16,ジュエルハニービー
ケイの初指名依頼の回。
無事にこなせるかな?
『モスクの森で弱っている鳥を保護したのですが、
何が原因かわからないため、一度見て貰えると助かります。
依頼主:ガレット村 マーサ 報酬 500ダリ』
ケイがCランクになって初めての指名依頼は、ガレット村のマーサだった。
「この国に獣医はいないのか?」
ケイが疑問を口にした。
「獣医なら少ないけど、私が知っている限りだとダナンやフリージアくらいかしら?」
シンシアの言った通り、ダジュールには獣医の数は極端に少ない。
この世界の獣医は、希少生物の保護や繁殖活動の補助などが主のため、どちらかといえば飼育員に近い。
「俺、鳥なんて飼ったことないからわかんねぇんだけど?」
ケイが珍しく渋い顔をしている。
「なら俺が見てみよう」
「え?レイブン見れんの?」
「以前鳥を保護したことがあるから、ある程度なら対応できる」
レイブンの意外性を見た三人は、依頼受理しガレット村に向かった。
「受けてくれて助かったよ」
村に着いた四人はマーサの家に向かうと、安堵した表情の彼女が出迎えた。
「鳥を保護したって聞いたんだけど?」
「あぁ、そうなんだ。ちょっと見ておくれ」
マーサの案内でリビングに通されると、エルとキャロルが部屋の隅で何かをしていた。
「エル、キャロル何してんだ?」
「あ、ケイ兄ちゃん達だ!」
ケイが覗くと、かごの中にタオルと一緒に一羽の鳥が蹲っていた。
「マーサ、これが保護した鳥か?」
「そうだよ。三日ほど前にモスクの森に蜂蜜を取りに行った時に見つけたんだ。けどだいぶ弱っているようでね」
そう言うとマーサがシンシアとレイブンの方を見た。
「そういえばこの二人は?」
「最近入ったメンバーのシンシアとレイブンだ」
アダムが紹介をすると、シンシアとレイブンは一礼した。
「はじめまして、シンシアです」
「レイブンです。前に鳥を保護した経験があるので、拝見してもよろしいでしょうか?」
「あぁ、構わないよ」
マーサの了承を得たレイブンがかごの中の鳥に近づいた。
「この鳥はハニービーか?」
レイブンは鳥を見て驚いた。
「だけど色が違うわ」
「そうなのか?」
「だってハニービーの色は黄色だもの」
ケイの疑問にシンシアが答える。
通常ハニービーは、全体的に黄色く頭から尾にかけて緑色の縦線が入っている。
しかし、かごの中の鳥は、姿はハニービーに似ているが全身が白く、頭から尾にかけて七色の縦線が入っており、尾は全体的に色が付いていた。
「傷や羽根などの異常は特にないようだ。おそらく体調の問題なんだと思うが・・・」
「マーサ、こいつに何か食わせたのか?」
「水と、知人から鳥用の餌を貰って置いたんだけど、食いつきが悪いみたいで」
マーサがケイに答える。
「体調が悪いと羽根を膨らませて体温調節をするから、そのせいもあるだろう。負担を減らすためにも暖かくさせる方がいい」
「じゃあオレ、タオル持ってくる!」
「お兄ちゃんまって~」
レイブンの言葉にエルとキャロルが走り出す。
「二人とも走るんじゃないよ!」
マーサが注意するがやはり心配なようだ。
「羽根を膨らませる動作をしているから、どこか悪いのはわかるが、それが何かまでは俺でも難しい」
レイブンの言葉を聞き、ケイは密かに鑑定を使ってみてみることにした。
ジュエルハニービー
レベル5
性別 メス(1才)
状態 衰弱 ハチミツ中毒
HP 12/50 MP 80/80
力 10
防御 15
速さ 70
魔力 85
器用 90
運 80
スキル 宝石生成(Lv6) 鉱石察知(Lv5) 気配察知(Lv5) 幸運(Lv6)
鳥系の魔物。ハニービーの亜種。
主にエストアの高地に生息。宝石を生み鉱石のありかを教え、主を幸運に導く。
※希少生物の一種。鉱石を好んで食べる。ハチミツは毒となるため与えない方がいい。
「原因がわかったぞ!」
「えっ!なんなの?」
急かすシンシア。
「ハチミツ中毒だ」
皆が首を傾げた。
「ハチミツ中毒だって?」
「そいつはハニービーの亜種らしい。ハチミツを食べたことで体調を悪くしている」
「じゃあこいつはハニービーなのか!?聞いたことないぞ!」
「いや、エストアの高地にハニービーの亜種がいるのを聞いたことがある。俺も初めてみるがな」
アダムが困惑し、レイブンが納得する。
「で、この子どうするの?」
「とりあえず【エクスヒール】」
ジュエルハニービーの体が光る。
しばらく待ったのちに鑑定をすると、状態の欄は衰弱だけとなった。
そこに注目すると、空腹のためと追加項目をみることができた。
「こいつの衰弱は腹が減ってるかららしいぞ。」
「今なら食べるんじゃないかしら?」
シンシアが餌を差し出したが、ジュエルハニービーは微動だにしない。
「おかしいわね~お腹が空いてるんじゃないの?」
「鉱石が好きらしいからなんか食わせてみろ」
「その子鉱石食べるの!?」
「鉱石を好んで食べるってあった」
「ちょっと待て!ケイ、お前鑑定持ちか!?」
「言ってなかったっけ?」
「初耳だぞ!?」
ケイの爆弾投下でなんの話をしているのかわからなくなった三人。
「ケイ、とりあえずこれを食べさせてみてくれ」
見かねたレイブンがポーチから一つの鉱石を取り出した。
「前に銅鉱石を採掘したんだが、売ることを忘れててそのまま持ってたものだ」
「使っていいのか?」
「俺じゃ売るしか使い道がないからな」
ここぞという時の年長者である。
ケイは銅鉱石を食べやすいように細かく素手で砕き、ジュエルハニービーに与えた。
ジュエルハニービーはくちばしで感触を確かめたのち、ゆっくりと口に入れ咀嚼し始めた。
「あ、食うんだ」
時折、用意された水を飲むが全体的にシュールである。
なんだかんだであっという間に鉱石一つ分を食べ終えたジュエルハニービーが、ゲップそしたのちにケイに擦り寄る。
「なんで俺に来るんだ?」
「鉱石をあげたからじゃない?」
「それならレイブンだろう?」
ケイ達は知らないようだったが、ジュエルハニービーは雛に鉱石を砕いて食べさせる習性がある。
おそらく親と間違えてケイに懐いているようだ。
「ケイ兄ちゃん、鳥は大丈夫なのか?」
「大丈夫ぅ?」
心配そうなエルとキャロルが覗く。
「鉱石食わせてゲップしたんだ。大丈夫だろう」
ジュエルハニービーはケイの手の上に乗ると、ほどなくして寝息を立てた。
「・・・いや、寝るなよ」
身動きが取れなくなったケイにやれやれとマーサが首を振った。
「これからどうするんだ?」
ジュエルハニービーをかごに戻し、一同椅子に座る。
椅子が六脚しかなかったため、エルはマーサの膝の上だ。
「あたしとしちゃ元に戻してあげたいんだけどね」
「ウチで飼おうよ」
「馬鹿いっちゃいけないよ、鉱石なんて取りにいけないからね」
エルを宥めるマーサにケイが言った。
「鉱石ってどこにあるんだ?」
「ここから近い場所だと、東大陸のエストアだろうな」
レイブンが答える。
「鉱石の種類も多いし、高地にはハニービーの亜種の生息地でもあるらしいから行ってみる価値はあるかもしれない」
「じゃあこの子をエストアまで連れて行くと言うこと?」
「それが最善なんじゃないかな」
レイブンは過去に何度か行ったことがあるらしく、道案内もできると言った。
「じゃあ次はエストアだな」
ケイがサクッと決める。
「えっ?行くの?」
「どっちにしたって鳥をあのままにするのか?」
「そういうわけじゃないけど・・・」
「別に行きたくなきゃ行かなくてもいい」
ケイは自分のやりたいことしたいことをする。
それに他人がついて行くか行かないかは別の話になる。
「わ、わかったわよ!行くわよ!」
シンシアは半分は意地っぽく言った。
それからケイ達はガレット村からエストアに向かうことにした。
「皆、頼んだよ!」
「兄ちゃん達、鳥をよろしくな!」
「鳥さん、気をつけてねぇ」
ケイの鞄にジュエルハニービーを入れる。
環境が合ったのか、中で大人しくしていた。
「ジュエルハニービーは責任を持ってエストアに送ります」
アダムが返事をし、マーサ達に見送られながらエストアへ出発した。
「エストアまでは距離があるから、まずは途中の村であるコルト村を目的地にしよう」
レイブンが言ったコルト村は、東大陸の真ん中に位置し、西側にはモスクの森が見える場所である。
ガレット村同様、一般的な村である。
「定期便みたいなのはないのか?」
「大きな都市を行き来する馬車ならあるが、エストアまでは徒歩か麓の村まで馬を使うしかないな」
「どっちにしても徒歩確定ね」
急ぐ旅でもないため、ケイ達はのんびりとコルト村に進んでいった。
「そういえばエストアまではどんぐらいかかるんだ?」
「大体二~三日ぐらいかな。麓の村から山を登るから、状況によってはそれ以上かかることもあるよ」
「山登りの服装してないけど?」
「山の中腹に位置しているから、別に登山をするつもりはないよ」
ははっと声を上げるレイブンに、そんなものかと納得するケイ。
左側にモスクの森をが見える。
それを横目に。街道を歩く。
日没を過ぎた頃に、東大陸のコルト村に到着をした。
のどかな風景が目の前に広がった。
牧場もあるらしく、牛や馬などが小屋の中に入っていく姿が見える。
村の中心に小さいながらも宿屋があり、今日はここで一泊することになった。
「個室は数がないから四人部屋でもいいかい?」
宿屋の亭主がすまなそうな顔をした。
別に気にすることはないと承諾をすると、そのまま食事をとることにした。
テーブルの空いている場所にジュエルハニービーを降ろし、レイブンから貰った鉱石を砕き与える。
「お客さん達はどこから来たんだい?」
運ばれてくる料理を受け取った時に亭主が話しかけた。
「ガレット村の依頼でエストアに向かう途中だ」
「あぁ、そうかい・・・」
ケイが返すと、亭主が複雑な表情を浮かべる。
「何かあるのか?」
レイブンが問うと、亭主は歯切れの悪そうな顔でこう答えた。
「いやぁね。三、四日前からエストアの方から獣の遠吠えが聞こえてきてね、気味が悪いって噂になっているんだよ」
「獣?」
ケイが頭にハテナを浮かべる。
「サラマンダーじゃないのか?」
「かもしれないが、それがどうも・・・」
会話の途中で、遠くから魔物か動物の遠吠えのようなものが聞こえる。
「あれさ」
亭主が四人に言った。
「んっ?どうした?」
ケイがジュエルハニービーに声をかける。
ジュエルハニービーは食事を止めて、遠吠えのする方を向いていた。
ケイがなにかあるのかと窓の外を見たが、真っ暗な外しか見えなかった。
「遠吠えに反応してるのかしら?」
「怯えている様子もないな」
シンシアとアダムが首を傾げる。
ジュエルハニービーは遠吠えが終わると、何事もなかったかのように食事を再開した。
「どっちにしろエストアには行く予定だし問題はない」
疑問が残ったが、ケイ達も食事を始めることにした。
ジュエルハニービーのイメージは小鳥です。
次回は4月27日(土)になります。




