたせいで目を丸くし返事をしてから前にやってくる。
「お前の魔法が発動しない原因がわかった。今日はそれを確かめる」
そう断言したケイにロジーがあの短時間でとさらに目を丸くする。
本人でもその原因がわからなかったのに、それを瞬時に理解し原因を特定すると言ったケイの行動も異常に映ったのだろう。
「ロジーに一つ聞きたいんだが、入試試験の実演で魔法はちゃんと出せたか?」
「えっ!?あぁ、親父と兄姉に教えられたから自然に覚えたというか・・・でも学校に入ってからうまく発動しなくなっちまって」
やっぱりとケイは考え、生徒達の中で剣術を扱える子はいるかと尋ねた。
するとケイが気になっていたドワーフの生徒が手を挙げ、偶然にも彼も火属性魔法を扱えると言った。彼の名前はマリクと言って、父親はエストアの軍に所属する軍人だという。
「ちょっと二人に模擬戦をしてほしい」
「模擬戦?」
「あぁ。ちなみにマリクは接近戦で魔法は発動できるか?」
「詠唱短縮のスキルを持っていますから、威力は下がりますが可能ではあります」
それを聞き、他の生徒を一時端に待機させロジーとマリクの模擬戦を行わせることにした。それに対してマークはいきなりどういうことなのかと尋ねてくるが、ロジーが発動できる機会を作っただけとしか答えなかった。
突如模擬戦を行うことになったロジー。
ケイの推測が正しければすぐに使えるようになるというが?
次回の更新は5月27日(水)です。




