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異世界満喫冒険譚  作者: GDKK
大陸編
179/359

174、ケイ・特別講師になる

皆さんこんばんは。

いつもご高覧くださりありがとうございます。

さて今回は、指名依頼を受けたケイがエルゼリス学園の講師として呼ばれます。

ケイ達がアルバラントの屋敷に戻って五日後のことである。


この日屋敷では、朝から慌ただしくローゼンやパーシアが動き回っていた。

珍しいことに、この日のダイニングルームにはケイの姿がある。

休日であれば九時の鐘がなったあたりで起きるはずなのだが、眠い目を擦りながらパーシアが用意した朝食に手をつけていた。


「ケイ、朝が弱いからってその顔はないんじゃない?」


向かいに座っているシンシアが呆れたように、顔を洗ってそれなの?と返す。

それに対してこれは生まれつきだと悪態をつき、パーシアが焼いたクロワッサンを千切ってジャムにつけ頬張る。


最近ではパーシアがパン作りにハマっているようで、クックパットでいろんな種類のパンを見ては試作しているらしい。買い物毎に果物屋の店主からリンゴやオレンなどの果物を貰っているようで、ルトがそれならジャムを作ってみたらどうかと彼女に伝えたところ、朝食時はパンと一緒にいろんなジャムを添えて日替わりで出てくるという貴族さながらの食事になっている。


実は、毎朝趣向を凝らしたパンが出てくる理由としてルトにも関係がある。


果物と聞き、彼女と同じ時期にルトも園芸店で野菜や果物の種を購入し、庭の一角に小さいながらも農園を始めた。最初はお得意の錬金術で作物の質が良くなるように薬品を作って調整していたが、ある時に薬品の分量を間違えたようで一晩のうちに大量の野菜や果物が実ってしまったことがある。


庭の一角が完全にジャングル化したように、さすがのローゼンやボガード、シルトも唖然としたのだという。残念なことに、ケイ達はヴァレリにいたためその光景を見ることが出来なかったが、ローゼン曰く暫く買い物に出なくても十分な量があると、なんとも言いがたい笑みを浮かべていた。


食事を終えたケイが席から立ち、ローゼンに上着を着せてもらうとアダムから着せられているなと見慣れない服装に違和感しか感じないような物言いをした。

確かにこの日のケイの服装はいつもと違い、質の良い紺のスーツを着用している。

恐らく、後にも先にもこれが初めてではなかろうかという装いである。


『パパ!』


先に食事を終えていたブルノワが少佐と共にダイニングルームに入って来た。


ブルノワもいつもの白いワンピースとは違い、チェックのスカートにフリルのついたブラウスと黒いジャケットという装いをしている。長い金髪はタレナにしてもらったようで、三つ編みを冠のように頭に巻いたフェアリーチックな髪型に黒いリボンが結わかれている。

少佐もこの日に合わせて念入りにシャンプーやブラッシングをしていたため、いつもよりは綺麗だ。シャンプーはケイが行ったが、ショーンが水が苦手のようで暴れはしないものの可哀想なぐらい終始固まっていたのがちょっと面白かった。


「ケイさん、迎えの方がお見えになっています」


ローゼンからそう伝えられ、依頼とは言えいまいち気が乗らないが、指名されたからには仕方がないと割り切り、ケイはブルノワと少佐を連れて屋敷をあとにした。



事の発端は、ケイ達がアルバラントに帰って翌日のことである。


ローゼンから前日にエルゼリス学園のマーク・ケベートがやって来たようで、戻ったら冒険者ギルドに連絡をお願いしたいという伝言を預かったという。もちろんすぐに彼と連絡を取り、ギルドの応接室にて学園長からマーク経由で指名依頼があると伝えられた。


その内容は“ケイに特別講師をお願いしたい”というものだった。


なんでもエルゼリス学園では、年に数回、外部からの特別講師を招いての授業を行っているのだという。その背景には、近年魔法に限らず様々な才能を持った若者が志を持っていてもその才能自体を生かし切れない案件が多く見られたようで、なにかのきっかけになればと五年前から始められていた行事だという。


しかし、直前になり本来お願いするはずだった講師役の魔法使いが急病のために行えなくなったということが発覚し、頭を抱えていた学園長が以前学園のもめ事を解決したケイ達を思いだし白羽の矢を立てたのだという。

ここでなぜケイだけが呼ばれたのかというと、巷で噂になっているレッドボアやクラーケンを単独で討伐した人物がケイの事だと知り、また獣魔の卵を孵化させたという実績も合わさって総合的に判断し、ダメ元で相談という形でマーク経由で依頼させたのだという。


学園からの要望であれば受けざるを得ないと判断し二つ返事で了承すると、その後は急ピッチで仕立屋にてスーツを購入し、それに合わせて従魔であるブルノワと少佐もそれなりに身なりを整えさせこの日を迎える。


世も末だ。

ケイは学園に向かう道中でそんなことを、ふと思ったのであった。



「初めまして。私が学園長のボレアス・ヴィドーと申します」


到着を待っていたマークと合流したケイは、そのままエルゼリス学園の学園長室に通され、そこで学園長とおぼしき男性と対面をした。


三十代ぐらいに見えるその男性は、切りそろえられた鶯色の髪に飴細工のような琥珀色の瞳が相まって随分と若く見える。なんでも大賢者エルゼリスの子孫で、エルゼリスはエルフと人間のハーフであるといわれている。その証拠に子孫であるボレアスは火・水・風・光と四属性持ちで、わずかながら精霊魔法も使えるという。

驚く事にエルフ族の血が受け継がれているせいなのか、実年齢よりも二十才ぐらい若く見られるという。ということは、彼はケイが想定しているよりもだいぶ年が上だとわかる。


ボレアスは急な頼みも関わらずに引き受けてくれたケイに礼を言い、獣魔の卵から孵化したブルノワと少佐をみて、なぜか納得の表情を見せた。学園にあった獣魔の卵は一部の生徒から神聖であるらしく、卵に触れることで一種の願掛けのような象徴も兼ねていたそうだ。それを謝礼品として渡すことに理解はできなかったが、大事だからこそ最上位の礼儀という形で表したということなのだろう。


「ところで特別講師ってなにをするんだ?」

「特別講師とは、今までその人物が培った能力や考え方を披露する場になります。なかには教科書を用いて授業のようにおこなう方もいますが、そのやり方この学園の卒業生が多く、特にこれといって決まった方法はありません。講師の方に全てお任せをしています」

「要は自由にやれということか~」


なんか職人みたいな説明だなと思いつつ、参考までにボレアスに今使われている教材を少し見せて貰う。


『基礎魔法学』という題の教科書は、これ一冊でも五百ページほどあり、はっきり言って辞書並の厚さだ。内容を見る限り魔法の基礎的なことが事細かに書かれており、そのための課題も多くあるそうで、感覚的には高校三年間の勉強を一年間で終わらすような詰め込みスパルタ式に感じた。

ちなみに一日の時間割は全学年六時間制で統一されており、一授業は六十分と決まっている。地球の学生のように前・後期で試験もあり、赤点には追試もある。


ケイは、少し前に卒業をした高校の事をふと思い出した。



ケイが行う特別授業は今日から3日間、今回は2年B組を担当することになった。

B組といえばマークの担当するクラスで、フレデリックやルイーズのいるクラスである。マークからも自分もアシスタントとして同行するので、気を張ることはないと言われたが、小規模であっても年が変わらない生徒相手にどうしようかと直前になって本気で悩む。


マークから教室に向かう道中で、クラス名簿を見せて貰った。

一クラス三十人の名簿には、フレデリックやルイーズに以前関わったコニーの名前が載っている。ちなみにこの三人は学年でも一~三番を独占している秀才で、しかも以前会った時より成績が上がっているのだという。秀才恐るべし!


担当するクラスは、東棟二階の南側寄りにある。


教室の扉は、上部の一部に磨りガラスがはめ込まれている一般的な扉だった。

ケイが入室する前にブルノワと少佐の様子をみると、初めて行く場所のせいか緊張した面持ちをしていた。少佐も差はあれど同じような状態で、ケイが大丈夫だとなで回すと、大丈夫!という顔つきをした。口には出さなかったが、犬でも口元が引きつるんだなと妙に興味を抱く。



「皆さん席についてください」


マークと一緒に教室に入ると、彼の声に三十人の生徒が各々自席に戻る。

生徒の着席を待ってから、日直とおぼしき男子学生が号令をかける様をなんだか懐かしく思う。窓の外を見やるとグランドを挟んで西校舎が見え、開いた窓からさわやかな風が吹き込み、一年を通して穏やかな気候の中央大陸をありありと感じることができる。


「今回の特別講師をお招きしました。ケイさん、紹介をお願いします」

「あー、冒険者をしているケイだ。こっちが従魔のブルノワとサウガ・ショーン・ヴァールで、今回こいつ等にも活躍して貰うことになる」


ケイが自己紹介をすると、生徒達の表情に疑問が浮かんでいた。

前に出会ったフレデリックとルイーズ、コニーはケイの姿に驚いていたようだが、この状況で問い返すことが出来ず、コニーに至っては口をパクパクとさせている。


従魔と聞いて一人の男子生徒がブルノワと少佐の事を質問したので、セイレーンの亜種のシリューナとケルベロスの亜種であるサーベラスという魔物だと答えると、ザワザワとクラス中が私語に包まれる。マークが静かにするようにと注意をかけると私語が止み、ケイの方を向いてあとはお願いしますと笑顔で丸投げをされた。


「じゃあ、出席を取るんで返事をしてくれ!」


マークが教室の後ろにある木製の椅子に座ると、丸投げか~とため息をつきたくなる気持ちを抑え、まずは生徒の顔と名前を覚えるために出席を取ることにした。



「ロジー・コリンズ!・・・ん?ロジーはいないのか?」



最後の一人を読み上げるが返事がない。

前に座っているエルフの女子生徒が、ロジーは来ていないと声をかける。

今日は休みかと聞くと、いつも午後の一~二時間しか出ていないといい、彼の席である右端の一番後ろの席が空席で、その前には頷いているコニーが座っている。


教室の後ろにいるマークに目線を投げかけると、いつものことで授業が進まなくなるから続けても良いと手振りで返される。


それを見て、やっぱり不良生徒みたいな人はどの世界にもいるんだなとしみじみ感じた。


不良生徒はどの世界にも一人はいるって話。

特別講師としてのケイの力量が試される!?


次回の更新は5月20日(水)です。

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