175、不良生徒
皆さんこんばんは。
いつもご高覧くださりありがとうございます。
さて今回のお話は、いきなり実力テスト&不良生徒・ロジー・コリンズのお話です。
欠席のロジー・コリンズのことは一旦置いておくとして、実は出欠席をとった時点でまだ何をやるのかを決めていなかったのである。
クラスを見渡すと全体的に人間が少し多いが、他にもエルフやドワーフ・魔族に獣人族など様々な種族がいることがわかる。幅広く才能ある若者を学ばせるという学校の教訓は、種族に関係ないことが窺える。
ケイが特に驚いたのはドワーフである。
ドワーフはゴリゴリの前衛職という先入観があったのか、マークの近くに座っている髪を短くした背が高くガタイのいい生徒の姿に少し驚く。本人のこと聞くと、見た目通りドワーフ族で、家族の中で唯一魔法が使えるためこの学校に来たそうだ。
世の中いろんなこともあるものだなと、新たな発見を感じる。
「授業内容については、実はまだ何も決まってない!」
開口一番にそう告げたケイに、フレデリックとルイーズが吹き出し、隣の席の子に失礼だよと困惑した表情を向けられている。決まっていないものは決まっていないので仕方がない。第一、生徒の実力も分からず特別授業で座学なんて無茶振りにもほどがある。
ケイは、まずは全員の能力がみたいので実力テストを行おうと提案する。
生徒の様子を見ると、嫌そうだったり逆に意気揚々していたりと反応は様々。
マークに確認をするとGOサインが出たため、各々動きやすい服装に着替えて十分後に校庭に集合とした。
体操着に着替え教室から校庭に移動した三十人の生徒達が整列をしている。
実力テストといっても、ただの実力テストではないちょっと特殊なテストである。
「じゃあ、これから実力テストを行う!ルールは至って簡単だ。まず、お前達に鬼ごっこの鬼役をしてもらう!対象となるのはブルノワと少佐だ!」
整列している生徒達が一斉に困惑した表情で口々に疑問の声を上げるなか、マークも想定していた実力テストではなかったのか頭にハテナを浮かべている。
ケイは生徒達に、時間内にブルノワと少佐を三十人で捕まえてみろと言った。
一人の生徒がどういうことなのかと尋ねたところ、それが実力を知る上での貴重な判断材料となると返す。
ブルノワと少佐には、お兄ちゃんとお姉ちゃん達が鬼ごっこで遊んでくれるぞと言うと、目を輝かせながらにっこりと笑った。
「制限時間は二十分。ルールとしてブルノワと少佐を捕まえるためのスキル・魔法の使用を許可するが、武力での捕獲は許可しない。以上!それでは始め!!」
突如始まった、ブルノワと少佐を掴まえる鬼ごっこ。
生徒達は開始の合図で一瞬戸惑いを見せたが、ブルノワと少佐に目がけてフレデリックとルイーズが走り駆ける。フレデリックはブルノワをルイーズは少佐を掴まえるためにまずは両手で掴まえようとしたが、二人が手にかける寸前のところでブルノワと少佐が翻す。そこで何かに気づいたのか、フレデリックとルイーズは生徒達の足の間を異常な速さで駆け抜けるブルノワと少佐を追っていく。
実は、ブルノワと少佐はよくルトと鬼ごっこをしている。
大体はルトが鬼役なのだが、彼らは見た目に反して異常な身体能力を持っており、最初こそ三十分間逃げ回っても掴まえることが出来ずにルトが庭でよく寝っ転がっている姿が見られた。しかし最近では、十分ほどで彼らを掴まえられるようになったそうで、ルトによると速さは異常だが不測の事態には弱いせいか軌道の予測が簡単にできたという。彼の場合はケイによって能力全体が底上げされているのだが、それを差し引いても適応力と柔軟性があると考えるべきだろう。
元々技術を使う機会のなかったルトが出来るのであれば、魔法を得意とする学生達なら一人ぐらい掴まえられるだろうと考えたのだ。これはあくまでも創造性と柔軟性と判断力が試される。もちろんそれらは魔法にも通じているとケイは考える。
生徒達が懸命にブルノワと少佐を追いかけている中、少し離れたところでマークがその様子を観察している。ケイは時計を計っているスマホを確認してから、彼にロジー・コリンズについて尋ねてみることにした。
「ロジー君は技術的な問題で少しスランプになっているようで、私も何度か相談を受けたのですが、はっきりした助言が出来なかったせいで授業に出ることができなくなってしまったのです」
ロジー・コリンズはもともと火属性魔法を得意とする家系の人間で、属性や魔力があるにも関わらず入学当初から魔法の発動が上手くいかず、二年に入ってから休みがちになったそうだ。マークも他の教員たちも原因が分からず明確に答えられなかったそうで、それに落胆して以来グレてしまったのだという。
「そいつは午後から来るって言ってたが、いつもはどこにいるんだ?」
「それなら保健室か室内実習棟の裏にいると思う」
室内実習棟と聞き、敷地内にあるのかと聞くと西棟の反対側に体育館のような施設があるのだという。不良あるあるということなのだろうか?
ケイが再度タイムを確認するとまだ数分しか経っていなかったため、マークにちょっと本人を捕まえてくると言い、彼が止める前に西側にある室内実習棟の方に向かって行った。
「あんたがロジー・コリンズか?」
始めに保健室に寄ったのだが、先ほど出て行ったと保健室の女医から教えられ、もう一つの場所である室内実習棟の裏側に向かうと、一人で売店で購入したであろうパンと飲み物を頬張る男子学生の姿があった。
ケイが声をかけると、その男子学生は一瞬こちらを向いたかと思うと黙ったままパンを咀嚼している。少し耳がかかる赤い髪に灰色の瞳が再度こちらを見つめるが、目つきは元々あまり良くないのか人間なのにちょっと気の荒い犬っぽさを感じる。
「俺は特別講師としてやって来たケイだ。あんたのことはマークから聞いている」
聞き耳を立てるように一瞬動作が止まったが、すぐにパンにかぶりつく動作をしながらあえて気にしないといった態度を続ける。ケイが魔法が使えずに授業に出ずグレていることを指摘すると、ロジーは図星だったのかあんたに何が分かる!?と食ってかかる。
「俺のことはほっといてくれ!どうせ先公も俺の悩みなんて解決できないんだし、魔法なんか使えなくてもいいんだよ!それに俺が退学しても問題ないだろう!?」
ケイの物言いが気に障ったのか、まくし立てるように述べるロジーに何が原因なのか鑑定してみるといい、彼に了承を得て確認をしてみることにした。
ロジー・コリンズ
スキル 火属性魔法 杖術 剣術 体術
鑑定してみると、確かにスキルの欄に火属性魔法と記されている。
能力値も一般人よりも少し数値が高い程度で、これといって変な箇所は見当たらない。剣術と体術の項目があったのでその辺りを尋ねてみると、父親が元・騎士団に所属していたことから幼少の頃から体力作りの一環で剣術と体術の基礎を教えて貰っていたという。ロジーには学園を卒業した兄と姉そして一つ下の妹がおり、兄妹共に火属性魔法を持ち合わせているのだが、ロジーだけは上手く扱えずに最近では妹に馬鹿にされて喧嘩になったことがあったそうだ。兄と姉からは、上達には個人差があるから気にしなくて良いと言われていたが、自分以外の家族全員が火属性魔法を使うことが出来るため、父親おろか兄妹には相談できずにいたそうだ。
ケイが試しに初歩の火属性魔法を使ってみるようにいうと、ロジーは渋々といった様子で所持していた短杖を使い詠唱した後、一瞬だけ杖から赤い魔方陣が形成され炎が出たがそれもすぐに霧散してしまう。
魔法の才を持ち合わせながらも発動することができないとなると、他にも条件があるのではないかと考える。ケイは息をするように魔法が使えるため、そもそもどういった原理で魔法が発動するのかいまいち理解していなかった。
「ロジーが使っている短杖って長い杖と何が違うんだ?」。
「杖?杖はみんな大体同じ物を使っているんだ。これは学校で支給されている物だけど、長さの違いは本人の使いやすさだけ。杖を地につけて詠唱をするのが良いと思ったら長いものを使えばいいし、俺なんかは持ち運びが怠いから短いのをつかっている。ただそれだけだ」
「ということは、杖による性能はみんな同じって事か」
「支給品の杖に効果は特にないって聞いてる。巷に売っている杖には魔力を増幅させたり属性魔法を強化したりする補助のようなスキルがついた杖もあるが、学校で使う物に関しては効果によって魔法を発動することが阻害されることがあるみたいだから、ある程度魔法になれてかつ魔法を熟知することが求められるんだ」
エルゼリス学園は魔法専門に扱う学校ゆえに専門分野に関しては特化していると思う。しかし裏を返せば、それ以外の分野について疎い箇所も否めない。
ケイはロジーが魔法を発動できない理由として、もっと根本的な部分があるのではと睨んだ。
「ロジー、明日明後日の俺の授業には絶対に出ろ。いいな?」
スマホで制限時間を確認すると、あと五分を切っていた。
そろそろ戻らないと思い、ロジーに明日明後日の授業には出るようにと説得する。
当然ロジーは何故といわんばかりの表情をしたが、魔法が発動しないのは別の要因の可能性もあると指摘し、今は授業の合間を縫って来たので後日その辺を確かめると説明をした。
ロジーと別れたケイがそのまま校庭に戻ってくると、ちょうど制限時間二十分を告げるスマホのアラームが鳴った。
ケイが終了を告げると、逃げ回っていたブルノワと少佐が勝った勝ったと走り回っている。将来は陸上選手か?などと親バカチックになったのは内緒である。
生徒達の方を見ると、男女共に校庭に座り込んでいる。下は人工の芝生のため、男子数名が大の字になっている姿も見られる。
マークを見ると時間ぎりぎりで戻って来たケイに安堵していたが、身振り手振りでどうだった?と伝えると苦笑いを浮かべていたため、ブルノワと少佐に振り回されたなと察する。さしずめ鬼ごっこを始めたルトと同じ状況である。
「この様子じゃ、ブルノワと少佐を捕まえることができなかったわけか~」
生徒達だって手を抜いたわけではない。
ケイが校庭に戻ってくる時に遠くの方で魔法を発動する光や着弾音が鳴り響いていたので、全力といえば全力だっただろう。しかし結果はこれである。校庭は防御魔法とおぼしき術が使われ、ある程度の衝撃は無効に出来るため開始前とほぼ同じ状況にすごいなと思いつつ、生徒に対してはため息をつく。
「俺が先公なら全員不合格だぞ?」
だっこをせがむブルノワを抱き上げ、ケイがなんだかなといった表情で語る。
生徒の一人がこれだけ速ければ捕まえられないことを言ったため、いつも遊んでいる使用人は魔法無しで十分で捕まえるぞというと、全員がギョッとした目でケイ達を見る。
「その辺については、明日解説をしようと思う。今日は以上だ」
ケイが言うと同時に終業を告げるチャイムがなった。
次の授業には遅れるなよと未だにへばっている生徒達を余所に、マークに挨拶をしてから一日目の特別授業は終了した。
火属性魔法を持ち合わせていながら発動することができないロジーに、ケイはどう対応するのか?
また、実力テストで見えたこととは?
次回の更新は5月22日(金)です。




