表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界満喫冒険譚  作者: GDKK
大陸編
173/359

168、音楽と芸術の町・ヴァレリ

皆さんこんばんは。

いつもご高覧くださりありがとうございます。

今回のお話は、もう一つの黒い箱を探しに音楽と芸術の町・ヴァレリに向かいます。

ダットの船からアダムの借家経由で屋敷に戻ったケイ達は、ローゼンたちに捜し物があるためしばらく屋敷を空けると話した。


事情を理解したローゼンが馬車の手配し、屋敷内の決定事項などを彼に一任する。

ローゼンには「いろいろと大変かと思うが頼んだ」と伝えると、おそらくこの中でも最年長であるシルトもいるので問題はないと言い、皆さんも気をつけて行って来てくださいと返ってくる。

伝えたい言葉を的確に判断し、行動できるのは長年生きてきた経験が物を言うのだろう。ボガードからは「時折口に出してないのに、ローゼンはいろいろと察してくるから怖い時がある」などと言っていたことがあるが、たしかに屋敷内に関しては以上に頭の回転が速いと思う時もある。


それと、最近ではシルトから剣術や体術を習っていると聞いている。


本人曰く、ケイがエンチャントをした薬の効果で身体能力が上がっているものの、技術的に警備が本職のボガードとシルトには遠く及ばず、何かあった時のために備えているんだとか。完璧超人執事を目指す気ではなかろうかと思ってみたが、それも個人の目標なのだろうと特に詮索はしないでおくことにした。



その翌日、ケイ達は手配した馬車でヴァレリに向かうことにした。


ヴァレリまでは馬車で四日ほどの距離にある。

当初はアーベンから船でダナンに渡り、そこからヴァレリに向かうことも考えてみたが、ダナンからヴァレリまでは小高い丘がいくつかあり、それ故に馬車で半日ほどかかるそうで、陸で行こうが海で行こうがさほど距離に差違はない。



「あれがサフランの丘よ!」



アダムとレイブンが交代で馬車を走らせた四日目の朝に、シンシアが窓の外を指さすと進行方向の左側の丘に花畑がみえた。

小説家のモラン・リュリオ著書の『サフランの丘』のモデルとなった丘である。


「あれがサフランの丘か~ でもピンク色だぞ?」

「サフランは時期によって花の色が変わるのよ。今はピンク色だけど、他にもオレンジや紫に色が変化するんだけど、白色は一年のうちに一ヶ月しか見ることができないの」


遠目から見ると、サフランは全体的にハイビスカスに近い形をしている。

色は月によって変わるそうで、唯一、白色は一年が終わる一ヶ月の間しか見られないらしい。作品を読んでいないケイには分からないが、アレグロとタレナが食い入るように花畑を見つめている。作品の聖地といわれる場所の近くまでやってきたのだ、おそらく感激しているのだろう。その姿を見て、時間があれば行ってみるのもいいのかもしれないとケイは内心思った。



サフランの丘を通過し、馬車はヴァレリ近郊までやって来た。


ヴァレリは人口10万人ほどの中規模の町である。

町の入り口をくぐるとレンガ造りの建物が建ち並び、至る所に美術品が飾られている。道端には陽気な音楽家たちが楽器を片手に演奏をし、人々が演奏に合わせるように踊っている。また店先に並べられたテーブルやイスはビアガーデンのようで、客の男女が互いに酒を酌み交わし笑っているところも見られた。

全国各地から、音楽家や芸術家になろうと集まってきている人達が町全体を盛り上げているそんな印象を持った。


町の入り口近辺に馬車置き場があるので、そこに停車させた。

その隣にはレンガ造りの三階建ての宿泊場があり、必要な手続きをしている途中で店員にリブロという画家を訪ねに来たと聞くと、町の東側の丘に住宅街があり、そこで暮らしていると返ってきた。


「今からリブロっていう画家に会いに行くか?」

「あぁ。さっそく行って黒い箱を譲って貰う」

「でも、タダで貰えると思うか?」

「あ、そっか。さすがにタダってわけにはいかないよな~」


アダムに指摘されてケイが唸る。

たしかにいきなりやって来て、オークションで落札した黒い箱をよこせなんて横暴極まりない行為である。ましてや面識のない赤の他人であり、相手も人であるため断られるのが目に見えている。

ケイは相手の要求と物々交換は必須であると考え、とりあえずリブロという画家にに会うため、町の東にある住宅街に赴くことにした。



町の中心から東に向かうと小高い丘が見えた。

丘には同じレンガ造りの建物が建ち並んではいたが、雰囲気的には一歩路地に入った閑静な住宅地を彷彿とさせる。


「リブロさんなら、この坂の上にある青い扉の家に住んでるよ」


途中、身なりの良さそうな初老の男性に尋ねるとそう返ってきた。

リブロという画家とは家が近所のようで、時折出かけていたり不規則な生活を送っているようで、今は居るかはわからないと言っていた。

ケイ達は男性に礼を言って別れると、丘の上に続く坂道を上って向かった。


坂を上った先に青い扉をした一件の家がある。


近所にある家と同じレンガで建てられているが、扉は青で塗装されており、他とは違った異様な雰囲気を醸し出している。庭は長らく手入れをしていないのか草木が生い茂っており、玄関口には塗料が入っていた跡らしきミニバケツが数個転がっており、使い古されたキャンパスを固定するイーゼルが置かれている。



「すいませ~ん! リブロさんはいますか~!??」



ケイが扉を叩き、家主の有無を確認すると少し経ってから男性が顔を出した。


四十代ぐらいであろうその男性は、香染の短髪に色白と一般的な麻の服装を着用している。芸術家で不規則な生活をしているであろう男性は、言ってはなんだが色白と目の下の隈が相まって死神を彷彿とさせる。


「あんたがリブロか?」

「あ、あぁ・・・君達は?」

「俺達は冒険者をしているんだが、アンタがオークションで落札をした黒い箱について訪ねに来たんだ」

「あ、そうなのかい・・・ここではなんだから、中へどうぞ」


事情を説明したがリブロという男性は寝起きなのかまだ頭が働かないようで、ここではなんだからとそのままケイ達を家の中に通した。



家の中に通されたケイ達は、リブロの言葉にリビングにあるファミリー向けの食卓に各々腰をかけた。テーブルもイスもアンティーク調のオークの木を使用しているようで、素人目からみてもお高い感じがする。それに同じ素材で造られた棚には、貴族などから送られたのか美術品や宝石類が並べられている。


リブロ本人が奥にあるキッチンから紅茶を運び入れると、ケイ達に振る舞った。


ブルノワと少佐には予め人の家だと言うことを説明し、大人しくしているようにと伝えているのでいつも通りの定位置に座っていると、リブロが珍しそうに彼らを見やった。

普通の子供とペットではないことは一目瞭然なのだが、彼は驚きもせずケイにブルノワと少佐のことを尋ねてきたため、自分の従魔だと答えると世の中不思議なこともありますねと不思議そうな表情をすると同時に、彼らにも大した飲み物はありませんがとそれぞれにオレンを絞ったジュースを振る舞ってくれた。



「ところで先ほどおっしゃっていたことですが・・・」



何杯目かの紅茶を飲み、ようやく頭が働き出したのかリブロはケイ達に用件を尋ねてきた。


彼にオークションで手に入れた黒い箱の事を説明すると、たしかに珍しい物だからと落札した記憶があると述べる。別に何かに使用するのではなく、あくまでも観賞用でインスピレーションに役立てているのだそうだ。

そう言って彼は、リビングの端にある棚の中から黒い箱を取り出して見せた。


それはケイ達が手に入れた箱と全く同じものだった。


ちなみにこの黒い箱は誰が出品したのかと聞くと、それは知らないがアルバラントの領主であるマイヤー・クレイオルが主催していたので領主なら何か知っているのかもしれないと答えた。


これを譲ってくれないか?と聞くとちょっと・・・と言葉を濁される。

コレクションをしているわけではないが、自分で落札したのになぜ人に譲らないといけないんだという気持ちになることはわかる。


「それならあんたが欲しいものを俺達が用意する。それと交換でどうだ?」


ケイはそれと物々交換ってことでどうだ?とリブロに提案をすると、彼は一瞬考えてからこう返した。


「それでは“青色”の染料を用意してください」

「青色の染料?」

「実はルフ島経由で仕入れている絵画用の青い染料が足りなくなってしまって、製作が止まっているんです」


リブロが庭に面したアトリエスペースに目を向けると、そこにはイーゼルにかけられた作製途中のキャンパスがあった。


その絵は、この町並みと人混みの中央に一人と少女と幼い犬が描かれている。

日常の一シーンを切り取った風俗画のようだが、リブロの言った通り全体的にほぼ完成はしているものの、空の青色が足りないようでその部分だけがキャンパスの白のままだった。


「いつも使用している青い染料は、ルフ島で自生している植物を粉末状にさせて販売している物なののですが、なにぶん高価なものでして、お恥ずかしいことに先日のオークションの出費の関係で足りなくなってしまったのです・・・」


どうやら先日のオークションでの出費がたたり、染料を買うお金が足りなくなったそうだ。こだわりがあるからこそ妥協をせず、自分の考えを正しく表現したい。

しかしそれにも限度がある。アーティスト活動をする上で、努力と才能の他に金銭的な面が非常に重要になることは素人の自分たちでも知っている。

その中で、より才能がある者は貴族などから金銭的な援助を得られる。

ましてや世界的にも名が知られているリブロは、作品にも画材にも一切の妥協をしないことで有名で、結果として出費がかさむことがよくあるらしい。


その辺の裏事情に関しては、この世界でも万国共通ならぬ万世界共通なのだろう。


作製途中の絵画も来週には依頼された貴族に献上するもののようで、どうしようかと悩んでいたらしい。それぐらいならとケイが二つ返事で了承し、何処に行ったらそれが買えるのかと聞くと、この町の中央にある美術や画材を専門に扱っている店があるそうで、いつもそこで購入していると返ってくる。

また使用している染料も決まっており、普段使いの物は店員も把握しているそうで聞けばわかるとだけ伝えた。要はお得さんなのだろう。



ケイ達はリブロから専門店の場所を聞くと、さっそく青い染料を購入するために彼の家を出ることにした。

金欠風俗画家のリブロから物々交換を条件に青い染料を提示されたため、それを購入するために店に向かうことになります。


次回の更新は5月6日(水)夜です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ