176、魔法とスキルと新発見
皆さんこんばんは。
いつもご高覧くださりありがとうございます。
今回は実証実験と新たな発見の回です。
「大口切ったのはいいけど、どうすっかな~」
屋敷に戻ったケイは、ブルノワと少佐が仲良くおやつのクッキーを頬張っている姿を見ながら珍しく悩んでいた。
授業を進めるに辺り、生徒達の柔軟さと適応力と発想力が想定していたよりなかったことに驚いたのだが、始めに見せて貰った教材をみて「あれじゃ考えるよりこなすと言った感じだな」と納得する反面、頭を悩ませる。
それに鑑定ではロジーに火属性魔法の項目があったが、詠唱をすると発動と同時に霧散する現象にどういうことなのかと疑問が残る。自分も魔法は使えるが、アレサの賜によるものが大きいためあまり参考にはならず、仲間で唯一魔法が使えるアレグロに相談しようとしたがタイミングが悪かったのか出かけてしまっているとローゼンから言われた。
魔法を使うということは、簡単に説明すると自身の魔力と大気中の魔素が共鳴して属性魔法として変化するとダジュールでは一般的に知られている。
そうなると、ロジーが詠唱をし魔力と魔素が共鳴して魔法が発動しなければ成立しない。しかしさきほど本人から見せて貰った魔法は、一瞬火属性魔法が発動するがすぐに霧散する状態になる。そういえば鑑定を見せて貰った時、剣術や体術も会得していた事を思い出す。体力作りの一環だと言っていたが、実はそれにも関係があるのではと考える。
前にアレグロから、魔法にはそれぞれの属性に対応する素質がなければ発動しないということを聞いたことがある。火属性魔法を使いたかったら火属性の才能を風属性魔法なら風属性の素質がなければ魔法を習得することはできないらしい。
しかしここで二つほど疑問が残る。
一つは根本的に魔法によって生み出される自然界のものと、生活に使われる火や水などの一般的なものと何が違うのかということだ。
そもそも魔法とは、自身の持っている魔力と魔素の共鳴によって成立し発動されるが、自然界にある水や風などにも少なからず魔素が混じっているし魔力による影響もゼロではない。もし仮に発動した魔力が外部に放出されたまま大気中に残っていると考えると、自然界を媒体に魔法を使えなくても発動は可能ではないかと考えられる。
ちなみにそれはすでに魔道具という形で実現化されている。
正直な話、ダジュールには魔法が使える使えないにかかわらず魔力は誰でもある。
多い少ないはあれど、魔力がなければ死んでしまう異世界ならではの自然現象に最低限適応できるだけの魔力量は持ち合わせていると考えられる。
そして、そこで第二の疑問が浮かぶ。
前に街で行商人がロープを切るための道具を持っていなかったため、指先から火を発動させロープを焼き切るところを見たことがある。
アダムからアルバラントでは街中での魔法使用を禁じていることを聞いたことがあったので、気になってここで魔法を使っていいのか?と行商人に尋ねたところ彼は魔法ではなく発火スキルというものだから問題はないと答える。
これについては後にアレグロに尋ねたところ、厳密には元は生活魔法と呼ばれる魔法だったのだが、それが年月が経つにつれ形を変えて派生形の魔法になり、いつの間にか生活スキルというものに変化していったのだそうだ。過去にアルバラントでは、そのスキルを巡って市民と対立をしたことがあったようで、当時の国王はだいぶ頭を悩ませていたようだと語っていたことを思い出す。
今では必要最低限の利用に留めるようにと国を挙げて勧告しているそうだが、その辺の線引きは未だに曖昧で議論が続いているらしい。
実はここにケイは着目をしている。
世の中には属性魔法を軽減するスキルを持っている人がいると聞いたことがある。
その時はそんなスキルもあるんだなとだけしか感じなかったが、よくよく考えてみると、魔力に対してスキルで軽減するということは物理的に可笑しいのではと思い始めたのだ。
冷静に考えてほしいのだが、辞書を引いてみるとスキルとは技能。生まれ持った能力と記されている。程度や習得状況によって異なるが、極端な話だれでも頑張れば習得できると解釈できる。
体験していないケイには分からないが、ある属性魔法を受け続けてその属性魔法に対して軽減をするスキルを習得したと喜んでいた冒険者がいたが、習得するまでは完全に我慢が物をいうスキルであるため、ある意味馴れと努力が必要になる。
しかし属性魔法は魔力であるため、元々素質がなければその才能は開花されないはずである。
しかし密かにその冒険者を鑑定した結果、確かに属性魔法を軽減するスキルが着いていた。となると、一般的な解釈は実は違った解釈なのではと推測する。
「あら?ケイ様戻って来たのね?」
ケイが思案しているところに帰宅したアレグロがダイニングルームに顔を出した。
彼女はブルノワと少佐が美味しそうにクッキーを頬張る姿を見つつ今日はどうだったと聞いてきたので、思っていたより難儀していると答えると「相手が学生だと大変ね」と苦笑いを浮かべながらケイの隣に座った。
ローゼンが紅茶を運び、受け取った紅茶の仄かに甘い匂いが漂うカップに口をつけ一息ついている彼女にケイが先ほどの疑問を相談してみることにした。
「アレグロ、火属性魔法と魔力を持ち合わせながらも発動することができない理由って何が考えられるんだ?」
「素質があるのに魔法が使えないってこと?普通に考えれば、ただ知識と経験が足りないことが思いつくけど?」
「本人に実際に見せて貰ったんだが、火属性魔法を発動した瞬間に一気に消えたんだ。鑑定しても魔力が足りないわけではないみたいでさ~」
「それは可笑しいわね。普通に考えれば、魔力が足りなくなったとか一時的に呪いにかかっているとかが思いつくけど、聞いた限りではそんな感じもないし、第一、素質と一定以上の魔力がなければ学校なんて入学できないわけでしょ?呪いにかかったとしても専門医が感知して解除をしてくれるって聞いたことがあるから、それも可能性として低いわね。となれば、一時的に魔法が使えなくなった状況になっている可能性があるわね」
アレグロの話にそんなことってあるのかと聞くと、エルゼリス学園だけではなく、学校に入学してきた学生の中には希にスキルや魔法ができなくなることがあるらしく、専門家からは幼児期特有のコミュニケーションに関わる一時的な言葉の詰まりの症状と類似しているのではと考えられているそうだ。
要は魔法を学んで行くにつれて、今まで出来ていたことが学んで行くにつれて自身が混乱し、出来なくなってしまった状況である。
「そういえば属性魔法を軽減させるスキルって存在するよな?」
「え?え、えぇ。希にそれを習得している冒険者は何人かいるみたいね」
「・・・となると、魔法とスキルって実は元が一緒だったってことはないよな?」
それに対してアレグロは疑問を浮かべ首を傾げる。
確かにアレグロの意見も一理ある。
しかしケイはロジーの火属性魔法は実は魔力で発動させるものではく、実はスキルで発動させていたものではと考えた。
エルゼリス学園は、入学試験時に筆記と実践と面接の三種類があることを聞いた。
ロジー本人に聞いたわけではないが、彼はその時はスキルによってしっかり発動できていたのに、魔法を勉強するに辺りその辺りがごちゃごちゃになってしまいうまく発動出来なくなってしまったのではと思ったのだ。ただスキルと魔法の発動条件がイマイチ判別できないため、実験対象者を探して検証をしてみようと思い立つ。
「ケイ、どういうことだ?」
「だからちょっとした実験だって」
不安と不満が入り交じったボガードが庭先でケイと向かい合っている。
腕を組み目の前にいるケイに仁王立ちでいる姿は、さながら浅草の有名な像のような出で立ちをしている。ケイはボガードに自分の仮説が正しいのか確かめて見たいと話し、協力してほしいと頼んだ。
本当ならアダムとレイブンにも頼みたかったのだが、出かけたまま戻ってこないため、非番でギルドの臨時職員の仕事から戻って来たボガードを捕まえて経緯を説明した。
当然ケイには前科があるため心なしか嫌そうな顔をしていたが、一人の若者の命運がかかっていると若干大げさに、さも共感してくれと言わんばかりに力説するケイにボガードは内心ため息をつきながら付き合ってあげることにする。
「やる前に一個確認したいんだけど、ボガードは属性魔法に対するスキルって持っているか?」
「属性魔法に対するスキル?それなら最近【風属性魔法軽減】を取得したな」
「ちょっとこれから試したいから魔法を撃ってもいいか?」
はぁ?という表情をしたボガードに、ケイがすぐさまかなり威力を弱めた風属性の魔法を放つと、衝撃と共にボガードが数歩たじろいだ。合図無しでいきなり放つなんてと抗議の声を受けたが、戦闘時に相手からやりますよ?なんて言わないだろうと理屈も理屈のごり押し説得で有無を言わさず、二発三発と撃ち込んでいく。
傍から見れば完全にいじめなのだが、実証実験に付き合って貰っているボガードには感謝と今度なにか奢ってあげようとケイはそう考えている。
「なるほど~そういうことだったのか~」
合点がいったのか、十発入れたところでそれを終了させる。
かなり弱めに撃ったのだが、体力のあるボガードでさえ大の字になって庭に横たわっている。念のために回復魔法をかけておき、ボガードのおかけでいろんなことが分かったと伝えた。
アレグロからどういうことなのかと尋ねられ、実は魔法発動と同時にボガードのステータスを鑑定表示にしていたと話し、風属性魔法軽減は受けたダメージの一割をカットするというもので発動した瞬間に魔力が3ずつ下がっていったと語る。
ボガードのステータスは、以前ケイのエンチャントした薬によってだいぶ強化されているが、それでも前衛職のせいか魔力量は低く、十発撃った段階で全体の三分の一が減っている状態だった。軽減といっても本来のダメージから一割をカットし、尚且つ発動させるための魔力もなくなる。属性の素質がないにも関わらず発動できているということは、ボガードの体質が風属性魔法の影響を受けにくくさせているということになり、体質がスキルによって変化していったのではと考えられる。
そうなるとロジーの原因も自ずと見えてきたようで、今度なんか奢ってやるから許してほしいというと、横になったまま「今度はもう少しマシな方法で頼む」と困った表情で返ってくる。
以上のことからケイは、明日の授業でもとある実験をやってみようと密かに思ったのであった。
アレグロとの会話とボガードの身体を張った実験に得るものがあったとケイ。
果たしてロジーは魔法を使うことが出来るのでしょうか?
次回の更新は5月25日(月)夜を予定してます。




