173、ヴィンチェ達との再会
皆さんこんばんは。
いつもご高覧くださりありがとうございます。
今回はヴィンチェ達との再会の回になります。
ヴィンチェ達がヴァレリに到着したのは、ケイ達が滞在三日目になる昼のことだった。
ヴィンチェとは定期的にスマホで連絡を取っているとはいえ、実際はエストア以来の再会になる。到着はもう少し後になるかと思っていたが、ダナンからすぐに馬車を乗り継ぎやってきたのだという。急がせたつもりはないのだが、なんだか申し訳なくなる。
ちなみにダナンからヴァレリまでは馬車で一日かかる距離なのだが、同じ東大陸なのにこんなに離れているとは思わなかった。ヴィンチェの話では、ダナンから北は草原が広がっており、そこから高低差がそれなりに続く丘が広がっているのだという。直線距離で向かえばアーベンからアルバラントぐらいの距離なのだが、丘が広がっているせいか迂回する道が多いのだそうだ。
そういえばアルバラントから向かう途中にも、いくつか丘のようなものが見えたことを思い出す。地図で見るとわかるが、ヴァレリは丘と丘の間を利用して町が建てられている。定期馬車も数多く走っているらしいが、丘の関係で本数が少なく感じるらしい。実際には、ヴァレリからダナンまでの馬車数は六台と他の地域より多い方だ。
「久しぶりだな。実際に合うのはエストア以来か」
「本当に久しぶりだね。僕たちも色々と見て回っていたから、感覚的には最近な気がするよ」
予め予定時刻を知らせてくれていたため、町の入り口で待機していたところちょうどヴィンチェ達馬車から降りてくるところだった。
ヴィンチェ達の姿を発見するとケイが声をかけ、それに気づいたヴィンチェ達もケイ達の姿を見て声を返す。仲間のダニーとエイミーも変わりはなく、ダニー達と同郷のレイブンも久しぶりの二人の再会を喜んだ。
昼食がまだということもあり、町の一角にある飲食専門店に足を運んだ。
実はヴィンチェ達と会う少し前に、宿屋の亭主にこの町にある評判の店を聞いたところ、この店がおすすめだと紹介してくれた。
この店は、品数自体は他の店より少ないが味付けに定評のある店で、地元の人間いわく、どのメニューを選んでも味付けにハズレがないと好感触の店だという。
「この子達がこの前言っていた従魔だね?」
席に着き、各々好きな物を選んで運んでくる間を待っていると、ヴィンチェがブルノワと少佐の事を尋ねてきた。
ブルノワと少佐はヴィンチェの方を見ると、恥ずかしいのかケイの影に隠れる。
ケイ自身もダジュールにもあまり存在を知られていない種類ゆえにわからない事も多く、エルゼリス学園のもめ事を解決した時に報酬として貰ったという経緯は伝えているものの、本当の出所諸々が一切分からないと答える。
「孵化をする条件ってあったのかい?」
「孵化に必要な魔力量が圧倒的に多かったってところかな。なんせ必要量が99万もいるし一回に流す量が尋常じゃないらしい。魔力持ちのアレグロでさえすぐにギブしたし~」
「話には聞いていたけど、昔からある獣魔の卵を孵化させるってケイの持つ魔力は質も量も高いってことなんだね」
「まぁ、俺自身そんなに感じたことはねぇけどな」
料理が運ばれ、各々舌鼓を打っている途中でケイはヴィンチェに入手した黒い箱について切り出すことにした。ヴィンチェも実は三つ目の黒い箱を所持しており、ケイと同じ考えに辿り着き仕掛けを解除して中身を取り出している。
ヴィンチェの手には、開かれた黒い箱と両端が折れて欠けている銅製の小さな棒が見えた。銅製の棒はケイが箱を開けた中身と同じ色をしており、同一のものだということが分かる。ヴィンチェはケイに断わりを入れ、受け取った他の二つの破片を手に乗せると修復のスキルを発動させた。
瞬間的に白く光ったと同時に修復されたそれは、銅製の小さな鍵だった。
どこで使うのかは分からないが、鑑定をしてもごく一般的なタンブラー式に対応をした鍵であることは間違いない。ケイが修復された鍵をどうするのかと尋ねると、ヴィンチェは心当たりがあると言い、自身の鞄からとある物を取り出した。
彼が取り出したのは、錆びた銅製の小さな箱だった。
大きさは10cmの正方形をした箱には何かをモチーフにした細かな細工がされ、劣化の関係で本来であれば宝石などの装飾がされていたであろう場所にははめ込まれていた跡だけが残っている。
「それは?」
「コレは少し前にダナンから南西の海底で見つかった沈没船の調査依頼の時に発見したんだ。中に何かが入っているみたいなんだけど、鍵がなければ開かない仕組みみたいで同時に見つけた鍵の破片がこの箱を開ける鍵じゃないかと思って探していたんだよ。でも、まさかケイ達がそれを見つけているとは思わなかったよ」
ヴィンチェが鍵を箱の鍵穴に差し込むと、カチッと解除される音がした。
蓋を上げると、銀色に輝く鍵が収められている。
草とツタがモチーフになった銀の装飾の周りには青い宝石がはめ込まれている。
大地のカギ 結界を開ける鍵。
女神・テレノの加護を受けている。
鑑定結果にケイが驚く。
ヴィンチェも鑑定を持っていたようで、同じように驚きの声を上げケイの方を向いた。その反応にアダム達が尋ねたので説明をすると、想定していなかったのか全員が目を点にさせた。
アダムが沈没船からカギの入った箱があったということは、その沈没船は一体どこのものなのだろうと投げかける。恐らくだが、大陸の結界を解除するための五つ目のカギを古代の種族の誰か保管していた可能性がある。それが海に沈んだ船を操作または保持していた種族と考えていい。
「カギを保管するために、カギがついた箱に入れるって可笑しくねぇか?」
「ダニーの意見ももっともだけど、もしかすると古代の人々はこのカギの重要性を知っているからこそ、そのような行動をとったと考えてみるべきだね」
「前にヴィンチェが考えていた女神像とカギの関連ってことね」
「うん。今までの事を総合的に考えると、特定の順番で女神像の仕掛けを解けば、大陸にかかっている結界が解けるんじゃないかと思うんだ」
ヴィンチェ達も大陸各地にある女神像は、マライダに伝わるフィスィ・デアのことではないかと考えていたらしい。そしてカギと対応した女神像に仕掛けを解除する何かがあるのではと推測していた。実はケイも同じ事を考えており、各地にある女神像は中央の女神像以外、全て海の方を向いていたという共通点がある。
「単純に考えて、対応した女神像を言い伝えの通りに仕掛けをカギで解除すると考えることについては合っているんじゃないかと思っているんだ」
「たしか『星月夜に 空地の影 太陽の輪廻加わらん』ってやつだっけ?」
「推測が正しければその順番でいいと思う」
「話の途中で悪いんだけど、そもそも女神像まで互いに距離があるのに、解除するとなると時間がかかるんじゃないのかしら?」
ケイとヴィンチェが納得している横で、シンシアが根本的な疑問を投げかける。
確かに他の大陸は陸続きだが、ルフ島は島国であり船でも距離も離れているが、それに関してヴィンチェから興味深い話を聞くことが出来た。
ルフ島に赴いた際に、ナットから奈落の下に遺跡があったことを聞いたという。
その時現地に調査隊を派遣したところ、地面に見たこともない鉄製の棒状が二本とその間に朽ちた木の板が置かれた妙なモノが長い距離に渡って発見されたという。
その調査にはナットも参加していたようで、彼曰く線路跡ではないかということだった。
「線路って電車か?」
「うん。そうなると、エリスロ歴は今よりもだいぶ高度な時代だということは確定だろうね」
「地下帝国に電車かあるいはそれに近い物が動いていたってわけか。それなら大陸の端から端までの移動は可能だろうな」
「どちらにしろ高度な文明を持っていたことは間違いない。それと沈没船だけど、これもこの時代にはない大砲も積まれていたよ」
ヴィンチェ達は発見された沈没船が引き上げられたところに立ち会ったようで、この時代にはない形式の船であったと述べる。この時代にも海賊船みたいな違法船は存在するのだが、それを差し引いても大砲などというものは存在しない。
それを聞いたケイは、以前ルフ島で幻覚か白昼夢で見た船の大軍を思い出す。
線路も大砲もこの時代にはない代物と考えると、歴史とメルディーナの関係性が色濃く現れる。以前見つけた文献から地下帝国の存在を示す箇所も見つかり、時代を発展させるためにメルディーナがなんらかの方法で故意に知識を人々に授けたが、その代償が今の時代に反映されている。そして、それをさらに隠蔽するための行動を行ったことも、ガイナール達が見つけた文面にも表れている。
ケイとヴィンチェだけで話が盛り上がっていたため、アダム達からどういうことなのかと聞かれ、もしかしたら地球の文明がメルディーナのせいでダジュールの歴史が変わってしまったのかもしれないと返す。
さすがに飛躍しすぎている気もするが、ダニーとエイミーも沈没船を見た時に自分たちの知っている船と異なっていることを考えて、あながち間違いではないのかもしれないと口を揃える。
それとヴィンチェから大地のカギはどうすればいいかと聞いたため、それは持っていてほしいとケイが答える。というのも、女神の仕掛けを解除することになれば、距離的や時間を考えると人数が多ければ行動に移しやすく結果がすぐにわかる。
それに、ケイを含めて元・日本人達はスマホを持っているため連絡がつきやすいという利便性もある。
行動に移すかどうかは、他のカギを持っているガイナールやベルセ、ナットと都合を合わせなくてはならず、そのことは追々考えていこうという話でまとまった。
ちなみにヴィンチェ達は明日にはダナンに戻り指名依頼を受けなければいけないらしく、食事を終えたらとんぼ返りという状況だという。いそがしいところ悪いなとケイが言うと、ヴィンチェから急な対応をありがとうと返ってくる。
その辺は、元日本人の性か律儀なところが見えていてなんだかホットした気分がしたのであった。
大地のカギを発見し、それをヴィンチェに託したケイは女神像に仕掛けがあると考え、そのことについて行動に移すべきだと考えます。
ダジュールの歴史はメルディーナによって変えられたと考えると、一筋縄ではいかないようです。
次回の更新は5月18日(月)夜です。




