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異世界満喫冒険譚  作者: GDKK
大陸編
176/359

171、左手の約束

皆さんこんばんは。

いつもご高覧くださりありがとうございます。

今回のお話は、修羅場を見せられたケイ達のお話です。

ゾッソの襟首を掴んだ男性はおそらく同年代のようで、彼よりは幾分背が低く体質なのかほっそりとした印象を持つ。彼はゾッソに対して怒っているようで、声を荒げながら抗議の言葉を述べた。


「お前!また縁談を断ったって聞いたぞ!!?」

「そのことかい?今は次回作に集中したいからと説明しただけだよ」

「嘘つけ!俺のことは気にするなって言ってるだろう!?」


昼ドラのワンシーンを見せられている状態なのだが、執事とメイドが二人の間に割って入り落ち着くように説得を試みたものの、男性がゾッソの掴んだ襟首を振り払い「くそっ!」と呟くように吐き散らすと、そのままアトリエを去って行くと同時に、そのあとを慌てて執事とメイドが追いかけていくように出て行く。


一連の流れを見せられたケイ達はどうしたものかと顔を見合わせるが、ゾッソは困った表情で出て行った扉に目を向けた後、アレグロとタレナに窓際に置いてある椅子に腰をかけるように指示をした。


「追いかけなくていいのか?」

「いつものことなので・・・」


イーデルにかけられたキャンパスに向かい合いながら鉛筆を片手にデッサンを始めるゾッソ。気にするなと声をかけられたが、あのやりとりを見せられてスルーすることは少し難しい。


「彼は私の友人でカンテミールといいます。彼とは、もうかれこれ三十年ほどの付き合いになります」


デッサンの手を止め、鉛筆を置いたゾッソが先ほどの人物のことを口にする。


カンテミールはゾッソの友人で、人物画や風俗画、風景画など幅広く手がける画家でもある。絵の経歴で言えばゾッソの方が先になるのだが、努力家であり才能も相まって、僅か五年で貴族に気に入られ一流の画家へとのし上がる。

しかし彼自身はけして順風満帆というわけではなく、六才の頃に両親が相次いで亡くなり、遠方の親戚の養子になったがそりが合わずに家出をし、放浪の末にこの町・ヴァレリに着いたのは十二才の頃だという。しばらくはストリートチルドレンのような生活を送っていたが、栄養失調の末に倒れ、それをゾッソが見つけて介抱したことから交流が始まり、三十年ほど経つそうだ。


「友人の喧嘩ってことか?」

「それならどれだけよかったことか…私が、彼の将来を潰してしまったのだから」


将来?と尋ねると、どうやらゾッソの不注意でカンテミールが怪我をしたことに関係があるらしい。


詳しく尋ねると、カンテミールはもともと画家ではなく彫刻家だという。

彼が十四才の時にとある彫刻家の作品に目を奪われ、独学で彫刻を学び、十八才の時には頭角を現すほどの実力を持っていたのだという。しかし、二十歳の時にゾッソをかばったことにより左手を負傷、彫刻道具が持てなくなったことによりその道を諦めざる負えなかったそうだ。


しかしそれでも芸術の道を諦められず、今度は画家として活動を始めることに。


手先が器用だった左手は怪我の後遺症で思うように動かなくなったが、それでもできる範囲からリハビリを重ね、大まかな動きであれば何とか動かせることができるようになった。それと同時に様々な絵画を通して独学で学び、画家として歩みを始めたのが、彼が二十五才の時だという。

ゾッソ曰く筆のタッチは独特で、自分でも真似ができないほど繊細さを合わせ持っているといった。彫刻家としての経験もあってのことなのだろう。


「でも、それがあんたの縁談とどう関係あるんだ?」

「私はあの日以来、自分のせいで彫刻家の道を断たれたミールのために『一生をかけて手を治すために力を尽くす』と誓ったんだ」


一種の罪滅ぼしということなのだろう。


それがあったことにより若い頃から異性にはモテてはいたが、特定の人物との交際はあっても添い遂げるということはなかったのだという。しかし、当時存命していた両親の勧めもあり一度は結婚をしたのだが、自身の体質の関係で子が作れず、僅か二年で破局したのだという。


その後も縁談の話はいくつか来ていたが、全て丁重にお断りを入れていたらしい。

それをどこからか聞きつけたカンテミールが激怒し、乱入してきたのが今の状況である。自分のせいでゾッソを縛り付けているのではと思っているのだろう。


事情を聞いたケイは、カンテミールの様子を見に行くと立ち上がりブルノワと少佐を連れて行こうと思ったが、食べ歩きをしたせいかソファーで寄り添うように寝転んでいた。ゾッソからは、寝てしまっているのでそのままにしてはいかがでしょうと提案をされ、とりあえずカンテミールのところにはケイ一人で向かうことにした。



ゾッソから教えられたカンテミールの家は二軒先にある、一軒の屋敷だった。


門扉から見える屋敷は周りの住宅と同じレンガ調を用いているが、その周りには緑に囲まれた自然豊かな光景が広がっており、庭先に咲いている花は色とりどりでありながらもノスタルジックさを思わせる。


門扉を挟んで中を覗き込んでいると、屋敷の警備員と思しき二人組の男性がこちらに気づいた。よほど厳重なのか二人とも屈強な身体の上に鎧を着用している。

彼らから用件を聞かれ、ゾッソから様子を見てきてほしいと頼まれたと事情を説明すると、納得してくれたようで門を開けてくれた。

開ける際にゾッソの屋敷にある門扉よりずいぶん重厚だなと思っていると、警備員の一人から稀に変わった来客もあるようで、自分たちはその対応も担っていると話してくれた。いろいろと事情があるのだろう。



警備員の一人に案内された部屋は、カンテミールがアトリエにしている場所で、二階の一室にある庭が一望できる位置にある。改築しているのか、その部屋には一階に続く白い螺旋階段がついており、一階は彫刻家時代に作っていた作品が置かれているのだという。


「カンテミールさん、お客様です」


アトリエの扉を開けると、カンテミールは作業中だったのか手を止めてこちらに振り向いた。先ほどの印象とは打って変わり落ち着いた様子を見せており、ケイの姿に気が付いたのか、気まずそうな表情を浮かべて会釈をする。


警備員が退出し、打ち合わせスペースと称したソファーとローテーブルが置かれた場所に腰を掛ける。そのスペースの隣には小さいながらも、キッチンが備え付けられている。来客用の珈琲を入れている手つきを見ると、とても後遺症があるようには見えない。


「もしかして、ゾッソから手の事は聞いたのかな?」


ケイの目線が手に向けられていることを悟ったカンテミールは、二人分の珈琲のひとつを手渡してきた。「まぁ~」と返し、ジロジロと見て申し訳ないと謝罪すると慣れているから気にしないと言われた。


「と、いうことは僕のことも大方聞いているってことだね?まぁ、この話は町のみんなが知っているから別にいいんだけど」

「あー、ゾッソはあんたのことを気にしていたぜ?」

「彼は自分のせいで僕が彫刻家を諦めなければならないと思っていたようだから、僕としては彫刻家を諦めるつもりはないし、彼とは昔と変わらない友人でいてほしかったんだけど…」


目線を飲みかけの珈琲に落し、ぽつりとつぶやく。


友人から主従関係のような付き合いになっている気がすると、カンテミールが口を開いた。自身が怪我をする前までは互いに別の分野だが切磋琢磨をしていたが、それ以降は、何かしら理由をつけてはカンテミールが中心の生活を送っている気がすると述べる。自分としてはゾッソの人生を自分のために費やしてほしくない、そんな気持ちを持っていたようだ。


「それに彼は人気者だから…」


ゾッソはカンテミールとは違い、社交的で人気者である。

特に女性はゾッソの人柄に魅入られているようで、一番近い位置にいる友人であるカンテミールを敵視している人も少なからずいるそうだ。しかも、見知らぬ女性が自分の家に侵入をしてきたこともあり、とても怖い思いをしたこともあるという。

そのことをゾッソには相談したのかと聞くと、彼の手を煩わせたくないからなるべく内緒にしていたといい、そのために敷地を囲む塀を高く作り替えたり、常時警備員を配置するなどの対策を講じたという。


ケイから見れば完全に女性たちがストーカーのような気がしなくもないが、ダジュールにはそういったカテゴリーがないようで、そのための対策も国を挙げて行うことはないらしい。


「話を聞いている限り、前々からそんなことばっかり起こってるんだろう?いくら対策をしているからと言って、ゾッソ絡みなら本人にきちんと伝えておいた方がいいぞ?何かあってからじゃ遅いわけだし~」

「そう、ですよね…」


ケイの言葉に気が進まないような返しをしたカンテミールは、明日にでも彼と会って話してみると答えた。正直心配な気はしたが、日も暮れかけていることから自分も明日もゾッソのところに行く予定なので顔を出しに来るよとだけ告げ、ゾッソの屋敷にいるアレグロたちと合流をした。



翌日、アレグロとタレナがゾッソのところに行くということだったので、カンテミールの事もあり、ケイもブルノワと少佐を連れて出かけようとした。出かける際にシンシアから行き先を尋ねられたため話すと、隣で聞いていたアダムとレイブンが飲んでいた飲み物を盛大に噴き出した。


「アレグロとタレナがゾッソのモデル?何をどうしたらそんなことになるのよ?」


それに対しては本人に聞いてくれとしか言えない。

アレグロとタレナがモデルとして行くならわかるけど、ケイまでなんで行くのかと続けたためいろいろと事情があるとだけ言って宿を出た。



「じゃあ、あの騒動はそういう理由だったのね」

「三十年来の付き合いがあるにも関わらず、肝心なところはなんも伝えてないって子供かよって感じだぜ~」

「でも、長年いるからこそ伝えられないということなのでしょう。相手を思うがゆえに伝えられないことはだれしもある思いかもしれません」


ゾッソの屋敷に向かう道中に、昨日カンテミールから聞いた話をアレグロとタレナに話した。


二人曰く、その後ゾッソからカンテミールが女性達からの嫉妬ゆえの行動に対しての被害を被られていることは知っていたそうで、あえてそれには気づかないふりをしながらも裏ではそれに対しての対処をしていると言っていたのだそうだ。

なんだかんだで人気者は辛いんだなと思った。



宿屋から中心街にある商店が立ち並ぶ路地に差し掛かった時、突如女性の悲鳴と人だかりができていることに気づいた。


騒然とした雰囲気の中で、一体何事かと思い人垣をかき分けてそちらを覗いてみると、手に血の付いたナイフを握った女性と、その目線の先には背中から血を流し苦悶の表情を浮かべて倒れているゾッソの姿と、錯乱してゾッソの名を呼ぶカンテミールの姿があった。

昼ドラ一歩手前の展開にはこんな理由がありました。

和解しようとしたがまさかの展開が訪れました。


次回の更新は5月13日(水)です。

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